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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第137話 新たな販路(上)

本当は昨日、平成最後の日に四章も終わり、とやりたかったのですが無理でした。

しかも長くなったので上下に分けます。

下は今日か、明日には上げて、それで四章も終わる予定です。

 かなりしつこく引き留められたレンだったが、どうにかシーゲルに納得してもらった。


「次に王都に来るときは、事前に連絡してくれよ。食い物も女も、極上のを揃えて待ってるからな」


 なんて言われてしまったが。

 だから女性はいいんだってば――とは言い出せず、レンは笑って誤魔化すしかなかった。


「最後にもう一つ、シーゲルさんに頼みたいことがあるんですが」


「何でも言ってくれ。兄弟のためなら、できる限りのことをしよう」


「ここから東部のジャガルの街まで、間に多くの街がありますけど、そっち方面の街の犯罪ギルドに知り合いとかはいますか?」


「他の街とのつながりはないな。基本的には王都だけだ」


「やっぱりそうですか」


 予想していたことではある。

 魔獣が徘徊するこの世界では、街と街を行き来するのも命がけだから、犯罪ギルドの影響範囲も、一つの街にとどまるのが普通だと思っていた。


「どこか他の犯罪ギルドに用があるのか?」


「用というか、これはまだ思い付いただけなんですが……」


 レンは自分の考えを話した。

 今やっているダークエルフの運送業は、ジャガルの街を中心に行っている。これを発展させ、ジャガルの街と王都とをつなげないかと思ったのだ。

 王都に来てみて実感したが、この街の豊かさは桁違いだ。こことジャガルの街とで商売できれば、大きな取引が見込めるのではないか、と考えたのだ。

 だが移動距離が長くなればなるほど危険度も上がる。

 危険は大きく二つ。

 魔獣と盗賊だ。ダークエルフに任せれば、裏切りの心配はない。

 二つのうち、魔獣に関してはどうしようもないが、盗賊に関しては事前に手を打てるのではないか、と思ったのだ。

 各地の犯罪ギルドに今回の事件のことを伝え、ダークエルフの荷馬車には手を出さないよう警告する。

 もし荷馬車に手を出す者がいれば徹底的に報復する――それが言葉だけでないことは、今回の事件で実証された。

 その警告をシーゲルに頼めないかと思ったのだ。


「王都の犯罪ギルドならともかく、他の街となると難しいな……」


「じゃあカイルさんを使えませんか?」


「あいつを?」


「各地の犯罪ギルドに顔が利くって言ってましたよね?」


「だから殺さず生かしておいたのか?」


「そんなところです」


 本当は殺せなかったという事実が先にあって、理由の方は後付けなのだが、それは黙っておく。


「どこまで本当かわかりませんが、各地の犯罪ギルドと知り合いだというなら、シーゲルさんが後ろ盾になって、警告を送ってもらえませんか?」


「わかった。奴にやらせてみよう。それにしても、さすがは兄弟。スケールのデカイ話を考えるな」


 冗談半分、本気半分といった口調でシーゲルが言う。

 王都とジャガルの街をつないで商売するというレンの考えは、現代日本人なら誰でも当たり前に思うことだろう。国内どころか、海外の品物でさえ、通販で買うことができたのだから。

 しかしこの世界の住人の多くは、生活範囲が一つの街や村で固定されている。そこから出ることがないので、考えも外へと広がらないのだ。


「今の話を聞いて思い付いたんだが、こっちからも一つ頼めないか?」


「なんでしょう?」


「王都と他の街を行き来するっていうなら、犯罪ギルドの扱う商品も運んでもらえないか?」


 安定した輸送ルートが存在しない、という問題で困っているのは、犯罪ギルドも同じだった。

 盗品や密輸品、売りたい品物はたくさんあっても、それを他の街へと運ぶ手段がない、というか、あるにはあるが信頼できず不安定なのだ。もし信頼、安定の輸送ルートがあれば、取引は大きくふくらむことだろう。

 これはでかい商売になるぞ――シーゲルは興奮してきた。


「いいですけど、一つ条件があります。こちらで運ぶ品物には制限をつけます。違法だからダメとは言いませんが、こちらが危険と判断した物とかは運べません。奴隷みたいな人身売買もダメです」


「本当に危ない橋は渡らないってことか。兄弟は慎重だな」


 シーゲルは実益から、レンがそう判断したと思った。

 犯罪ギルドが扱う商品といっても色々だ。その中でも例えば薬とか武器とか、そういう品物は取り締まりが厳しい。そんな品物を運んで、やっかいごとに巻き込まれるのをさけたいのだろう、と彼は思った。

 レンの考えは少し違っていた。彼は単に嫌だったのである。

 自分も密輸に手を染めているので、違法な物がダメとは言わない。だが彼は違法なことをしていても、誰も傷つけてはいない、と思っていた。もっと自己弁護すれば、高い品を安く仕入れることで、人の役に立っているのではないか、とすら思っていた。

 だからといって何でもかんでも運んでいいのかというと違う。例えば人を殺して得た品物とかは運びたくない。

 これは損得の問題ではない。例え楽に高収入が得られるとしても、そういう商売に関わりたくない。現代日本人としての感覚だった。


「シーゲルさんのお話はわかりました。実はもう一つ考えていることがあって、そっちの話が決まってから、改めて話をするということでお願いします」




 レンは帰りの挨拶をするため、ガトランがいる王都警備隊の駐屯地を訪れた。

 郊外の駐屯地には、もう一人の百人隊長のキリエスも来ていた。一緒に話をしたいと思ってレンが呼んでもらったのだ。


「もうちょっとゆっくりしていけよ。王都の食い物も女も、全然味わってないだろ?」


 またそれかとレンは心の中で苦笑した。

 シーゲルもキリエスも同じようなことを言うが、この世界では食べ物と女というのが、男の二大娯楽なのだからしょうがない。

 そしてレンは「仕事があるので」と言って、同じように断った。

 すると今度はシーゲルの時とは違い、二人ともあっさり納得してくれた。

 二人ともお役人なので、仕事と言われると強く引き留められなかったのだろう。


「仕事ついでに、お二人にお話があるのですが」


 レンはこれまたシーゲルに話したのと同じように、運送業の範囲を王都まで拡げたいと話した。


「ただ、もしそれをやるとしたら道中の安全確保も問題ですが、王都に入るのも問題になってきます」


 人の出入りが多い王都は、荷物を持たない個人であれば、ダークエルフでも簡単に壁の中へ入れる。

 だが人数が増えたり、大きな荷物を持っていれば、素通りとはいかない。ましてやダークエルフとなればかなり警戒されるだろう。

 長い足止めを食らったり、最悪、荷物を没収されるかもしれない。


「それを避けるために――」


「俺たちを抱き込もうってわけだな」


 笑いながらキリエスが言う。


「百人隊長二人を抱き込もうとは、お前も大胆な奴だな。だが――」


「いえ、そうではなくて。それに近い話ではあるんですが、お二人に商会を作ってもらえないかと思って」


「俺たちに?」


「僕たちは王都の近くまで荷物を運びます。そこで荷下ろしして、そこから先、王都の中へ荷物を運ぶ、近距離専門の運送屋を作ってもらえないかと」


「近くまでダークエルフが運んできて、そこから先は人間でってことか」


「はい。それをお二人にお願いしたいのです。警備隊の関係者を使って」


「やってやれないことはないと思うが……」


 考え込むようにガトランが言う。


「俺たちもヒマじゃない。そこまで手が足りるかどうか」


「現役の兵士の方とは限りません。そちらは手が空いてるときに日雇いとかで手伝ってもらう程度で、メインは警備隊を辞めた方を、と考えています。年を取って一線を退いたけど、まだまだ元気な人とか、病気やケガで辞めた人とか、そういう人たちを集められませんか?」


 レンの念頭にあったのは天下りである。また、警察OBが警備会社に就職する、なんて話も聞いたことがあったので、それを参考にした。

 天下りは評判が悪いシステムだ。レンも日本人だったときは、やっちゃダメだろうと思っていた。それで高給をもらう官僚への嫉妬もあった。

 しかしここに来て宗旨替えした。使える物は使うのだ。どうせこの世界には天下りを禁止する法律もないだろうし、それを悪いと思う考え自体が存在しないのではないか。


「元警備隊の方なら、門番にも話が通じるしスムーズにいくんじゃないかと。それと別に不正を頼もうってわけでもありません。荷物はきっちり検査して下さい。逆に検査はこちらできっちりするから安心してくれ、と言えるぐらいの方がいいです」


 レンの提案に二人ともうなった。

 二人の頭に浮かんだのは、王都警備隊を辞めていった先輩や部下の顔である。

 中には悠々自適の隠居生活を送っている者もいるが、そういうのは少数派だ。

 なにしろ危険で体力を必要とする仕事だから、年を取ってきたり、病気やケガをすると辞めざるを得ない。

 特に若くして辞めた者たちの中で、生活に苦しんでいる者が多い。

 次の仕事が見つからず、あるいは見つかってもろくな仕事ではなく、窮乏生活を送っている者。音信不通になった者もいる。

 先日の魔獣の群れとの戦いでも、多くの死傷者を出した。負傷者のうちの何人かは、そのまま警備隊を辞めざるを得ないだろう。

 老いてから辞めた者の中にも、貧乏生活を送っている者がいるし、やることがなくて一気に老け込んだ者もいる。

 二人とも、そういう者たちのことを気にかけていたが、力になるのにも限界があった。

 彼らに新しい仕事を紹介できる、というのは魅力的だった。


「王都の近くと言ったな? だったら危険は少ないか……」


「仕分けやチェックもやるっていうなら、力のない者にも仕事をやれるな」


「読み書きの必要とかも出てくるな。おいレン、こっちの取り分はどのくらいだ? 例えば――」


「いえ、具体的な話はまた後で。専門家に来てもらいます」


 そういう話はマルコに任せようと思った。

 承諾は取っていないが、商売が大きくなるのだ。反対はしないだろうと思った。


「確約はできませんが、できる限りの給金を、と思っています。少なくともちゃんと生活できるぐらいは。そして会長はお二人のどちらかに。二人で共同代表とかでもいいですよ」


「こいつはともかく、俺に会長なんて務まらねえよ」


 ガトランが言う。


「名ばかりの会長でもいいですよ。報酬は支払います。もちろんきちんと働いてもらってもいいですけど」


「さすがはレン! 太っ腹だな」


 笑いながら、ガトランはレンの肩を叩く。

 自分にとっても儲け話だ。ガトランに断る理由はなかった。


「じゃあ二人で会長就任といくか?」


「俺もいい話だと思う。だがその前に一つ、はっきりさせておきたいことがある」


 キリエスの目が鋭くなった。


「この話、犯罪ギルド・ダルカンの連中は絡んでいるのか?」


「えっ?」


 思わずレンは返事に詰まった。

 ダークエルフのルーセントを通じ、シーゲルと協力関係を築いたレンだったが、そのことをキリエスたちには話していなかった。


「お前が犯罪ギルドの連中と接触していたのは知ってる。結果、サイアスが潰れ、それをダルカンの幹部のシーゲルだったか? 奴がそれを吸収した」


 どうやら全部お見通しのようだ。


「それについて、どうこう言うつもりはない。お前が目的のために手段を選ばないのもありだと思うし、どうせ相手は犯罪ギルドだ。クズを殺したところで問題ない。だが一緒に仕事をするとなると話は別だ。俺は連中と組む気はない」


 どうなんだ? と問われたレンは、悩んだ末に口を開いた。

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