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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第五章 南海の風
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第153話 ダランの街へ

 砦の兵士たちは、ダークエルフたちにも敵意を見せたりせず、普通に砦に受け入れてくれた。

 山越えの人足にダークエルフが雇われることも多かったので、ここではそれが当たり前になっていた。

 ダークエルフたちにも部屋と食事が用意され、レンたちはここで一泊することになった。


「このガーガー……? はどうしましょうか?」


 兵士たちが困ったのはガー太の扱いについてだった。

 砦には馬小屋があったが、そこにガー太もつないでいいのかどうか。

 興味津々、といった目付きでガー太を見ている兵士たちも多い。


「どうする?」


「ガー」


 レンの問いに短く答えたガー太は、トコトコと砦の外へ出て行った。


「適当に砦の外で寝るみたいです」


「はあ……」


 それでいいのかと思う兵士たちだったが、それ以上は何もできず、見送るしかなかった。


「ささやかですが、歓迎の宴を開きたいと思うのですが」


 砦の隊長が、そんなことを申し出てきたが、


「すみません。ホッとして疲れが出てきたのか、ちょっと体調が……」


「それはいけませんな。では残念ですが、今夜はぐっすりとお休みになって下さい」


「ありがとうございます」


 実際は疲れもなく元気だったが、面倒なのでパスさせてもらった。

 日本でサラリーマンをやっていた頃から、飲み会とかは苦手なのである。

 ナタリアは出るそうなので、僕のことなんて気にせず、彼女と一緒にみんなで楽しんでくれればいいと思った。

 貴族のレンには個室があてがわれた。レンは隣国の貴族だったが、基本的にどこの国でも他国の貴族を自国の貴族と同じように扱う。

 爵位も共通のものとして扱われる。だから例えば自国の男爵よりも、他国の伯爵の方が上とされる。

 実際は個々の家の力が影響するので、必ずしもその通りとは行かないが、建前ではそうなっている。

 貴族たちにしてみれば、他国へ行っても自国と同じように丁重な扱いを受けるべきだと考える。だから他国から貴族がやってきた際も同じように丁重に扱う――そうやって自然に生まれた国際ルールのようなものだった。

 だからレンも伯爵家の息子としての扱いを受けた。

 世話役も付けましょうと言われたが、それは断った。見知らぬ人にあれこれやってもらうより、一人で全部やる方が気楽だ。

 普通の日本人なら、みんなそんなものだろう。生まれながらの貴族とは違うのだから。

 レンは部屋に案内され、カエデも一緒についてきた。

 貴族が自分の付き人とか、愛人とかと一緒に泊まるのは珍しくないので、案内した兵士も気にしない――はずなのだが、兵士は不思議そうな目でカエデを見ていた。

 ダークエルフを一緒に連れているのが珍しいのか、それともカエデの銀髪が珍しいのか、その両方か。

 レンも兵士の態度が少し気になったが、こちらから話しかけたりすることもなく、必要最低限のやり取りだけで終わった。

 部屋に入ってカエデと二人だけになったが、レンはすぐに休もうとはせず、


「ちょっとみんなの様子を見に行こうと思うんだけど、カエデも来る?」


「うん!」


 二人で部屋を出て、ダークエルフたちの部屋へ向かう。


「カエデはみんなと一緒でなくていいの?」


「レンと一緒の方がいい」


「そっか。それならいいけど」


 ダークエルフ同士の関係は、人間関係とはまるで違う。

 彼らにも好き嫌いはあるはずだが、それより序列が上に来る。

 人付き合いの苦手なレンにとっては、彼らのそんな関係がうらやましくもあった。好きとか嫌いとか、距離感とか、そういう人間関係に悩む必要がないのだから。

 一方、そういう彼らと一緒にいて、疎外感を覚えることもある。

 序列を持たない自分は、どうがんばってもダークエルフたちと本当の仲間にはなれないんだ、と。

 ただ、それが悪いことばかりとも思えない。

 最初から無理だとわかっているなら、がんばる必要もない。仕事上の付き合いのように、最初から割り切ってしまえるのは楽だった。

 でもカエデはどうなんだろうと思う。

 彼女は人間ではなくダークエルフだ。しかし赤い目と呼ばれる彼女は序列を持たない。彼女の思いは、他のダークエルフにはわからないだろうし、レンにもわからない。きっと彼女だけにしかわからない。

 自分も人間関係が苦手なので、カエデに何をしてあげればいいのか、何が彼女のためになるのか、そのあたりがよくわからないのだが……とにかく、彼女のためにできる限りのことはしてあげたいと思っていた。

 ダークエルフたちは、全員が一つの大部屋にまとめられていた。

 レンが部屋に入ると、中にいた全員が彼に注目した。


「レン様。何かありましたか?」


 みんなを代表する形でリゲルが聞いてきた。


「いや特にないけど、みんなの調子はどうかなって。特に二人とも大丈夫?」


 レンが気にしたのは、ダークエルフたちよりイールの少女二人だった。

 昨日まで山の上だったが、そこは平地と比べて涼しく、二人も元気そうだった。

 だが山を下りてくるとまた暑さが戻ってきた。

 だから二人の様子が気になって見に来たのだが、その二人は水を張ったたらいに足をつけて体を冷やしていた。


「私はまだまだ元気だぞ。お前の心配なんていらないからな」


 リリムが反抗的な態度で言ってくる。ただ最初の頃に比べて、少し丸くなった気がする。きつい言葉は変わらなくても、敵意がこもっていないというか。

 前にガー太に抱きついたことがあったが、あの頃ぐらいから、ちょっとずつ態度が変わってきたような。

 彼女の隣では、ミミがこくこくとうなずいている。こちらも気弱な態度は変わらないようだが、少しずつ慣れてきてくれているような――気がする。

 二人とも少し疲れているようだが、まだ大丈夫そうに見えた。


「領主様。私に何か問題があったでしょうか?」


 ロゼが真剣な表情で聞いてきた。

 レンはちょっと気になって様子を見に来ただけなのだが、彼女は自分にミスがあったのかと気にしたようだ。


「そんなことはないよ。ロゼはよくやってくれてると思う」


「ありがとうございます」


 二人の世話はずっとロゼに任せっきりだった。彼女は二人に気を配り、かいがいしく世話を焼いているようだ。二人がどうにか元気でいられるのも、きっとロゼのおかげだろう。


「やっと山を越えてバドス王国まで来たけど、人捜しはここからが本番だからね。まずはふもとのダランって街まで行って、そこで情報収集って考えてるんだけど、それでいいかな?」


「はい」


 ダークエルフたちがうなずく。


「それで街まで行ったら、現地のダークエルフたちと接触して、情報を集めてもらいたいんだけど」


「わかりました」


 シャドウズ三人のリーダーのジョルスが応える。

 情報集めは全てダークエルフ任せ、つまりこの先の方針は全てダークエルフ任せともいえる。

 ダークエルフはダークエルフで行動しつつ、レンも現地の人間に接触して、色々と情報収集した方がいいのだろうが、残念ながらレンはそういうのが苦手である。

 悪いとは思いつつ、ダークエルフたちにお任せしようと思った。


「ネリスはこの近くにいるんだな?」


「近くっていっても、バドス王国も広いからね。近付いてるのは確かだと思うけど」


「そうか。ミミ、あと少しでネリスに会えるぞ」


「うん」


 喜んでいる二人を見て、レンは微妙な気持ちになる。

 ここまで来ておいてなんだが、二人の母親探しが上手くいく保証はないのだ。

 さらに遠い場所へ連れて行かれた可能性もあるし、最悪、生きていない可能性だってあるのだ。小さな二人に、そんなことは言えなかったが。


「カエデは何をすればいい?」


 横にいたカエデが聞いてくる。やる気に満ちた目で、レンの顔を見上げながら。


「カエデは……しばらくは休憩かな」


「えー」


 不満そうに言う。


「きっとカエデにも色々やってもらうことが出てくると思うから、その時まで待っててね」


「わかった。じゃあ早くしてね」


「ははっ……」


 レンは笑って誤魔化した。

 カエデには悪いが、できれば彼女が活躍するような場面は来てほしくなかった。彼女の出番があるということは、ピンチに決まっているからだ。




 翌朝、レンたちは砦の兵士に見送られて出発した。

 ナタリアが乗る馬車も一緒だった。

 レンとしては砦まで送り届けたのだし、後はここの兵士たちに任せればいいと思っていたのだが、ナタリアから、


「ここまで一緒に来たのですから、ダランまでご一緒しませんか? どうせオーバンス様もダランへ行くのでしょう?」


 と言われて了承した。

 彼女の言う通り、どうせダランまで行くのだから、別に断る理由はない。

 それに彼女には少し助けてもらっていた。

 入国審査についてだ。

 この砦はバドス王国の国境の砦だ。グラウデン王国側の砦で、入国してくる人や物を調べていたようで、ここでもチェックが行われるのだが、それがやけに簡単に終わったのだ。

 荷物はともかく、顔を隠したイール二人を調べられたら面倒なことになるかも、と思っていたので助かった。

 チェックが簡単に終わったのは、レンが貴族というのも影響しただろうが、それに加えてどうやらナタリアが口添えしてくれたおかげらしい。

 この世界ではどこでもそうだろうが、コネとかツテとかが大きな力を持つ。ナタリアの父親はダランの有力な商人で、この砦とも取引があるらしい。そんな彼女が一言いってくれたおかげで、チェックが簡単に終わったようだ。

 その恩返しも兼ねて、最後まで責任を持って送り届けようと思った。

 早朝に砦を出発し、道中も何事もなく、一行は予定通り夕方にダランの街に到着した。


「オーバンス様、今夜の宿は決めているのですか?」


「一応は。街に入る前にちょっとやることがあるので、それが終わってからですが」


 本当だがウソだった。

 街に入って宿屋に泊まるつもりはなかった。ダークエルフを客として受け入れてくれる宿屋があれば話は別だが、そうでなければ自分一人だけで泊まるつもりはない。だから今夜は街の外で野宿するつもりだった。

 それを正直に言わなかったのは、言えばどうしてですか? と聞かれると思ったし、もしかしたら宿を紹介します、と言われるかもしれないと思ったからだ。

 説明したり、断ったりするのが面倒だったので、最初からそういうことにしたのだった。


「そうですか。ではオーバンス様、色々とありがとうございました」


「いえ……」


「ぜひ一度、父の店においで下さい。正式なお礼は、あらためてその時に」


「都合があえばうかがいます」


 とは言ったものの、これは社交辞令のつもりだった。実際に店に行くつもりはない。そういうお付き合いが面倒に思えてしまう。

 だが向こうはそうは思っていなかったようだ。

 翌日。

 シャドウズの三人は、朝から街へ出かけていった。現地のダークエルフと接触するためだ。

 残りは馬車で待機である。

 後は彼らの帰りを待つだけ――と思っていたのだが、予想外の客がやってきた。


「すみません。もしやこちらに、レン・オーバンス様はおられるでしょうか?」


 現れたのは四人組の男たちだった。

 レンたちは街から少し離れた林の中で野宿したのだが、彼らはどうやってかそれを捜し出して、ここまで来たようだ。

 別に隠れているわけではなかったので、近くを通った農民とか旅人あたりから情報を得たのだろうが……わざわざこんなところまで何の用なのか。

 四人のうち、二人は鎧を着て剣を帯びていた。多分、護衛の傭兵だろう。

 残りの二人はダランの住人だろうか。荒事とは無縁のように見えた。こちらは中年の男と、もう少し若い男の二人組だったが、その中年の男が口を開いた。


「先日は、当家のナタリアお嬢様がお世話になりました。主のビロウスは、ぜひオーバンス様に直接会ってお礼を申し上げたい、と申しておりまして。こうして参った次第です」


 ナタリアの家は商人だと言っていたが、この男性はそこの従業員のようだ。

 わざわざお礼を言うためにレンを捜し、こんなところまで人を寄越すなんて、彼女の父親はずいぶんと義理堅いんだなと思った。

 もしこの場にマルコがいたなら、


「甘いですよ。やり手の商人がそこまでやるからには、善意だけじゃなく、何かの利害があると見るべきです」


 なんてことを言ったかもしれない。

 あいにくマルコはここにいなかったし、カエデはもちろん、リゲルたちも何も言わなかったので、レンは全部相手の善意だろうと思い込んだ。

 正直、面倒だなあと思ったが、せっかくここまで来てくれたのに断るのも悪い気がする。

 迷ったが、向こうの申し出を受けることにする。


「ありがとうございます。もしご都合がよろしければ、今からご案内しますが?」


 あらかじめ予定していたのか、男がそんなことを提案してきた。

 シャドウズの三人が帰ってくるまで予定はないし、さっさとすませてしまうか、とレンは思った。

 ちょっと話をして、すぐに帰って来ればいい。


「リゲル、悪いけど街までついて来てもらえる?」


 ここからダランまで歩いて十五分ほど。ガー太に乗っていかなくてもいいだろう。


「カエデも行く」


 と言ってきたが、


「いいけど、向こうに行ったら部屋でじっとしてなきゃダメだよ」


「じゃあ行かない」


 あっさり引き下がった。

 迎えの男たちに案内されて、レンはダランの街へと向かった。

先週末はリアルの都合だったり、リアルイベントがあったりして、更新できずにすみません。

最低週一回は更新したいと思っているので、がんばります。

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