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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第五章 南海の風
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第168話 大会開始

 大会当日の早朝。東の空が明るくなり始めた頃、ハーベンの街から少し離れた岬の下に、多くの人々が集まっていた。

 後継者決定大会の参加者たちだ。

 参加者のほとんどが傭兵なので、装備はてんでバラバラ、集団としての統一感はない。

 荒くれ者も多いため、現場は荒々しい空気に満ちていたが、周囲を取り囲むように公国の兵士が配置されているため、騒ぎは起こっていない。

 岬の下には、島まで続く洞窟が口を開けている。

 あの洞窟を抜け、島に上陸するまでは戦闘禁止が厳命されている。それを破れば一発で失格どころか、処罰の対象となる。

 参加者の前には臨時のやぐらが組まれ、ロレンツ公爵と、後継者候補である彼の子供たちが並んで立っていた。


「さて諸君! いよいよ大会当日となった」


 一歩前に出たロレンツ公爵が、参加者を見下ろしながら挨拶する。

 レンやダークエルフたちは参加者の後ろの方で、その様子を見ていた。

 壇上にはサーリアもいた。彼女の方を見ていると、目が合った気がしたので軽く手を振ってみる。サーリアもこちらに気付いたようで、軽く手を振り返してくれた。ちょっとうれしい。

 ふと彼女の横を見ると、隣に立つ女性が敵意のこもった目で、こちらをにらんでいる気がした。

 気のせい……じゃないよな?

 遠いので断言できないが、あれはサーリアの姉の……なんといったか名前を忘れてしまったが、長女だったと思う。

 最初にサーリアと会ったときに、話すのを断ってしまった女性だ。

 まさか、あの時のことをまだ怒っているのだろうか?

 だとしたら、ちょっと心が狭すぎないかとレンは思った。

 彼は知らなかったのだ。

 サーリアの流したうわさのせいで、長女のシンシアは、


「レンにふられた」


「サーリアに負けた」


 などと笑い者にされ、大恥をかいていたのだ。

 もしレンがこれを知っていれば、


「誤解、いや冤罪だ!」


 と叫んでいただろうが、レンは事情を知らず、シンシアの方はそんな彼への憎悪を一方的にたぎらせていたのである。


「事ここに至っては言葉はいらぬ。皆、存分に戦うといい」


 ロレンツの公爵は短く終わり、いよいよ大会開始となった。

 とはいえ、始まりは静かなものだった。

 参加者たちは一列になって、岬の下の洞窟へと進んでいく。本当の行動開始は島に着いてからだ。

 参加者は千人近くいて、監視のための兵士たちも一緒についてくるから、列は中々進まなかった。

 洞窟に入る順序は申し込み順ということで、最終日の申し込みとなったレンたちは最後尾あたりの出発となった。


「こいつらを倒せばいいの?」


 周囲の連中を見回したカエデが、待ちきれないといった感じの笑顔で聞いてくる。


「ダメ。洞窟を抜けるまで戦うのは禁止。っていうか、洞窟を抜けてもこっちから戦いに行くのは禁止って言ったよね?」


「えー……」


 カエデは不満そうに応えるが、ここはもう一度、しっかり言い聞かせておく。

 今回の目的は敵に勝つことではなく、剣を手に入れて戻ってくることなのだ。一度も戦わずにそれを成し遂げるとか、そこまで都合のいいことは考えていないが、戦うのは少ない方がいい。カエデには自重してもらわねば。

 いよいよ列が動き出し、レンも洞窟へと歩き出す。

 彼と一緒に行くのは、カエデとシャドウズの三人だ。

 この場にガー太はいない。ここへガー太を連れてきていたら、思いっきり目立っていただろう。それは避けたかった。とはいえ大会で勝つにはガー太の力が必要だ。

 というわけでレンは秘策を用意した。

 昨日、森へ行ったときに、ガー太にはその秘策を伝えてあった。


「というわけで、ガー太は島まで泳いで来てくれる?」


「ガ!?」


 マジで!? といった感じでガー太が鳴く。

 これはルールの盲点を突いた策だった。

 参加者は全員、洞窟を通って島まで行かねばならない。直接島まで船で乗り付けるのは禁止だった。

 だが乗り物についてのルールはなかった。

 考えてみれば当然で、馬に乗って洞窟を抜けるのは無理だろう。だからそこまでルールを決めなかったに違いない。

 当然、ガーガーが自分で島に渡ってくるのは禁止、なんてルールもないため、ガー太とは現地集合しようと思ったのだ。


「ガー太は泳ぎも得意だろ? だからいけるって」


「ガー!」


「そう言わずにさあ。頼むよ」


「ガー」


「ありがとう。じゃあ当日は現地集合ってことで」


 こうして話はまとまったのである。

 一応、事前に確認はしておいた。このあたりの海は穏やかで、潮の流れも速くない。

 後継者の島は立ち入り禁止なので、実際に泳いで渡った者はいないが、泳ぎの達者な者なら難なく渡れるだろう、ということだった。

 だったらガー太も余裕だろう。

 唯一、問題があるとすれば、海魔や魔魚と呼ばれる水棲魔獣だが、ガー太は魔獣の気配に敏感なので、上手く回避して泳いできてくれるはずだ。

 多分、今頃はどこかで島に向かって泳いでくれているはずだ。


「気をつけろ。中は暗いし、足下は滑るぞ」


 入り口に立つ兵士に注意を受け、レンは洞窟へと入った。

 言われた通り中は薄暗かったが、思った以上に明るい。

 洞窟の壁や天井が、ぼんやりと光っているからだった。


「これは……」


 それは幻想的な風景だった。洞窟全体が、美しくイルミネーションされているかのようだ。

 カエデも興味深そうに周囲を見ている。


「希光晶ですね」


 ダークエルフのジョルスが言う。彼はこの光の正体を知っていたようで、説明してくれる。


「壁の光っている部分を見て下さい。透明の石が、薄く表面を覆っているはずです」


 近寄ってみると、彼の言った通り、壁の表面が薄い膜のような物に覆われていた。

 指先で触れてみると硬い。岩の表面が、ガラスでコーティングされているような感じだ。

 このガラスか水晶のような透明な鉱石が希光晶というのだろう。確かに透明なそれが、淡い光を放っている。


「洞窟などの壁や天井には、たまにこの希光晶が出てくるそうです。これがあるとたいまつなどがいらないので、とても便利です」


 どういう仕組みで光っているんだろうとレンは思った。

 こんな鉱物は、元の世界にはなかったはずだ。


「これ、体に害はないんだよね?」


「そうですね……そういう話は聞いたことがありません」


「これって明かりとして使えますよね?」


 この世界には電気がないので、夜は暗い。

 明かりを灯すなら、基本的に何かを燃やすしかないが、それには手間がかかるし、火事の危険もある。

 だがこの希光晶を明かりとして使えば、そういう問題も一気に解決――と思ったのだが、


「それは無理です。希光晶を洞窟から外に出すと、あっという間に光らなくなるそうです。一晩おけば、茶色くにごってボロボロに崩れてしまうとか」


「外では使えないんですか……」


 ガッカリだが、納得もした。

 もしこれが外でも使えるなら、今頃、世界中に普及しているはずだ。しかしレンは今までその存在すら知らなかった。

 きっとこの世界の人々が色々試し、それでも使えなかったのだろう。

 希光晶には大いに興味をそそられたが、今は先に進まねばならない。いつかまた、時間のあるときに調べてみようと思いつつ、レンは先へ進んだ。

 島へと続く洞窟は、思っていたよりも広かった。

 通り道は、どこも人がすれ違うことができるぐらいの幅と高さがあった。おそらく通りやすいように、人の手が加えられているのだろう。

 足下には木の板が敷かれ、その上を進んでいけばいいので、道に迷うこともない。

 さらに要所要所に見張りの兵士が立っていて、迷子になったり、もめ事を起こす者が出てこないように目を光らせていた。

 ここが海の底だからか、川のように水が流れている場所があったり、それ以外の所でも、上からポタポタと水が落ちてきたり、とにかく湿っぽい洞窟だった。温度が低いので不快ではなかったが。

 レンや他の参加者たちは、濡れた足下に気をつけながら進んでいく。

 入り口からしばらくは下り坂が続いたが、その後は平坦な道だった。

 地下なので時間の感覚がよくわからなかったが、二時間か三時間ぐらいは歩いたと思う。やがて道が上り坂となった。

 角度が急な場所では、備え付けられたロープやチェーンを使って上がっていくと、道の先に明るい光が見えてきた。

 いよいよ後継者の島に到着したのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無茶振り過ぎるw いまごろ足バタバタして泳いできてるんだろうなーw 意外と「お!イケるイケる!」と思ってるかもしれんw
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