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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第五章 南海の風
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第161話 後継者の島

「後継者決定大会って、どうやって後継者を決めるつもりなんですか?」


 貴族の代替わりは、当主の死によって行われ、長男が跡を継ぐというのが普通だった。

 だが数は少ないながら、当主が長男以外を跡継ぎに指名することもあった。長男が病弱とか、母親の身分が低いとか、そういった理由で。

 だが後継者を決める大会を開くというのは異例のことだった。

 この世界の貴族の事情に詳しくないレンでも、それが異例だとわかるぐらいに。


「そうだな……。それを説明するためには、まずは当家のしきたりについて語らねばならない。君も貴族ならわかるだろうが、貴族の家には様々なしきたりがあったりする」


 それはレンにも理解できた。古い家には変わったしきたりや風習なんかがあってもおかしくない。この世界の貴族に限らず、きっと日本の旧家とかにも、そういうものがあるだろう。


「当家では新しい当主になる者は、ある儀式を行わねばならないと決まっている」


 ロレンツ公爵は窓辺に行って、外を指差した。


「あそこに小さな島が見えるだろう?」


 レンも公爵の横に行って、窓から外を見る。この城は高台に建っているので、窓からは眼下の街が一望でき、その先の海もよく見えた。

 公爵の指差す方を見ると、沖合に小さな島が見えた。きっとあの島のことを言っているのだろう。


「グラウデン王国から来た君には、なんてことない小島に見えるだろうが、当家にとっては特別な島でね。後継者の島、と呼ばれている。どうしてそう呼ばれるようになったのか、ちゃんと話をすると長くなるので、手短に説明しよう。名前の由来は、当家の二代目までさかのぼるのだが――」


 ロレンツ公爵の話をまとめると、次のようになる。

 今から二百年以上前、ロレンツ公爵家の二代目当主となったシーベルは、父親の急死によって、十三才の若さで家督を継いだ。

 ちなみに二百年前には、まだバドス王国も存在しておらず、ロレンツ公国もなかったので、ロレンツ公爵家も別の名前で呼ばれていたそうだが、面倒なのでロレンツ公爵家と考えておいてくれ、というのが公爵の説明だ。

 で、家督を継いだシーベルだったが、若すぎる当主の誕生に、家中の意見は割れた。当然のごとくお家騒動が起こったのである。

 当主の座を狙い、シーベルを殺そうとしたのは先代当主の弟、つまりシーベルの叔父だ。その叔父と先代当主の妻が手を組んだ。シーベルを生んだ母はすでに死んでおり、彼女は後妻でシーベルにとっては義理の母だった。

 絶体絶命のピンチに陥ったシーベルだったが、するどい機転と、忠臣たちの助けによって――この時助けてくれたメイドの少女との間に、ロマンスが生まれたりもしたそうだが、そのあたりも割愛された――とにかく彼は城から脱出して身を隠す。

 その後、追っ手から逃れるため、シーベルは岬にあった洞窟へと逃げ込んだ。


「あそこに海に突き出た崖が見えるだろう? あの下にその洞窟がある」


 彼の指差す方向を見ると、なるほど崖が見える。サスペンスドラマのラストに出てきそうな崖が。


「その洞窟が、海の下を通って後継者の島までつながっているのだ」


 洞窟に逃げ込んだシーベルは、海の下を通り抜けて後継者の島までたどり着く。

 そして、そこへタイミングよく外洋に出ていた公爵家の軍船が帰ってきた。

 彼らが反乱を起こした叔父の側につけば、今度こそシーベルの命運も尽きていただろうが、船長は正当な後継者であるシーベルに忠誠を誓う。

 軍船に乗り込んだシーベルは、彼らを率いて城を奇襲、反乱を起こした叔父を討ち取り、無事に家督を相続することができた――ということでロレンツ公爵は話を締めくくった。


「こうしてシーベルは無事に家督を継ぐことができた。家を興した初代も傑物だったが、二代目のシーベルも優秀な当主となった。今の当家があるのも、この二人のおかげといっても過言ではない。そのシーベルが、家督相続について一つの掟を残したのだ」


 ここからが本題だった。


「自分の苦労を忘れさせないためか、家督を継ぐ者は、あの洞窟を通って島まで渡り、そこで証を立てるべし、と定めたのだ。以来、当主となった者は、全員がその儀式を行ってきた。もちろん私もだ」


 別に難しい儀式ではない、とロレンツ公爵は言う。


「島には小さなほこらがあってね。そこにシーベルの剣が収められているのだが、その前で立派な当主になります、と誓いの言葉を述べるだけだ。だがしばらく前に問題が起こってね」


 異変に気付いたのは、後継者の島の近くを通った船乗りだった。

 島に魔獣がいるのを見た、と言うのである。

 特別な場所である島は、普段は人の立ち入りが禁じられている。最後に人が上陸したのは十年以上前、ロレンツ公爵が家督を継いだ時だ。それ以来、誰も島に入っていないので、いつの間にか魔獣が棲み着いていてもおかしくない――魔獣はどこにでも突然現れる――というわけで調査隊を送ると、確かに魔獣がいるのが確認された。

 本来なら、すぐにでも魔獣退治のために軍隊を送り込むところだ。

 ところがロレンツ公爵はとんでもないことを思い付いた。


「ちょうどいい。後継者の島に渡って魔獣を倒し、シーベルの剣を持ち帰った者を次の公爵家の跡取りにしよう。シーベルは苦難の末、あの島から戻って家督を継いだ。その故事に倣うのだ」


 なんてことを言い出したのだ。

 もちろん家臣たちは仰天し、大反対した。


「どこの馬の骨ともわからぬ者を、跡取りにするおつもりですか!?」


「公爵様には、立派なご子息がおられるではありませんか!」


 ロレンツ公爵には、五人の妻との間に男女合わせて十一人の子供がいた。


「そうか……では子供たちに競争させよう。自分で行っても、人を雇って取りに行かせても構わない。剣を持ち帰った子を跡取りとする」


 この時代、余程の理由がなければ長男が家督を継ぐのが常識である。だからこのロレンツ公爵の話もやはり常識外れだったのだが、誰でも跡取りにするという最初の話と比べればマシだ――と家臣たちは判断したようで、渋々ながらこれを受け入れた。

 これを聞いたレンは、昔どこかで聞いた交渉術の話を思い出した。

 最初にとても受け入れられないような提案をして、それが断られたら、条件をゆるくした二回目の提案を行う。相手側は、最初のよりはマシだとこれを受け入れやすくなる――みたいな話だった。

 本命は二回目の提案なのだが、最初にそれを持ち出しても断られる可能性が高いので、最初にもっと高くハードルを上げて、それを下げることで相手を錯覚させる、みたいな。

 今のロレンツ公爵の話を聞いていると、まさにそれが当てはまる気がした。


「それで後継者決定大会を開くことになった。一つ条件を付けてな。好きなだけ人を雇ってもいいが、この国の兵士たちを参加させるのは禁止だ。同士討ちを許すわけにはいかないからね。息子や娘たちは、おのおのが傭兵を雇ったりしてるから、街もずいぶん賑やかだろう?」


 賑やかどころではないと思うのだが……。

 しかし、これで街で事件に巻き込まれた理由がわかった。つまり自分も大会の参加者と勘違いされ、他の大会参加者に襲われたのだ。

 レンを襲った男たちは、事前のつぶし合いはお咎めなしとか言っていた。だったらライバルを減らそうと思うのは当たり前だし、それで街が騒ぎになるのも当たり前だろう。


「公爵はなぜそんな大会を開こうと思ったんですか?」


 騒ぎになるのはわかっていたはずなのに、どうしてそんなことをしたのか、疑問に思ったレンだったが、


「面白そうだからだ」


 言葉通り、ロレンツ公爵は楽しそうに笑って答えた。

 レンには面白いとは思えなかったが、彼にはそれが面白いらしい。住人たちにとっては迷惑な話だろうが、ここは他国だし、まあがんばって下さい――と言いたいところだったが、そうもいかない事情があった。


「では大会の優勝賞品というのは?」


「優勝者が後継者、というだけでは面白さが足りないと思ってね。他に話題になるような賞品は、と考えてあのエルフの女を用意したのだ。これはいい宣伝になったよ。大会の参加者だけでなく、エルフの女を一目見ようと見物客も多くやって来ているようだ」


「それを取り消してもらうことは……」


「今さら無理だな。さっきも言ったが、君が来るのがもう少し早ければ、あの女を返すこともできたのだが、ここまで来て賞品から外すことはできない」


 レンはさらわれたネリスを取り戻す方法を、二つ考えていた。

 一つは金で買い戻す。

 人身売買などやりたくないし、人さらいに金を渡したくもない。だが金で穏便に解決できるなら、それでもいいと思っていた。

 今のレンというか、ダークエルフたちには、かなりの資金力がある。人身売買の相場はわからないが、ダークエルフたちに頼んで、それなりの金を用意してもらい、ここまで持って来てもらっていた。

 だがロレンツ公爵相手に、買い戻すという手は使えそうにない。

 だったら二つ目の手段、強攻策で救出するしかないのだが……

 できるか、できないかでいえば、できるのではないかとレンは思っている。

 ネリスがこの城にいるのはわかっているから、シャドウズに潜入してもらい、彼女を救出する。簡単ではないが、不可能ではないだろう。

 だが問題はその後だ。

 ロレンツ公爵は、きっとメンツにかけてレンたちを捕まえようとするだろう。そんな中でこの国を脱出し、グラウデン王国まで無事に帰れるかといえば、非常に難しいと思う。

 だったらどうするか? 思い付いた三つ目の手段があるのだが、


「どうしてもあれを取り戻したいというなら、君も大会に参加してみてはどうかな? 見たところ中々の腕自慢のようだし、勝ったときの報酬にあの女をもらうということで、子供たちの誰かに売り込みにいけばいいだろう」


 それこそ、まさにレンが考えていた第三の手段だった。

先週は更新できずにすみません。

色々とトラブルが発生して、本当に時間がとれませんでした。

そっちは一段落したので、今週からは大丈夫、のはずです。

これがフラグじゃないことを祈ってますけど。

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