〜森の中へ〜
俺は荷台から飛び降りる。
おそらく馬車によって踏み固められたのであろう、固くなった地面に着地をしようとする、
が両腕を枷で縛られているので上手く降りれるわけがなかった。
足を取られ膝から思いっきりコケてしまい擦りむけてしまった、痛覚軽減をつけても痛いものは痛い。
転がり落ちるように地面に着地してしまった俺は、擦りむけて血が流れる足を引きずり、自分を置き去りにして遠ざかる馬車に見つからないよう、森の方に逃げる。
しかし
「おい!イノセンスのガキが逃げやがった!」
自分を殴ったゼナースと呼ばれる男が声を上げる。
バレてしまった。おそらく魔物が片付いたら戻ってつまかえに来るであろう。
もう逃げるしか手段の無い俺は、薄暗い森の中に歩みを進める。
ただただ薄暗いけものけもの道を走る、素足の為尖った石でも刺さったのだろう、時折鋭い痛みが足裏を襲う、しかしそんな事にかまってる暇もなく前だけを見て走る。
10歳の子供がこんなに傷だらけでも治療せず、ましてや思いっきり殴って来るような連中だ、捕まったら終わりだろう
栄養失調のせいなのか足元がおぼつかない、発熱のせいで方向感覚もままならない、体が意識を手放そうとする。
なんで俺はこんな辛い試練を受けているのか…
帰りたい。どんな暮らしをしていたのか思い出せないが、こんな状況になるよりはずっとマシであったであろう日本に帰りたい。
そんな事ばかりが頭の中を駆け巡った。
10分ぐらいだろうか、走り続けている最中後方から急に足音がきこえた。
何かが近づいて来ている。男達ではなかったとしてもこんな森にいる時点でおそらく魔物の類いだろう。
そう感じ俺は全力で走る。せめてどこかに身を隠せる場所見つけなくては。
しかし栄養が足りてない状況でそのような判断をするのは愚案であった。
全力で走ったが10秒にもみたない間に徐々にに足に力が入らなくなる。そのうち滑るように転がり、再度立ち上がろうとしても全く力が入らなくなってしまった。
這ってでも逃げなくてはならないのに体が動かない。
どんどん足音は近づいてくる、近くになるにつれてだんだんと視界はぼやけ、意識がさらに遠のく。
そして足音の主が真後ろまで近づき、俺の体に手を掛ける。
俺は最後の力を振り絞り首を後ろに向けた。
足音の主は狼であった。
狼と言っても2足歩行で2m以上はあるであろう巨大な体躯、薄暗い森の中でギラギラと光るその目、牙が羅列した大きな口。
記憶の片隅にある人狼と言う化け物に似ている。
転生してすぐ、激痛で目覚め、逃げた先で人狼に食われておしまいか…
思考の無駄を悟り、俺は意識をそこで手放した。