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朱夏の少年(初出版)  作者: サグマイア
思い出した正義感、踏み入った悪の道
5/11

ヤクザチャレンジ

突然昔の男との接触を試みた二人の女。その魂胆は恋心なわけがなく、どうせ金か恨みのどちらかだ。

俺はそうママに教わったが、二人はそれとも違うことで俺を使おうとしているようだ。

それにしても、失恋から10年以上経ってもまだフラッシュバックを起こす男への課題としては、あまりにも重すぎる。


小里絵からの話はこうだ。


{絵理愛がDV野郎と離婚したと思ったら、しばらくして職場の上司が援助するって来たわけ)

{あの子私よりも若く見えるし脇ガバガバだから、そいつもどうせ体目当ての奴だって忠告したのにさ。悩んだって言いながら援助もらっちゃったの)

{それが金持ってる夫婦なのよ。奥さんが調査会社に依頼して絵理愛の身元バレて、早く夫婦から逃げなきゃ何されるかわかんない状況で)

(クソ旦那の替え玉に金持ってる独身野郎を探してたわけか}

{ごめん)

(俺こそな。適任とは程遠くて}

{別に?こういう時に自信満々で来る男のほうがタチ悪いもんよ)


これこそママと培った距離感だとは言わないでおくか。


(でも事情を理解できたから、俺からも出資してやれる}

(調査会社ってどんな奴だ?}


初カノの名義と、嫌われてなかった安堵が、あっさりと出資を決断させた。

小里絵も、少しは俺を頼もしく思っただろうか?鬼女スレの鬼みたいに俺を調べ上げた小里絵も、本業と対峙する恐れを見せてきた。


{ヤマトが打てる手段って何?)

(個人投資法人の顧問弁護士を通じて民法の専門家を絵理愛につける}

{やるなコミュ障)

(さらに言ってしまえば絵理愛も旦那の被害者だ。夫人を説得できれば旦那の一人負けにできそうだが}


これはどちらか二択となる。弁護士を絵理愛につければ夫人とその背後にいる調査会社との対立が決定的になり、泥沼にはまりそうだ。もし調査会社と夫人を味方につけて旦那をハメるとなると、後に引きずらないだろう。ただし、こちらも調査会社を利用したら失敗するに違いない。夫人の身元を買うために大枚を叩いた挙げ句、絵理愛側が汚い手段に出たと思われて、旦那までもが被害者ぶって絵理愛と俺を美人局呼ばわりしてきそうだ。


(絵理愛に電話する}

{ようやくだね)


日曜の夜にはもう会うことはないと思っていたが、こうもすぐに連絡するとはな。今の俺は、小里絵が言うすぐに調子に乗る男と同じになっている。正直、日曜のキスは、旨かった。




子供が寝静まる時間にかけたはずだったが、通話して最初に聞こえたのはギャン泣きだった。

「ヤマト…ごめんねうるさくて」

「邪険にするなよ。大事なんだろ?」

泣き止ませてから折り返しても良かったはずだ。子供より俺を優先したのか?しかも、一人の泣き声は遠くなったし、一人は絵理愛を追ってきたが、ドアが閉まる音を最後にその声は聞こえなくなった。どうやら部屋の外に出たようだ。

「もう、小学校上がるってのにさあ!」

「子育ての話は聞いてやれない。手短に言う。弁護士つけるか?」

「なんで?」

「夫人…」

「あのババアを懲らしめられる人を呼べるの!?自分が被害者だから何をしてもいいって奴を反省させられる人を?反省するなら私だけでいいって…」

「なんでジジイに得させて全部終わらせる気でいるんだよ。そしたら次は誰だ?DV野郎と元鞘に納まるか?初カノが安いセックス保険にされてるのを知って初カレが笑ってられるとでも思ってんのか?」

「じゃあ、今度こそやる?」

「そんなことしたら小里絵に殺されるかもな」

惚れた弱みに付け入る自分がいることは昔の女で知っている。あれが粗雑で貪欲な青春期の仕業だったとしても、俺より老けているはずの旦那のように絵理愛を欲望の捌け口にはしないとも断言できない。

ああ、もう一つ女を抱くのを不安がる理由があるんだが、お前達には言ってやらない。

「何よ。ママが本命で私が保険だって言うなら私が殺すよ?」

「話を戻そう。もしその旦那を動かせるなら、調査会社の請求書等の痕跡を探らせてほしい。社名を把握して口コミを調べてから打つ手を考えていきたいからな」

「ねえ、弁護士費用とかいくらになるの?」

「タダより安いもんはねーよ」

絵理愛が鼻を啜った。もし家の外に出ていたとすれば、絵理愛にも子供にも本当に申し訳ないことをした。

「寒かったか?あと、子供に謝っておいてくれ」

「わかった。ねぇ、会いたいって理由で、会ってくれる?」

「ああ。それと揉め事解決したら望むことしてやるよ」

「何それ?エロくて引くわ~」

俺に金を望まなくて慰めを求める絵理愛のほうがまんま男の性欲みたいだけどな。




数日経過したが、絵理愛は調査会社の正体を暴けずにいた。当然、あちら様もプロだからターゲットにすんなり身元を明かすわけがないのだが。

動きを見せたのは小里絵だった。SNSのプロフを更新して、出産前から鉄ママになりそうだと誰かから拝借したであろう新幹線の写真を背景にしていた。


{こいつだよ)


なるほどな。鉄ヲタの旦那と直接繋がる気か。


{申し訳ないんだけど、こんな男と二人で会う気はないから、ヤマトが会ってとっちめてくれない?)


絵理愛のほうがかわいいと言っているが、旦那からすれば小里絵もチャンスがある若妻にしか見えないだろう。小里絵も身重だってのに頑張ってるんだ。やってやるしかない。


(ママのランチに誘い出してみる}

(小里絵の顔はバレてるか?}

{バラすわけがない)

(そんじゃ離れた席から指示飛ばしてくれ。弁護士ちらつかせて手を引かせる}

{やべー奴の演技できるの?)

(ママと一緒なら}


本当は俺もママも荒事は苦手なんだけど。

こうして会わないと思っていた朱夏の小里絵にも会うことになった。主婦に会わせて平日の日中だ。俺はキツいってのに旦那は若妻に尻尾振ってあっさり予定を空けたらしい。




夜にはバーでママにも話をした。不倫の誘いをあしらうのには慣れてるママだから、クソジジイにこの美人を見せることはどうってことない。

むしろママが俺のことを心配していた。

「そのご主人が普通の人じゃないってことはないの?」

「絵理愛の職場の上司だって。それにさ、そういう界隈の旦那なら、ご夫人も不倫慣れしてて女狐一匹にここまでキレることはないと思うけど」

「夫婦でやってる結婚詐欺師とか…」

「なるほどね。ただ、絵理愛が騙されてるなら貢ぐために俺の40万を受け取ってなければおかしい」

「ならいいけどね。でも、どうしても民間調査会社は信じられないわ」

夜の仕事なだけあって、ママは小里絵よりも裏社会に詳しい。

「調査会社のトラブルが多いって聞くけど、やってる人もやばいのが多いってことかな。ママはそっち系の人大丈夫なの?」

「世の中怖い人よくいるけど、私は中村橋のあさりママに守ってもらってるのよ」

店内に堂々と暴力団排除ステッカー張ってあるけど、どういう意味かは聞かないでおこう。

「バー開いて間もない時にママのこといびってきたおばさん?」

「そういう言い方しないの!」

あの時はお説教されただけだとママが言った。むしろ、俺にとってはいい思い出だ。泣いていたママにずっと味方でいることを誓って、10分くらいキスし合った。そして、ブラウスのボタンを外すママの手を止めた。ママにはパパと二人の娘がいるから、その先に進めば俺がママの害になってしまうからと。

俺はそんな男だってことをママは知ってる。はずなのに…

「あさりママにヤクザの特徴教わりなよ」

「やたらめったら法律を盾にしたがるとか?」

「知ってるじゃない!」

「バックにやばいのがいるって脅したり?俺のバックにはママと小里絵と顧問弁護士しかいないけど」

「あさりママの友達には本当にいるよ?」

怖いってば。




とは言っても、小里絵にもやるって言ったから、怖がっていられない。弁護士でも調査会社でもヤクザでも、演じてやるか。待ってろよ、絵理愛。

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