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孤ノ影闘記 / Anti-Nexus  作者: 鰓鰐
第1章 邂逅―Happening―
4/58

〈3〉

 


 

 ―3―

 

 

 

 キャベツと肉を、強火で炒める。キッチンには、ソースのいい匂いが立ち込めていた。

 

「ただいま」

 

十条九がフライパンから目を上げると、ダイニングルームに一人の少女が入ってきたところだった。

 

「遅かったな。先に食おうかと思ってた」

 

「まだ7時でしょ。お兄ちゃんが帰るの早いだけだって。友達とどっか行ったりしないの?」

 

分かっているくせにわざわざ尋ねてくる辺り、大分性格が悪い。しかし、半ば定型化したやり取りであるだけに、十条九は肩をすくめる以上のリアクションを見せなかった。

 

「行かないな。そもそも行く友達がいない」

 

「ふーん。そう」

 

携帯電話を片手に、少女は興味無さ気に言った。十条九もまた、少女の方に目を向けたのは一瞬で、すぐに料理の方に視線を戻す。

 

 彼は肉に火が通ったのを確認してから、料理を皿に盛り付ける。その間、味見などは一切していない。しょせん、胃に入ればなんだって同じだという暴論の下、それをダイニングのテーブルに運ぶ。少女はそれをチラッと目を上げると、「ふーん、ホイコーローね」と呟いた。

 

「何か不満でも?」

 

「そんなこと言ってないじゃん。ただ、何でお兄ちゃんが当番の時は炒め物が多いのかと思っただけ」

 

「炒め物の何が悪い。手軽にさっさと作れて、いいじゃないか。それに、変に凝った物を作ろうとするよりも、失敗するリスクが少ない」



「だから、そんなこと言ってないじゃん。いちいち突っかかんないでよ。でもまあ、お兄ちゃんはずっと一人暮らしする予定なんでしょ?結婚できな……しないから」

 

何か聞き捨てならないことが聞こえた気がしたが、とりあえずそれはスルーする。

 

「結婚なんて、頼まれたってするか。結婚は人生の墓場だ。誰かに気を遣いながら四六時中一緒に生活しないといけないなんて、考えただけで、ストレスでハゲそうだ」

 

「あー、はいはい。だったらなおさら、炒め物以外の料理も覚えたら?」

 

ヤレヤレというように、少女は席から立った。そのまま炊飯器の方へ向かう様子を見た後で、十条九は蛇口を捻る。

 

「俺は先にフライパンとか洗うから」

 

「はいはい。……って、ご飯と味噌汁とホイコーローしかないの?何とも彩りに欠けるというか、まさに男の一人暮らしの夕飯っぽい」

 

「どうせ俺は結婚しないからな。料理するだけマシだと思うぞ。正直、俺は冷凍食品とかインスタントだけでも全然生活できるし」

 

「うわぁ……なんか根に持ってる。その上開き直ってるし」

 

しゃもじを片手に、少女は気持ち悪いものでも見るような目を、兄に向ける。二人分のご飯と味噌汁を用意してから、彼女はそれをテーブルまで運んだ。

 

 

 彼が洗い物を終えてからテーブルにつくと、少女はモグモグと口を動かしながら、相変わらず携帯電話をいじっている。

 

朝陽あさひ、メシの時くらいケータイ置いたらどうだ」

 

言っていることがまるで口うるさい親のようだと、自分自身で思いつつ、十条九は声をかける。

 

「別にいいでしょ。叔父さんたちもいないんだし。ほら、私はお兄ちゃんと違って、SNSとかたくさんやってるし。返信とか更新は、早いほど、頻度が多いほどいいでしょ?違う?」

 

煩わしいものでも相手にしているように、彼女は顔をしかめながら尋ねる。

 

「どうせ相手は友達だろ?メシの間くらい待たせとけよ。なんなら、明日の朝に『ごめ~ん、寝オチしちゃった~』って送ればいい。少なくとも俺は中学生の頃に女子に送ったメールが8割以上の確率でそう返ってきたぞ」

 

ちなみに、残りの2割は返信すら返ってこなかった。

 

「へぇ、お兄ちゃん女子の知り合いいたんだ。お兄ちゃんが一方的にそう思ってただけじゃなくて?」

 

「そんなはずはない……と思う」

 

「ちなみに、中学時代にメールを送った数は?」

 

「……10通」

 

「あ、そう」

 

これ以上何を言っても無駄だと思い、彼は問い詰めることを放棄して味噌汁をすすった。別に、負けを認めたわけではない。

 

「やっぱり、返信とかはすぐに返さないと。すぐに仲間内ではぶられちゃうんだから」

 

「大した偏見だ」

 

「へぇ、友達いないお兄ちゃんにわかるの?リア友はおろか、広大なネット世界にすら居場所のいないお兄ちゃんに?」

 

無論、知ったことではない。

 

何なら、自分の携帯電話が通話に使われた事など、片手で数えられる回数しかない。そもそも彼の携帯電話は、目覚ましの音とアプリの更新に関する通知以外を、持ち主に知らせた事がないのだ。SNSにしても、フォロワーが二人しかおらず、そのうち一人は「ネットビジネスで月に○万円!稼いでみませんか!?」みたいな内容のメッセージしか送ってこなかったので、作った三日後くらいにアカウントを消してしまった。

 

そんなに面倒くさい思いをしなければならないのなら、やはり友達などいらないと、彼は思ってしまう。

 

「あ、そういえばお兄ちゃん、明日のこと覚えてるよね?」

 

「ああ。叔父さんたちが帰ってくるってことだろ?それがどうした?」

 

何の休暇でもない日に海外へ旅行に行けるなど、実にいいご身分である。しかし、そのおかげで自分たちは都内に、それも一軒家に住むことができているのだから、文句は言えないのだが。

 

「明日の夜の7時くらいに空港に着くって」

 

「ふーん」

 

「ちょっと、ちゃんと聞いてる?二人で迎えに行くんだからね?」

 

朝陽の言葉に、彼は細い目を大きく見開いた。

 

「は?何で俺まで?俺が行ったって、ただ嫌味言われるだけだろうが」

 

「家に帰ってきてからいつまでもグチグチ言われるよりマシでしょ。一時ガマンするだけですむんだから、ちゃんと行くこと」

 

箸の先をピッとこちらに向けながら、朝陽は呆れたような顔で口にする。十条九が何も言い返さなかったのは、確かに彼女の言う通りであるという事を、認めたためである。彼はまだ不服そうな顔をしていたが、諦めたように渋々頷いた。妹に言い負かされたようで、何か悔しかった。

 

「じゃ、そういうことで。明日、学校終わったら駅前に集合ね」

 

彼女は「ごちそうさま」と手を合わせてから、そそくさと立ち上がる。

 

「あ、それと味噌汁、ちょっと味濃かった。これから先ずっとそんなの飲んでたら、生活習慣病になっちゃうよ」

 

「どうせ結婚しないんだから、この先も自分で作るんでしょ」という嫌味を言うのを忘れずに、彼女は自分の部屋へと戻っていった。

 

「……今度から全部インスタントにしてやろうか」

 

彼は味噌汁を一口含み、首を傾げる。ちゃんと作ればそれなりの物は作れるのだが、いずれにせよ口数の減らない妹が相手なので、未だに彼が全力を出した事はない。

 

ついでに言うと、今後もその予定はないのである。

 

 

 

 

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