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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第三章 仮面の騎士
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第80話 進軍

「それじゃあ行こうか」


「はい!」


 ガー太にまたがったレンに、元気な返事の声は二つ。

 カエデとリゲルの二人だった。結局、リゲルも同行することになったのだ。

 レンは反対したのだが、リゲル本人がそれを望み、ルドリスも賛成したため最後は押し切られてしまった。自分の命を最優先すること、という条件を付け、ルドリスにもそう命じてもらったがやはり心配だった。

 ガゼの街を出発した三人と一羽は、街道を西へと向かう。ただ歩く速度はそれほど上げない。追いついてくるはずのダークエルフたちを待つためだった。

 すでにルドリスも、急いで連絡を回しますと言ってガゼの街を出ている。彼の言っていたことが確かなら、これからダークエルフたちが集まってくるはずだ。

 ルドリスと別れる際、レンは一つ重要なことを彼に聞いていた。


「ダークエルフの軍勢ですけど、その指揮もルドリスさんがとるんですか?」


「私は集落に残ろうと思っています」


 というのが彼の答えだった。


「残念ながら私には戦争の経験もなく、戦いは素人です。ですから他に適任の者を指揮官にしようかと」


 ダークエルフは序列によってリーダーが決まる。ルドリスが行けば、その時点で彼が指揮官になるのが確定する。経験とか実力とかは関係ない。


「もちろん領主様が来いとおっしゃるなら行きますが」


「いえ。僕もルドリスさんには残ってもらいたいと思っていました」


 今の北集落のリーダーはルドリスである。そしてレンの見たところ、彼の手腕は確かなものに思えた。ここで彼がいなくなってしまうと、次のリーダーが彼ほど上手くやってくれるかどうかわからない。

 さらに戦いの経験がないというのだから、ここは別人に任せた方がいいだろうと思った。適材適所だ。

 街道を西に進むレンたちは、ガゼに来たときと同じように、街道を行く人々から注目された。ただ反応がちょっと違っている。

 ガゼに向かっていたときは、じろじろ見られているという感じだった。しかし今はギョッと驚かれているような感じだ。

 やっぱりこれが原因かな……

 レンは指で自分の顔をなでる。そこには黒い仮面が着けられていた。

 慣れておこうと思ったレンは、ガゼの街を出てすぐに仮面を着けたのだが、今ではこれは失敗だったんじゃ? と思うようになっていた。

 最初はノリノリだったのだ。しかし最初に仮面を見たカエデの反応は、


「なにそれー!? 変な顔!」


 といって大笑いされてしまった。

 さらにガー太には、


「ガー」


 と微妙な声で鳴かれてしまった。

 うん、まあ、お前がそれでいいならいいんじゃない……みたいな感じだった。


「僕は似合ってると思いますよ」


 とリゲルだけは言ってくれたが、そう言う彼の顔は少し引きつっていなかっただろうか? レンは彼の言葉を素直に信用できなかった。

 そして道行く人々のこの反応である。

 かっこいいと思ってたのにダメなのか? と悩んだレンは、早くも一日目にして仮面を外すことも考えたが、ギリギリでそれを思いとどまった。

 いや、最初はちょっと驚いても、きっとこのかっこよさをわかってくるはずだと思って。レンは少しムキになっていた。

 一日目は三人と一羽のまま進み、街道の近くで野宿した。

 商隊のダークエルフたちがいなくなり、人数は少なくなってしまったが、レンとしては全員気心が知れている今の方が気楽でよかった。

 二日目も一行はそのままだった。

 そして三日目。ダークエルフたちは本当に来るのだろうか、と疑い始めた頃、最初の合流者が現れた。


「ラルークと申します。領主様……ですよね?」


 若い男――の外見だが実年齢は不明――のダークエルフは、ちょっと疑わしそうな声で挨拶してきた。彼もレンの仮面に注目しているようだ。


「そうです。あなたはルドリスさんからの連絡で?」


「はい。ロッシュの街までご一緒させていただきます」


 そう言ったラルークは、次にガー太に向かって挨拶した。


「ガー太様ですね? お会いできて感激です。どうぞよろしくお願いします」


 どう見てもレンへの挨拶より、ガー太への挨拶の方が気持ちがこもっていた。

 このラルークを皮切りに、この日は十名のダークエルフが合流した。中には女性のダークエルフもいた。ダークエルフの場合、女性であっても並みの男より戦力になる。

 そしてこの時点で、レンは彼らの顔と名前が一致しなくなっていた。

 元々人の顔を覚えるのが苦手なのに、ダークエルフたちは全員が若い外見をしているため、年齢で区別することができない。だから余計に誰が誰だかわからなくなってしまった。

 レンは全員の顔と名前を覚えるのを早々にあきらめ、ダークエルフのことはダークエルフで管理してもらうように頼んだ。

 そして続く四日目。この日の合流者はさらに増え、一行の人数は四十人を超えた。ここまで増えると大集団である。

 街道を行く人々は驚くのを通り越し、おびえるようになってきた。一行に気付くと慌てて街道を外れ、周囲の物陰に身を隠す者もいた。

 そしてこの日の午後、ついにレンたちを呼び止める者が現れた。


「そこのダークエルフの集団、止まれ!」


 大声でレンたちを呼び止めたのは、馬に乗った騎士だった。他に徒歩の兵士たちを二十人ほど引き連れている。全員が武装していた。

 騎士が名乗りを上げた。


「我はこの地を治めるカザフ子爵である。お前たちは何者か!?」


 ついに来たかとレンは思った。すでにヴァイセン伯爵の領地を出て、他の貴族が治める土地に入っている。その貴族が出てきたのだ。

 ここまで騒ぎになるのをさけるため、街道沿いの村や街をさけてきたが、道行く人々の目撃談が伝わったのだろう。数十人のダークエルフの集団となれば、無視することもできず、こうして出てきたというわけだ。

 ガー太に乗ったレンが前に出て行くと、貴族たちの軍勢からざわめきが上がった。


「なんだあいつは?」


 なんて声が聞こえる。


「僕は――」


 レンは名乗りかけたところで言葉を切る。

 正体を隠さなければいけないから、ここで本名を名乗るわけにはいかない。だが偽名を考えていなかった。どうしようかと考える。


「何者かと聞いている!?」


 黙ったままのレンに、向こうは警戒心を強めたようだ。

 このままではまずいとあせったレンはとっさに名乗っていた。


「我が名は仮面の騎士!」


「仮面の騎士だと!? 貴様、ふざけているのか!?」


 向こうからは怒りの声が返ってきた。

 もしここでレンが素顔のままだったら、向こうにもレンのあせりまくった表情が見えただろう。だが黒い仮面のせいで表情は見えず、相手には落ち着いているように見えていた。


「ふざけてなどいない。理由があってそれ以上は言えないだけだ」


 一度名乗ってしまった以上、これでいくしかないとレンは思った。ついでに口調もそれっぽく変えてみる。もはやあせりからの暴走に近い。


「我々はこれよりロッシュの街へ向かうつもりだ。あなた方と争うつもりはないので、ここを通してほしい」


「ロッシュへなにをしに行くつもりだ? まさか魔獣と共に街を襲うつもりか?」


 人間の軍勢だったなら、いくらなんでもこんなことは言われなかっただろう。だがダークエルフを魔獣の仲間だと疑う者もいる。このカザフ子爵もその一人というわけだ。

 どこまで疑っているのかわからないけど、本気でダークエルフを魔獣の仲間だと思い込んでいたら、やっかいなことになると思いつつ、レンは話を続ける。


「我々はロッシュの救援に向かっている」


 そして言葉を付け足す。


「領主ダルタニス様の奥方、そして子供たちをお救いするためだ」


 ヴァイセン伯爵から、途中の貴族に止められたときは、このように言えと教えられていたからだ。

 効果はあった。この言葉を聞いたカザフ子爵が考える様子を見せたのだ。

 なぜ奥方と子供たちなのだ、とまずそこをカザフ子爵は疑問に思った。そして彼はダルタニスの妻がどこの家の出か知っていた。有力な貴族の婚姻関係を把握しておくのは、貴族として当然のことだ。

 そして二つの事実が結びつけば、答えは簡単に導き出される。


「貴様、まさかヴァイセン伯爵の!?」


「我はヴァイセン伯爵とはなんの関係もない。この国の人間でもない。ただロッシュの街が危機だと聞き、義によって助太刀しようと思っただけだ。国王陛下はターベラス王国の者がロッシュの街に近付くことを禁じている。だが我が率いているのはダークエルフ。ゆえに我らはその範疇にはない」


「この国の人間ではないと言ったな? ではそのふざけた仮面を外してみろ」


「それはできない」


「なに!?」


「この仮面を外せば、とある方に迷惑がかかる」


 とある方――間違いなくヴァイセン伯爵のことだとカザフ子爵は推理する。

 否定しているが、この仮面の騎士を名乗る男は、ヴァイセン伯爵の手の者に違いない。伯爵はロッシュの街に援軍を送るべきだと主張していたはずだ。それが許されなかったため、ダークエルフを使うという奇策を思い付いたのだ。ならば伯爵の関係者だと自分から言うはずがない。

 カザフ子爵はダークエルフを嫌っている。だからこのようにダークエルフを使うなど考えたこともなかった。しかしヴァイセン伯爵はそれをやったのだ。なりふり構っていられるか、というヴァイセン伯爵の強い思いを感じた気がした。

 問題はこれにどう対処すべきかだが、そんなことはわかりきっている。


「いいだろう。ロッシュを助けたいという心意気に免じ、我が領内を通ることを許そう」


 それがカザフ子爵の結論だった。近隣最大の貴族であるヴァイセン伯爵に逆らうことはできない。またこれまで伯爵には何度か世話になったこともある。実利の面からも、心情的にも、ここで伯爵の邪魔はできないと思った。


「感謝する」


「ただし、我が領内の街に立ち寄ったりするのはダメだ。領民たちも不安がるし、余計なもめ事を起こしたくないのでな」


「わかった。ではこちらからも一つ頼みがある」


「なんだ?」


「我々の後にも、ロッシュへ向かおうというダークエルフが続くはずだ。彼らも同じように通してやってほしい」


「いいだろう。ところで最後に一つ聞いておきたいのだが」


「なにかな?」


「貴様が乗っているそれはガーガーなのか?」


「その通りだ」


「一体どうやって? ガーガーは人に慣れないはずだが……」


「このガーガーは特別なのだ。説明するとかなり長い話になるが……」


「わかった。ではさっさと行け」


 おかしなガーガーに興味はあったが、ここで引き留めて長話などしたくなかった。

 それにしてもあの男は何者だ? と遠ざかっていくレンの背中を見ながらカザフ子爵は思った。

 鍛え上げられた体つき、堂々とした態度、そしてガーガーに騎乗。どう考えてもただ者ではないと思った。

 一方、レンの方はどうにか乗り切れたと心の底から安堵していた。

 ガー太に乗っているときのレンは、普段と比べても精神的に落ち着いている。だからとっさに今のようなやり取りができた。ガー太に乗っていなければ、相手の詰問に反論できず、黙り込んでいたかもしれない。

 だがそれでも顔に不安が浮かぶのは隠しきれなかった。もし仮面を着けていなければ、こちらの表情を読まれて、もっと不審に思われていただろう。

 やはり仮面を着けていて正解だったとレンは思った。

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