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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第五章 南海の風
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第186話 ハーベン防衛戦4

 ハーベンの街が見えてきたところで、レンは再びガー太にまたがった。

 五感が研ぎ澄まされ、視界もクリアになる。

 街の様子もどうにか見えた。すでにサーペントは港に上陸し、戦いが起こっているようだ。

 サーペントと防衛軍、どちらが優勢なのかまではわからないが、サーペントは活発に動き回っているようだ。

 防衛軍はそれを必死に押しとどめている、といったところかな?

 すでに街が壊滅状態とか、そういう最悪の状況ではなさそうなので、ひとまず安心する。

 だがサーペントは健在だから、あれをどうにかしないといけないのは変わらない。

 防衛軍に協力してサーペントと戦う。もし勝てそうにないなら……その時はもう逃げるしかないな、と方針を決めた。

 あの巨大な化け物相手にどこまでやれるかわからないが、やってみるしかない。


「オーバンス様、どうやらサーペントは、すでにハーベンの街に上陸しているようです」


 船長が報告しに来てくれた。レンが見えているとは思ってもいないようだ。

 この世界では望遠鏡などはまだ発明されておらず、遠くを見るのは個人の視力に頼るしかない。目のいい見張りでもかろうじて見える距離なので、レンに見えていないと思っても仕方ない。

 レンも一々説明するが面倒なので、見えていますよとは言わず、お礼を言ってから別のことを訊ねた。


「この船はどうするんですか?」


「どこかに着岸して上陸、防衛軍の援護に回ります」


「船から攻撃するんじゃないんですか?」


「あんなでかい魔獣相手に弓を射ても、効果はありません。それに海上にいたら、船ごと奴に沈められる危険があります」


「なるほど」


 サーペントがその実力を発揮するのは、やはり海にいるときだろう。だったら船から下りて陸で戦うのは、その通りだと思った。

 レンも彼らと一緒に上陸してもよかったのだが、もっと手っ取り早い方法を思い付いた。

 顔を上げて、上空の様子を見る。

 相変わらず強い南風が吹いていた。風はさらに勢いを増しているようだ。風をはらんだ帆はパンパンに張っており、マストはきしみを上げている。これ以上風が強くなれば、マストが折れるかもしれない。

 この強い南風なら、できるかもしれない。


「ガー太?」


「ガー」


 以心伝心、レンの言いたいことは伝わったようで、任せろとばかりにガー太が返事をした。これでレンの心も決まった。


「船長さん、船を着けるのはサーペントから少し離れた場所ですよね?」


「そうですな。近付きすぎると危険なので」


「だったらその前に、一度ギリギリまでサーペントに近付いてもらえませんか?」


「何をする気ですか?」


「僕らは一足先に上陸しようと思います」


 レンが思い付いたことを説明すると、


「いや、そんな無茶な……」


 と船長は渋ったが、そこは頼み込んで押し切った。レンが貴族ということもあり、船長も承諾するしかなかったのだろう、


「わかりました。ただし、どこまで近付くかは私が判断します」


 と嫌々ながら承諾してくれた。

 そんなやり取りをしている間にも船は進み、街が近付いてきた。


「帆を畳め!」


 船長の命令で、またも船員がマストをよじのぼる。

 このままの勢いで進むと、船は止まることができずに港に突っ込んでしまう。だから帆を畳み、櫂で進むのだ。

 風の推進力がなくなると、船のスピードはがくんと落ちたが、港はもう目前だ。

 陸に上がったサーペントが、暴れ回っているのもよく見える。ここから見る限り、防衛軍は有効な手を打てていないようだ。


「このあたりが限界です。もう少し行ったら舵を切ります」


 船長の言葉に、レンは「わかりました」と答える。

 自分が行ってどこまで助けになれるかわからないが、とにかく行くしかない。


「すみませーん! ちょっとどいて下さい」


 ガー太に乗って船の後部に立ったレンが、声を上げて頼み込む。


「お前ら、そこを空けろ!」


 船長も命じ、船員たちが横へどいた。それで今立っている後部から、船首まで一本の道ができた。


「よし、行こうガー太!」


「ガー!」


 と元気よく鳴いたガー太が走り出す。

 船が着岸してから下船するのではなく、直接、船から飛び出す――文字通りガー太に乗って飛び出すというのが、レンの思い付いたやり方だった。

 ガー太は飛べないが立派な翼を持っている。これで強風に乗れば、ある程度は飛べるのではないかと思ったのだ。

 もっとも近付いたといっても岸までまだ百メートル以上あるので、これを一気に飛べるとは思っていない。ある程度の距離を稼げれば十分だ。途中で着水して、後は泳いでいけばいい。

 全然飛べず、いきなり海にボチャンという可能性もあるが、その時も泳ぐ距離が長くなるだけだ。

 全力疾走に移ったガー太の下で、船の甲板がきしみを上げた。

 踏み抜かないか心配になったが、どうにか甲板は耐えてくれた。

 船長以下、目を丸くしている船員たちに見つめられて、船首まで一気に駆け上がったガー太は、


「クエーッ!」


 と鳴き声を上げ、翼を広げて船から飛び出した。

 その時だった。これまでと比べても、ひときわ強い風が吹いたのは。

 うなりを上げて吹いてきた強風に押され、船長たちも倒れそうになったほどだ。

 その風を受けて、ガー太の体がふわりと浮き上がった。


「おおっ!?」


「ガー!?」


 レンもガー太もこれには驚いた。

 翼を広げたガー太が、風に乗って一気に十メートル以上も上昇する。


「すごいぞガー太、空飛んでるよ!?」


「ガー!」


 興奮してレンが叫ぶと、ガー太も興奮したように鳴いた。

 ガー太に乗って、風を切って走るのはとても気持ちよかったが、こうしてガー太に乗って空を飛ぶというのは別格だった。

 空へと舞い上がったガー太は、そのまま飛翔する。

 とても届かないと思っていた陸地が、もう目の前に迫っていた。




 最初にサーペントの接近に気付いた見張り員のサムランは、見張り台の上からずっと戦いの様子を眺めていた。

 サーペントの接近を警告するため、鐘を叩いていたサムランだったが、気が付けばサーペントは目前まで迫っており、見張り台から逃げ遅れてしまった。

 ここまで来たら逃げた方が危ないと思い、見張り台に身を潜めたのだが、それは正解だった。

 サーペントは見張り台に興味を示すこともなく上陸し、駆けつけてきた防衛軍と戦い始めた。

 あの巨大な海魔相手だ。お城の兵士たちでも簡単には勝てないだろうと思っていたが、現状、勝てないどころか手も足も出ない状況だ。

 見張り台の上から見ていると、戦いの様子がよくわかった。防衛軍は一方的にやられている。

 このままだと本当にハーベンの街が壊滅するかもしれない、と心配し始めたサムランだったが、ふと、海の方から耳慣れぬ鳴き声が聞こえた気がした。

 何だろうと思って海の方を向いたサムランは、それを発見した。

 沖からは一隻の軍船がこちらに向かって来ていたが、サムランの目には入らなかった。もっと異常なものを目撃したからだ。

 大きな鳥のようなものが空を飛んでいた。それが単なる鳥なら、サムランは警戒しただろう。

 この世界には大きな鳥もいるが、巨大な鳥の魔獣も存在するのだ。サーペントだけで手一杯なのに、そこへ鳥の魔獣まで襲来したらとんでもないことになる。

 だがそれは鳥の魔獣でなかった。しかし普通の鳥でもなかった。なぜなら人が乗っていたからだ。

 見間違いではない。確かに人が乗っている。

 この世界の人間は、いまだ空に手が届いていない。伝説やおとぎ話ならともかく、実際に人が鳥に乗って空を飛ぶなど不可能だ。

 しかしたった一つだけ例外があった。自由に空を駆ける唯一無二の存在――竜騎士。

 サーペントから街を救うため、竜騎士が助けに来てくれた!?

 もしサムランが冷静だったなら、ちょっと待てと考えたかもしれない。いやいや、こんな所にいきなり竜騎士が現れるわけないだろう、と。

 だがこの時の彼は冷静ではなかった。巨大なサーペントに街が襲われているのだ。冷静でいられるわけがない。

 さらにサムランは本物の竜騎士を見たこともなかった。だから一度あれが竜騎士だと思ってしまうと、もう竜騎士にしか見えなくなってしまった。

 サムランは見張り台の鐘を連打した。先程、サーペントの襲来を警告したときと同じか、それ以上の強さで。

 そして大声で叫ぶ。


「竜騎士だ! 竜騎士が助けに来てくれたぞーッ!」


 突然鳴り響いた鐘の音に、多くの兵士たちは何事かとそちらを向いた。サーペントでさえ音が気になったのか、動きを止めて見張り台の方を向いた。

 そんな中、サムランの叫びを聞いた兵士はわずかだったが、彼らは空を見上げ、そしてサムランと同じようにそれを見つけた。

 何者かが、空を飛んでこちらに向かってくる。

 サムランの言葉を聞いていた彼らにも、それは竜騎士としか見えなかった。空を飛ぶ者など、竜騎士以外には考えられないのだから。


「竜騎士だ!」


 誰かが空を指差し叫ぶと、それは瞬く間に軍勢全体に伝播した。


「竜騎士だ!」


「竜騎士が来てくれたぞ!」


「これでハーベンは救われた!」


 兵士たちが口々に喜びの声を上げ、中には感極まって泣き出す者すらいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの空中戦。人鳥一体の戦闘楽しみですw
[一言] ぬめるなら粉絡めさせて滑りを悪くするのは常套手段よ? ぬめりにくっ付かなければ逆効果だが 砂浜から来てたら砂だらけになってぬめり少な目になったんかなあ?
[一言] 186話目にしてやっと竜騎士登場。 次回楽しみにしてます。
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