違和感
今後土曜日に定期更新…できたらいいなあと思ってます。
「そういやオボロ、あんた帰る方法を探すって言ってたけど何かあてでも有るのかい?」
街への道を歩きながら、ナタリアは朧にそう訪ねてくる。
「いえ、特に有りません」
「それならギルドはどうだい?あそこなら結構情報も集まるし、色んな資料もあるらしいしさ」
「ギルド…ですか?」
どうやら彼女は情報収集の手段に心当たりがあるようだ。ところが朧は、ギルドという言葉を聞いた事が無く判断できないでいた。
「あの~ギルドって何ですか?」
その言葉について朧が質問すると、彼女は驚いたかの様な顔をする。
「ギルドを知らないのか?どんなどこに住んでたんだよ…」
どうやら、ギルドを知らないというのは珍しい事のようだ。だが実際知らない物は知らないので仕方がない。
(もしかしたら都会では有るのが当たり前だったのかな?少なくとも私の住んでいるところには無かったはず…)
朧がそんな考えをしていると、ナタリアがギルドについて話し始めた。
「いいかい、ギルドってのは冒険者から魔物の素材や薬草なんかの買い取りをしてるんだ。そして集めた物を売ることで利益を得ているのさ。」
どうやらギルドとは仕入れ業者のような組織らしい。ついでとばかりに、朧は先程疑問に思った事を質問する。
「あの、冒険者とか魔物っていうのも聞いたことがなくて…」
するとナタリアは信じられない物を見たかのような顔を朧に向けた。
「あんた…どんな所にいたんだ?冒険者ならまだ分からない事も無いが…魔物すら知らないってのは」
ナタリアには魔物を知らないという事が信じられないらしい、しかし朧が住んでいたところには蛙やザリガニはいても魔物という生き物はいない。
「そうなんですか?」
「あ、ああ…まあこの際だ、教えてやるよ」
彼女の説明によると、冒険者というのはギルドの所属して様々な依頼をこなす職業らしい。主に能力や実績に基づいてランク付けされていて、一番下の『Fランク』から『E』、『D』、『C』、『B』、『A』、『S』と上がっていき、最も高い『SSランク』まで存在しているそうだ。
(てことは冒険者は階級制度なのかな?だとすると『SSランク』の人は社長みたいな?どんな人が居るんだろう)
実際には階級制度と言うより段級位制のほうが適しているのだが、朧がそれに気づくのはもう少し後の事であった。
「次に魔物なんだが…ほんとに知らないのか?」
どうやらナタリアはまだ、朧が魔物を知らないという事が信じられないようだ。
「ゴブリンとか、大抵の場所には居ると思うんだが…」
(ゴブリン?それって伝承に出てくる、存在しない生き物なんじゃ…)
「あ、あの…ゴブリンって、ほんとにいるんですか?お話に出てくるお化けだと思ってたんですが…」
「当たり前だろそんなの…お、丁度良い。あそこに一匹居るぞ」
そう言ってナタリアが指さした街道から少し離れた所の辺りを見ると、何かが彷徨いている。
目を凝らしてみるとそれは、緑色の皮膚に長い鼻、鋭い目つきを持つ小人のような生き物だった。その手には棍棒のような物が握られ、体には薄らと禍々しいオーラの様なものを纏っている。
その生き物の雰囲気に、朧は思わずうわぁという顔をした。
「何あれ…」
「あれがゴブリンだ。どうだ?見た事無いか?」
ナタリアは朧にそう尋ねる、だが朧の人生の中では霊的ななにかに遭遇する事はあっても、あんな気味の悪い生き物と遭遇した事は無かった。
「無いです、あんな変な生き物見た事有りません」
「そうか…」
ナタリアはやはり納得できないのか首をかしげる。しばらくして考えても仕方がないと悟ったのか、首を戻してゴブリンの方に向き直った。
「とりあえずあいつは倒しておくか」
そう言って彼女は徐にゴブリンに右手を向ける。
「『ファイアボール』」
ナタリアがそう唱えると彼女の手の先に丸い幾何学的な模様の図形が浮かび上がり、そこから火の玉が現れて飛んでいく。それはそのまま軌道上に居たゴブリンに衝突して小さな爆発を起こした。
「…え?」
爆発を喰らったゴブリンは燃え上がり、悲鳴を上げながら火を消そうとゴロゴロと地面を転げ回る。しかし体全体に広がった火がそうそう消える訳は無く、しばらくした後断末魔の叫びを上げてゴブリンは力尽きた。
「えええええええええ!?」
「うわ!びっくりするじゃないか、どうしたんだよ急に大声上げて」
「どうしたもこうしたも有りませんよ!」
今の光景を間近で見ていた朧は驚愕の余り声を上げ、ナタリアに食ってかかった。
「今のは何ですか!?何で手から火の玉が出るんですか!?何をしたんですか!?」
動揺を隠せず朧はそうまくし立てる。しかしナタリアはなぜそんな事を聞くのか分からないという顔をした。
「何をしたって…魔法を使っただけだぞ?」
当然だろ?と言わんばかりの顔で平然と言うナタリアに、朧は呆気にとられてしまった。
「魔法…っていくら私でも騙されませんよ!魔法なんて存在するわけ無いですよね!?今のも手品か何かですよね!?」
いくらなんでも、流石に魔法が存在していない事くらいは分かる。そう思って朧は反論したのだが、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「何言ってんだ?魔法は有るに決まってるだろ?魔法を使う冒険者だって少なからず居るし、どっかの国には魔法学園があるって聞いたぞ」
「え…?本気で言ってるんですか?」
「もちろんだ、現にあたしだって使ったじゃ無いか」
(どういうことだろう、私が知らないだけで本当は魔法が存在していた?いや、幾ら何でもそれは無理が…。でもナタリアさんが嘘を吐いているとも思えないし。)
黙々と考え込んでいる朧をよそに、ナタリアはゴブリンの焼死体に近づき、その体から石のような物を取り出していた。
「ナタリアさん、それは何ですか?」
「ん?ああ、これは魔石さ。魔物の体内にある石で、魔力の結晶だそうだ」
また知らない単語が出てきた。そう思い朧がナタリアに尋ねようとすると。
「ちなみに、魔力は魔法を使うときとかに必要な力だ」
先読みされたのか、聞く前に教えてくれた。その説明を聞いた朧は期待に満ちた目をする。
「てことはそれを使えばさっきみたいな魔法が使えるんですか?」
もしそうなら、先ほどナタリアが使った魔法を朧にも使えるという事になる。もちろん魔法への懐疑心が無くなったわけではないが、それよりも使ってみたい好奇心が勝る程度には朧は子供心を持っていた。
「いや、魔石の魔力は人間とは相性が悪くて使えないらしい。まあそもそも魔力があっても魔法が使えるとは限らないしな」
「そうですか…」
しかし期待通りの答えは得られず、朧はがっくりと肩を落とすのだった。
執筆しながら本が読めるようになりたい…