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盲目の勇者  作者: 岡エシ
第4章
56/66

53話 兄弟

 ミニエイル王国。


「はぁ……はぁ……まだ追いかけてくる」


 半魔1番隊は極力戦いを避けながら逃亡を続けていた。


「ーーー雹降(ヘイルストーン)」

「……!」


 突如、無数の雹が降り注ぐ。

 カリオの風で散らすことで被弾を免れる。


「あ……あぁ……ギルバード・イルシール」


 Sランク冒険者の登場にシシルが絶望的な声音を溢す。

 ふらつく体に鞭を打ち、イグが前に出ようとするが、カリオに静止させられる。


「……カリオ?」

「お前ら全員先に行け」

「な、何を言ってるんだ! 相手はSランク冒険者だぞ!? 全員で掛かったほうが……」


 覚悟を決めたような雰囲気を持つカリオに焦燥が募り、イグは止めるように言うが。


「これは俺の……いや、俺達兄弟の問題だ、邪魔してくれるな」


 知っていた。2人が兄弟で複雑な問題を抱えている事を。

 だからこそ、邪魔するなと言われて仕舞えば、二の句は継げないかった。


「……分かった。 必ず、無事に戻れ、隊長命令だ」

「イグ君!?」

「イグ!?」

「あぁ……ありがとう、イグさん」


 驚くシシルとミンディを連れてイグは去っていく。


「……1人で勝てるとでも思っているのか?」

「勝てると思ってる。 いや、勝たなきゃいけないんだよ、仲間のために。 仲間の未来のために!」

「……甘く見られたものだな。 愚弟1人で止められる程、矮小な存在ではない」

「やってみなきゃ分かんねぇだろ! 俺は昔とは違う!!」


〜〜〜〜〜


 数年前……。

 ミニエイル王国内の小さな町を魔物の群れが襲撃した。

 イルシール家は母子家庭だ。カリオは自警団に入っていたため、前線で戦っていた。母と兄のギルバードは後方の避難していた。しかし、突如後方から悲鳴が聞こえ、猛烈な嫌な予感がしたカリオは走った。そこで見たものは、兄であるギルバードの槍に貫かれ息絶えた母の姿だった。

 理解出来なかった。

 優しかった兄が、強かった兄が、なぜ、母を殺したのか。

 いや、理由は明らかだった。

 ギルバードが赤い眼をしていたから。


「……なんで、なんでだよ! なんで兄貴が魔族なんだ! 一体、いつから!?」

「……いつから? 初めからだ。 簡単さ、俺はイルシールの人間と血の繋がりが無い。 精神干渉系の魔法で長男であるという刷り込みをしただけのこと」

「裏切り者……!」

「裏切り者? 勘違いするなよ、愚弟。 裏切りというのは、味方からの寝返りなどを意味する言葉だ。 俺はお前らの味方ではない、初めからな」

「……うわぁぁぁあ!!」

「……怒りで我を忘れるか。 青い、青すぎるぞ……カリオ」


 飛びかかったカリオを槍で受け流し、振り向きざまに腹を貫いた。


「ぐ……」

「終わりだよ、カリオ。 家族ごっこは終わりだ」


 槍を引き抜かれ、倒れ伏したカリオに背を向け去っていくギルバード。


「……待て……待ちやがれ」


〜〜〜〜〜


「はぁ……はぁ……」

「……この程度なのか? 何も変わっていないじゃないか」

「……黙れ、まだだ、まだやれる……!」


 カリオの右眼が赤く染まる。


「……くくく、憎い魔族の力を使うのか。 勝つためには手段を選ばないというのか……愚かだな。 半端者の力で本物に勝てると思うなァ!!」


 ギルバードの両眼が赤く染まる。


「ーーー突風(ブラスト)ォ!」

「ーーー雪嵐(ブリザード)」


 強烈な突風は吹き荒れる雪の嵐に呑み込まれ、カリオが吹き飛ばされる。


「ぐぅ……ーーー稲妻矢(ライトニングダート)!!」


 吹き荒れる嵐に抗うように、複数の雷の矢が疾る。


「ふん……ーーー氷壁(アイスウォール) ーーー王水酸(アクアレジーナ)」


 氷の壁が顕現し、雷の矢を遮る。

 煙の揺蕩う王水がカリオの槍を呑み込み溶かす。


「な……!? くそ、槍が……」

「ほら、槍が無くなった程度で止まるな。 ーーー氷刃嵐(ダイヤモンドダスト)」

「ぐぅあああ……」


 氷の刃がカリオを包むように荒れ狂い、斬り刻む。


「もう良いだろう? ーーー絶対零度(アブソリュートゼロ)」


 急激に周囲の温度が低下していく。

 地面や空気が白む。

 急迫したギルバードの刺突に反応し避けようとするが、体温が奪われ動きが鈍くなったカリオは避けられなかった。


「が……っ」


 脇腹を貫かれ、血が飛び散る。

 激痛に飛びそうな意識を必死に繋ぎ止めながら、魔力を高める。それに呼応するように、ギルバードも魔力を高める。


「はぁ……はぁ……俺は兄貴を許さない」

「許さなくても構わない。 そもそも許される必要が無いからな」

「俺は……ここで兄貴を殺す」

「ふん、満身創痍のお前が俺を倒す? 寝言は寝て言え。 お前が戦う理由は何だ? 親の仇か?」

「親の仇……それもある……が、今の俺には負けられない理由がある」

「……負けられない理由?」

「仲間を守る……俺がやられたら、兄貴はイグさん達を追うだろう? それだけはさせない、絶対に俺がさせない。 仲間には指一本触れさせない!! ーーー風冠(エアリアルクラウン)!!」

「くくく、お前の希望は甘いんだよ! 正面から粉々に打ち砕いてやるッ!! ーーー氷冠(コールドクラウン)!」


 カリオへと風が収束していき、風の槍が顕現する。

 ギルバードの氷雪が収束していき、氷の槍が顕現する。


「うぉぉぉおおッッ!!」

「はぁぁぁああッッ!!」


 双つの槍が激突し相違う。

 荒れる突風に町の家々が剥がれ、崩れ、吹き飛ぶ。

 荒れる氷雪に町の家々が凍て付き、白み、吹き飛ぶ。


「ぐふ……が……」


 風の槍が解けるように消え、支えを失ったカリオは崩れ落ちる。


「ふふふ……あははははは!! カリオォッ! 俺はお前の事が大嫌いだッ! 俺は……カリオ……お前の事が……」


 ギルバードの槍が砕き折れ、膝から崩れ落ち動かなくなる。


「……馬鹿野郎だ……兄貴は……何で最後の最後まで……いや、今は仲間のところに……俺が……みんなを……守るから」


 カリオの意識が遠退く。


〜〜〜〜〜


「俺が魔族だって知ってたのか……!?」

「分かってたわよ。 もちろん、お父さんもね。 たぶん、カリオも分かってるわよ」

「じゃあ、何で俺を……家族として受け入れた!?  俺が気を抜いた時に聖騎士にでも殺させようとしてたのか!?」

「違うわ。 受け入れるも何も、あなたは私達の家族だもの」

「違う! 俺は家族じゃない! 魔法でそう認識しているだけだ!」

「そうかもしれないわね。 でも、この心に偽りはないわ」

「なんで……だよ。 意味が分からない。 俺は……」

「あなたが何者であろうとも、あなたは私の息子よ、ギルバード」

「……! 今から俺はあなたを殺す。 良いんだな?」

「ふふふ……本当に優しいわね。 放って置いても呪いで死ぬ私を苦しめないために、自ら手を下そうとしているのね?」

「……俺に呪いを解くことは出来ない」

「ええ、分かってる。 良いのよ、でもね、息子に殺されてやる程、私は弱い女じゃないわ」

「な……っ、おい! やめろ! やめてくれぇえええ!」


 イルシール家の両親は元Aランク冒険者だ。

 昔、討伐した高ランクの魔物に受けた呪いが母の体を蝕んでいた。呼吸をするだけでも、焼けるような痛みに苦しむ。にも関わらず、息子達の前では気丈に振る舞っていた。カリオは気付いていなかったようだが、ギルバードは気付いた、気付いてしまった。呪いを解ける人を探して周った、魔族のギルバードがなぜ、一生懸命に動いたのかは分からない。体が勝手に動いていた。それでも、見つからなかった。強くなったギルバードは武闘会に出て、得た賞金を使って解呪の方法を探し続けていた。そんな中、この襲撃。母の命は風前の灯だった、だから、苦しまずに死ねるようにと。


 母は自決した。

 息子の俺に、魔族の俺に手を汚させないように。

 戻ってくるカリオの気配に気付いたギルバードは決心した。


「ごめん、お母さん。 俺は……俺には人間として生活するのは無理だ」


 悪役になろう……いや、魔族なのだから、元から悪か。

 カリオは天才だ、才能の塊だ。俺への憎悪がカリオの原動力になるように、カリオが死なないように、カリオが強くなれるように。

 息耐えた母の体を傷付けることに、謝罪しながら槍で穿つ。その姿を見たカリオは激昂した。

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