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アマリーシュアの幼い頃の最初の記憶は業火の中だった。

生まれ育った小さな村は、真夜中皆が寝静まる中突然山賊たちに火を撒かれ強盗に遭った。

村人たちは火に焼かれ、逃げ惑い嬲り殺しにされた。

その村人の中にアマリーシュアの両親と弟もいた。

なぜかアマリーシュアだけは生き残った。

というのもアマリーシュアには内包する魔力があったのだ。

しかも強力な水魔法でアマリーシュアの家が燃え盛る中、自分だけを守ったのだ。

両親と弟は燃えて死んでしまった。

そこで駆けつけた騎士や魔法使いの中で師匠となるケビンに助け出された。

後に知るが、国の大魔法使いケビンに拾われたのだ。





というのがアマリーシュアの生い立ちであるが、

15歳の時に師匠のケビンも亡くなり自分一人で生きていくしかなくなった。

そこからケビンが残してくれた一軒家で薬師を営んでいる。


アマリーシュアは超絶身体が弱い。そうチョーゼツに、である。

あの家族を焼いた強盗事件までは普通の子供だったはずが、魔力があると判明したその日に血を吐いて倒れた。

そして目が覚めると知らないベッドで寝かされていたのだ。

介抱してくれていたケビンに、家族だけではなく村人皆が死んだことを伝えられた。

そしてアマリーシュアには内包する大きな魔力があり助かったこと、けれどその力に耐えられる程の体ではなく長生きは出来ないかもしれないとも伝えられた。

家族を失った時に感情が欠落してしまったせいか、淡々と事実を受け止めた。

自分だけが残っていても仕方がない。いずれ死ぬなら今でも良いのにと考えていた。


そんな自分を見透かしてか、ケビンは「残されたものはその命を無駄にしてはダメだよ。辛くても生きるんだ。そして後悔しないように生き抜くことが死者への弔いにもなる。生きろ、アマリーシュア。」


こんな風に言われてしまったら死ねないではないか。

長く生きれないのに生き抜けなんて、このジジイは何言ってるんだと思った。

この世はなんて残酷なんだ。


なんて思っていた時期もあったが、

まあ、ケビン特製激マズ薬湯のおかげで16歳になった今も生きながらえている。

ケビンが作る薬湯は激不味すぎて毎日飲むには吐くのを耐えるのに精一杯な具合だった。アマリーシュアは毎日生きるために薬湯の味を改良に改良を重ね、今の店で出しているアマリーシュア特製薬湯が出来上がった背景もある。

あれは本当に不味かった。

ケビンに言われた言葉が胸に刺さり、ケビンが亡くなったときに後を追えなかったのは秘密だ。


と、そんな昔のことをつらつらと思い出しながら、アマリーシュアは日課の薬草取りに来ていた。

いつも通りに、住んでいるカンパネラの街のはずれにある森に来ていた。

この森は手前までは魔物よけの魔法が張り巡らされているため、安心して訪れることができるのだ。


アマリーシュアは孤児になったし師匠にも先立たれたが、家族はもう一人いる。

夜という名前の猫だ。いつも薬草取りについて来てくれる。夜に怪我しているところを介抱してやったら、なついてそのまま一緒に住んでいる。見た目も夜みたいに真っ黒だし良い名前だろう。夜がいてくれるおかげで寂しくなく過ごしている。


「夜、どこ行くの?」

いつもはアマリーシュアに付いて離れない賢い夜だが、今日は違った。


スタスタと離れて花畑の方に向かっていくのではないか。

「どこ行くの?薬草はこっちの方だよ?」アマリーシュアはいつもの薬草が生い茂る方を指した。

夜はついて来いというばかりにアマリーシュアを一度見て、花畑の方へ迷いなく進む。


「もう、今日は薬草の在庫が少なくなってるから増やしておきたいのに・・・」

はあ、とため息を着きながらアマリーシュアは夜について行った。

普段は賢い彼女なので何かあったのだろうかと不安に思いながら花畑の方へ足を向けた。


「雑巾・・・・?」

遠目からは何か布切れみたいなものが捨てられていると思ったが、何か違うようだ。


その何かがピクリと動いたので、生き物だと分かった。

「男の子だ。」


ねずみ色の髪色のボロ切れをきた6歳ぐらいの男の子がなんと寝ているではないか。

しかも裸足だしすごく汚れてるし、傷だらけで余計ボロボロ感がすごい。これは治療が必要なレベルである。


「しょうがない、夜が見つけちゃったし治療してやるか。」

内心、今日の薬草取りは明日に延期だとため息をつきながら男の子を抱えてやった。


「まって、軽すぎない?」

背負ったその男の子は想像以上に軽く、このままでは死んでしまうんじゃないかとゾクりとした。

「夜、緊急事態だわ、急いで帰りましょう。」


アマリーシュアは急ぎ足で帰宅した。




その男の子を治療するために、とりあえず水を溜め体を拭くことにした。

子供なので抵抗なくまるっと裸にさせ、拭きあげていく。

驚くことに身体中に暴行の痕と傷があった。痛ましい傷跡に顔をしかめながら、痛くないように優しく体を拭き上げた。

もしかしたら、虐待を受けていたのかもしれない。と感じた。


驚いたことはもう一つあった。

「あれ?ねずみ色の髪じゃない・・・銀色じゃない!どれだけ汚れてたの・・・」

驚くことにその男の子は珍しい銀髪だった。銀髪といえば、貴族にしか生まれなかったような。

アマリーシュアは大変な騒動のタネを拾ってきてしまったのかもしれない・・・

と、たらりと汗が流れるのが分かった。


「いや、とりあえず治療が先決!」

この男の子を足すけねばという使命感に駆られアマリーシュアは治療することを決めた。

そしてこの男の子の傷の具合を確かめ、自分で治療できるレベルなことに安心した。


「塗り薬と熱が上がったときの解熱剤を飲ませる必要があるわね。」

アマリーシュアは治療に取り掛かった。




「ゼイン、これをダンおじさんのところまで持っていってね。お代をもらうのも忘れずにね!」

ゼインはコクリとうなずき、ポシェットに薬草を入れ店の外へ出かけていった。


行き倒れていたゼインは無事回復し、店のお手伝いまでするようになった。

しかしこの子はあまり喋らない。過去に何があったかもあまり語らず、ボソリと「逃げてきた。」というだけなので、アマリーシュアは親やどこに住んでいたのかなどしつこく聞いてみたがてんで喋らない。綺麗な銀髪に端正な顔立ちをしているのでどこか貴族の子どもではないか、と考えられるがとりあえず家に住まわせていた。ゼインが死んだ弟と同じ歳ごろに思えて可哀想に見えたからだ。

しかし、よくよく聞いてみると10歳になる年というではないか。

体つきからは6歳ごろに見えていたが、栄養が足りていないのでやせぎすだったから幼く見えたのかもしれない。

これにはアマリーシュアの姉心がムクムクと湧いてきて「たんとお食べ!」と毎日裕福ではないので豪華ではないが、

たくさん栄養が取れるよう食事をたっぷり用意してしまうのはしょうがないのかもしれない。

そのおかげか、半年たった今では年相応の体格に育ち少年らしく見えるようになった。

近頃では近所の友だちと剣を練習しているそうなので、たくましくなってきているようにも見える。


「夜、ゼイン元気になってよかったね。成長したらかっこいい青年になって可愛いお嫁さんを連れてくるかもしれないね。それまで元気でいなくちゃね。」夜を撫でながら、アマリーシュアは呟いた。


最近のアマリーシュアの体調は思わしくなく、ゼインが居候するようになると食費もこれまで以上にかかってしまい、仕事を増やしていた。

毎食後飲む薬湯でなんとか抑えているが、仕事が忙しくなると飲むのを忘れ倒れ込んでしまうこともしばしばだった。

そんなアマリーシュアを見たゼインが最初は蒼白な顔で立ちすくみ、アマリーシュアが「大丈夫よ。ちょっと疲れているだけ心配しないで。」と笑って言うと「俺のせい?俺が来たからメイワクかけてるの?」少し拙い言葉でゼインは問いかけてきた。


「そんなことないよ!元々人より身体がちょっとばっかし弱いだけ!いつものことなんだから、気にしないで。」

「これからはシゴト手伝う。」

「子どもは気にしない!」

「する。」

「だから・・・」

「する。」

「・・・。」


意外に頑固なところがあるらしいゼインは、手伝うと譲らなかった。

アマリーシュアはそんなゼインに折れたが、友だちと遊ぶ時間や文字を習いに行く時間は必ず取ることを約束に手伝ってもらうことを決めた。


それから、6年がたちゼインはみるみるうちに成長していった。驚くことに剣術の才能があったみたいで、騎士になりたいといい騎士学校に通い始めた。16歳の銀髪碧眼の美青年へと成長したゼインは街の娘たちにもちろん騒がれているが、無口なゼインは気にもとめていない様だった。


ある日、いつものように常連客のボブが、「アマリーシュアちゃん、今日もいつものお願いね。」と来店した時のことだった。

「そういえば、ゼイン坊騎士大会に出るんだって?すごいねえ。」と驚くべきことを口にした。

「え、あの騎士大会ですか?」

「騎士大会と言ったら、あれしかないだろう。」

騎士大会というのは毎年開催される、王国騎士の1位を決める大会である。そもそもエントリーする予選でも上司に推薦され、やっと出れるような狭き門の大会なのだ。だが、その分注目度は高く毎年お祭り騒ぎでその大会を街のみんなは楽しみにして、誰が今年は1位になるかと話をするのだ。優勝した騎士は王からひとつの願いを叶えてもらえる。富でも地位でも王様の娘でもなんでもありだ。まあ、優勝するような騎士なので下手なことは頼まないが、姫様の降嫁を願う騎士もいたとか。

「あのゼインがねえ・・・」

アマリーシュアは驚きでこれ以上続けることができなかった。


夕方の営業を終了させ、店の後片付けをしながらアマリーシュアは考え込んでいた。

ゼインは今はもう他に負けなしの剣術の力を身につけ、騎士学校では1番の使い手という噂だ。

アマリーシュアはゼインが一度も首を縦に振らないので、練習風景を見せてもらうことは叶わなかったが、噂は回ってくる。


ゼインは本当に大きくなったし、あれだけの美青年なため引く手数多である。だが街一番の美人に言い寄られても頑なに無視か首を振るだけなのである。もしかして想い人は姫様ぐらいの位の高い人かも知れない。とアマリーシュアは想像していた。

姫様をもらうとなったら、相応の位をもらうようになり育て親のアマリーシュアはゼインにとっての汚点になるかもしれない。


アマリーシュアの体調は歳を取るにつれて悪化の一途を辿っていた。ゼインにはごまかしたり、隠すようにしているが、聡い子なので私の体調に気付いているかもしれない。もしそうなのであれば、ゼインは今後私から離れることを躊躇するかもしれない。負担になっているかもしれない。体が弱くて孤児な私はゼインにとって必ず将来の汚点になってしまう。もう私はゼインにとって不要ではないだろうか?



騎士学校から帰宅したゼインに早速尋ねた。

「ゼイン!騎士大会に出るって本当なの?」

コクリとゼインは頷いた。

「すごいわね!優勝したら何をお願いするか決めたの?」

ゼインはアマリーシュアを綺麗な碧眼で見つめ、「前から決めてる。」

「そうなの、、」

アマリーシュアはそれ以上尋ねることができず俯いた。



その晩、自室のベッドでアマリーシュアは今後について考え始めた。このまま薬湯を飲みながら生活しているが、改善することもなく悪化傾向にある体だが、今なら旅をする体力は残っている。死期を悟り始めたアマリーシュアは、このまま死に場所を求め旅に出ることにした。


「夜、ついて来てくれる?」夜は眠そうに微睡ながらにゃーと鳴いた。

アマリーシュアは泣きそうな気持ちになりながら、胸の痛みにも気づかず旅について考え始めた。


処女作です。暖かい目で見てください。


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