咆哮する二角獣⑤
依頼主の私有地の森は町から少し離れた場所にあった。
同じクエストを受けた人は他にも沢山いるようで、皆バラバラになって屈んで採取をしているのだけど・・・
「この面倒な労働に対して報酬金が薬草の売値を切ってるんですが・・・。
やってらんねぇ・・・、ただの労働じゃんこれ」
「あなたが言い出したのでしょう? って地べたで座ってないでちゃんと探してください! 」
シルヴァは学校の優等生みたいに薬草を探しているわけだけど、労働と感じると本当にやる気が出ない。それはニートに一番求めてはいけないことだ。
周りを見渡すと、依頼主の爺さんが工事現場の監督みたく声を張り上げていた。
「取り終わった薬草は森の入口の納品箱に入れるのじゃぞ!
薬草かどうかわからないものも、納品さえしておけばこちらでまとめて鑑定する。
勿論多く納品した分は持ち帰っても構わないから全員気合いれていくのじゃぞ!」
その場にいる者のモチベーションは下がっており、返事の代わりに溜息が聞こえてくる様。
俺自身、お手本に渡された薬草を見ながら、テンションが下がっていくのを感じた。
「・・・どの草も大体同じに見える。そもそも植物の種族の鑑定ってかなり難しいと思うんですけど」
「それに関しては、私が鑑定スキルを持っているので大丈夫です」
シルヴァは注意深く足元の植物を見つめている。よく見るとシルヴァの瞳は黄色く輝いており、スキルを発動しているみたいだった。
「どれを摘めばいいのかわからないなら、ユートも取得してみたらいかがですか?」
「そういうスキルって、ポイントが勿体なくない?」
「召喚術などは自分がよく使っているものがありますので、ギルドの攻撃スキルを使う必要がないですから。
特に節約しないで使っているつもりです」
「・・・さいですか」
ぼんやりとポケットに入っていたギルドカードを眺めてみた。
そこには自分のステータスやレベル、取得しているスキルや現在のスキルポイントが記載されているわけだけど。
せっかくこういう世界にやってきたんだし、心の中で何らかの特殊能力みたいな物へのあこがれは多少なりともあるわけで。
「スキルってどうやって取ればいいの」
「カードを上に向けて、スキルの項目に触れてみてください」
言われた通りにすると、カードの中がゲームの画面みたいに動き出していた。
「すごい・・・、ゲームのキャラ設定画面みたいだ・・・」
「そこで自分の取りたいスキルを選ぶだけです。
ユートは初期値として5ポイント取ってますから、スキルは新しくとってもいいですし、スキルレベル上限までなら元々取得済みのスキルにポイントを振ってもいい仕組みですよ」
「へぇ・・・なるほど」
試しに1つのスキルを取ってみると・・・。
「おお! シルヴァのレベルが見える!」
「それは観察眼のレベル1ですね。モンスターや冒険者のレベルが確認できますので、相手の力量を吐かれる汎用スキルだったかと」
「結構簡単なんだな。他にもいろいろとってみますか」
「念のためお話しておきますが、スキルポイントの振り直しはできないので注意してくださ――、って何ですかそのオロオロした顔は?
もしかして変なスキルを取ってしまいましたか? 」
「・・・さっき指で長押ししたら、スキルポイント全部使っちゃったみたい、です」
「――え??」
慌ててシルヴァが俺のギルドカードを確認してくれたが・・・。
「マグネットフォースって! 金属のアイテムを回収するスキルに4ポイントって何考えてるんですか!」
「他の人の納品箱とか引っ張って、ちょっといただければいいかなと?」
「完全に盗人ですよねそれ!
どうするんですか?! 次のギルドレベルが上がるまで何のスキルも取れない状態ですよ!」
「・・・わ、わかってるって! こういうスキルは使い方だから大丈夫、バカとハサミは何とやらだ 」
「いや、完全にバカですよね?
ここ森の中ですよ?植物は鉄でも何でもないんですけど?」
「とりあえず鑑定スキル持ちはパーティに1人いればいいし、クエストを終わらせる上では問題ない!
これからのことは・・・明日の俺が考えるとして、柔軟かつ臨機応変に・・・」
「完全に無計画じゃないですか!!」
これに関しては返す言葉がない。残念ながらスキルを役立てる作戦は一瞬で瓦解した。
「そこッ! うだうだ話してないでさっさと仕事をする!」
「「はいっ!すみません!」」
老人に怒鳴られて、俺達はそそくさと老人に見られない木の影に身を映した。
「で、どうするんですか? 鑑定スキルを持っている私ならともかく、このままのペースではユートはクエストを達成させることができないように思えるのですが?」
「・・・もうこうなったら、目に見える草を全部ぶち込んで鑑定してもらうしか」
「相当効率が悪いですね。そもそもそんなことをせずに今からしっかり探せば夜までに帰れるのでは」
「それは嫌だ。俺は絶対に労働はしたくない」
「本当にあなたという人は・・・」
シルヴァは額に手をやっていた。
時刻は昼手前ごろ。もし6時間で何とか終わらせたとしても時給は700Gを切る。コンビニバイトの時給より低い。
お金に関してはシルヴァがいる都合上、問題にならないとしても明らかに割に合わない。
・・・ん?、割に合わないってことは多分俺以外にも同じことを考えているやつはいるはずだよな?
周りを見渡すと、さっきと同様にやる気のないギルドメンバ―が沢山いるわけだけども。
その中でも特に、俺達と同じように木の陰でサボっている二人組がいた。よく見ると他にもチラホラサボっているやつがいる。
「・・・もう帰ろうぜ。鑑定スキルもなしにこんなクエストできるわけねぇよ」
「だな、俺もお前ももうスキルポイントがないし、あてずっぽうに納品しても達成できない可能性がたかいしな」
「あの・・・すみません。もしかして、パーティに鑑定スキル持ちがいなくて困ってます?」
「「!!」」
2人に話しかけると驚いて俺に対して身構える。
「な、何だ・・・あの爺さんかと思ったよ」
「もしかして鑑定スキルを持っている方がパーティに居なくて困ってます?」
「・・・そうなんだよ。もういっそ諦めて帰ろうとしていたところ。
とはいえ、今日稼げないと俺達、いろいろと収入が苦しいんだけどね・・・」
よく見ると、2人とも少しやせてしまっているように見えた。
「それだったら、こっちのパーティに鑑定スキル持ちの人がいるので代わりに鑑定しましょうか」
「本当かい?!」
「はい。ですが鑑定スキル持ちは1人しかいないのと、我々もなかなか見つけられなくて困ってますので、
鑑定済みの薬草の1割を我々に渡すという約束付きでいかがですか?」
「2割か・・・」
2人ほど少し考えているようだった。
「俺達もこの森から薬草を沢山見つけられる自信はない。2割も渡しちゃうと自分たちがクエストクリアできなくなる」
「それなら1割でもいいですよ?代わりに同じように困っている方がいたら俺に紹介していただけないですか?」
「・・・それなら、それくらいなら何とか」
2人は再び悩んでいるようだったが。
「わかった、それで手を打とう」
快く了解してくれて、仕事に戻っていった。
「私を交渉のダシに使って・・・、よくもそんなに悪知恵が働きますわね」
「だって森の中で見つけられるかわからない薬草を探すより、時間をかければ定量の薬草をくれる人間を探した方が効率がいいでしょ、明らかに」
「そうですけど・・・」
「困っているときは助けあわないとでしょ?
それじゃ、他にも困っている人がいるみたいだし声かけてくるから」
それだけ言い残すと、俺は他のサボっているメンバーの方へ向かう。
「悪知恵と手癖の悪さだけで生きているような方ですね、あなたは」
後ろで誰かの声がしたが、振り返らずに俺は"自分の仕事"に戻った。




