妖精の国、初めての敵
森へと到着した三人。フェンの案内で道なき道を歩く。
「この花…」
「ここなの。少し待っててね。」
到着したのは少し開けた場所。
紫色の花に囲まれた小さい池が一つあった。
入口らしいものは見つからない。
夏輝と黒田はフェンの言う通り、池から少し離れたところで待機していた。
「…大丈夫か?」
「え?なんで?」
「手。震えてるから。」
国を救うために敵と戦うなんて。どこかの勇者のようなこと、ゲームの中だけだと思っていたのに。
まさか自分がそれをする立場になるなんて。
妖精の国は自分にかかっている。夏輝にはそのプレッシャーがあまりにも大きかった。
表に出さないようにしていたのに、黒田にはばれてしまったようだ。
本当は怖い。非現実的で、想像もつかない事が今から起きるのだ。
だがそんなことは言っていられない。
夏輝は手をぎゅっと握りしめ目を閉じ深呼吸をした。
「夏輝、安心しろ。俺もついてる。俺がお前を守ってやるから。」
夏輝が目を開けると黒田がこちらを真剣なまなざしで見つめていた。
「…うん、ありがとう。頼りにしてる。」
黒田と一緒なら大丈夫だと思った。恐怖心が少し、和らいだ気がした。
「お待たせなの!準備ができたの!」
小さな池の周り、紫の花に混じって色とりどりの花が植えられていた。
「ここに飛び込めば妖精の国に行けるの!」
フェンが指さす先はその池だった。
この季節に池に飛び込むには少し勇気がいる。
「池が入口なのか?」
「うん、この池の周りにこの森の花を植えると入口になるの。あ、濡れたりはしないから安心してね。」
フェンは迷うことなく池に飛び込んだ。
「先に行くか?それか俺が先に行こうか?」
「先に行く。」
少し躊躇したが向こうでフェンが待っている。
夏輝は思い切って池に飛び込んだ。
水に入った感覚がないまますぐに足が地に着いた。
目を開けると色とりどりの花があちこちに咲いている森の中にいた。
「おっと。ここが妖精の国か。」
「あ、クロ。」
「まずは今の状況を聞きに近くの村に行くの。ついてきて。」
三人は近くにあるという村に行くことにした。
「近くの村ってどんなところなの?」
「天使が住んでる天使の村だよ。ほかにもノームたちが住むノームの村とか、サンタさんがいるサンタの村もあるの。」
「すげえな。」
「村は別だけどみんな仲良しなの。あ、見えてきたよ!」
あちこち見渡しながら歩くこと数十分、三人は天使の村に到着した。
村の地面は綿のような雲の絨毯でできていて裸足で歩くと気持ちよさそうだった。
「あれ?誰もいない…」
「どこかに出かけてるのかな?」
「これじゃ聞けねえな。」
天使はどこにもおらず、どうしようかと思っていた時だった。
「誰か助けて!」
どこからか悲鳴に近い声が聞こえた。
「あっちの森の方からだ!」
「行こう!」
三人は声のした方へ走り出した。
少し走るとそこには何者かに襲われている天使の姿があった。
そしてその周りは色を失いモノクロになっていた。
「何あれ…」
「おい!やめろ!」
黒田の声に反応してソレはこちらを向いた。
VRゴーグルのようなものを装備して黒いフードを被っている人の姿をしたソレは天使を襲うのをやめ、三人をじっと見つめた。
「邪魔しないでよ。」
そうつぶやくといきなり黒田と夏輝の方へ走ってきた。
「うわっ!」
二人はギリギリのところで攻撃を回避した。
だが敵はすぐに向きを変え、今度は夏輝に向かって走り出した。
「夏輝!」
黒田の焦った声が聞こえる。
敵の振り上げる手の動きがスローモーションに見えた。
―真ん中ががら空きだ。
瞬時にそれを見抜いた夏輝は寸のところで体をかがめ、敵の腹部に向かって思いっきりパンチした。
「痛った!!」
ガツンと金属を殴ったような痛みが夏輝を襲う。
だが敵もダメージが入り少しよろけた。
敵はもう一度夏輝に向かって走り出そうとした。
だがそれは黒田によって阻止される。
「おらっ!」
がら空きだった横から黒田が蹴りを入れたのだ。
「夏輝大丈夫か?!」
「大丈夫、ありがとう。」
黒田は夏輝をかばうように自分の背中に隠した。
黒田の蹴りが効いたのか、敵は片膝をついている。
「何者かは知らないけど、後悔するよ。僕たちに歯向かったことを。」
「あっ、おい待て!」
そう告げると敵は逃げるように森の奥へと走り去っていった。
「くそ、逃げられたか。」
「とりあえず、フェンたちのところへ行こう。」
二人はフェンと襲われていた天使のもとへ向かった。
「危ないところを、ありがとうございました。」
「大丈夫でしたか?」
「なにがあったんだ?あいつは一体?」
「あいつはリライト。記憶を書き換えてしまうのです。私の仲間の天使たちもアイツに記憶を書き換えられて敵の味方になってしまったのです。」
「そんな…」
「私が最後の一人だったの。本当にありが…大変!あなた、手を怪我しているわ。」
天使が焦った様子で夏輝の手を取った。
夏輝の手は先ほどのパンチで皮がめくれ血がにじみ出ていた。
「大丈夫です、これくらい!」
「いいえ、助けてくれたお礼に手当てをさせてください。」
「あ、ありがとう…」
「自己紹介がまだでしたね、私はエンジュ。」
「私は相良夏輝。こっちはクロ、黒田竜二。」
「よろしく。」
エンジュと名乗る天使の家に行き夏輝の手当てをしてもらうことにした。
「これでもう大丈夫。」
「ありがとう。…全然痛くない。」
「よかったな、夏輝。ありがとう。」
「ほかに私にできることがあればなんでも言ってください。」
「エンジュちゃん、この国の今の状況を教えてほしいの。」
フェンが質問をするとエンジュは顔を曇らせた。
「…さっきも言った通り、この村は襲われてしまった。奴らに制圧された場所は色を失い、白と黒になるんです。」
「それでこの辺りがモノクロなのか。」
「はい。それと…ここに来る前にフェン君の村を制圧したってリライトが言っていました。」
「そんな…」
「…僕の仲間はどうなったの?」
「おそらく奴らに取り込まれたんじゃないかと。」
「取り込まれた?」
「奴らは記憶を書き換えて自分達の味方にするか、妖精たちを自分の中に取り込むんです。そうするとろり込んだ者の知識が得られるって。」
「助ける方法はあるのか?」
「奴らを倒せればおそらく…」
「…よし、じゃあ奴らをまとめてぶっ飛ばしに行こう!」
「出発するの!」
「やれやれ。あんまり無茶するんじゃねえぞ。」
夏輝たちは、善は急げとエンジュの家を出発しようとした。
「あっちょっと待って!」
「ん?」
「何も持たずに行くのは危険よ。これを持って行って。」
エンジュが手を前にかざすと光の玉が現れた。
光の玉は夏輝と黒田の前に来るとより一層強い光を放った。
「まぶしっ。」
あまりのまぶしさに二人は目を瞑る。
光が収まり二人が目を開けると
「刀?」
「銃か。」
夏輝の前には刀が二本、黒田の前にはハンドガンくらいの大きさの銃が二丁浮いていた。
「ありがたくもらっておくぜ。」
「ありがとう。エンジュ。」
「いいえ。どうかお気をつけて。」
「いってくるの。エンジュちゃんも気を付けてね。」
夏輝は刀を背中に背負い、黒田は銃を懐にしまいエンジュに別れを告げ先へと進んだ。




