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エピローグ

 ──実のところ、まだ解決していない事件がまだあった。俺が誘拐されたのとはまた別な、親父が無関係だと証言した、そもそもの原因となりつつあるあの事件。

 結局のところ、俺の周囲に起こった事件はほとんどが、あの──とはいっても、一人との面識はないが、三人の狂言だったわけだが、それとはまた別に、彼らが題材として選んだ現在進行形の事件──ストーカー恐喝事件。

 この事件の存在が、俺達の心理に上手く作用し、彼らの思惑通りの展開になっていったわけだが、この事件は未だ発生している。解決したのは、俺の身の上問題だけなのだ。

 親父は、調査中とか言っていた。親父も親父なりに興味を持っているらしい。

 その、チンピラたちの保護者のようなポジションを利用して、暴力団だの暴走族だの、平穏な生活を望む俺には絶縁を保ちたいような場所に赴いて、訊き込みを行ってみたが、全く心当たりはなし、とのことだった。

 恐喝、ということもあって、警察の調査する優先順位は低い。更に、ストーカーが絡むと成ると、それは民事の管轄になるので、警察による解明は絶望的だ。

 といっても、今後も被害が増えていっても俺にできることは無い。あくまで傍観者という座席に固定される。

 ──ゆえん、俺はそれを心の片隅に放置しておくことしかできないのだ。



 放課後の図書室に俺は居た。部活終了が終わった後だから、日は大分傾いている。際どい角度で侵入してきた紅が本を明るく照らしていた。

 別にここに居るのには、特に理由は無い。考えもなしに赴いてきただけだ。

 同じだった。あの時見た風景と。初めて姫翠の告白を受けたあの時と。あの時の会話が反芻される。

 ──私のことを支えてくれる人──

 あれは遠まわしではあるが、『弱虫』な姫翠のあいつなりの告白だったのかもしれない。だが、それは別の意味として俺は享受してしまった。

 だが、後悔は無い。あいつの胸中を読めなかったことに、悔やみは無い。

 あの時の俺が馬鹿だったから、今がある。過去が駄目なら、今どうにかすればいい。開き直っているようにも思えるが、俺はこれで良いと思っている。

「ここに居ましたか」

 ふいに背後から声がした。俺は内心ひやりとしながら、振り向くと誄羅が立っていた。

「お前か。何しにきた」

「いえ、別に。暇潰しです。貴方は?」

「──俺も暇潰しだ」

 俺は自分の細長い影を見やりながら、答えた。何故か、こいつの顔を直視できない。

 誄羅は貸し出しカウンターの椅子に腰掛けて、近くの本を手に取った。放課後の図書室ほど過疎が酷い場所は無いが、誰かに見られたら確実にいい顔はされない行為である。

 俺はそんな誄羅を半眼で見ながら、寡黙を守った。

「──気にする必要はありませんよ」

 長い沈黙の後、誄羅が口を開いた。その目はどこか虚ろで、過去を思い出しているようだ。

「何をだ?」

「僕はあの災害の際、記憶を失いました。そして、それと同時に別の人格が発生したらしいです。その人格というのが、今の僕です。姫様曰く、全くの別人だそうで。姫様に疎遠な態度を取られた衝撃が今もトラウマです」

 誄羅は質問に答えずに、ただ淡々と独り言の様に語った。

「昔の僕と今の僕は違う。姫様は絶望して、僕の旧名を二度と使わないと僕の前で言いました。そして、それから、貴方のお姉さんがやってくる……。そして、新しい世界に放りだされた僕に、彼女は名前をくれました。新しい名前。姫翠が僕の旧名を教えてくれずに、僕を呼ぶのに難儀したために、です。それが、誄羅──」

 ずっと貯めていた息を全て出すような、嘆息。

「『誄』とは、しのびごとという意で、死者への弔いを現す字です。羅は網の掛け合わせの意です。あの災害で哀れにも亡くなってしまった人の哀しみの連なりが、新たな人格として僕を誕生させた……昔の僕がどんなやんちゃだったかは知りませんが、姫様はそちらの僕の方が好きだったようですが、今はどっちでも好きだそうです。少し複雑ですが、少し安堵しました」

 ──俺が驚いているのは、あの美里が適当にえり好みで並べたようなひらがなの羅列に、そこまで深い意味が込められていた、ということだ。まさか、あいつはそこまで考えて……?

「だからどうした?」

「所詮僕は姫様の中の僕ではない。だから、哀れにも敗退した僕に気遣う必要は無いということです」

「敗退ってお前……あれは陽動だったんじゃ……」

「さぁ、どうでしょうか」

 誄羅は肩を竦めて立ち上がった。本を置いて、図書室の出入り口へと歩き出す。

 そして、ふいに足を止めた。

「一つ、教えておきますね。何故、僕が貴方に敬語を使うのか」

「……あぁ、ずっと気になってた、教えてくれ」

「一つは、僕は年齢を鯖読んでいる。実際は明後日で十六になります」

「──ハッピーバースデイだ」

「後一つ、『姫』という字のつくり──『臣』という字ですが、『市』とも置き換えられます」

「──」

「僕は見た目通りの甲斐性無しですから、気づかなくても当然です」

 なるほどな、と俺は口の中で呟き、その後に言った。

「……だが、お前には、それが本当だとは分からないんだろ?」

「信じられませんよ。僕にあんな大層な血族が居るだなんて。だから、多少他人行儀になってしまうんです。執事というポジションに収まったのも、それが配慮されてるのかもしれません」

「──そうか」

「それでは」

 それだけ言い残すと、誄羅は図書室から出て行った。静寂が蔓延る室内には、再び俺だけが残る。

 この一ヶ月──、姫翠は俺の視界に入るために、どれだけ苦心していたのだろうか。理不尽な早とちりが恥とされる今の情勢で、俺は一体何をされたら、姫翠の本心に気づけただろうか。

 そうなると、誄羅のあの時、建前で言っていたあの文句。あながち他人事ではなかったのかもしれない。寧ろ、俺に対する戒めだったのでは、と今なら思える。

 そうなると、あいつはどれだけ先を見越してあの行動に出たのか。下手すれば、自己破滅にも陥る危険性がある行為を決行するのに、どれだけの勇気が要されたのか。それは見方によれば、姫翠のそれよりも強固なものが問われたのかもしれない。

 ──だが、俺は何もしていない。ただ弄ばれて、用意されていたゴールへと誘われただけだ。だから、素直に喜べないのだ。

 あいつが気にするな、と言ったのは、このことに関してだったのか? 俺の自己嫌悪に釘を刺したものだったのか。

 俺は苦笑を漏らした。そんな回りくどいやり方をせずとも、ストレートにいえばいいのに。

 かといって、そんなことでこの悔恨が晴れる筈も無い。それを痛感するたびに自分が恨めしくなる。

 ──過去がどうであろうと、今があるから今どうにかするしかない。それが正論なのか、逃げ台詞なのか、俺には判断しかねる。否といえば、開き直り、かといって肯定すれば、ただの言い訳。

 俺はどうすりゃ良いんだ。

「あ、こんなとこに居た」

 そんな時、再び背後で声があがった。顔を上げると、姫翠が顔を出して手を振っている。その明快な姿に、今抱いていた煩悩を一掃されそうになった。

「お前……なんでここにいるんだよ」

「レポートに手間取っちゃって、部活のほう行ってみたけど誰も居なかったから、ここかなぁって」

 とことこと俺に歩み寄ってきながら、そう言ってくる。

「部活行ったってお前……」

「大丈夫、誰も居なかったから」

 顔を顰める俺に、姫翠はあくまでけろっとして返してくる。

 やがて、俺の隣まで歩いてくると、立ち止まって窓の外を眺め始めた。そろそろ日が沈みそうだ。

「それじゃ、帰ろ?」

 その声に、姫翠の顔を見ると、いつもの明朗な笑顔で俺を見ていた。

 ──でも、こうして悩んでいられるのも、こいつがこうしてここに居るからだ。そうでなければ俺は、ずっと仏頂面で変化の無い毎日を過ごしていただろう。

 そうして考えれば、そんな逃げ文句なんてどうでもよくなる。次のコマでよくなっていればいいんだ。

「あぁ、帰るか」

 俺はそう心に留めて、そう言った。二分前まで悩んでいた俺が馬鹿らしくなってくる。

「あぁ……と、一つお願いがあるんだけど……」

 すると、姫翠はいきなり窄まって、もじもじとし始めた。こういう態度を取るのは、大概俺も気恥ずかしい思いをするのだが──。

「なんだ?」

「わ、私のこと、下の名前で呼んで?」

 妙にそう言う姫翠が可愛らしかったもんだから、俺は鼻から息を吹きだした。そういうところに疎い俺でも分かる、王道的なセリフだ。これをここまで縮こまって言うとは──。

 俺は苦笑いを浮かべないように、気取らないように言ってやった。

「明日からな」




黒 歴 史 の 完 成 で す 。

まぁ、初めての長編だったんですが、ほど良い長さで収まってよかったーと思ってます。何分、もうひとつの方は、だらだらと続いていきましたからねー。

この小説を書いていた時の自分は正にギャルゲモード。

姉さんは必須、幼馴染も必要、それと天然も必要、あとは着替えに遭遇するのも忘れちゃならん……んー、若かった。

えぇ、それはともかくとして、本当は非常識なヤツを書いてみたかったんですよねー。フル○タの相○軍曹みたいに。あれは本当に憧れ。

でも丸パクリはよくない。

当時、受験に終われていた僕が考え出したのが、この世間知らずという手。突込みどころ満載。

自転車の存在も知らんド田舎なのに、なんで標準語分かるんじゃw、とかいう突っ込みも華麗にスルーしてみせます。過去の己からの試練です。





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