独りぼっち
内容の修正に関しては今後は無くなるかと思います。
口調などの修正は適時していきますのでご了承を。
「どうしたの!?」
「なにがあった!?」
「ナタリアさん、先輩!」
上の階にまで泣き声が届いていたのか、二人が慌てて階段を降りて来る。
「なにがあったんだ?」
「それが、私も分からなくて。オボロちゃんに地図を見せてたら急に泣き出しちゃったんです…」
ナタリアに促されサーシャは事情を説明しようとするが、彼女も朧が泣き出した理由が分からないので事実をそのまま伝える事しか出来ない。
それを聞いたナタリアは、未だ泣き続ける朧に近づいて優しく問いかけた。
「オボロ、何があったんだ?」
「ナ、ナタリアさん…」
その声でようやくナタリアの存在に気づいた朧は、その小さな顔をより一層悲しみに染める。そして彼女にしがみついて先ほどよりも大声で泣き始めた。
しばらくして声を上げて泣くのは止めたものの、朧はまだしゃくり上げて泣いている。ナタリアは朧の手を握ってクレアと話していた。
「悪いな、迷惑を掛けた」
「気にしないで、それよりもどうするの?」
「今日はとりあえず家に帰るよ、こいつも話が出来そうに無いしな」
そう言ってナタリアは朧に視線を移す。クレアはそれを聞くと納得したようにうなずいた。
「分かったわ。じゃあ、また明日」
「ああ、またな。行くぞオボロ」
クレアと別れの挨拶を終えたナタリアは、朧の手を引いてギルドを後にする。
外は既に夕暮れで、黄金色の雲が緩やかに流れていた。広場にいる人は少なく、ギルドに入っていく冒険者や仕事帰りと言った雰囲気の人がちらほらと居るくらいである。時折こちらに奇異の目を向ける人も居たが、ナタリアに睨まれて早々にその場から立ち去っていった。
「おいで」
ナタリアにそう声を掛けられて、朧は広場から大通りに入っていく。オレンジ色に染まったその道は懐かしいようなもの悲しさを纏っていた。
それからしばらく歩くと、ナタリアは一つの家の前で立ち止まった。
「ここがあたしの家だよ」
ナタリアが指さしたのは二階建ての家だ。作りは周りの建物と同じ木造立てで、日当たりが良いのか壁は少し日に焼けている。
ナタリアは木戸に付けられた鍵を開けて家に入り、朧を手招きする。
中に入ると、玄関に靴を脱ぐための小さな土間が有り、正面には通路が延びている。通路は薄暗く、奥で曲がっているのが辛うじて分かるくらいだ。
朧は玄関のすぐ右手にある扉で仕切られていない部屋に案内された。ナタリアが閉められていた窓を開けると、外の明かりが部屋の中を薄ぼんやりと照らし出す。薄暗い部屋には木製の机と椅子が置かれ、奥の方には料理をするための台が見える。
「とりあえず座ってな」
そう言ってナタリアは朧を椅子に座らせると、部屋に付けられていたランプに触れる。すると火が付いたわけでも無いのに仄かな灯りが付いた。
「これは魔石灯と言ってな、魔力を流すと灯りが付く魔導具なん…だ」
朧が気になると思ったのかナタリアは得意げに説明するが、彼女は未だ暗い顔で俯いている。
「それじゃあ、少し二階を片付けてくるから待っててくれ」
肩すかしを喰らったナタリアは軽く頭をかくと、そう言って部屋を出て行った。
朧だけになった部屋は静寂に包まれる。窓から差し込む光と魔石灯の灯りとが部屋を照らし、そこはかとなく人恋しさを感じさせた。普段であれば、少し寂しさを覚える程度で済んだのだろう。しかし今の朧には、それが本当に独りぼっちになってしまったかのように感じられた。
ポトリ、ポトリと滴る雫が机に染みを作る。家族や友人との思い出が、まるで走馬灯を見ているかのように思い返される。いつの間にか雫は勢いを増し、朧の喉からは嗚咽が漏れ出していた。
「お母さん…お父さん…独りは…独りは嫌だよ…」
朧がそう呟いた時後ろから誰かが彼女を包み込んだ。
「大丈夫だ、オボロは独りじゃ無い」
背後から掛けられたその言葉に、涙が堰を切ったようにしてあふれ出す。少女の悲しみを洗い流すかのように流れるそれは、先程とは違って仄かな熱を帯びていた。
泣き疲れて眠ってしまったオボロを、ナタリアはベットに寝かせる。穏やかな寝息を立てる様子は、あどけなさを思わせた。
ナタリアは最初、オボロの事を他国の間諜ではないかと疑っていた。
彼女が受けていた指名依頼は、表向きは単なる荷物輸送であった。しかし実際の内容はギルド本部の要請による他国の内情調査だった。
その国からの帰り、後を付けてくる人間がいる事に気づいた彼女は、仕方なく獰猛な魔物が住み着いているせいで人が寄りつかない『黒狼の森』に入る事で彼らを撒いた。
その後数日の間危険な森の中を通って移動し、街の近くで森から抜ける。そして街に向かっていると、その道中に少女が倒れていたのだ、疑うのも無理は無いだろう。
何者か確認するために接触すると、曰く起きたらなぜか森に居て彷徨っている内に森を抜けてここに来た、街に行きたいが疲れて動けないとのこと。
正直全く信じられなかった。森の中に居た事もそうだが、寧ろその『黒狼の森』を無事に抜けられた事が真実味に欠けている。しかし嘘を言っている様には見えず、放っておけないと感じて街まで連れてきたしまった。
もちろんギルドマスターには危険かもしれない人物を連れてきた事を咎められた。しかし自分が責任を持って監視すると言ってなんとか許可を得る事が出来たのだ。
本来ならあそこで見捨てる事が正解だったのだろう、しかしその時の少女の姿が昔の自分と重なってしまいどうしても助けたくなってしまった。
もしあの時、ランドールさんが魔物から助けてくれなかったら。もしギルドマスターが、面倒を見てくれなかったら。今の自分はいなかっただろう。独り善がりな考えである事は分かっている。それでも少しだけ、彼らと同じ事がしたかったのだ。
ナタリアはオボロの頭をなでると、その部屋を後にする。すうすうという寝息だけが、その部屋に留まり続けていた。
現在新たにもう一作品執筆中です、こちらも異世界転移ものの予定ですのでよろしければ是非