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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第三章 仮面の騎士
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第88話 ロッシュ防衛戦5

「カエデも一緒に行く!」


「僕もご一緒します!」


 そう言ってくれたカエデとリゲルに頼むと答えたレンは、後のことをギルゼーに任せて階段を下りる。

 どうせここまで何もしていないのだ。僕がいなくても上手く退却してくれるだろうと思った。

 先に動いたレンを追うように、人間たちの部隊も退却に移ったようだ。いくつかの階段に分かれて、壁から下りようとしている。その後にダークエルフ部隊が退却するはずだが、そこまでは確認していられない。早く街の北側へ向かい、ダルタニスの安否を確認しなければ。


「ガー太――」


「ガー」


 名前を呼ぼうとしたところにガー太が現れた。まるでレンが下りてくるのをわかっていたように。


「さすがガー太」


 笑いながらその背中にまたがったレンは、自分の中にあったあせりや恐怖が、すっと消えていくのを感じた。どうやら自分で思っていた以上に緊張していたようだ。ガー太に乗った途端、心は落ち着きを取り戻し、感覚が研ぎ澄まされる。視界もクリアになって、遠くまでよく見えるようになった。


「じゃあ行こうか」


 カエデとリゲルを連れて、街の北側へと向かったレンだったが、すぐに立ち止まることになった。

 北の方から大量の住民が逃げて来ていたからだ。人々は大通りを城の方へと逃げていくが、レンが行きたいのは逆方向だ。逃げる人たちを蹴散らすわけにもいかず立ち往生する。

 裏道を通って――とも考えたが、よくわからない道を行くと迷子になるかもしれない。だったら別の道だ。


「ガー太、上に行ける?」


「ガー!」


 任せろとばかりに答えたガー太は、助走をつけて近くの家の塀にジャンプ、そこを踏み題してさらにジャンプ、さらに家の壁を蹴りつけて、三角跳びで向かいの家の屋根に登った。

 乗っているレンも驚くほどの跳躍力だ。

 カエデも後を追って屋根の上まで登ってくる。こっちは忍者のような身のこなしで。


「ちょっと待って下さい」


 ついて来られなかったのがリゲルだ。彼もダークエルフで普通の人間より身体能力が高いが、屋根の上まで楽々とはいかなかった。

 なんとか家の壁をよじ上ろうとしているが、悪いがそれを待っている余裕がない。


「ごめん。リゲルは先に城へ行ってて」


「でも」


「サッと行って、サッと戻ってくるから」


「……わかりました」


 悔しそうにリゲルがうなずく。ついていきたいが足手まといになるのがわかったため、自重してくれたようだ。

 城へと向かうリゲルと別れ、街の北へ向かおうと思ったレンだったが、その目が奇妙な物を捉える。

 空から何かが落ちてきたのだ。

 ガー太に乗って強化された動体視力のおかげで、落下物の正体がわかる。魔獣だった。

 街の外から投げ入れてるのか!?

 どうやら力の強い魔獣がいるようだ。

 ムチャクチャな戦法だと思ったが、効果的な戦法だとも思った。こんなことをされたら、街の外壁の意味がない。

 落下してきた魔獣は民家の壁に激突し、跳ね返って道の上に落ちた。逃げていた住民の一人が、運悪くそれに当たってはじき飛ばされた。

 まるで大砲を撃ち込んでるみたいだとレンは思った。しかも大砲よりたちが悪いのは、撃ち込まれるのが砲弾ではなく、生きた魔獣ということだった。

 地面に落ちた魔獣がムクリと体を起こす。

 周囲の住人たちが悲鳴を上げて逃げ出すが、一人が足をもつれさせて転倒する。

 シャーっといううなり声を上げ、魔獣はその住民に襲いかかろうとしたが、その頭を一本の矢が貫いた。

 その威力はすさまじく、矢を受けた魔獣は頭をハンマーで殴られたように吹き飛び、転倒する。

 矢を射たのは屋根の上のレンだった。魔獣が住人に襲いかかるのを見て、慌てて矢を放ったのだ。見事に命中したので、ふうっと安堵の息を吐く。


「あの魔獣を殺すの?」


 カエデが聞いてくる。

 レンの弓もダークエルフ製の合成弓なので、その威力は高い。今も魔獣の頭を貫いて転倒させた。

 だが魔獣はまだ生きていた。

 矢で頭を貫かれてもまだ死なない。確実に殺そうと思うなら、剣で首を落とすのが一番だろう。


「いや、今は先を急ごう」


 殺すことはできなかったが、今の一撃で周囲の住人が逃げる時間は稼げた。きっちり倒しておきたいところだが、今はそれより先にやることがある。

 レンは今度こそ街の北側へと向かう。

 ガー太が屋根の上を走り、隣の家の屋根へと飛び移る。カエデも余裕でその後をついてくる。

 そうやって屋根から屋根へと移動しながら、レンはダルタニスの姿を探す。

 下の道では多くの住民や兵士たちが逃げ惑っていたが、今のレンの目なら一人一人の見分けがついた。それにダルタニスは目立つ白い鎧を着ていた。人混みの中にいても見付けられるはずだ、と思いつつ探す。

 いた! あれだ。

 兵士たちの中に白い鎧が見えた。顔を確認するとダルタニスで間違いない。人の顔を覚えるのが苦手なレンだったが、彼のイケメンな顔は覚えている。

 ダルタニスは周りを兵士たちに囲まれて、城の方へと向かっているようだ。これまた見覚えのある老人――確かカイエンという名前だったと思う――も一緒だった。

 とりあえず無事なことにホッとするが、状況はあまりよくない。

 ダルタニスの周囲には逃げる住民たちも多く集まり、中々前に進めないようだ。

 というより上から見ているとよくわかるのだが、周囲の住民たちはダルタニスに助けを求めるように、彼のところへ集まろうと動いている。

 兵士たちはなんとか道を空けようと、剣を振り上げて怒鳴っているのだが、後から後から住人が集まってくるので上手くいっていないようだ。

 これでは前に進むのは難しそうだとレンは思ったが、彼の考えは当たっていた。

 北側の壁から真っ先に逃げ出したダルタニスだったが、集まってくる人々に前をふさがれ、多くの兵士たちに追い抜かれてしまった。全体で見ると、今や彼らは城に逃げようとする人々の後方に位置していた。

 そしてそんな彼らに迫る影があった。北から数十体の魔獣の群れが一直線に向かってきている。どうやら壁を乗り越えた魔獣たちが、まとまって追ってきているようだ。


「ガー太、あそこまで頼む」


 レンはダルタニスの近くにある家の屋根まで移動し、そこから彼に呼びかけた。


「ダルタニス男爵!」


 最初は気付いてもらえなかったが、何度か呼んでいるうちに気付いてもらえた。それでもどこから呼ばれているかわからなかったようなので、


「屋根の上だ!」


 と呼びかけると、ダルタニスや周りの兵たちが顔を上げ、屋根の上にいるレンを見て驚いた顔になる。


「これはまた、おかしなところにいるね」


「北側の守りが崩れるのが見えたのでな。急いで様子を見に来た」


「ということは東側も破られたのかな?」


「いや東側は健在だ。だがそのまま守っても意味がないと思い、東側の部隊は全員城へと向かわせた」


「いい判断だ。ということは、城に戻れば何とかなるということだな!」


 ダルタニスの声が大きくなる。周囲の兵士たちに聞かせようとしているのだと思い、レンも声を大きくして答える。


「そうだ! 城の方では魔獣を迎え撃つ準備が進んでいる! 早く城へ戻るんだ!」


「わかった。急いで戻ると――」


 急に後方で悲鳴が上がった。

 ついに魔獣の群れがダルタニスたちに追いついてきたのだ。

 ここにはダルタニスを中心に数十名の兵士たちがいて、その周囲に多くの住人や、他の部隊の兵士たちが集まっている。そこへ北側から、二十体ほどの魔獣の群れが襲いかかった。

 集団の一番外側にいた住人たちが、たちまち魔獣の犠牲となる。

 さらに何体かの魔獣が、東と西に回り込むように動いている。

 どうやら魔獣はダルタニスたちを包囲しようとしているようだ。バラバラの動きではなく、統率された動きだった。屋根の上のレンには、その様子がよく見えた。


「後ろに備えろ! 防ぎながら後退するぞ」


 周囲の住人たちが悲鳴を上げ、四方八方へ逃げ出す中で、ダルタニスの周りの兵たちが陣形を組み直す。領主の周りを固める彼らは精鋭だった。自分の命を犠牲にしても、ダルタニスを逃がすという決死の覚悟で剣を抜き、魔獣を迎え撃とうとする。

 そこへ住民たちを蹴散らした魔獣の群れが襲いかかった。

 先頭の一体が兵士に飛びかかろうとした瞬間、その顔に矢が突き刺さり、魔獣はカウンターパンチを食らったように後ろへひっくり返る。さらに二体目、三体目と立て続けに矢が命中し、魔獣を打ち倒す。


「おおっ!」


 というどよめきが兵士たちから上がる。


「誰の援護だ!?」


「あの仮面の騎士だ!」


 一人の兵士が、屋根の上を指差す。

 その兵士が言った通り、そこではレンが魔獣に向かって次々と矢を射ていた。

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