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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第六章 王都の華
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第204話 運送路、拡大(上)

 ゴナスが隠居して後継者に店を譲るという話は、ジャガルの街の商人たちに激震をもたらした。

 ゴナスの店は街では中堅ぐらいなので、その店の代替わりは、本来ならちょっとした話題で終わっていただろう。それが話題になったのは、経緯が問題だったからだ。

 彼が近頃話題となっているレン・オーバンスとトラブルを起こしていたのを、街の商人たちは知っていた。それがどう決着するのか注目していたのだが、思いもよらぬ決着となってしまった。


「最悪、ゴナスさんの身に危害が及ぶんじゃないか、なんて話はありましたが……」


「まさか幼い娘を後継者に据えて、自分はその後見人になるとは」


「趣味と実益を兼ねてのことでしょう。えげつないマネをするものです」


「ゴナスさんも、相当追い込まれていたようですからなあ。街中でオーバンス様に声をかけられ、何を言われたのか、その場で恐怖のあまり卒倒したとか」


「目の前で倒れたゴナスさんを見て、オーバンス様は笑いながら、お大事に、と言ったとか?」


 なんて話が商人たちの間で交わされていた。

 マルコの運送屋は業務拡大を続け、今やジャガルで商売するなら、その存在は無視できないものになりつつあった。レンはその黒幕として知られている。

 冷酷非情で恐ろしい男だ、なんてうわさ話はあったのだが、ゴナスの一件でうわさは事実だったと広く知られることになったのだ。

 商人たちだけでなく、犯罪ギルドでもレンのことは話題になっていた。王都の犯罪ギルドとの橋渡しになっていたのがレンだから、犯罪ギルドでも彼には注目していた。

 だから犯罪ギルドでも、今回の事件について話題になったが、こちらは商人とは違って恐れるよりも、さすがはレン・オーバンスだという賞賛の声の方が大きかった。彼らにとって、見事な悪事は賞賛に値する。今回の店の乗っ取りは、一滴の血を流すこともなくスムーズに行われた見事な悪事、というのが裏社会での評価だった。

 マルコも、まさかゴナスがここまで思い切ったことをするとは予想してなかったが、もう一つ意外に思っていることがあった。

 自分の心境について、である。

 マルコの夢は自分の店を持つことだった。それは一生かけても実現できるかどうかわからない大きな夢――だったのだが、レンと出会ったことで運命は大きく変わった。

 密輸に手を出し、ダークエルフの運送屋を始めて、自分の店を持つことになった。とはいえ、これは店は店でも自分が思い描いていたのとは別物だった。店というより運送業を営むための事務所であり、働いているのもダークエルフばかりだ。

 一方、ゴナスの店は違う。彼の店は小麦を中心に食料品を扱う店で、まさにマルコが夢に描いていた店そのものだ。

 後見人はレンで、マルコはそのレンから店を任された立場だが、今までのことから考えて、レンは任せると言ったら本当に任せっきりで、ほとんど口出しはしてこない。

 ならばこの機会を利用して、任された店を本当に自分のモノにすべく、色々と画策したことだろう――少し前の自分なら。

 今はそんな気は起こらない。うれしいことはうれしいが、それでも落ち着いている。少し前の自分なら、もっと大喜びしていたはずだ。

 彼の気持ちが変化したのは、店を持つことより、もっとおもしろくやりがいのある仕事を見つけたからだった。

 今ずっと手がけている仕事――運送業である。

 開始以来、順調に規模を拡大してきた運送屋だったが、この一月ぐらいで、さらに劇的な変化があった。

 王都との取引が本格的に始まったのである。

 きっかけはこれもレンだった。彼が王都に行った際、王都警備隊の百人隊長たちと話をつけて、荷物を受け入れるための商会を作ることになった。それと同時にレンは王都の犯罪ギルドとも話をつけて、そことのいわば裏ルートでの取引も始まった。

 当初は裏ルートの方が先行した。各地の犯罪ギルドも取引に参加したいと言い出し、取引量は増大した。

 それだけでもマルコ一人では手に余るほどだったのが、先日、王都の方で荷物の受け入れ商会がついに発足した。

 通称、出入組――適当に付けた仮の名前だったが、これがそのまま正式名称になっていく――は、王都の中と外を往復して荷物を運ぶ商会だ。王都に出入りするのが仕事なので、とりあえず出入組と名付けられた。

 ダークエルフたちは王都郊外にある出入組の倉庫まで荷物を運ぶ。そこから先は出入組の人間が王都へ荷物を運び入れ、同時に王都から荷物を運び出して来てダークエルフたちに渡す、という手順だ。

 出入組の会長には、現役の王都警備隊の幹部が就任し、メンバーのほとんどが元王都警備隊の隊員だ。ケガや病気、あるいは年齢で引退した元隊員たちが再就職したのだ。事実上、王都警備隊の下部組織といってよかった。

 王都の門を警備しているのは王都警備隊なので、ダークエルフたちが王都へ入るのと比べて、出入りの手続きは大幅に簡略化されることになった。

 他にも出入組には大きな利点があった。商人たちへの宣伝効果である。

 王都警備隊が協力しているというのは、商人たちに信頼と安心を与えた。ダークエルフだけなら信頼できないが、王都警備隊も関わっているなら大丈夫だろう、というわけだ。

 出入組を作るという話が出た時点で、ジャガルの街の商人たちは、次々とマルコの元を訪れていた。王都はグラウデン王国最大の都市であり、金や物が最も集まる場所だ。そこと定期的で安定的な取引ができれば、莫大な利益が見込めるだろう。

 そして実際に商会が発足し、取引が始まったことで、それまで予定していた話が一気に進み出したのだ。

 マルコの元には連日、商人や犯罪ギルドの人間がつめかけていたが、それに加えて各地の貴族との面会も増えていた。

 最初は小数だったが、運送量が増え、街道を行き交うダークエルフの荷馬車も増えてきた。そのため、あちこちの貴族から、


「近頃、領内を通るダークエルフが増えているようだが何があった?」


 なんて声が上がり始めたのだ。

 兵士たちに止められる荷馬車も出てきたので、マルコは貴族との交渉にも乗り出していた。

 貴族相手の交渉はレン様にお願いしたいとも思うが……

 本来、貴族の相手は貴族がするものだ。だからレンが出て行くのが自然だし、レンにとっても悪い話ではないはずだ。

 商人もそうだが、貴族にも人脈は大切だ。これを機に各地の貴族と親交を結ぶことは、レンにとっても大きな利益になるはず――なのだがレンは乗り気になるどころか、それを嫌がっているようで、


「そういう話は、全部マルコさんの方でお願いします」


 と言って自分から動こうとはしなかった。

 面倒くさがっているようだったが、本当にそう思っているのか、何か裏があるのかはわからない。

 貴族と顔つなぎしておくのは、マルコにとっても損はないので、やれと言われればやるが、それで仕事がまた増えてしまった。

 忙しすぎて手が回らないが、マルコはその忙しさにやりがいも感じていた。

 そう、やりがいだ。マルコは今の仕事に大きなやりがいを感じている。自分の店を持つことが、小さいと思えるぐらいに。

 運送屋は規模を拡大し、もはや単なる商売という枠を越え、社会全体に影響を与えつつある。街と街との間を豊富な商品が行き交うようになり、これまでの商売の常識が崩れ始めているのだ。

 今はまだ小さな変化だが、運送業はこれからも大きくなる。それがどこまで大きくなり、社会をどんな風に変えていくのか、いや、自分が社会を変えていくのだ。それを考えると楽しみで仕方ない。普通の店をやることなど小さいと思えるぐらいに。

 ここジャガルにも明らかな変化があった。王都との取引が開始されると、人や物が集まり始め、街が活気づいてきたのだ。

 二ヶ月ぶりぐらいで街に戻ってきたレンも気付いたようで、数日前に話をしたときには、その話題も出た。


「なんだか街が活気づいてる気がするんですけど、何かあったんですか?」


 マルコが王都との取引が始まったことを説明すると、


「それはよかった。いよいよこれから本番ですね」


 とレンは喜んだのだが、驚いた様子は見せなかった。まるで当然のことを聞いたような感じで……

 思い返してみれば最初からそうだった。レンはダークエルフの運送屋をやると言い出した当初から、


「需要はあります。それを掘り起こせば、取引量は必ず増えます」


 と言い続けていた。まるで成功するのを確信していたようだったが、実際にその通りになった。今も需要は増え続け、運送業の規模はどんどん拡大している。

 現状もレン様の予想通りで、それどころか通過点でしかないのか? だとしたらあの方はどこまで予想して……?

 考えてもわからないが、まだまだ先を見据えているのは間違いない。

 王都との取引が本格的に始まったばかりだというのに、レンはさらにその先の話を提示してきたのだから。


「ところでマルコさん。南のバドス王国まで運送路を広げる予定はありますか?」

先週は日曜日も用事で、また更新できずすみません。

そしてまた長くなってしまったんで分けました。

下も、今日中には上げられると思います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] とても面白いけど幼女趣味が過ぎるというか。 まあ作者が幼女好きなのだろうがw
[一言] レン、レン様が入り混じっているのは見難いです
[気になる点] あれ?竜は? [一言] 中継点となる町に信用できる相手が居ないとキツイよなあ 距離的に王都辺りから国境までに最低1個は中継点必要だし 双方の国境の町や向こうの都市にも信用出来る相手が居…
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