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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第六章 王都の華
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第218話 マローネ司教の依頼

「それにしても、ここはダークエルフばかりですね。オーバンス様はどうしてこんな場所に滞在しているのですか?」


 集落の様子を見て、ダークエルフしかいないことに気付いたのだろう。マローネ司教が訊ねてきた。

 ドルカ教ではエルフもダークエルフも共に異教徒と見なし、神の救いの対象には入れていない。ただ積極的に排除しようとしているわけでもなく、無視しているというのが実情だ。ごく自然に差別している、ともいえる。

 マローネの口調からは、ダークエルフへの嫌悪感などは感じられなかったが……


「ここにいた方が気楽でいいので」


 当たり障りのない返答をすると、マローネがさらに聞いてくる。


「王都内にはオーバンス伯爵家の屋敷もあるのに、そちらへは行かれないのですか?」


 えっ? 屋敷があるの?

 初耳だった。だが考えてみれば当然だった。

 自分の領地を持つ貴族は、当然その領地に城なり屋敷なりを構えているが、大貴族になれば王都にも立派な屋敷を構えている、なんて話をどこかで聞いた記憶があった。

 オーバンス伯爵家も立派な伯爵家だ。王都に屋敷があっても不思議ではない。

 執事のマーカスとかも知っていたはずだが、他の者たちは当然、レンが知っていると思っているから、わざわざ王都に屋敷がありますよ、なんて言わなかったのだろう。

 マローネは元から知っていたのか、レンのことを調べたのか。いずれにしろレンは全然知らなかった。だから前回王都に来たときも屋敷を訪れなかったし、向こうもレンが来ているとは知らなかったはずだ。

 だが今回は?

 レンが国王に呼ばれたことを、オーバンス家の王都屋敷は知っているのだろうか? いやそれ以前に、今回のことは実家に通知がいっているのだろうか?

 今まで自分がどうするか精一杯で、そこまで気が回っていなかったのだが、これは無視していい問題ではない。

 呼び出しがレンだけに来ていて、実家の方へは何の連絡も行ってないならいい。

 本人にだけ連絡すればいいので、わざわざ実家の方にまで連絡しないだろう、と考えることはできる。だがレンはまだ子供なのだから、当然親の方にも連絡が行くだろう、と考えることもできる。

 どっちだろうか? 貴族社会の常識を知らないレンには、どちらの可能性が高いのかもわからない。

 もし実家まで連絡が行けば、非常に困ったことになる。今までは勘当同然に追い出された立場だったので好き勝手やって来られた。

 この世界に来てすぐの頃、魔獣の群れが現れたという報告を受けて、父親のオーバンス伯爵が屋敷までやって来たことがあったが、伯爵と会ったのはその一回だけだ。

 黒の大森林のダークエルフと協力関係を結んで以来、魔獣退治にも彼らの力を借りられるようになった。おかげで実家へ魔獣が出た、と連絡を送ったのはその一回だけだ。それ以降は魔獣が出ても、全てこちらだけで対処している。

 向こうもこちらを放置しているので、何か連絡が来たこともなかった。

 しかし今回のことを知られたら、


「あいつは何をやってるんだ?」


 ってことになるに違いない。

 調査のために人がやって来るか、それともレンが実家の方へ呼び出されるか。最悪、そのまま連れ戻される可能性も……?

 国王と教会からの呼び出しに加え、実家の方も考えないと――


「オーバンス様、どうかされましたか?」


「あ、いえ、すみません」


 考え込んでしまって、返事をするのを忘れていた。実家の方は後で考えるとして、今は目の前のマローネと話をしなければ。


「実は家の方とは、あまり仲が良くなくて……」


 どう説明しようか迷ったが、そう言ってごまかすことにした。レンは勘当同然で追い出されたのだから、実家に顔を出したくないと言っても不自然ではない。

 言いにくそうに話すと、向こうも察してくれたようで、それ以上は聞いてこなかった。あるいはすでにレンのことを調べ、家の方と仲が悪いことを知った上で質問してきたのかもしれない。

 家の話はそれで終わって本題に入る。


「先日お会いしたとき、オーバンス様は、あの鳥はガーガーではないとおっしゃいましたが、その主張に変わりはありませんか?」


「ありませんよ。それが一番です」


 教会側がどんな結論を出してきたのか、ドキドキしながら答えを待つ。


「我々はその提案を受け入れる用意があります。あの鳥はガーガーではない、よく似た別の鳥だ、と」


「そうですか」


 ホッとする。これで第一関門突破と思ったが、安心するのは早かった。


「ですが話はそれで終わりません。オーバンス様もご存じだと思いますが、今のシャンティエ大聖堂を統べるディラン聖堂長は病に伏せっておられます」


 ご存じなかった。

 シャンティエ大聖堂はわかる。この王都にあるドルカ教の総本山。聖堂長というのはそこの一番偉い人だろうから、つまりこの国の教会の最高実力者だろう。その教会のトップが病気で寝込んでいる、ということか。


「聖堂長もご高齢、万が一の場合を考え、シャンティエ大聖堂の次の聖堂長を決めておかねばなりません。単刀直入に申しましょう。オーバンス様、その後継者選びで、我々にご協力願えませんか?」


「協力……ですか?」


「はい。次期聖堂長選で、ハガロン大司教にお力添えを願いたいのです」


 さわやかな笑顔で言っているが、内容は全然さわやかではない。

 後継者争いに力を貸せということは、教会内の権力争いに首を突っ込めということだ。

 聖堂長がどれだけの権力を持っているかは知らないが、教会のトップだ、国王に匹敵するような強大な権力を持っていてもおかしくない。そんな権力者の後継者選びとなれば、色々とえげつない争いがあるはずだ。公職選挙法などないのだから、金や暴力が飛び交う無法地帯に違いない。

 そんなものに巻き込まれるのはごめんである。


「すみませんが、僕はそういう争いとかは苦手でして」


 などと言って断ろうとしたのだが、


「念のために申し上げておきますが、オーバンス様は部外者ではいられませんよ?」


「どういうことです?」


「私がお仕えするハガロン大司教は、次期聖堂長の最有力候補の一人です。その部下である私とこうして会っている、その時点で、他の対立候補はオーバンス様をどう見るでしょうか?」


 マローネの言葉にレンは愕然とする。


「僕が、そのハガロン大司教に味方していると?」


「はい。少なくともガーダーン大司教はきっとそう思うでしょう。あ、そのガーダーン大司教が、ハガロン大司教の最大のライバルです」


「僕に会いに来たのは、最初からそれが目的だったんですか? 有無を言わさず僕を味方に引き込もうっていう……」


「お疑いになるのは当然ですが、それは誤解です。最初はハガロン大司教も、他の方々も、人に慣れているガーガーなど信じてはいませんでした。もちろん私もです。オーバンス様に会いに来たのも、あくまで念のためでした。失礼な言い方ですが、誰もオーバンス様のことは気にしていなかったのです」


 しかしこれからは違います、とマローネは話を続ける。


「あの鳥がガーガー、少なくとも見た目はガーガーそっくりなのがわかった以上、どこの陣営も無視はできません。すぐにガーダーン大司教からも使者がやって来るでしょう」


 マローネの説明によれば、後継者候補は複数いるが、ハガロン大司教とガーダーン大司教の二人が最有力候補ということだ。


「ハガロン大司教が、あの鳥をガーガーではないと言い出せば、ガーダーン大司教は、これ幸いとあの鳥を手に入れようとするはずです。そして、ハガロン大司教に対抗し、この鳥はガーガーである、と主張するでしょう。あの鳥の宣伝効果は絶大ですから」


 あまりに身勝手な言い分に腹が立ってくるが、マローネの言ったことは正しいと理解もできる。いい悪いではなく、それがこの世界の現実。権力者の横暴を止めようと思うなら、それ以上の権力を持つしかない。だから熾烈な権力争いが起こる。

 ガー太を道具扱いするのにも腹が立つが、人に慣れたガーガーが貴重だというのもわかる。正しくは人に慣れているというより、レンと一緒にいてくれているというべきだが、それをいったところで誰も信じてくれないだろう。

 懐柔か力ずくか、とにかくどんな手を使ってでも、レンからガー太を奪おうとするはずだ。


「ガー太の宣伝効果が絶大だといいましたが、ハガロン大司教の方はガー太を利用する気はないんですか?」


 ガーガーではない、という主張に賛同するのは、ガー太を利用する気がないからだろう。利用する気があるのなら、ガーガーでなければならない。


「ありません」


「本当ですか?」


「神に誓って」


 さすがは聖職者、さらりとそういう言い方をするんだなあ、とレンは思っただけだったが、実はこの言葉は非常に重い意味を持っていた。

 神に誓った約束は、命をかけても果たさねばならない。司教が神に誓っておいて、結果的にそれがウソになってしまえば、教会を破門されてもおかしくないのだ。

 マローネはかなりの決意で約束したはずだが、それを知らないレンは普通に聞き流してしまった。だが流されたマローネの方も、特に気にした様子もなく話を続ける。


「正直に言いますが、ハガロン大司教はオーバンス様を警戒なさっておいでなのです」


「僕のことを?」


「ガーガーを武器に、オーバンス様が教会に影響力を行使するつもりではないか、と警戒しておられるのです」


「僕にそんなつもりはありませんよ」


「神に誓えますか?」


「はい。神に誓って」


 貴族が司教を相手に、神に誓うことも非常に重い意味を持つのだが、そうとは知らないレンは、あっさりとそれを口にする。元よりそのつもりだったし、神に誓えというなら誓ってもいいや、ぐらいの軽い気持ちで。


「でしたらオーバンス様とハガロン大司教、お二人の利害は一致します。ですからお願いしたいのです。我々に協力していただけませんか?」


 権力争いなんかに関わりたくはない。だが逃げられないなら、自分と利害が一致する方につくしかない。不本意だがマローネたちに協力するしかないようだ。


「わかりました。あなた方に協力します。でも協力といっても、教会内の争いで僕にできることなんてないと思いますが」


 教会内の権力争いに自分が協力できるとは思えない。それとも、もしかして資金援助とかだろうか? だったら多少は協力できるとは思うが……。


「いえ、オーバンス様にしかできないことがあるのです。お願いできるでしょうか?」

先週末は、用事が入って更新できずにすみません。

理想は毎日コツコツ書いていって、週末に時間がなくてもちゃんと更新、なんですけどなかなかできないです……

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