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咆哮する二角獣⑥

クエストをクリアできないこの時期、ギルドレベルは上がらないためスキルポイントは貴重なものらしい。

結果的に俺の交渉に応じてくれる人は多く、シルヴァの納品箱はもう満タンになっていた。


「この調子なら、クエスト達成はどうにかなりそうですね。

ユートの方はどうですか・・・って――」

シルヴァは何故か俺の納品箱を見て唖然としている。


「ん、なんかあった?」

「なんかあったって・・・空っぽじゃないですか!」

「そりゃな、他のパーティからもらった薬草は全部シルヴァの箱に入れたからそうなるわな。何か問題でも?」

「問題ですよ!この調子では絶対間に合わないじゃないですか!」

声を上げるシルヴァに対し、俺は箱の近くで胡坐をかいた、疲れたので。


「別に俺がクエストクリアする必要ってないでしょ?」

「――え? そんなわけないじゃないですか! クリアしないと今日頑張った意味がありません。

報酬金もギルドポイントも無し、ただ時間を浪費しただけになってしまうじゃないですか」

「浪費っていえば、現時点ですでに浪費なんだけど・・・。

あのさ、俺達がクエスト受けた意味って何だったっけ?」

シルヴァは少し眉をひそめたが、すぐに答えを返してくれた。


「・・・確か、情報が欲しいからって」

「そう、解呪のための情報が1つもないから、それを集めるためにやっているわけよ。

冒険者って立場はいろんな場所に行けるだろうし、いろんな人と話す機会があると思ってやっていると。

究極的には、クエストをクリアするかどうかなんて正直どうでもいい」

「なっ・・・」

予想もしていなかったのか、シルヴァは再び口をポカンと開けていた。


「で、でもっ、クエストをクリアしてギルドランクを上げることに全くの意味がないとも言い切れないではないですか!」

「その通り、どうせ高ランクの冒険者は同じランクの人としか組まないだろうから、そこに潜り込むためには必要な行為かもしれない」

チームでやるゲームのレート戦とかでとてもよく見るから、同じようなことが起こるとは思う。


「だが、2人のランクを上げる必要はない。どっちかのランクが高くなればいいわけだろ?

俺のランクを上げることを頑張る必要はない」

「・・・あなたは物事に対して、もうちょっと普通に取り組むことはできないんですか」

シルヴァはガクりと肩を落としていた。


「そういえば、他のパーティに交渉するついでに呪いについても聞いてみたけど、収穫なし。

やっぱり、高ランクのメンバーに聞いた方がいいんだろうが・・・、どうしたもんかねこれは」


ゴブリン討伐のようなクエストには高ランクの人間は参加しない、多分勝てないから。

勿論採取クエストには参加しない。単に報酬金が割に合わない。

では、ドラゴン退治みたいなクエストにはどうか? これは必要に応じて金を払って受けにくる可能性がある。


仮に、レベル80くらいの冒険者だったらもしかすると、レベル20以上のオークに勝てるかもしれないから、生活費を稼ぐためにクエストを受ける可能性も考えられるけど・・・。

いっそのこと、ギルド以外の全く別の方法で探した方が効率がいいのか、それとも・・・。


「――ユート、聞いていますか?」

考え事に夢中になっていて、シルヴァは俺の目の前で手を揺らしていたことに気付かなかった。


「爪、食べちゃってますよ」

「ああ、ゴメン。・・・悪い癖だなこれ」

自分の親指を見ると、齧られた爪が白くなっている。


「考え事をしてる時にたまにやってますよね? 昨日ベランダでも噛んでた気がします。

もしかして、お腹が減ってのですか?」

「そんなことはないと思うけど・・・」

シルヴァはギルドチェストから何かの紙袋を取り出すと、俺の膝の上に乗せた。


「・・・これ、俺に?」

「他に誰がいるんですか。いいから開けてください」

少し袋を振ってみると、軽くゴソゴソした音がする。袋を開けてみると・・・。

入っていたのは表面にシロップとナッツが塗された、手作りのクッキーだった。


「その・・・前に助けてくれたお礼ってことで・・・」

目線を上げると、そこには少しそわそわした姿があった。

お世辞にも形はよくないけど、人が自分のために作ってくれたものと考えると寧ろ、崩れた形が嬉しく思えて・・・


「・・・ありがと」

「うっ、なんだか珍しく素直で変な感じですね。絶対形が悪いとか、文句言われると思ってました」

「そんなこと言う人間だと思われてたのか・・・。さすがにそんなこと言わないよ」

クッキーの1つを食べてみると、サクサクとして甘い味が口いっぱいに広がった。

ナッツの味はココナッツの味に近いんだけれども、少し上品な甘酒のような味がする。多分、元の世界にはない物なんだと思う。


「お味はいかがですか?」

「・・・うまい、です。 」

「全く・・・、何時まで呆けてるんですかもう・・・。喜んでいただけてその・・・嬉しいですけど」

シルヴァは髪の先を弄り始めたのを見て、もう一口いただいた。


「どうすればいいのか、沢山悩んでいただいていることはわかってますけど。

でも、悩みすぎないでくださいね」

「ありがと、正直なところどうすればいいかわからないけど」

「まずは目の前のことに集中してみるのもいいと思いますよ、例えば・・・このクエストをクリアしてみるとか。

スキルポイント全部使っちゃったんですから」

「えー・・・」

「えー・・・じゃないです。何ですかその露骨に嫌そうな顔は」

「いっそのこと箱の底に砂をつめて、その上に板でも乗せるか・・・」

俺が自分のギルドチェストを開くと、中から俺の部屋にあった椅子が出現した。


「本当は休憩用に持ってきたけど・・・、バラバラにして敷き詰めればもしかしたら・・・

誰かから刃物借りてくるか」

「いやいやいや詐欺ですよねそれ!そもそも納品するときに絶対にばれますよ!!」

「我ながらいい案だと思ったんだけど」

持ってきた椅子に座って背もたれに寄り掛かると、シルヴァは頭を抱えていた。


「何時の間に自分の部屋の椅子を持ってきてるとは・・・、全く油断も隙もありません・・・。

――ともかく、食べ終わったら私も手伝いますから」

「いや、ここからは一人で何とかする」

「・・・えっ?」

シルヴァは信じられないといった顔でこちらを見ていた。

・・・全く、何が不満何だか。


「自分の仕事は自分で背負うものだし、それにたまには本気も出さないとね」

「本気・・・ですか、確かに言われてみたらいつもよくわからないことばかりしている気がしますが・・・。

あれは全部本気でも何でもないと」

「・・・それはともかくだ。絶対ビックリさせてやるから楽しみにしといてくれ」

それだけ言って俺はシルヴァに背を向けた。


「――楽しみにしていますよ」

声が後ろから、俺を送り出してくれた。

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