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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第六章 王都の華
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第221話 神前会議

 一週間が過ぎ、そして迎えた神前会議当日。

 レンのところにシャンティエ大聖堂から迎えの馬車がやって来た。

 教会のシンボルカラーである白塗りの豪華な大型馬車だった。それはよかったのだが、さっそく問題が起こってしまった。


「僕たちは歩いていくので大丈夫です」


 レンは最初、そう言って馬車に乗るのを断った。

 別に馬車でも歩きでも、レンはどっちでもよかったのだが、ガー太が馬車に乗るのを嫌がったのだ。

 どうやら箱の中に押し込まれて、どこかへ運ばれていくのが嫌なようだ。牢屋でも連想するのだろうか?

 だが迎えに来たダノン神父も譲らなかった。


「ガーダーン大司教からのお願いなのです。誰の目にも触れず神前会議まで来てほしいと。どうかお願いします」


 レンは知らなかったが、ガーダーン大司教は神前会議が始まるまで、ガー太を隠しておこうと考えていた。サプライズを狙ったのである。

 本来、シャンティエ大聖堂に馬車で乗り入ることはできない。聖堂長や国王など、ごく一部の特権なのだ。

 それをガーダーン大司教は、


「もしあの鳥がニセ者だとしたら、姿を見せれば、いたずらに信徒たちの心を乱すことになる。逆にもし本物だとしたら神の使いだ。馬車に乗って入ってきても何の問題もない。いずれにしろ、神前会議で結論が出るまでは、可能な限り姿をさらすのを避けるべきだ」


 と主張したのだ。かなり強引な主張だったが、反対すると思われたハガロン大司教があっさり認めてしまったので、そのまま通ってしまった。

 これを受けてガーダーン大司教は、


「馬車に乗せて連れてこい。絶対に誰の目にも触れさせるな」


 とダノン神父に厳命していたのだ。

 姿を隠すため、馬車には厚いカーテンなどが備え付けられ、外から中が見えないようにしている。ということは中から外も見えないわけで、どうやらガー太はそれを嫌がったようだ。

 命令を受けたダノン神父は必死になってレンに頼み込み、最後は彼のことをかわいそうに思ったレンが折れた。


「頼むよガー太。今回だけだからさ」


 とか何とか言って、ガー太をなだめすかしてどうにか馬車に乗ってもらった。

 レンにとっては、必ずしも悪いことではない。

 今回のことでガー太の存在は広く世間に知られてしまうだろう。だったらもう隠すこともないと開き直って、並んで歩いて王都に入ってもよかったのだが、やっぱり目立ちすぎる気がする。隠れて運んでくれるなら、そっちの方がいいだろう。

 だがガー太は違ったようで、これで一気に機嫌が悪くなってしまった。

 これまでガー太は、ドルカ教の信徒たちのことをほとんど気にしていなかった。

 彼らがガーガーかどうか決めたところで、ガー太にとってはどうでもいいことだ。ガー太を見た信徒たちは、驚いて祈りの言葉を唱えたりするが、恐れ多いと思っているのか、ある程度の距離を置いて近寄ってこない。

 だからガー太にとって、彼らはちょっとうっとうしいが、別に気にするほどのことでもない、といった存在だったのだが……馬車に乗せられて、敵という認識に変わってしまったようである。

 というわけでレンとガー太は馬車に乗って王都に入ったのだが、外が見えないので、レンは自分が今どのあたりを通っているのかもわからなかった。

 今日の神前会議のことは、広く王都の民に知られていたので、レンとガー太を乗せた馬車は、


「あの馬車がそうじゃないのか!?」


 と王都の人々の注目に出迎えられたが、窓にはカーテンが下ろされ、中の様子は全然見えない。強引に近づいて中をのぞこうとしても、馬車の周囲は神聖騎士団がガッチリ固めているので近づくのも難しい。

 人々はわいわい騒ぎながら、馬車を見送るしかなかった。




 神前会議が行われる大議場は熱気に包まれていた。

 大議場は劇場のようなすり鉢型になっていて、参加者はどこの席からも中央を見下ろせる。その中央には、一段高いところに席が作られ、八人の裁定者が並んで座っていた。席は九個あったが、ちょうど真ん中の席はシャンティエ大聖堂長が寝込んでいるため空席だった。

 裁定者席の前には証言台があり、会議に呼ばれた証人はここで証言することになる。

 裁定者席に座るガーダーン大司教のところに、部下の一人が走り寄って耳打ちした。彼は軽くうなずいてから口を開く。


「証人が到着したようだ。ではこれより神前会議を開始する!」


 思い思いに会話していた参加者たちが、一度話すのをやめ、口々に祈りの言葉を唱える。これから始まるのは、神の前で行われる神聖な儀式でもある。


「証人をここへ!」


 大議場の正面扉が開き、証人が入ってくる。

 裁定者も、その他の参加者たちも、いっせいにそちらの方へ注目し――どよめきが上がった。


「ガーガーだぞ!?」


「ガーガーじゃないか!」


 といった驚きの声が次々上がり、それが祈りの言葉へと変わる。

 証人として現れたのは一人の若い男と一羽の鳥――レンとガー太だった。

 ガーダーン大司教も驚いた。ダノン神父たちの報告にあった通り、これはどう見てもガーガーである。

 臆病なはずのガーガーが、堂々というか、迫力があるというか、むしろ凶暴? とにかく人を恐れる様子などなく、レンと並んで歩いてくる。自分の目で見ても信じられない光景だ。

 チラリと横を見れば、ハガロン大司教も、他の裁定者たちも驚きのあまり言葉を失っている。

 ガーダーン大司教は勝利を確信した。これはどう見てもガーガーである。ガーガーではないというハガロン大司教たち反対派の負けだ。


「静まれ! これより神前会議を行う」


 堂々とした声で、ガーダーン大司教は神前会議の始まりを告げた。

 その声を聞きながら証人席に座ったレンは、正面の壇上を見上げた。

 事前にマローネ司教から聞いていた通り、壇上の裁定者席には八人の大司教が座っていた。中央の空席が、問題となっているシャンティエ大聖堂の聖堂長の席だろう。

 じゃあ、こっちがハガロン大司教で、こっちがガーダーン大司教か。

 レンから見て、中央の一つ右横の席には、少し太り気味の初老の男性が座っている。こちらがハガロン大司教だろう。

 そして中央の一つ左横の席には、白いひげを蓄えた初老の男性が座っている。事前に聞いていた特徴とも一致するし、こっちがガーダーン大司教に違いない。

 この神前会議は、すなわち目の前に座るガーダーン大司教との勝負でもある。彼に勝てるかどうかで、自分とガー太の運命は大きく変わる。

 レンは緊張した――が、その緊張は長くは続かなかった。

 会議開始から一時間か二時間か。時計がないので正確な時間はわからないが、その頃にはレンはすっかり退屈しきっていた。

 会議ではガー太がガーガーかどうか、激しい議論が交わされると思っていたのだが、いやそれは一応あっていた。ただ議論の内容が、予想していたのと全然違ったのだ。

 例えば科学的に「ガーガーとは何か?」なんて話が出てくると予想していたのだが、そういう科学的で具体的な話は全然出て来ない。

 今も司教の一人が、レンのいる証言台の横に出てきて話しているのだが、


「ハーベル司教の記したサイモンの書、その第二章には以下の記述があります。白く速き者は草原を駆け抜け――」


 その話をさえぎるように、別の司教が声を上げる。


「待っていただこう。サイモンの書については、かのゴドビン司教が非難の手紙を書いているが――」


 さらに別の司教が、


「いやいや。サイモンの書であるなら、まずはカーベル神父の研究を――」


 なんて話が延々と続いている。

 一番重要な「ガーガーかどうか?」という議論はほとんどなく、代わりに「誰かが何々の本にこう書いている」、「いやその文章はこう解釈すべきだ」、「いやいやその解釈こそ間違っている」なんて話がずっと続いているのだ。

 言ってる本人たちは真剣なようだが、レンにはどうでもいい議論としか思えない。細かい文言の違いを指摘して、それに何の意味があるのか? もっと具体的な議論をすべきだと思うのだが。

 そして無意味な会議ほど退屈なものはない。

 発言することもなく、どうでもいいような話ばかり続けば、眠くなってしまうのも当然だった。


「レン・オーバンス殿! 神聖な会議で眠るとは何事か!」


 うつらうつらしていたレンは、するどい声にハッと目を開ける。寝ていきそうだったのを、誰かに注意されたようだ。

 裁定者たちや、他の会議参加者たちが、レンに厳しい目を向ける。

 いつものレンなら萎縮していただろうが、この時は反感を覚えてムッとした。

 別に来たくて来たわけではない。強制的に参加させられたと思ったら、つまらない話を聞かされるだけ。それなのに、なんでこっちが非難されるのか――なんてちょっと逆ギレしたのだ。ただ、それを口に出すだけの度胸はなかったので、黙って姿勢を正しただけだったが。

 しかし彼の代わりに激しく反応した者がいた。

 隣にいたガー太である。

 ガー太は神前会議が始まって早々、自分には関係ないとばかりに、丸くなって眠ってしまった。

 会議の参加者たちもその様子には気付いてはいたが、レンと同じようにガー太を注意するわけにもいかず、ずっと放置状態だった。

 そのガー太がムクリと起き上がった。かなり不機嫌そうな顔で。

 元々、馬車に乗せられたときからガー太は不機嫌だったが、今ので自分が怒られたと思ったのか、それともレンの不満に反応したのか――とにかく限界を超えたようである。


「クエーッ!」


 と大きく鳴くと、前に向かって走り出した。その先にあるのは裁定者席だ。

 驚いたのは裁定者たちだ。ハガロン大司教も、ガーダーン大司教も、他の六人も、ガー太の突然の行動に驚愕する。

 他の会議参加者たちも驚いていたが、そんな中で一番驚き、混乱していたのは警備の兵士たちだったかもしれない。

 シャンティエ大聖堂の警備は、教会の神聖騎士団が行う。高い信仰心を持つ彼らは、死をも恐れぬ戦いぶりで知られている。時に狂信者とも呼ばれる彼らは、神の名を唱えつつ命を捨てて戦う。

 神前会議の警備を任されたのは、そんな彼らの中から選ばれた精鋭中の精鋭だ。例え巨大な魔獣が襲ってきたとしても、彼らはひるまず迎え撃っただろう。

 しかしそんな彼らが一歩も動けなかった。

 何しろ暴れ出したのがガーガーなのだ。高い信仰心を持つがゆえに、彼らはガーガーに手出しすることができず、つまりガー太を止められなかった。

 この場で唯一、ガー太を止めることができたのはレンだけだったが、彼もガー太を止めなかった。

 止めようと思えば止められたのだが、注意されてちょっと逆ギレ気味だったので、


「少し暴れ回ってやれ」


 と止めるどころかガー太を応援していた。もちろん声には出さず心の中で。その思いが伝わったのかどうか、ガー太は裁定者席に向かって大きくジャンプし、


「クエーッ!」


 という鳴き声と共に、右足を振り下ろした。その先にいたのは、他でもないガーダーン大司教である。まるで元凶が彼だと見抜いていたかのように、ガー太は彼を狙った。


「ひいっ!?」


 悲鳴を上げてガーダーン大司教が椅子から転がり落ちたところへ、ガー太の右足が振り下ろされた。

 ただ、これは脅しだったようだ。もしガー太が本気なら、この一撃でガーダーン大司教の頭は粉砕されていただろう。だがガー太の右足が炸裂したのは、彼が座っていた机だった。

 分厚い木の机が、右足の一撃を受けて粉々に粉砕された。

 これには他の裁定者たちも驚き、慌てて逃げ出す。

 床に倒れていたガーダーン大司教も悲鳴を上げ、床をはって逃げようとしたが、その前にずんっと立ち塞がった者がいた。

 他でもない、ガー太である。

 ギロリとガー太ににらまれたガーダーン大司教は、殺される!? と恐怖し、とっさに叫んでしまった。


「だ、誰か!? こいつをなんとかしろ!」


 周囲にいた司教や警備兵たちが驚くのを見て、ガーダーン大司教は自分の致命的な失敗を悟ったが、すでに遅かった。


「ま、待て! ち、違う、今のは……」


 慌てて言い訳しようとしたが、上手い言葉が出てこない。

 そんな彼の醜態を見て溜飲を下げたのか、ガー太は暴れるのをやめて、レンの隣に戻ってきた。そして自分の起こした騒ぎなど素知らぬ顔で、また丸くなって眠ってしまう。

 思わず笑ってしまいそうになったのを、レンはどうにかこらえた。

 今の騒ぎで眠気も吹き飛んだが、さて、これからどうなるのだろうか?


「突然のことに、ガーダーン大司教も驚かれたようだ」


 声を上げたのはハガロン大司教だ。その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

 対照的に、警備兵の手を借りて起き上がったガーダーン大司教の顔は、悔しそうにゆがんでいた。

 勝者がどちらなのか、誰の目にも明らかだった。


「落ち着くまで、一度休憩にしたいと思う」


 ハガロン大司教の言葉に反論する者はなく、神前会議は一時中断された。そしてそのまま再開されることはなかった。

 神前会議の結論が下されたからだ。

 ガー太はガーガーではない――それが神前会議の結論だった。ガー太は晴れて教会から、ガーガーではないというお墨付きをもらうこととなった。

また週末、更新できずにすみません。

言い訳すると、一応できてはいたんですけど、その時は神前会議(上)だったんです。

けど読み返すと、これいらないんじゃ? ってところがあったので、削って一話にまとめま直ました。

結果的に、短くまとまってよくなったなあ、と思ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 天罰テキメンw でもこれでガーガーじゃないってなるんかな? 逆に不敬になりそうだけど、司教がなんとかするのか。
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