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盲目の勇者  作者: 岡エシ
第5章
65/66

61話 カウントダウン

 不気味で嫌悪感を抱かせる赤黒い輝き。

 巨大な1つの生き物の様に蠢く、夥しい数の魔物。

 世界を染め上げる様に、黒い濁流が如く、迫る。


「……みんな無事でいてくれよ」


 瞑目するように閉じていた青い眼をスッと開き、夏樹は剣を抜いた。


〜〜〜〜〜


「ーーー熱光線(ヒートレーザー)」


 獣化したメアに跨るエインから、大気を焼く熱線が奔る。


「くくく……良いよ、良いよ! やるじゃないか。 でも、それじゃあ、まだ足りない。 ーーー大罪鎌(レヴィアタン)」


 鎌を持った腕が消失する。そう錯覚するほどの速度で振り抜かれ、熱線を斬り払う。


「ぐ……まだ、まだよ。 ーーー召喚(コール)・真紅竜(クリムゾンヘルカイト)ッ!」


 燃え上がる真紅の炎が竜を象る。

 ガパッと開かれた顎門から放たれる超高熱エネルギーは先程の熱線の比ではない。


「おぉ……これは素晴らしい。 なるほど、スロースがやられるわけだ。 ーーー嫉妬蛇(エンヴィ)」


 まるでどこかの貴族のような、この場に合わない優雅な空気を曝しながら、睥睨する赤い眼。圧倒的強者から向けられる殺意の奔流を前に、鳥肌が止まらない。

 ビキビキッと音を立てながら、全身に広がる鱗。両手で持った大鎌が解けるように2つの手鎌へと分かたれる。

 不意に右手を引き、半身の姿勢となる。


「何をする気ですか、そこからじゃ届かないはず……」


 ヒュンッと風切り音が響く。

 メアの左腕が肩口から斬り飛ばされる。


「あぁ……ぁぁ……ッ!!」

「メアさん!!」


 あまりの激痛に獣化が解けるメア。

 エインは原因となったルドリエに視線を向け、衝撃的な光景を目の当たりにする。

 払われた右腕は、蛇のように唸り、伸びていた。

 圧倒的なリーチ差。間合いなどあって無いようなもの。

 再び、手鎌が払われる。メアが動けない上にステータスの低いエインでは避けきれない。


「……ッ! ーーー火炎壁(フレイムウォール)ッ!」


 発動した炎の壁は、紙のように斬り払われるが、視界を塞ぎ身を屈めたことで致命傷を避けることに成功する。


「良い反応だね、エイン君。 でも、終わりだよ、バイバイ」


 間合いを詰めたルドリエがエインの前に立ち、命を刈り取る凶刃が振り下ろされる。


「ーーー純炎槍(ウリエル)」


 燦々と輝く炎の槍が鎌を打ち払う。


「あははははっ! 良い、良いね、最高のタイミングだ! 君はやっぱり、物語の主人公に相応しい!」


 童のように、心底楽しそうに、嗤うルドリエ。

 槍と鎌による数瞬の剣戟の末、距離を取る。


「さぁ、いくよ、ナツキ君!」


 圧倒的な間合いから放たれる2つの凶刃。


「ーーー守護盾(ラファエル)」


 突き立てた剣を中心に半球状の障壁が展開され、刃は届かない。繰り返される斬撃の嵐を前に、揺らぐ様子は無い。


「ふふふ、それは勇者の力かい? すごいね、まさか一切、攻撃が通らないなんて」

「ーーー聖鐘(ハミエル)」


 夏樹の手に純白の手鐘が出現する。

 リンッと澄んだ音と共に、温かい光が波紋のように広がる。


「う……うぅ……」

「メアさん!? メアさんの腕が……」


 斬り飛ばされたはずのメアの腕が逆再生のように復元される。


「あははははっ! 随分と馬鹿げた能力じゃないか、欠損の治癒……いや、再生なんて人の身でやって良いことじゃない。 その眼といい、その力といい、君は本当にイレギュラーだ。 大罪の力だけで、勝てると思っていたのだけれど、流石に厳しそうだ。 ーーー蒼翼剣(サリエル)」


 深海のように重く、満点の夜空のように碧く美しい、翼の装飾に象られた剣が顕現する。


「なんだそれは……いや、その力、お前まさか」

「そのまさかだよ、ナツキ君。 僕は元(・)勇(・)者(・)だ」


 宣言と同時に剣尖が眼前に迫る。


「……ッ!」


 身を捻り、回避しながら剣を純炎槍を横薙ぎに払うが、蒼翼剣から流れ出る冷気に、身体の動きが鈍る。払った槍の勢いは萎え、容易く回避されてしまい、蹴りが脇腹に突き刺さり、吹き飛ぶ。


「ぐ……」

「ほらほら、休んでる暇なんて無いよ、ナツキ君!」


 ルドリエの周囲に複数の魔法陣が出現し、大量のゴーレムが顔を出す。


「なんで今更……」

「これだけじゃないさ。 ーーー天使笛(アズラエル)」


 純白の笛から優しい音色が響く。

 ゴーレムが光に包まれ、ステータスが飛躍的に向上した無数のゴーレムが襲い掛かる。直後、なぎ払うように熱線が放たれ、ゴーレムが消し飛ばされる。


「ナツキさん! ゴーレムは私達に任せてください!」


 声のした方に視線を向けると、獣化したメアに跨り、真紅の竜を背負うエインがいた。


「……助かる」


 リンッと再び、聖鐘を鳴らし傷を癒す。


「いやはや、優秀だね。 君の仲間は、本当に。 ーーー革命弓(マトリエル)」


 翡翠色に彩られた弓を構え、放たれた矢は上空で無数の雨に変わる。


「ーーー守護盾(ラファエル)」


 ズドドドドドドドドドドドドドドッッと、まるで地響きのように連なる墜落音。

 防ぎ切った矢先、凄まじい魔力が蒼翼剣に収束していた。


「……ッ! ーーー純炎槍(ウリエル)ッ!」


 直後、雪崩のような氷雪の嵐が夏樹を襲う。


「がっ……!」


 満身創痍で横たわる夏樹にゆっくりと近づきながら、ルドリエが語り出す。


「君とは違う、君のような成り立ての勇者とは違うんだよ、僕は。 君は疑問に思わなかったかい? 400年前に行われた勇者召喚。 当時の魔王を倒したにも関わらず、召喚前の世界に帰還した記録が無いことに。 ねぇ、ナツキ君。 勇者は魔王を倒した後、どんな扱いを受けると思う?」

「どんなって……世界を救った英雄じゃ」

「違うッ!! そんなハッピーエンドは幻想なんだよ、ナツキ君。 君の思っている程、世界は甘くない、とても残酷なんだ。 僕は魔王を倒した直後、最も弱ってる瞬間に仲間に殺されかけた。 裏切られたんだよ、平和になった世界に勇者のような強力な力は必要ない、用済みなんだと。 それも僕を召喚した国王直々の命令だった。 元居た世界に戻るには魔王を倒さなければならないと教えられ、死に物狂いで戦ってきたというのに、実際倒して残ったのは、仲間の裏切りと帰還方法が無いという事実だったッ! 人間にとって僕は強いだけの、都合の良い駒だったんだ、これを許せると思うかい? 断じて許せないッ!! 拒んだのは世界(君達)が先だッ! だから僕は魔王になった、この世界の脅威として君臨する。 ナツキ君、君は本物の勇者だ、僕と違ってね。 さぁ、もう終わりにしよう。 この物語に終幕(フィナーレ)を」


 重く深い、強靭な意志を前に夏樹は、瞠目し息を呑んだ。

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