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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第129話 別のやり方

 話し合いが決裂し、キリエスはトルノを完全に敵として認識したようだった。


「犯罪ギルドにコケにされたままじゃ、警備隊のメンツに関わる。なんとしても証拠をつかんで、奴らを叩きつぶしてやる」


 と言ったキリエスだったが、


「だが奴らの言う通り、ここは俺の担当地区じゃない。悔しいが限界があるのも事実だ。そこでお前に情報収集を頼みたい」


「もっと確実な証拠を見つけろってことですね?」


「そうだ。あの店の情報を最初に仕入れてきたのはお前の方だし、もっと詳しい情報を調べられるか?」


「やってみます」


 情報を持ってきてくれたのは、別の犯罪ギルドにいるルーセントだった。蛇の道は蛇というし、もう一度彼に頼んでみようと思った。

 そもそも今はまだ状況証拠だけなのだ。荷馬車が丸ごと盗品として持ち込まれたというだけで、それが本当に襲われた荷馬車なのか、確認が取れていない。キリエスは犯罪ギルド・サイアスのしわざと確信しているようだが、レンはまだ疑っていた。

 いずれにしろ詳しい情報が必要だった。




「いきなりサイアスのボスのところに乗り込んだんですか!?」


 ゼルドを通じて連絡を取ると、ルーセントはすぐにやって来た。

 レンは何があったかを説明したのだが、それを聞いた彼は驚いていた。


「危険すぎるでしょう」


「僕じゃなくて、キリエスさんに連れて行かれたんですけどね」


「どっちにしろ、もう少し自重して下さい。何かあったらどうするんですか」


 ルーセントは別にレンの身を案じているわけではなかった。むしろレンが死んでくれた方が、彼にとっては都合がいい。

 だがレンの身になにかあると、ダークエルフの秘密が暴露される恐れがあった。だからレンにはもう少し慎重に行動してもらいたかった。


「それで何かわかったのですか?」


「いいえ。向こうは知らないの一点張りで、物別れに終わりました。それでもう少し詳しい情報を集めてもらえないかなと。確かな証拠があれば、キリエスさんも動けるって言ってました。それに盗品として持ち込まれた荷馬車が、僕らと無関係って可能性も残っています。そこもはっきりさせておきたいな、と」


「わかりました。もっと詳しく調べてみます」


 同じダークエルフたちに命じ、さらに情報を集めようと思ったルーセントだったが、残念ながらそれは上手くいかなかった。

 翌日、ルーセントは王都郊外の貧民街にあるラグの家を訪れた。彼と会って、再び調査を命じるつもりだったのだが、その彼の家の前まで来たところで、おやっと思った。

 ラグの家の前に、人相の悪い男が二人立っていたのだ。

 二人がダークエルフなら問題なかったが、どちらも人間だ。もしかしてラグは何かトラブルにでも巻き込まれたのか? と思いつつ、ルーセントはそのまま進んでいく。

 経験上、こういう時は逃げたりした方が不審に思われたりする。逆に自分から堂々と向かっていった方が、大丈夫だったりするのだ。


「おい、お前」


 家の前を通りすぎようとしたところで、男たちの一人に呼び止められた。


「この家のダークエルフか?」


「いえ、違いますが……」


 ここは無害な一般人を演じようと思い、ルーセントはちょっとおびえたような態度で答えた。


「聞いてた人相とも違うよな?」


 などと男たちは確認しあっている。


「お前、この家に住んでいるラグってダークエルフを知っているか?」


「いいえ。知りませんが」


「ならさっさと行け」


 男の一人に手で追い払われたルーセントは、そそくさとその場を離れ、道の角を曲がったところで立ち止まる。

 やはりあの男たちはラグを捜しているようだ。

 さて、どうしたものかと思った。

 あの男たちの様子を見るに、ラグの身に危険が迫っているようだ。彼に警告してやりたいが、家にいないとなると、どこにいるのかルーセントもわからない。

 色々と仕事を命じることはあったが、個人的な付き合いは全くなかった。だからラグが行きそうな場所に心当たりもない。

 ここでずっと待っているわけにもいかない。取りあえず帰ってから考えるか――と思っていたところで、声をかけられた。


「ルーセント」


 呼ばれた方を振り返ると、物陰に隠れるようにしてラグが立っていた。


「無事だったのか?」


 側によって訊ねると、ラグはうなずいた。


「どうにか。たまたま外出していて、帰ってきたら奴らがいた。それで家にも帰れず、隠れて様子を見ていたんだが……」


「取りあえず、ここから離れよう」


 周囲に気を配りながら、ルーセントとラグは並んで歩き出す。


「何があった?」


「わからない。だが男の一人には見覚えがある。サイアスのメンバーだ。ハードリーに会いに行ったときに、顔を見かけたことがある」


 ハードリーも犯罪ギルド・サイアスのメンバーだった。

 ドジを踏んだか? とルーセントは思った。


「実は昨日のことなんだが――」


 ルーセントはラグに、これまでの出来事を簡単に説明した。

 ハードリーから得た情報を元に、レンたちがサイアスの本拠地に乗り込んだことを。


「じゃあそれが原因でハードリーが?」


「昨日の今日で、お前のところにサイアスの連中が来たってことは、そういうことだろう。奴らはどこから情報が漏れたのか、探ったんだ」


 自分でもそうするとルーセントは思った。


「ハードリーが、自分のことがバレないように、慎重に探っていたならいいんだが、そうでなければ……」


 おそらく情報源がハードリーであることがバレた。それから彼を痛めつけて、ラグのことを聞き出しここへやって来た――そんなところだろうとルーセントは思った。


「じゃあハードリーは……」


「情報を聞き出したんだ。生かしておく理由はないな」


 犯罪ギルドは裏切り者を許さない。しかもハードリーはダークエルフだ。サイアスの連中が生かしておくとは思えなかった。


「私のせいだ……」


 ラグが沈んだ顔で言う。


「もっと慎重に行動しろと命じておけば……」


「それをいうなら俺の責任だ。言い訳になるが、事態がここまで急に動くとは思わなかった。レンの行動力を見誤っていた」


 もう少し慎重に動くと思っていた。


「ハードリーには金を渡していたな?」


「ええ」


 ルーセントはラグを通じてダークエルフを動かす際、金を支払うようにしている。ラグは受け取った金を、さらに相手に渡す。

 ダークエルフだから、金を払わなくても命令には従う。だが今回のようにそれがバレた場合、金を払っていないと、どうして裏切ったのか? という話になる。そこから序列の存在を知られるかもしれない。だからルーセントは金を支払うことにしていた。

 今回も金ほしさにハードリーが情報を売った、と思ってくれるはずだ。


「とにかく、こうなったからにはお前はしばらく姿を隠せ」


「わかりました」


 王都は広いし、助けてくれるダークエルフも多い。ここを離れてしまえば、そう簡単には見つからないだろうと思った。

 ラグとはここで別れ、ルーセントは一度ギルドの拠点に帰ることにした。

 犠牲者が出てしまったが、ルーセントは調査を続行するつもりだった。レンからの依頼は、なんとしても果たさねばならない。だがラグが使えなくなったのは痛い。

 サイアスのメンバーには、ハードリーの他にもダークエルフがいたはずだが、今回の件で警戒は厳しくなっているだろう。ここで他のダークエルフを使うと、犠牲者を増やすことになりかねない。

 ギルドとは無関係のダークエルフを何人か集め、四六時中、向こうの拠点を見張るのはどうだ? などと考えながらギルドの屋敷に帰ると、部下から来客を告げられた。


「シーゲルさんが来てます」


 シーゲルは、ルーセントが所属する犯罪ギルド・ダルカンの幹部の一人だ。

 ルーセントの上役であるラバンと同じように、自分のグループを持って活動している。そしてラバンとはあまり仲がよくない。

 ラバンは暴力的な人間で、腕っ節の強さでのし上がってきたタイプだ。

 一方のシーゲルは金稼ぎで幹部になった、と言われている。必要とあれば暴力も使うが、必要なければ暴力は使わない。

 そんなシーゲルのことを、ラバンは腰抜けと呼んで嫌っていたのだ。

 だがラバングループの人間は、シーゲルのことをあまり嫌っていない。

 ラバンのいないときに、ふらっとグループの拠点にお土産を持ってやって来たり――だから今もラバンはいないのだろう――個人的にメンバーの相談に乗ってやったりもしている。金のことで困って、彼に助けてもらったメンバーもいる。

 もちろん善意でやっているのではないだろう。おそらくグループの切り崩しだ、とルーセントは思っている。

 ラバンもシーゲルも、ギルドのもっと上を狙うライバル同士だ。だからいざという時に備え、ラバングループのメンバーに恩を売っているのだろう。

 抜け目のない男、というのが彼に対するルーセントの評価だ。今日も何の話があって来たのか注意する必要があるな、と思いつつ応接室に入る。


「お待たせしてすみません」


 部屋に入ったルーセントは、ソファーに座っていたシーゲルに頭を下げる。


「こっちが勝手に来たんだ。気にするな」


 答えるシーゲルは、一見すると気さくそうな中年の男だった。とても犯罪ギルドの幹部には見えないが、この外見にだまされてはいけないことを彼は知っていた。


「今日はどんなご用件で?」


「なに、ちょっと気になったことがあってな。お前、この頃ダークエルフどもとつるんで何かやってるよな?」


 どうしてそれを!? という驚きをどうにか封じ込める。

 これだからこの男は油断ならない。


「そうなんですよ。よくご存じですね」


 知られた以上、隠し通すことはできないと素早く判断し、何でもないことのように答える。


「ちょっと小耳に挟んでな。で、ダークエルフどもと何をやってるんだ?」


 どこまで話すべきか、と考えたルーセントは、いっそのこと全部話してしまおうかと思った。

 発想の転換だ。隠すのではなく、事情を説明して協力を頼むのだ。ラグのことが知られた以上、ダークエルフだけで調査を続けるのは難しくなった。だからシーゲルの力を借りるのだ。

 もちろん序列など、本当に隠さなければいけないことは隠す。その上で事情を説明し、助けてもらえるならよし、ダメだったら改めて自分でやればいい、と思った。


「実はちょっとやっかいなことになっていまして――」


 ルーセントはこれまでのことを説明し始めた。

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