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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第五章 南海の風
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第190話 消火活動

「って、のんびりしてる場合じゃないよね!」


 ガー太に抱きついていたレンが、ハッと我に返った。

 サーペントを倒して気が抜けたようになっていたが、まだ気を抜くには早すぎる。

 なにしろ周囲は大火事なのだ。

 今いるのは大きい通りの真ん中で、直接火に焼かれる心配はなさそうだが、それでも結構暑い。さっきまでは戦いに夢中で気にならなかったが、汗もダラダラ流れているし、このままだと脱水症状になりそうだ。

 とにかく早くここから離れた方がいいだろう。そして人を見つけてサーペントが死んだことを伝え、消火活動に入ってもらわねば。


「ガー太、歩ける?」


「ガー」


「じゃあ行こう」


 ガー太と並んで歩き出そうとしたレンだったが、


「ガー」


 ちょっと待て、といった感じでガー太に呼び止められた。


「なに?」


「ガー」


「乗れって、大丈夫なの?」


「ガー」


 ガー太は足をケガしていた。だから乗ったら負担になるだろうと思ったのだが……


「もしかして僕が乗った方が楽とか?」


 レンがガー太に乗れば、互いの身体能力が向上する。それによってガー太の回復力も上がるのかもしれない。


「ガー」


 どうやらそうらしい。

 というわけでガー太にまたがったレンだったが、いつもと感覚が違った。

 いつもなら感覚が研ぎ澄まされ、体の中から力がわき上がってくるように感じるのに、今は逆、なんだか力が吸い取られているような感じがする。

 この感覚には覚えがあった。

 以前、ガー太の大怪我が一晩で治ったことがあった。

 魔獣に襲われたレンをかばって、ガー太は大怪我をしたのだが、そのケガが一晩で回復したのだ。代わりに一緒にいたレンが疲労困憊した。多分、レンの体力を吸い取ることで、ガー太は傷を治したのだと思っている。

 その時と同じだ。ガー太の足のケガを治すため、レンの体力が使われているのだろう。

 自分の体力を使ってガー太の足が治るなら、何の問題もない。どんどん使ってくれと思いながら歩き始めたところで、


「そこのお前、何者だ!?」


 いきなり呼び止められた。

 サーペントの死体の向こうから、数人の男が現れる。いずれも鎧を着た兵士だ。

 いつもなら気配に気付いていたはずだが、ガー太のことが気になっていたので、全く気付かなかった。


「あ、どうも」


 軽く頭を下げて挨拶する。

 多分、この兵士たちはサーペントの様子を偵察に来たのだろう。こちらから探す手間が省けてちょうどよかった。


「僕はレン・オーバンスというんですが……」


 一応、名乗ってみる。向こうがこちらを知っているなら、話が早いのだが。


「レン・オーバンス……?」


 兵士たちのリーダーらしき男が、ちょっと考え込み、


「もしかして、グラウデン王国のオーバンス伯爵家の?」


「そうです、そうです!」


 どうやらこちらのことを知っているようだ。

 普段はあまり自分から貴族です、と名乗ったりはしないのだが、こういう非常時には貴族の肩書きはありがたい。それで話が通りやすくなるのだから。


「失礼致しましたオーバンス様。私はベルダースと申します。ロレンツ公爵より、サーペント迎撃の指揮を任されております」


 露骨にこちらを警戒していた男が、態度を改め一礼する。他の兵士たちも同じだ。ただ、完全に警戒を解いたわけではなさそうだが。

 サーペント迎撃の指揮を任されているなら、それなりのお偉いさんなのだろう。指揮官がこんな最前線に出てきていいのか、とは思ったが、それなら話が早くて助かる。


「見ての通り、サーペントは焼け死にました。ですから早く消火活動をお願いしたいんですが」


「わかっております。すでに他の兵士たちも呼びに行かせました。逃げ出した住民たちにも協力してもらい、すぐに消火に入ります」


 向こうもサーペントが死んだと気付いた時点で、目的を消火活動に切り替えたようだ。火事を消すのも簡単ではないだろうが、サーペント相手に戦うことを思えば、何とでもなりそうな気がする。

 ガー太もケガしているし、後は彼らに任せようと思った。


「じゃあ、僕らはこれで」


「あ、お待ち下さいオーバンス様。いくつかお聞きしたいことがあるのですが」


 さっさと立ち去ろうとしたレンを、ベルダースが引き留めた。


「何ですか?」


「このサーペントを倒したのはオーバンス様でしょうか?」


 ちょっと思い返してみる。

 最後のガー太の蹴り、あの一撃がサーペントに大ダメージを与えたのは間違いないと思う。打撃には強いはずの魔獣だが、なぜかガー太の、というかガーガーの蹴りは魔獣に対して効果的だ。

 とはいえ、それだけで倒せたとも思えない。レンたちと戦う前から炎に焼かれ、大きなダメージを受けていたようだし、最後の最後も焼死だろう。

 よくいえば謙虚、悪くいえば引っ込み思案な日本人的感覚を持つレンなので、ここでも自分の手柄を言い立てなかった。


「いえ、戦いはしましたが、最後は僕らが倒したというより、火に焼かれて死んだと思います」


「ではオーバンス様が、サーペントを火の中へ引き寄せたのですな?」


「そうともいえます。もっとも、僕が引き寄せたというより、向こうが勝手に襲ってきたんですけど」


「オーバンス様は、確か後継者を決める大会に参加すると聞いておりましたが、今日は島へは渡らなかったのですか?」


「渡りましたよ」


「では、もしかしてその鳥に乗って、空を飛んで戻って来られた?」


 ベルダースは鳥に乗って飛んできた男が、サーペントを攻撃するのを見ていた。兵士たちは竜騎士だと騒いでいたが、あれは竜ではなく鳥だった。

 そして今、目の前にガーガーらしい鳥に乗った男がいる。両者を結びつけて考えるのが自然だった。ただしガーガーは飛べなかったはずだが……


「島からは船に乗って戻ってきました。それで港に近付いたところで飛び出したら、風に乗ってふわりと浮き上がって飛んできたんです」


 なんだそれは、とベルダースは思った。風に乗って浮き上がる? 冗談を言っているのか、本当のことを言っているのか、判断できなかった。


「その鳥はガーガーのようにも見えますが……」


 ベルダースも、もちろんガーガーは知っている。体は大きいがとても臆病な鳥だ。人を乗せたりしないし、ましてや空を飛んだりもしない。ところがレンが乗っているガーガーはちょっと違う。

 なるほど見た目はガーガーだが、とても臆病な鳥には見えない。態度がふてぶてしいというか、妙な貫禄さえ感じさせた。


「ガーガーですよ。ちょっと変わってますけど」


 実際はちょっとどころではないとレンも思っているが、なんでそうなったのか説明できないので、さらりと誤魔化すしかなかった。


「では、後のことはお任せします」


 そう言って、レンはさっさとその場から立ち去った。

 消火を手伝うべきかとも思ったのだが、ガー太は足をケガしていたし――今も片足を引きずるようにして歩いている――体力も限界だったので、ここは休ませてもらうことにした。


「よろしかったのですか?」


「仕方あるまい」


 部下の問いかけに、ベルダースはそう答えるしかなかった。

 部下が何を言いたいのかはわかる。レン・オーバンスの言っていることは、とうてい納得できるような話ではなかった。彼もこのままレン・オーバンスを行かせたくはない。

 だが相手は貴族である。

 これが単なる傭兵とかなら、身柄を拘束して徹底的に取り調べる、ぐらいはやっていただろうが、貴族相手にそんな無茶はできない。黙って見送るしかなかった。


「それに今の我々にはやるべきことがある。一刻も早く火を消すのだ」


 レン・オーバンスのことは気になったが、話を聞くのは後でもできるし、ロレンツ公爵に報告して、そちらから聞いてもらうという手もある。

 それよりまずは、この火を消さねばならない。

 サーペントを倒すためだったとはいえ、火事で街は大きな被害を受けている。これ以上、被害を拡大させるわけにはいかない。

 幸い、強かった南風もだいぶ収まってきている。南海の風は気まぐれなので、また風が強くなるかもしれない。その前に火を消さなければ。

 そういえば、結局、島に渡った傭兵連中はどうなったのだろう。サーペントの襲来を受け、連中を呼び戻しに行かせたが、幸か不幸か連中が戻ってくる前にサーペントは倒せた。

 レン・オーバンスは戻ってきたが、他の連中は戻ってきていない。

 まあいい。それも後で考えればいいことだ。

 ベルダースは消火活動に集中することにした。

間が空いてしまってすみません。

週末に用事があったり、最初に書いたのがなんか気に入らなくて書き直したりしてました。

もう少しでこの章も終わりなのでがんばります。

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― 新着の感想 ―
[一言] レンさん剣忘れとるでー って思ったけど、ほんとのとこ剣はどこ行ったのかな?
[一言] こんだけガー太に乗ってるの見せてるんじゃ あそこでホウオウとか言った意味がねえw
[一言] 自分の手柄を遠慮するから誤解されるような気がする。 強欲で傲慢と思われてる貴族が遠慮するなんて裏があると思われるよなー。 ガー太が好きだからガー太がメインの話の時は面白く感じますわー。
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