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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第六章 王都の華
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第230話 ガー太と国王

 カエデの戦いを見て上機嫌となった国王だったが、謁見の間の空気は一気に重くなった。

 団長のドーゼル公爵以下、近衛騎士団の面々が、レンとカエデを殺気に満ちた視線でにらんでくる。

 カエデは自分への敵意に敏感だ。

 にらんでくる騎士たちを、こちらも暗い殺気のこもった目でにらみ返したカエデが、前に一歩踏み出そうとするのをレンがどうにか止める。止めなかったら大乱闘になってしまう。

 やっぱり腕試しなんて断るべきだったかも、とちょっと後悔した。


「あのダークエルフの剣の腕は見事であったが、ああもあっさり負けるようでは、余の近衛としては少々心もとないな」


「は、真に申し訳なく……」


「さらに精進せよ」


「ははっ!」


 と頭を下げた公爵が、レンをギロリとにらみつけてくる。

 レンとしてはたまったものではない。

 王様もこの場の空気はわかっているだろうに、どうして煽るようなことを言うんですか? と文句を言いたかった。


「ではレンよ。次はいよいよ後ろにいるガーガーを紹介してもらおうか」


「わかりました」


 と答えたレンがガー太を呼ぶと、ガー太がトコトコとレンの横まで歩いてくる。

 これを見た人々からどよめきがあった。


「本当によく慣れておるな。これは本当にガーガーなのか?」


 感心したように聞いてくる国王に、


「いえ、ガー太はガーガーとよく似た別の鳥です。先頃、教会でもそう判定されました」


「そういえば、そうであったな」


 と思い出したように言った国王が笑いを浮かべる。


「聞いておるぞ。そのガーガー、ではなく別の鳥か。その鳥はシャンティエ大聖堂で大暴れして、教会の司教たちを蹴り飛ばしたそうだな」


 暴れたのは事実だが、蹴り飛ばしたりはしていない。大げさに伝わってしまったようだ。

 そしてこの国王の言葉に対する周囲の反応は様々だった。

 教会と貴族たちの関係は複雑だ。

 国王と同じように笑いを浮かべた貴族は、おそらく教会とは対立関係にあるのだろう。教会と貴族の権力争いもよくある話だ。

 教会と協力関係にある貴族でも、ガー太のせいで失脚したガーダーン大司教寄りの貴族は苦虫をかみつぶしたような顔になったが、反対にハガロン大司教寄りの貴族の中には笑顔を浮かべた者もいた。

 国王自身は敬虔なドルカ教の信徒で、教会とも表面上は友好関係を保っていたが、内心では色々と思うところがあったのか、ガー太が大暴れしたという話を聞いた際は大喜びしていた。それがこの場でのレンへの好意的な態度につながっていたりもする。


「お前はその鳥に乗って魔獣と戦ったと聞いたが?」


「その通りです」


「では、この場で乗ってみよ」


 と言われたので、ヒョイっとガー太にまたがると、国王や他の人々から「おおっ!」というどよめきがあがる。

 次に歩けと言われたので歩くと、また「おおっ!」というどよめきが。その次の駆け足でもどよめきが、ぴょんとジャンプしてもどよめきが上がる。とにかく何かするたびに声が上がる。

 ちょっと大げさに驚きすぎでは? と思うレンだったが、彼らにしてみれば人に慣れないはずのガーガーが、人を乗せて歩いているだけでも驚きだった。

 貴族たちの中には、俺もあの鳥がほしい! と欲望に満ちた目をしている者もいた。

 他にはレンの騎乗技術に注目した者もいた。

 貴族も近衛騎士も、そのほとんどが乗馬をこなす。レンは何の道具もなしにガー太に乗っているが、それが難しいことを彼らはよく知っていた。

 ちなみにレンは馬の鞍とかあぶみが開発されてなければ、それを開発して一儲け――なんてことを考えたこともあったのだが、残念ながらこの世界ではすでに鞍もあぶみも手綱も全て存在していた。それもかなり大昔から。

 この世界には魔獣がいて、馬はその気配に敏感だ。魔獣と遭遇した途端、竿立ちになって暴れたりするのもよくある。落馬の危険度が元の世界よりも高いのだ。そのため大昔から落馬しないように様々な研究が行われ、あぶみや手綱が発明されたのだ。

 レンが見せたのは乗馬ではなく乗鳥とでもいうべきだが、いずれにせよそういう道具なしで乗るのは簡単ではない。しかも乗っているレンの姿勢は安定しており、軸が全くブレない。見事な騎乗技術だと感心している者もいた。

 国王もその一人だったが、彼はそれ以上にガー太に興味を持った。

 我慢しきれん、とばかりに玉座から立ち上がると、ガー太に乗っているレンの方へと歩み寄った。


「レンよ。ちょっと代わってくれ。余も一度その鳥に乗ってみたい」


 レンはガー太から下りて、困ったような顔で説明する。


「申し訳ありません。ガー太は私以外の人間には、乗るどころか触られるのも嫌がります。危ないのでどうか――」


「そうなのか?」


 半信半疑といった顔でガー太に手を伸ばすバロワルズ国王だったが、そんな彼をガー太がギロリとにらみつけた。顔はガー太の方が高い位置にあるので、国王を見下ろす格好になる。

 手を止めた国王だったが、その顔におびえた様子はなく、それどころかおもしろそうな顔をしている。


「若い頃は暴れ馬を手なずけたこともあったが……」


「おやめ下さい陛下!」


 慌てて重臣たちが止めに入った。彼らもガー太がシャンティエ大聖堂で暴れたことを知っているのだ。ここで国王が蹴られでもしたら大変である。


「わかっている。あと二十ぐらい若ければ乗りこなしてみせただろうが、さすがに余も歳だ」


 諦めてくれたようでホッとしたレンだったが、


「代わりに誰か挑戦せよ」


 と言い出したのでギョッとする。


「陛下、本当に危ないですから」


「暴れ馬も乗りこなせないようでは近衛騎士は務まらん。これは暴れ鳥だが……同じようなものだ。ドーゼル!」


「はっ! お任せ下さい」


 さっきの失敗を少しでも取り返そうというのか、ドーゼル公爵が待っていましたとばかりに答えた。


「バルドック! お前にもう一度機会をやる。この鳥に乗ってみろ」


「申し訳ありません団長。先程、足を痛めたようで、上手く乗りこなせる自信がありません」


 何を言っておるかバカ者が――そんな怒声がドーゼルの公爵の口から飛び出しそうになったが、それをどうにかこらえたのは、国王の目を気にしたからだった。

 これ以上、身内の恥をさらすわけにはいかぬ、と判断したドーゼル公爵は別の近衛騎士を指名する。


「アゼルト、乗ってみせよ」


「はっ!」


 勢いよく答えて前に出る騎士を、不安そうな顔で見送るバルドック。やめておけと同僚を止めたかったが、ドーゼル公爵の命令にこれ以上は逆らえない。

 足を痛めたというのもウソである。もう体のどこも痛くはない。

 貧乏貴族の三男だった彼を、近衛騎士団に抜擢してくれたのがドーゼル公爵だ。その期待に応えるべく努力してきたし、さっきの失敗を取り返したい思いもあった。

 それでもウソをついてまで命令を拒否したのは、猛烈に嫌な予感がしたからだった。

 それは彼の生存本能だったのかもしれない。とにかくあのダークエルフの小娘を含め、もうあの連中には近寄りたくなかった。命令拒否でドーゼルの不興を買うのも承知していたが、それでも嫌だったのだ。

 代わりに指名されたアゼルトが自信満々な顔で――それをレンは心配そうな顔で見ていたが――ガー太に触れようと手を伸ばしたが、


「ガー!」


 その手が触れる直前、ガー太が無造作に右足で彼を蹴り飛ばした。アゼルトは全く反応できず、彼の体が吹っ飛ぶ。

 飛んだ先には国王がいたが、彼はひょいっと横によけ、アゼルトはさらにその後ろにいたドーゼル公爵に激突、


「はぎゃっ!?」


 という間抜けな悲鳴を上げたドーゼル公爵と二人一緒になって倒れた。

 他の騎士が慌てて二人を助け起こす。

 だから言ったのに、という顔でそれを見ているレン。ガー太は手加減してくれたようで、蹴られた騎士も無事なようだが。


「はっはっはっ! なるほど、これなら確かに魔獣も蹴散らせそうだ」


 楽しそうに笑い声を上げたのはバロワルズ国王だ。

 そんな彼をガー太がジロッと見る。そんなガー太をレンが慌ててなだめる。


「わかったガー太、とにかく落ち着こう。なっ?」


 今の蹴り、ガー太がバロワルズ国王を狙って男を蹴ったのは明らかだ。

 これで国王が腹を立ててガー太を取り押さえようとしたり、逆にガー太が国王を攻撃したりしたら大惨事だ。幸い国王は怒っていないようなので、とにかくガー太をなだめようとするレンだったが、あれっと思った。

 あんまり怒ってない?


「ガー」


 と国王に向けた鳴き声には怒りも含まれていたが、それだけではなかった。


「ほう中々やるじゃないか」


 みたいに相手を認めるかのような響きがある。

 そういえば国王は飛んできた男をなんでもないように避けたが、あれは至近距離からの不意打ちだった。とっさに避けるのはかなり難しいのでは? ガー太もそれでちょっと相手を見直したとか?

 とにかく両者の激突がさけられたのでよかったが、代わりに憎しみの目を向けてきたのがドーゼル公爵だ。

 彼は国王より遠くにいたのに、蹴り飛ばされてきたアゼルトに反応できず、もろにぶつかった。

 助け起こされたドーゼル公爵は、殺しそうな目でレンのことをにらんでくる。さっきも同じような目をしていたが、それがさらに強くなった気がする。

 レンとしては文句は国王に言ってほしいところだ。気付かないふりで無視しておく。

 上機嫌となった国王からは、お褒めの言葉と一緒に短剣を下賜された。

 普通の貴族なら名誉なことだと大喜びだろうが、レンはそこまでありがたみを感じられない。もちろんそんな内心は表に出さず、感激している顔で受け取ったが。

 短剣を下賜されたのはさっきのエッセン伯爵と同じだったが、与えられた短剣には大きな違いがあった。

 柄の部分に獅子をかたどった王家の紋章が刻まれていたのだ。

 王家の紋章は王族しか使えない。家臣が自分の持ち物に勝手に紋章を付けたりしたら不敬罪で投獄である。だから紋章の付いた物を与えるのも滅多にない。

 目ざとい者は紋章に気付いていたが、レンは全く気付かず普通の短剣と思って受け取った。

 彼の中では褒美の品物より、とにかく無事に――とはちょっと言い難いが――式典を乗り切った方が重要だった。

しばらく前に更新を失敗してたことがあったんですけど、またやっちゃったみたいです。

今回は、この話を更新したとき(1/21)にリストに反映されてないのには気付いてました。ただ、たまに反映まで時間がかかるので後で確認しよう、と思って先に感想を読んで……そこで忘れてました。

しかもそんな時に限って、次の週末に用事があって更新できなかったり……

ちゃんと確認するようにします、と言いつつ同じようなミスしてすみません。

というわけでこの話と、次の話の2話続けての更新になります。

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