〜逃走開始〜
「まじかよ…今行く!」
ゼナースと呼ばれた男はそう声をあげると、揺れる馬車の上を器用に走りながら前方へ移動する。
距離は近いので聞き耳を立てずとも会話の内容が聞こえてきた
「おい!魔物の種類は?」
「上だ!鳥類型!止まったらやられるぞ!」
「くっそ…この死刑奴隷ども引っ張ってちゃどのみちお陀仏だ!」
「切り離して逃げたら俺らが奴隷落ちしちまう!どうにかするしかねぇ!ゼナース!魔法打てるか!?」
「成功するかわかんぞ!」
「それでもいい!とっとと打て!」
2人の男の会話が聞こえる、やはりこの世界にも魔物はいるのかと考えていると突然、馬車スピードを上げたのか揺れが激しくなり、体に響く。
少し離れた所から、花火が上がった時のような腹に響く何かが爆発した大きな重低音が聞こえる。
おそらくこれが魔法の音だろうか。
男達は魔物を追い払うことに夢中になっているようだ。
そこで俺は
(((この馬車どこに行くかは知らんけど絶対ろくな場所に行かねぇぞコレ…逃げるなら今しかねぇ!)))
と考える。
実際称号に、忌み子だの死刑囚だの書かれてるし、どっかで逃げなきゃ絶対そのうちポアられる。
まずは手足の枷をどうにかしなくては、そういえば魔法の欄にキュアの他にスラッシュなる魔法があった。おそらく攻撃魔法であろう。
キュアを唱えた時のように、頭の中でスラッシュと唱える、すると青白い光が俺の足の枷をキレイに切断していった。
すげぇ、まるでウォーターカッターみたいに軽々と切断しやがった。
この調子で手枷も切ろうとすると
《MP不足です。完全回復まで残り2時間です MP4/0》
とまた頭の中でアナウンスがなった。
あーまじか…まぁ足枷ないから歩けるけども…
そんな事を思いつつ揺れる馬車の荷台の後ろ、外が見える場所に立つ。周りは森になっているようだ。木を切り倒して道を作ったのだろうか、脇を見ると切り株が生えていた。
時速40kmは出ているだろうか、朝焼けなのか 夕焼けなのかわからないが空が赤い。
他の運ばれている人も助けたいが、正直足でまといだろう。薄情かもしれないが、俺だって立つのがやっとのレベルなんだ。
御者の席からはこちらは見えない構造になっているのでバレはしないだろうが一応警戒しつつ、速度が落ちるのを待つ。
待つこと数分急に速度がガクッと落ちた。それと同時に前方から
「馬が一体やられた!」
「クソ!もう少し耐えろ!あと3匹!」
と言う2人の会話が聞こえた。
ヤバい、そろそろ片付くらしい。時速は15kmぐらいまで落ちたが、絶対痛いだろうなぁ…
そんな事を考えていると
「よっしゃ!あと2匹ィ!」
と前方から聞こえた。
(((あーもう!やるしかないか!)))
そう意を決し俺は荷台から飛び降りた。