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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第133話 証拠探し

 翌日。

 朝からトルノは不機嫌だった。

 昨夜、レンを殺すために人を送り込んだが、それがまだ帰ってこないのだ。

 成功しても、万が一失敗してレンを逃がしたとしても、夜明けまでには帰ってきているはずだ。それが日が昇っても誰一人帰ってこない。

 仕方なく、トルノは部下に様子を見に行かせることにした。


「レンの家の近くまで行って様子を見てこい」


 そう言って送り出そうとしたところで、客がやってきた。それも招かれざる客が。


「ボス、警備隊が――」


 血相を変えて駆け込んできた部下の報告に、トルノは慌てて屋敷の外へ出た。

 すると門の外に見知った男が立っていた。


「ようトルノ。約束通りまた来たぜ」


 不敵に笑うのは、百人隊長のキリエスだった。背後には王都警備隊の兵士たちを引き連れている。


「これはキリエスさん。今日は何のご用で?」


「お前にはレン・オーバンス殺害の容疑がかけられている。その捜査だ」


 あいつら失敗したのか!? という言葉が飛び出そうになったのを飲み込み、トルノはさらに訊ねる。


「私がやったという証拠はあるんですか?」


 確実な証拠となる紙などは残していない。証言が出てきても、こちらが否定すれば、言った言わないの世界になる。


「証人がいる」


「どうせチンピラ連中でしょう? そんな連中の証言など、あてにならないと思いますが」


「だからこうして証拠を探しに来たんだ」


「話になりませんね。それに前にも言いましたが、ここはキリエスさんの担当地区ではなくサーザイン様の――」


「そのサーザインだがな」


 意地の悪い笑みを浮かべながらキリエスが言う。


「ここに来る前に話をしに言ったら、貴族を殺そうとはとんでもないことだ。徹底的に調べてくれ――みたいなことを言ってくれてな。だからこうしてやって来たってわけだ」


 今度こそトルノは愕然とした。

 裏切りやがったな! と心の中で罵声を放つ。

 これまで、どれだけおいしい思いをさせてやったか。それをちょっと危なくなったからといって、あっさり切り捨ててくるとは。

 今すぐサーザインのところへ怒鳴り込みに行きたかったが、その前に、目の前の状況に対処しなければならない。

 だがサーザインが許可した以上、キリエスを止めるのは難しかった。


「というわけで屋敷を調べさせてもらうぞ」


「ちょっと待て!」


 ギルドの屋敷に踏み込もうとしたキリエスの肩を、ギルドメンバーの一人が押さえた。

 考えがあってのことではなく、反射的な行動だった。


「汚い手で俺にさわるんじゃねえ!」


 言うと同時にキリエスがそのメンバーを殴り倒したが、それだけでは終わらなかった。

 警備隊の兵士が二人動き、棍棒を振り上げ、殴りかかったのだ。

 今回、警備隊の兵士たちは棍棒を装備していた。街中の任務であり、剣や槍よりも殺傷力を落としたのだが、棍棒でも十分に人を殺せる。

 二人の兵士は、


「ふざけてんのか、てめえ!」


 などと叫びながら、メンバーを何発も殴りつける。

 見かねた別のギルドメンバーが、それを止めようとしたのだが、今度はそいつも一緒に殴りつける。

 さらにそれを見た他のメンバーたちが、怒りもあらわに動こうとしたのだが、


「やめろ!」


 トルノがそれを止めた。


「ですがボス」


「やめろと言ったんだ。それとも、ここで警備隊と戦争を始めるつもりか?」


 そう言われると、ギルドメンバーたちも黙るしかなかった。彼らも、警備隊と正面から戦えば、勝ち目がないのはわかっていた。


「それじゃあ家捜しを始めていいんだな?」


「……好きにしろ」


「協力に感謝する。けど拍子抜けだな」


 キリエスが挑発するように言う。


「もう少し骨のある連中だと思っていたんだがな。犯罪ギルド・サイアスは腰抜け揃いか?」


 トルノは屈辱に顔をゆがめたが、言い返そうとはしなかった。

 そして警備隊による証拠探しが始まったが、それは証拠探しという名の略奪だった。

 警備隊の兵士は、わざと手荒に屋敷に踏み込んだ。

 大型のハンマーを持った兵士がいて、それでわざわざドアや壁をたたき壊す。

 タンスなどをひっくり返し、金目の物があれば全て懐に入れる。

 調度品なども、証拠だと言って持ち帰ろうとする。

 やり過ぎだろう、と止めようとしたギルドメンバーもいたのだが、そういう相手は容赦なく棍棒でボコボコにした。手加減などしない。死んでも構うものか、といった感じだった。

 証拠探しは二時間ほどで終わったが、ギルドの屋敷はボロボロになっていた。まさに盗賊に荒らされたかのようである。


「まあ、こんなもんだろう。預かった証拠品は、調べが終わって、何の関係もないと証明されれば返してやる」


 言っている方も聞いている方も、それが本当だとは全く思っていない。

 キリエスはこの証拠探しを始める前、部下たちに、手に入れたものは全部自分の物にしていいぞ、と伝えていた。

 明言はしていないが、それとなくわかるように話し、部下たちもそういうことだとわかっていた。

 たまに王都警備隊はそういうことをやるのだ。犯罪ギルドに対する見せしめと、部下たちの小遣い稼ぎとして。

 普通の商人相手にそんなことをすれば大問題だが、犯罪ギルド相手なら多少の無茶も見逃されている。

 ただ今回のように、自分の担当地区の外まで出てくるのは異例だった。

 トルノはキリエスの行動力を見誤っていたといえる。


「それじゃあな」


 最後にそう言って、キリエスは上機嫌で帰って行った。

 どいつもこいつも、俺をコケにしやがって――トルノは屈辱に身を震わせていた。

 屋敷を荒らし回ったキリエス、あっさりこちらを切り捨てたサーザイン、事件の元凶ともいえるレン・オーバンス。

 全員、ただではすまさないと心に誓った。

 今すぐぶち殺してやりたいところだが、理性がそれにブレーキをかける。

 復讐はいつでもできる。その前に、まずはギルドを立て直さなければならない。

 屋敷は荒らされ、金目の物が持ち去られたが、それはまだいい。

 金銭的な損害は大きいが、どうにかなるだろう。

 問題は一緒に持ち去られた書類だ。

 借金の証文など、犯罪ギルドの業務に係わる書類が多数持ち去られてしまった。

 これは痛い。ギルドの収入に大打撃だ。

 キリエスはそれを見抜いていたに違いない。警備隊の百人隊長だけあって、こちらの痛いところをちゃんとわかっている。

 そしてギルドの評判もどうにかしなければいけない。

 裏社会は弱肉強食だ。弱いところを見せれば、よってたかって食い物にされる。

 サイアスが警備隊にやられた、といった話はすぐに広まるだろう。

 それを聞いた他の犯罪ギルドは、こちらの縄張りに手を突っ込もうとするはずだ。それにも対処しなければならない。

 問題は山積みだが、トルノは闘志を失っていなかった。復讐が彼の原動力になっていた。




 その日の夜、トルノはギルドの屋敷に泊まった。

 彼はギルドの屋敷とは別に、個人の家を持っている。いつもはそこに帰っているのだが、今日はあえて泊まることにした。

 ボロボロになった屋敷で眠り、この屈辱を胸に刻み込むつもりだった。

 怒りのせいでなかなか寝付けなかったが、それでも目を閉じていると、やがて眠りに落ちた。

 そして深夜。

 ふと何者かの気配を感じ、トルノは目を開けた。

 ベッドの横に複数の男たちが立っていた。

 誰だ――声を上げようとしたが、その前に男たちの一人が彼の口を押さえた。

 トルノが最後に見たのは、自分に向かって振り下ろされる白い刃だった。

 彼の体に刃を突き立てた男が、首に手を当てて死んでいることを確認する。

 男は人間ではなくダークエルフだった。ゼルドである。

 他の男たちも全員がダークエルフ、シャドウズの隊員たちだった。

 彼らの目的はトルノの殺害。今、その任務は達成された。

 一昨日の夜、シャドウズはカイルを宿屋からさらってきたが、それと比べれば今夜の方が簡単だった。

 昨日までと違い、今日の屋敷はあちこちが破壊され、どこからでも入り込むことができた。

 また一昨日は無関係な人間を傷付けないように命令されていたが、今回はそれもない。

 可能な限り見つからないように、というのは同じだったが、見つかった場合は殺してもいい、ということになっていた。ここは犯罪ギルドの屋敷で、無関係な人間などいないはずだからだ。

 だがそんな心配も無用だった、彼らは誰にも見つからずここまで来た。そして誰にも見つからず、静かに立ち去った。

 翌朝、屋敷は昨日以上の大騒ぎとなった。

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