咆哮する二角獣②
俺達は渡された紙に住所などの必要な情報を記載して、受付の人に渡した。
勿論俺に住所はないんだけど、それはどうやらシルヴァの方でどうにかするとのことなので、2人で同じ住所を書かせてもらった。
「――えっと、まずは御二人にはギルドのクラスを選んでいただきます」
「クラス・・・?」
「クラスの説明をする前に、少しスキルの説明をさせていただきますね。
例えばそうですね・・・、ユート様が魔法使いになりたいとして魔法の才能がなかった場合は、魔法を使ってモンスターと戦うやり方は取れないですよね」
「・・・ソウデスネ」
数日前のザマを思い返しそうになって、俺は思わず目を逸らした。
「ですが、我々が冒険者の方達にあわせて、誰でも使える魔法をお渡ししていたら、魔法使いになるという選択肢は0ではありませんよね?」
「・・・確かに、非効率かもしれないですけど」
「冒険者の方々は、依頼を達成するとギルドの方から報酬の他にギルドポイントを払いだされ、それが一定の値に達するとギルドレベルが上がります。
ギルドレベルが上がることで、スキルレベルが払いだされ、それを使用していただくと・・・。
――どんな方でも使用できる魔法を使用できるようになります」
「仕事をしてればギルドに評価されて、結果的に恩恵を貰うことができるってこと?」
「はい。我々からお渡しする魔法や攻撃技術等をスキルと呼び、お渡しできるスキルの幅は最初に決めるクラスに依存します
ウィザードを選べば魔法攻撃を、ウォーリアーを選べば耐久スキルが結果的にお渡しできる形になります」
要するに、冒険者のモードってとこなんだろう。
受付嬢は受付の裏から、一つの透き通った水晶を持ってきてくれた。
「しかし、何もわからない状態で重要な選択を行うのは簡単なことではありません。
ですので我々の方でその人のクラスへの適性や能力の傾向を図り、それをお知らせさせていただく形をとっております。
御二人のどちらが先に試されますか?」
要するに心理テストみたいなものなんだと思う。
「お先にどうぞ、温室育ちのお姫様に現実を思い知ってもらうにはいい機会だし」
「――その言葉、今に後悔させて差し上げます」
シルヴァが手をかざすと、水晶は激しい虹色を放ち始めた。
「なっ、何なんですかこれはっ、この光はッ!」
受付嬢の驚きの声に、やじ馬が一人二人と集まってくる。
すると、水晶はホログラムのように空中にシルヴァのステータスを映し出した。
体力:C、筋力:C、耐久:D、魔力:S、抗魔力:A、敏捷:D、知力:A、幸運:F
「初期レベルでSって、見たことありませんよそんなもの!
こっ、これはすごいです! 幸運以外のステータスも標準の値を維持してます。
是非とも召喚士のクラスをお勧めいたします」
施設内にドッとざわめきが起こった。
「温室育ちの実力はいかがですか? 面倒をかけるつもりはないと言ったでしょう?
どうですか? 少し私への評価を少し見直していただいても・・・」
「・・・おかしくない? 君、自分の部屋も掃除しないくらいのプー太郎だよね? 」
「それとこれとは全く別問題です! 召喚術だけとは言え、欠かさず魔法の鍛練は続けているつもりです!
――――とにかくこれで私が足手まといではないことが証明されたと思います。私にも参加させていただけると考えてもいいですよね?」
シルヴァはこっちを見て、したり顔を見せる。
「待て待て、前の転生者ってかなり強かったんでしょ? つまりだ、この世界に転生した時に肉体が強化されたと俺は見た」
「何を仰りたいのです?」
「一見そのステータスは強力なように見えるが、それは転生者には及ばないってこと」
次は俺の番、シルヴァがやった様に、水晶に手をかざすと虹色の光が・・・何も起きなかった。
「・・・あれ?これもしかして、電源入ってなかったりします?」
「えっと・・・、すでに結果は出てますね」
シルヴァの時とは違い、水晶は光ることすらしない。空中ではすでに俺のステータスが公開されていた。
体力:C、筋力:D、耐久:F、魔力:F、抗魔力:F、敏捷:B、知力:B、幸運:F
「なんだ、カスか」
やじ馬の一人が冷たく言い放って去ると、次々に俺の周りのやじ馬は消えて行った。
「うわ・・・私のステータス、低すぎッ! 何この落ち度?!」
「知力と敏捷以外あまり活かせるステータスがありませんね・・・。
1つの方法としては敏捷を活かして盗賊のスキルを狙ってみるか、
低い幸運と中途半端に高い知力を活かして、呪法者で相手に呪詛をかけてみるとか、幸運が低い方が恨みの力が上がるみたいですし・・・ 」
「何そのいらない才能。・・・このステータスっていつかマトモになったりするんです?」
「それはですね、ステータスの左上に"レベル"って書かれてるところが書いてありますよね?
これは冒険者の方の戦闘経験を表す項目なのですが、こちらが上がればステータスも上がるとおもいます
ただ、その・・・このステータスは戦闘向けではないことは断言できるかと、いかがなさいますか?」
「一応、シーフでお願いします」
パーティー内で2人とも後方支援みたいなクラスを選ぶのもはばかられるので、一応クラスはシーフにさせてもらった。
何やら手続きがあるのか、受付嬢はまた奥の方へ行ってしまった。
「確かに、私の幸運は低いかもしれないですねこれは・・・」
「それ当回しにディスってるよな? 何で呼び出すときに強化とか何かしてくれなかったの?!
理不尽だ。何故同じ引きこもりなのにこうも差があるのか? 」
「そんなこと私に言われても、ご自身の生き方の結果だと思うんですけど・・・」
「そう、ですけど・・・」
それを言われるちょっと傷つくんですけど。速く走れない人に練習が足りないって言ってるのと同義じゃないか?
いや、ちょっと違う気がしなくもないけど。
さらし首になっている俺のステータスと、半ば表彰されているシルヴァのものをぼんやり見比べた。
「地味に俺達のステータスの低いとこってかぶってるな。もうちょっとそっちで筋力とか耐久とかカバーできないの?」
「私のせいじゃなくて、あなたのステータスが全体的に低いのが問題なんでしょうッ!何もカバーできてないじゃないですか!」
そんなこと俺に言われても。
途方に暮れていると、受付嬢が戻ってきた。
「これで手続きは完了になります。これは御二人のギルドカードになりますので肌身離さず持っておいてくださいね。
あと、こちらは入会記念の支給品となります 」
薄黄金色のギルドカードの隣には、テニスボールくらいの小さな小箱があった。
「・・・オルゴール、ですか?」
「いいえ、こちらはギルドチェストといいます。
色々な荷物を持ち歩くには少々苦労してしまうでしょう。しかしこちらのギルドチェストを使えば、楽々アイテムを運搬することができます」
受付嬢はギルドチェストを受付前の椅子の前で開けた。
すると、椅子は白く淡い光に包まれ、粒子になってギルドチェストの中に吸い込まれていった。
「おお・・・すごい、魔法みたい」
「まだまだ開発途中の試作品なのですが、ギルドのメンバーには特別に支給されております。
いずれは、色々な方に使っていただけるように改良が続いております。
「では、ユート様。少しこちらを持ってみていただけますか?」
言われるがまま、ギルドチェストを持ってみる。するとそれは大きさに反してずっしりとした重さがあった。
「このように、一定の体積までなら自由にチェストに入れることができます。
しかし、重さは元のままですので気を付けてくださいね。勿論、生き物を入れることはできません。」
ギルドチェストを開くとまた再び椅子がテーブルの近くに戻っていく。
シルヴァも初めて見る光景のようで、俺達は2人でその光景を目を丸くして眺めていた。