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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第五章 南海の風
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第189話 ハーベン防衛戦7

この後、主人公の方に場面は戻るんですけど、長くなったので次話へ。

明日というか、寝てしまってすでに今日なんですけど、何とか今日中には上げる予定です。

 後継者の島での戦いは、決着を迎えようとしていた。


「うおおおおおおッ!」


 叫び声を上げたバルドが、渾身の力を込めた一撃を、超個体の右前足にたたき込む。

 ファイグスは狐のような姿をしていて足は細い。だがその超個体はサイズが違う。前足は丸太のように太く、剣で斬りつけた手応えも異常だった。

 硬い。生き物の足ではなく、まるで砂の詰まった袋に斬りつけたような感触。

 剣が止まりそうになるが、バルドは魔人の力を振り絞り、力任せに振り抜いた。

 彼の一撃は、超個体の右前足を、ひざ下あたりで大きく斬り裂いた。両断とはいかなかったが、皮一枚残したような状態だ。

 これでは超個体も普通に立っていられなかった。悲鳴を上げ、バランスを崩して巨体が倒れる。

 だが、バルドもまたその場でひざをついてしまう。

 力尽きたのではない。逆だ。内からあふれ出てくる魔人の力――破壊衝動を抑え込むために必死だった。

 ここが限界だ、と思った。これ以上魔人の力を使えば、暴走して理性をなくした魔獣となってしまう。

 超個体が右前足を使わず、他の三本の足で立ち上がる。すでにこちらも限界が近いのだろう。超回復の効果がにぶり、傷が塞がらなくなっている。右前足も切れた状態でつながらない。

 だがそれでも、まだバルドを殺すだけの力は十分残っていた。

 憎悪に燃える赤い目がバルドをにらみつけ、超個体は口を大きく開く。

 火を吐いて焼き殺すつもりか、それともかみついてくるか。

 それを見ながらなもバルドは動かない、いや動けない。

 だが彼は不敵に笑った。

 一人ならここで終わりだったかもしれない。だが今の彼には頼れる味方がいたからだ。


「たあっ!」


 叫び声とともに、小さな影が超個体に斬りかかる。

 おそらく超個体は今がバルドを殺す好機と見たのだろう。だがそれが致命的なスキとなってしまった。

 振り向いた超個体の顔に、飛びかかった小さな影――カエデが剣を振り下ろす。

 剣は脳天から眉間のあたりまで斬り裂いた。

 普通の生物なら即死間違いなしの一撃だったが、超個体はそれでも死ななかった。

 左前足を横に振って、空中にいたカエデを捉える。

 キンッ! という金属音が鳴った。

 頭を斬り裂いた剣は離していた。だがカエデは二刀流だ。左手に残ったもう一本で、相手の爪を受け止めた。

 衝撃で小さな体は殴り飛ばされたが、空中で姿勢を直し、足から着地する。そのままズザザザザっと、地面を数メートルほど滑ったがバランスは崩さなかった。

 一方、右前足を失った状態で、左前足を振った超個体は、当然バランスを崩して転倒する。

 超個体はまたも起き上がろうと足を動かすが、ブルブルと震えるだけで起き上がることができない。まだ生きてはいたが、もはや動くことができなかったのだ。


「早くとどめを!」


 あせったようにバルドが叫ぶ。

 何しろ相手は超個体だ。ぐずぐずしていれば、この状態からでも回復するかもしれない。

 だがカエデはその声が聞こえているのかいないのか、普通にスタスタ歩いて超個体に近付く。


「グルルルル……」


 頭に剣が突き刺さったまま、超個体はうなり声を上げてカエデをにらみつける。

 カエデは気にした様子もなく剣を振り上げ、無造作に超個体の顔へ振り下ろした。

 一撃だけでなく、二撃、三撃と続ける。

 血しぶきが上がり、彼女も返り血を浴びるが気にしない。

 それが何回繰り返されたのか。

 超個体の顔はズタズタに斬り裂かれ、いつしか完全に動きを止めていた。

 カエデは相手が死んだことを確認すると、最初に頭を斬り裂いた剣を引き抜き、二本の剣をさやに収めた。

 それから、まだ座り込んだままのバルドに歩み寄り、


「平気?」


 少しは気にかけているような、そうでもないような、微妙な口調で問いかけた。


「どうにか大丈夫だ」


 バルドは苦しそうに答えた。

 落ち着いてきている。だがまだは気は抜けない。

 今まで何度も限界が近いと感じたことはある。そのほとんどが訓練で自分を追い込んでのことだったが、実戦でヤバイなと感じたことも何度かある。

 だがここまで危ないと思ったことはなかった。本当に限界だ。

 魔人の力を使いすぎたのはもちろんだったが、加えて彼の精神状態も影響していた。

 これまでのバルドは、戦いの中でも常に冷静だった。彼にとって戦いは仕事であり、生きるための手段だった。自分から戦いを望んだことはない。

 だが今回は違った。

 戦うことが楽しかった。目の前のダークエルフの小娘に、ガーガーらしい鳥に乗った騎士――そういえば騎士の方は、いつの間にかいなくなっていた――二人と一緒に戦うことが楽しかった。もっと戦いたいと思ってしまった。

 闘争心は魔人の力と相性がいい。もっと戦いたいと魔人の力を欲すれば、容易に力は暴走してしまう。

 バルドの知る限り、同僚の魔人で暴走した者は二人。その内の一人はバルドが殺した。彼らも、もしかして自分から力を望んで暴走したのだろうか。

 うずくまったまま動かないバルドを、カエデはしばらく見下ろしていたが、興味をなくしたのか、何も言わずに立ち去った。


「化け物だな……」


 立ち去るカエデの後ろ姿を見ながら、バルドはぽつりとつぶやいた。

 自分はすでに限界だったが、向こうにはまだ余裕が感じられた。力の差を感じずにはいられない。


「大丈夫かバルド?」


 カエデが立ち去った後で、駆け寄ってきたのはバッテナムだった。


「どうにかな。そっちも片付いたのか?」


「ああ。お前たちが超個体を抑え込んでくれたからな」


 バルドたちが超個体と戦っている間に、バッテナムや他の傭兵たちは、普通のファイグスの群れを相手に戦っていた。

 超個体さえいなければ、ファイグスはそこまで恐れる相手ではない。多少の犠牲は出たが、ファイグスの群れを全滅させていた。


「そうか。だがここからが本番だな」


 ファイグスを倒して一件落着といきたいが、彼らがここに来た目的は魔獣退治ではない。それは前哨戦で、本番は後継者の剣を巡る争奪戦だ。


「それなんだがな、戦いはこれで終わりかもしれん」


「どういうことだ?」


 と聞いたバルドは、自分でとある可能性に気付いた。


「まさか俺たちが戦っている間に、誰かが剣を持ち帰ったのか?」


 漁夫の利で剣を奪われたのかと思ったのだが、


「そうじゃない。さっき俺のところに、あの変な鳥に乗った騎士がやってきて――」


 バッテナムはレンと交わした会話を簡単に説明した。

 突如現れた巨大海魔のせいで、シーベルの剣が行方不明になってしまった、と。


「その話を信じるのか?」


「向こうはオーバンス家の名にかけて、と言ったんだ。あれほどの戦いを見せた男が、そんなウソを言うとは思えない」


 と言いつつバッテナムは話を続ける。


「もちろん相手の言葉を鵜呑みにはしない。これから剣が収められていた祠の様子を確認しにいく。だが本当に剣がなくなったのなら、これ以上の戦いは無意味だ。他の傭兵連中にも事情は話した。確認が取れるまでは一時休戦だ」


「そういえば、そのレン・オーバンスはどこへ行ったんだ? 姿が見えないようだが……」


 相手はガーガーみたいな鳥に乗っていた。いるなら目立つはずだが、どこにもいない。


「例の巨大な海魔がハーベンの街へ向かったらしく、レン・オーバンスはそれを追って街へ戻ったようだ」


「それで途中からいなくなったのか」


「ああ。あの鳥に乗ったまま海に飛び込んだよ」


「泳いで戻ったのか!?」


 どこまでとんでもない男なんだと思ったが、


「途中までな。沖に船がいただろう? あの船まで泳いで、そこから船に乗って戻ったようだ」


「それでも十分とんでもないな」


「とんでもないといえば、お前と一緒に戦っていた奴は一体何者だ? 見たところダークエルフの子供のようだが、俺からは魔人のお前と互角の動きをしていたように見えたぞ」


「互角じゃない。向こうの方が俺より上だ」


「お前より上?」


 バッテナムは難しい顔で考え込んだ。彼はバルドの実力を知っていた。そのバルドより上というのは、ちょっと信じがたい。

 そんな彼の思いを、バルドは表情から察したのか、


「ウソじゃない。俺はこうやって動けなくなったのに、向こうはピンピンしてたんだからな」


「それは魔人としての限界だろう? そうなる前に倒せば――」


「そう簡単に倒せるとは思えん」


「だとするとマズいな。もしレン・オーバンスの話がウソで、剣を巡って連中と戦いになったら……」


「数で押し切るしかない。周りを囲んで、犠牲覚悟でかかれば勝ち目はあるだろう」


 とは言ったものの、バルドはそう上手くはいかないだろうと思った。訓練された兵士たちならともかく、今バッテナムが率いているのは傭兵部隊。我が身かわいさの傭兵が、あのダークエルフ相手に逃げ出さずに戦えるのか、非常にあやしい。


「主が主なら、部下も部下ということか」


「あのダークエルフは、やっぱりレン・オーバンスの部下なのか?」


「はっきり聞いてはいないが、そうとしか考えられないだろう。それがどうかしたのか?」


「いや、納得しただけだ。あんな化け物を雇っているんだ。雇い主も普通ではないだろうと」


 我が身に置き換えてもそうだ。普通の貴族は魔人を恐れ、忌避するだけだが、バチニアの女帝と呼ばれるベリンダは、そんな魔人を積極的に登用して活用している。これは普通の貴族にできることではない。

 あのダークエルフの小娘も同じだ。普通の貴族なら、その力を恐れて排除しようとするはずだ。

 先程の戦いで、彼らは見事な連携を見せた。両者の間に信頼関係がなければ、あそこまでの動きはできない。あのダークエルフをそこまで使いこなしているのだから、レン・オーバンスも普通の貴族ではないのだろう、と思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] カエデは一目でダークエルフと分かる見た目だったっけ? 白かったような?
[一言] >「とんでもないといえば、お前と一緒に戦っていた奴は一体何者だ? 見たところダークエルフの子供のようだが、 カエデはアルビノなので、見た目でダークエルフとわかるんでしょうか?前にエルフと間…
[一言] 転生者なんて「普通」の貴族には居ないわなあ
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