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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第三章 仮面の騎士
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第81話 ロッシュの街

 カザフ子爵の領内を抜けたレンたちは、隣の貴族の領地に入ったところで、同じようにその地を治める貴族に止められてしまった。

 そして同じようなやり取りで領内の通過を許してもらい、この日はその領地の端っこで野宿することとなった。

 ここで寝る前に、レンはガー太に一つ頼み事をした。


「ガー太。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


「ガー」


「お前にはしばらくガーガーをやめてもらおうと思うんだ」


「ガー」


 なに言ってんだこいつ? とでもいうような反応である。


「まあ聞いてほしい。ガー太は見た目が普通のガーガーとちょっと違うだろ? それに普通のガーガーはもっと臆病だし。だからごまかせるんじゃないかと思ったんだよ」


 普通のガーガーは丸っこくてドッシリしている。だがガー太はそれよりスラリとしてガッシリしている、といった感じだ。

 ちょっと変わったガーガーだと言われたら納得するような違いだが、よく似た違う鳥だと言っても納得してくれそうな気がした。

 なぜこんなことを考えたかというと、正体を隠す役に立つのではないかと思ったからだ。

 つまり今回のことが噂になった場合に、ガーガーに乗った仮面の男ではなく、別の鳥に乗った仮面の男として噂が流れれば、それがレンと結びつく可能性が低くなるのでは、と思ったのだ。

 しょせん思い付きで、どれほど効果があるかもわからなかったが、やってみるだけならタダだし、害があるとも思えなかった。


「というわけでガー太。しばらくお前には……」


 少し考える。


「よし、ホウオウってことにしよう。これからしばらく、ガーガーじゃなくホウオウってことで頼む」


「ガー」


 まあ好きにしたら、といった感じだった。




 翌日も次々とダークエルフが合流してきた。

 街道を行けば当然のごとく目立ち、領地が変わるたびに貴族の軍勢に止められることになった。ただ誰もがヴァイセン伯爵が背後にいると察すると、領内の通過を許してくれた。条件として、領内を出るまで見張りを同行させられる事もあったが、別に見られて困る物もないのでレンは気にしなかった。

 それより問題は時間だった。人数が増えれば進行速度が遅くなるし、貴族への対応で時間も取られる。

 さらに西からの避難民が増えてきたため、街道が渋滞するようになってきた。

 彼らとすれ違うだけならまだよかったのだが、こちらを警戒するあまり、いきなり武器を抜いて構える集団までいて、そういう対処にも時間を食われてしまった。

 最初、カエデと二人で行こうと思っていた時は、急げば五日で行けるだろうと思っていた。今日がその五日目だが、まだロッシュの街まではかなりの距離がある。このペースだとあと三日はかかりそうだった。

 ロッシュの街に魔群が来るのが早ければ一週間後と聞いているから、間に合わない可能性が出てきたのだ。

 まあ、その一週間という推測も、どこまで正しいかわからないのだが。

 なにしろ相手は魔群だし、それが今どこにいるのか、そういう情報が全く入ってこないのだ。

 この世界ではそれが当たり前なのだが、なまじリアルタイムで情報が入ってくる世界で生きていたので、どうしてももどかしさを感じてしまう。

 あせりを覚えながら行軍を続けたレンは、七日目、ついに最後の関門に到着した。

 そこは街道の周囲にも木の柵が設置されており、ちょっとした関所になっていた。

 ターベラス国王はロッシュの街へ向かうことを禁じたが、ここがその封鎖地点だった。この関所は西から逃げてきた者は通過できるが、逆に西へ向かう者は通過できない。

 関所を守る兵士たちは二十人ほどいたが、レンたちに気付いたようで、にわかに騒がしくなった。


「お前たちは何者か!?」


 一人の兵士がレンに向かって問いかけてきた。おそらく彼がここの守備隊の隊長だろう。

 彼を含め、兵士たちの顔には緊張が浮かんでいる。

 なにしろレンが率いるダークエルフは、この時点で二百八十人ほどになっていた。その気になれば、力尽くで関所を突破するのも簡単である。


「我は仮面の騎士! このダークエルフたちを率い、ロッシュの救援に向かっている」


 堂々とレンは応える。もう慣れたというか、今では素の自分で話をするより、仮面の騎士になりきって話をする方が楽なぐらいだった。自分でも不思議なのだが、まるで芝居しているような感覚で、話していてもあまり緊張しないのだ。


「ふざけるな!」


 こういう相手の反応も毎度のことだ。


「我々は国王陛下より――」


 いつもならここからレンが相手を説得しなければならなかったが、この時は違った。


「待った!」


 そう叫んで、馬に乗った一人の男がレンの横に並び出た。


「ザマディーノ伯爵!?」


 隊長が驚きの声を上げる。


「そうだ! ルマドス殿、少し私の話を聞いてくれ」


 そう言って彼、ザマディーノ伯爵は、守備隊の隊長であるルマドスの方へと馬を進めた。

 ザマディーノ伯爵はこの地を治める貴族だった。領内を進むレンたちの前に現れた彼は、レンがヴァイセン伯爵のことを臭わせると、あっさり通行を許可してくれた上、


「あそこを守っている連中とは私が話をつけよう」


 と言ってここまで同行してくれたのだ。だが彼の行動は親切心からのものではない。

 関所の守備隊は伯爵の兵士ではなく、王軍の兵士だった。

 ここターベラス王国も他の国々でも、領地を持つ貴族は、それを守るための軍勢を保有している。そしてそれとは別に、国王直轄の軍勢も存在する。それが王軍だ。

 ターベラス国王はロッシュの街へ近付く者を排除するため、国王軍の兵士を派遣して、ここに関所を作らせたのだ。

 もしこの国王軍と、レンの軍勢との間で何かあった場合、大問題になるだろう。もちろんここを治めるサマディーノ伯爵の責任問題にもなる。だから伯爵はここまで同行し、穏便に通過できるよう口利きしたのだ。

 サマディーノ伯爵は上手く守備隊を説得してくれたようで、レンたちは関所もあっさり通過できた。

 ガー太に乗ったレンが先頭で、その後にダークエルフたちが続き、最後は二台の荷馬車だ。

 この荷馬車には、ヴァイセン伯爵が用意してくれた三百人分の武器が積み込まれている。ガゼの街から急行してきて合流したのだ。

 関所を抜ければロッシュの街まであと少しだったが、すぐに日が暮れてしまったため、最後の野宿となった。

 そして翌朝。

 レンたちはついに目的地に到着する。

 街道の先に高い壁に囲まれた街が見えた。ガゼの街の外壁も高かったが、それよりさらに高いようだ。そんな高い壁に囲まれた城塞都市、それがロッシュの街だった。

 レンは街の周囲の様子も確認する。

 見た限りでは魔獣の姿はない。今日でガゼの街を出発して八日目だが、どうやら間に合ったようだ。

 街に近付いていくと、外壁の上に多くの兵士たちが並んでいるのが見えた。

 そして街まであと少しというところで、壁の上から声がかかる。


「止まれダークエルフども!」


 言われた通りに停止する。


「この街はお前たちが来るような場所ではない。今すぐ立ち去れ!」


「我が名は――」


 これまでと同じように名乗ろうとしたレンだったが、


「黙れ!」


 という言葉と共に、一本の矢が飛んできた。それはレンの少し前の地面にザクリとささった。


「さっさと消えろと言っている。次は脅しではなく本当に当てるぞ!」


 壁の上の兵士たちが、弓を構えるのが見えた。

 レンはこの世界に来てから何度か実戦を経験し、少しは戦場の空気とでもいうべきものがわかってきたのだが、今のこの場の空気は、まさしく戦場のものだった。

 壁の上にいる兵士たちからは張りつめた殺気を感じた。ガー太に乗っているのもあってよくわかる。次は脅しではないという言葉は本当のようだ。


「ギルゼー! 全員をもっと後ろに下げよ」


 命令口調でレンが言う。向こうにも聞かれているのでこの口調だった。


「はっ!」


 一人のダークエルフがうなずき、言われた通りに軍勢を後ろに下げる。

 ギルゼーと呼ばれた彼が、今のダークエルフの軍勢を指揮していた。当然ながらこの場にいる者たちの中で一番序列が高い。

 レンが話を聞いたところ、長年傭兵をやっていたとのことで、指揮官には適任と思われた。ただこんなに大勢を指揮した経験はないそうで、そこが少し不安だった。とはいってもレンだってそんな経験はない。彼に任せるしかなかった。

 ダークエルフの軍勢は、今の場所から数百メートルほど後退した。

 この場に残ったのはガー太に乗ったレン、そしてカエデとリゲルの二人だけだった。


「我が名は仮面の騎士! まずは話を聞いてもらいたい!」


 さて今度はどうだろうと思った。軍勢が後ろに下がったことで、場の緊張は少しほぐれた気がするのだが。


「用件を言ってみろ!」


 少し間を開けてから返事があった。

 どうやら話を聞いてくれる気になったようだ。レンはホッとしながら声を上げた。


「重大な用件だ! この街の領主、ダルタニス男爵に直接お伝えしたい!」

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