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今は亡き王国はすでにもう詰んでしまった

ここは異世界。

大きな草原の向こうには、


「モンスターが来たぞーぉ! 全員退避!!」

野太い声が草原を響き渡った。

声が町に終わらぬうちに町の中に喧騒が広がった。


「正門を閉鎖しろ!!」

「女・子供を安全な場所へ!」

吠えるような兵士達の声。


「冒険者各位は正門の方へ直ちに集まってください。繰り返します―――」

ギルドの制服を着た男たちの声。


辺りは蜂の巣をつついたような騒ぎになっており、

誰もが皆この世の終わりを迎えたような絶望した表情をしていた。


正門にはすぐに剣や棍棒や杖を持った冒険者達が溢れんばかりに集合し、

臨戦態勢に入る・・・が、敵はどこにも見当たらない。

一人の屈強な男が唾を飲んだ、その時!


「―ガサッ」

正門の近くで草むらが揺れた。


「来るぞ!!全員構えろッ!!」

冒険者たちに恐れと決意の表情が強く浮かぶ。

あるものは割れんばかりに歯を食いしばり、あるものは過呼吸のように荒い呼吸を立てていた。

皆の緊張がピークに達したその時、"それ"は草むらから姿を現した。


それは真っ青で、一般家庭の電子レンジくらいの大きさをしていた。

体には頭や手足、目や耳などはない。

ナメクジのように地を這い、ゲル状の粘膜を草むらに下ろす。


「スライムだ、気をつけろ!!」

スライムは草むらから姿を現すと、七輪で焼いた餅のように上に体を膨らませた。


「あれはいったい何をしているんだ?」

「多分、餌の匂いを探しているのでは?」

冒険者たちの中で声が上がる。

その中で一番屈強な男が皆の一歩前に出た。


「皆、解っているとは思うが、絶対に手を出すな?

こちらから手をかけない限りは基本的に攻撃はしてこない種族だ。

嵐が過ぎ去るのを待つのだ! 」

スライムはゆっくりと正門に近づくと、猫が頬ずりをするように体を門にすり合わせる。

何かを探しているのだろうか。


「皆、耐えるのだ。もし侵入してしまったら食べ物をくれてやればいい。

決して手を出すなよ?出したら取り返しのつかないことに・・・」

言い終わるな否や、小さなスライムの体にヒト型の影が下りた。


「ひゃっはぁ!!! この町を救った手柄はこの俺様のものだぁ!!!」

大金に目がくらんでいるからだろうか、欲に目がくらんだ男がスライムに剣を振りかざした。

―その時


ガキンと岩に鉄を殴りつけたような音がした。

スライムの体には傷一つない。怪訝な顔で男は振りかざした剣を見つめると・・・

剣は齧られたクッキーのように、不自然な刃こぼれを起こしていた。


「このバカっ、何やってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

冒険者の一人が叫んだ。鞭のようにスライムの体が細長くなり、空を裂く。

小さな体からは想像できないような強い衝撃が男を襲った。


「ぐっふぁぁっ」

男は情けない声を上げ、衝撃で高く吹き飛んだ。

一体何メートル吹き飛んだのだろうか、男は投げられた人形のように地面へ自由落下した。

スライムの勘に触ってしまったのだろう。

スライムは体全体を振りかぶった鞭のようにしならせる。それは大きな触手となった。


「まずい・・・みんな逃げろぉ!!」

屈強な男の声と共に、全員その場から一目散に逃げ出していた。

小さなスライム1っ匹に怯える冒険者たちの姿は非常に滑稽なものだろう。

爆発寸前の時限爆弾から走って逃げるように、皆必死な形相だった。

対してスライムの姿は、箸で上に引っ張られた水あめみたいにイマイチ迫力がない。


―――だがしかし、この世界には一つ絶対的なルールが存在するのだ。


伸びた触手が正門に打ち付けられた。

一瞬の出来事だった。大きな轟音、空気が鳴いた。

隕石でも直撃したかのように大地はえぐれ、衝撃が辺りを襲う。

破砕された門は瓦礫となり、あたりの建物を襲った。

窓は割れ、屋根は砕け、町の中では悲鳴が怒る。

土煙が風に運ばれると・・・皆が集まっていた場所はどこにもいない。

あるのは瓦礫の山だった。


小さなスライムは瓦礫の山を這い、粉砕された店の前で触手を伸ばす。

ぺたぺたとあたりを少し探した後、スイカのような大きな農作物を見つけると夢中でそれを体で包み込んだ。


このスライムは別に特別な存在というわけではない。

仲間が餌を見つけたことに気付いたのか、後ろからは2体目、3体目と次々にスライムが続いていった。

スライムたちは金品財宝が欲しかったわけではない。ただ単に農作物を食べたかっただけ。

町中には餌を見つけた蟻のように、どんどんスライムが侵入していった。


弱いモンスターほど強く、強いものほどむしろ弱い。

それがこの世界の絶対的なルールである。


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