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味覚:江古田希望の場合

この小説には残酷な表現がありますのでご注意ください。

 生石おいしくんは、いつも飴を途中で噛み砕いてしまう男性ひとでした。最後まで舐めていられたことがなく、ひどい時は口に入れた瞬間にガリッという粉砕音を響かせるのです。

 

「せめてのど飴は噛まずに舐めなよ」

 

 意味ないよ、という私の忠告に

 

「無意識でさ、どうしようもないね」

 

と困ったように笑った顔が、少年みたいで可愛くて。思わず口付けてしまった時、彼が噛み砕いたハッカの味を微かにですが、感じました。

 

 生石くんは、行きつけのバーで知り合った大学生でした。会社員である私からしたら、恋愛対象に満たない、弟のような年下の友人で、彼に

 

希望(のぞみ)さん、俺と付き合ってくれませんか?」


なんて、少し緊張しながら告白された際も


「ごめんね、弟みたいで、そういう風には見れなくて」


と、お断りしてしまったのです。

 彼は少し悲しそうな表情をした後に


「そうだよね、なんとなく無理そうかなーっとは思ってたんだけど、あ! でも飲み友としてはこれからもお付き合いできたらなーって……」

「もちろん、生石くんが嫌でなければ」


 私の返答に、彼は安心したように「良かった」と笑いました。

 正直、弟みたい、なんて陳腐な言い回しをしましたが、彼のことはしっかり異性として、男として見ていました。そして友情以上の好意もすでに持っていました。

 けれど、私はすでに会社で付き合っている男性がいて、彼の告白に応じることはできなかったのです。なぜ、本当のことを言わなかったのかというと、あわよくば彼からの好意にまだ甘んじていたいと欲張ったから。

 恋人がいる、だと諦めてしまうものも、弟みたい、なら彼が頑張ってみようと思ってくれるのではないか、というエゴに塗れた打算からでした。

 

 思惑通り、生石くんは私にまだ好意を持っていたようで、私からの突然のキスに驚きと、同時に嬉しそうな表情を浮かべたのでした。


「弟みたいって、言ってなかった?」

「生石くんは、お姉さんがいたらこんなことしたいと思う?」


 質問に質問で返し、さらに


「これって俺のこと好きってことでいいの?」


と尋ねた彼に何も答えず、もう一度唇を重ねた時、もうハッカの味はしませんでした。


 私は、この時も恋人とは別れていません。ただ、被害妄想が強いタイプの男性で、私の行動をとかく制限しようとする人だったのでうんざりしていたのです。それでも別れなかったのは、残っている情と、もし別れるなんて言ったら、何をされるかわからないという恐怖からでした。


 簡単なことが思い付かないほど、私も追い詰められていたのかもしれません。別れることすらできない相手が、浮気なぞ到底許すわけがないのに。


 私はどんどん、生石くんのことが好きになっていました。


「ハッカの飴食べると生石くんのこと思い出すの」

「初キッスはレモンじゃなくてハッカ味だね」


 お互い、初キッスじゃないでしょ、と心の中で思いながら口には出しませんでした。生石くんにも恋人が過去いたことは既に聞いていたし、それに嫉妬するほど若くもないわ、と年上の余裕をかましていたつもりだったのです。


「俺、正直ハッカ苦手なんだけどさあ。希望さんが俺のこと思い出してくれるならハッカに感謝して好きになれるかも」

「なあに、それ」


 そう言って、ハッカの味はしないキスをしていたさなか、私の部屋の扉が突然開いたのです。

 やって来たのは恋人でした。今日は会えないと向こうが言っていたのに。

 私も生石くんも固まってしまい、声も出せませんでした。だって彼の手には包丁が握られていたから。


「ずっと怪しかったんだ。お前、急に好み変わっただろ。今までハッカ飴なんて食べたことなかったのに。やっぱり男だったんだな」

「お願い、落ち着いて……」

「黙れっ!」


 激昂する恋人に、私は怯え、無意識に生石くんの腕に縋りつきました。その行為が、彼に一線を越えさせてしまったのです。


 何を言ってるかわからない声をあげて、恋人は私に刃を向けながら突進してきました。

 そして、それを生石くんが咄嗟に庇ってくれたのです。


 包丁は生石くんの首に刺さりました。そして赤い血が吹き出し、生石くんと私の顔を染め上げました。そこからはあまり覚えていません。


 気がついた時には、私は警察に保護され、生石くんも恋人も亡くなっていました。警察は、恋人が生石くんを刺し、その後自死したのだろうと言っていました。

 私は恋人の死については、何も覚えていませんでしたが、そうだったと思うと証言しました。私が覚えていたのは、顔にかかって口にしてしまった生石くんの血の味だけでした。


 その日から、もう何を口にしても血の味がするのです。もちろん、実際に血の味はしてないのでしょうが、私にはそう感じるのです。

 このままでは、一生、二人のことを忘れられません。ならいっそ、もう何の味もしてほしくないのです。

 え? ハッカの味がしなくなってもいいのか、ですって?


 当たり前じゃないですか、私は早く二人のことを忘れたいのに。だから味覚を失ってもいいと、それくらいの代償と引き換えていいと思っているのですから。


 私にだけは五感を消す薬を譲らないですって? どうしてですか! 私は被害者なのにまだ苦しめというの!? 

ご覧くださりありがとうございました。

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