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朱夏の少年(初出版)  作者: サグマイア
世界最弱のサラ金はじめました
2/11

初恋(旧姓)白石小里絵

{今度絵理愛と会うの?)

(筒抜けだな}


白石小里絵とは、成人式の後にも数回会っている。最後の会話が、チャットアプリをインストールした時に小里絵のアカウントから友達申請が来た時だった。その時の仲介があったから、今回絵理愛からの連絡が来たのだろう。


{絵理愛も困ってるから優しくしてあげてよ?)

(ソシャゲ課金かホスト通いじゃないかって推測してんだけど}

{聞いてないの?上の子が来春小学校入学するんだよ)

{シングルマザーだし)

(法人相手ならともかくサラだと客の収入以外の情報に深入りするなってマナーがあってさ。知らなかった}

{真面目に仕事してるんだね)

(そんなつもりじゃないけど}

{どんなつもり?)

(今まで利子なしで貸してきたから損してた。有料化すれば金借りに来る奴が俺を避けると思ったのによ}

{絵理愛はお金だけじゃないってことでしょ?)

(そうだといいな}


(利子ありでいいようだから会ってみる}

{そっちこそ本当に営利目的?)

(じゃないな}

{なら私も同席でって言いたいけど、再来月に長男産まれるし、旦那が男に会わせてくれないのよ)

(小里絵のこと好きな奴って束縛したがりそう}

{当たってるけど絵理愛の元夫よりは我慢できるよ)

(それは絵理愛に会った時に聞こう}

{会ってあげて)

{あとうちはお金借りるほど困ってはいないから)


俺は朱夏になったふりをした中二病なんだと思い知らされた。これが本来の朱夏の人生なんだろうな。真面目な小里絵と会うことはなくなった。

惜しいな。小里絵の旦那のことを悪く言ったけど、俺も好きだった。




小里絵は保育園の時には俺の人生にいた。どん臭い下膨れ。こんな奴に負けたくないと思わせる容姿だが、叩いて泣かせたら悲しむ人がいることは直感で理解していた。


「このシールあげる」

「じゃあ私はこれあげる」

いいことしたら天国に行く。悪いことしたら地獄に堕ちる。情けは人の為ならず。俺と小里絵はそんなことを大真面目に信仰していた。

それが、人生初の罠だった。

現在も未来も得し続けるためには継続的な努力が必要だ。母はその努力をする場を設けてくれたが、俺はその期待を裏切ることをした。いや、期待に応えられない身体で生まれてきた。その代償として、昔話の主人公のような優しい人間になろうとした。自己有用感を満たしたかったから、その見返りに敏感だった。損したことは記憶して、救われたことは忘れていた。

そんな偽善者だったから、10歳になる前には周囲の目も厳しくなったし、俺自身もいつか報われると信じていくことに限界を感じて、改宗した。それでも、中学生になっても、現在までも外野は改宗に気付かず、俺に損させて自分は得しようとしている。

小里絵はどこで改宗したんだ?真っ当な朱夏の女なんだから、甘えた考えはしていないはずなんだ。そもそも、貸したらその場で返してくれた。利害を引きずらなかった。当時から、俺の何倍も正しくて、強い女だった。

会いたいけどな。貸金業者が人妻と会ってやることはやましいもんだと相場が決まってる。何よりも本人が最初に断ってる。やっぱり強かだ。




今小里絵に知ってほしいことは、俺も改宗に成功したことだけになった。これが別れ際だと思って、マイナンバーカードの右下を撮って送信した。


俺は臓器提供欄の1と3を塗り潰して、署名欄にオープン価格と書いている。

それを見て、元々は1だったことを思い出した。消したのは、精神を患った時だった。

その後、具体的な話をすると人を選んでしまうからここでは濁すが、少し自己肯定感を満たす出来事があった。ただ、それでは満足できなくて、自己有用感を試してみた。そして挫折した。その夜には3も塗り潰して、臓器の売却を希望した。金額まで提示したかったが、こんな遺志はどうせ法律に潰されるから、考える余地を与えるオープン価格にした。

俺が死んだ時には、あんな優しい人がどうしてかと周囲は慌てふためくことだろう。

当然、オープン価格にはゼロ円も含まれる。どうせ優しい人だったからと臓器を無断利用されようが、知ったこっちゃない。生きてる俺にも、そうやってる奴ばかりなんだから。倫理が何か考える機会になればそれで満足だ。


こんな感じで、人を幸福にする人生を断念して、悩ませ、考えさせるための生涯に転換した気でいる。

単純に中二病の、自己顕示欲のこじらせだ。感謝してほしくて、忘れないでもらいたい。それだけだ。

切欠はどうあれ、絵理愛も、小里絵も連絡をくれた。俺を忘れないでくれていた。とうの昔の失恋のショックが、ようやく和らいだような気さえした。




ところが、当の小里絵がこれで終わりにしてくれなかった。


(俺も変わっただろ?}

{何が?どうせママなら無償で臓器提供するんでしょ?)

(母親よりは生きるつもりだけど}

{誕生日にツーショット載せるなんて仲いいよね)


見てたの?俺みたいな奴が恩恵を受けることはないとは思ってたけど、個人情報保護法ってここまでザル法だったの?小里絵もちょっとキレ気味だし、怖いんだけど。


そもそも貸金業の話はSNSに載せてないし、ママに口頭で話したくらいだ。だとしたら飲みに来てたの?妊婦なのに?絵理愛だって育児中だろ?ストーカー規制法もザルすぎるだろ。

俺は小里絵と絵理愛とママの聖域、いや、闇の領域に触れてしまったのかもしれない。




{日曜日バッバに子ども預けられるって~)

{ちゃんと用意してるんだよな?)


絵理愛の連絡もなんか怒ってるように感じる。

兎に角、絵理愛に会う前にママに会おう。

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