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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第127話 犯罪ギルド・サイアス(上)

 店の入り口に現れた三人組の男たちは、中にいたゼルドたちを見て嘲笑を浮かべる。


「おいおい。ダークエルフがいるぞ」


「薄汚いダークエルフが何の用だ? ここはお前らが来ていい店じゃねえぞ」


 次々に声を投げかけてきた男たちに対し、


「用があるのは俺だよ」


 店長と話していたキリエスが、男たちの前に出てきた。


「警備隊……?」


 ゼルドたちの影に隠れて、三人組にはキリエスの姿がよく見えていなかった。てっきりレンとダークエルフだけだと思っていたら、店の中から彼が出てきたので、男たちは少し身構えた。

 キリエスは王都警備隊の革鎧を身につけており、三人組の男たちも、一目見てそれに気付いた。だが彼らは重要なことを一つ見落としてしまった。

 百人隊長の鎧には、左胸に盾をデザインした紋章が刻まれている。隊長であることを示す印なのだが、三人組はそれに気付かなかった。


「警備隊の兵士がなんの用だ?」


 男たちの一人が、キリエスをにらみつけながら訊ねた。

 聞かれたキリエスはニヤリと笑うと――いきなりその男の下腹を殴りつけた。

 腹に拳がめり込み、男は体をくの字に曲げて悶絶する。


「なにしやがる!」


 残りの二人がキリエスにつかみかかろうとしたが、


「その方は百人隊長ですよ!?」


 慌てた声は店主のものだった。

 その言葉に男たちがピタリと動きを止めた。


「ばらすなよ。これからおもしろくなるところだったのに」


 奥から飛び出してきた店主に、キリエスが冗談めかして文句を言うと、店主は困り果てた顔になった。


「勘弁して下さいよ……」


 店主にしてみれば、店で警備隊と犯罪ギルドがもめ事を起こすなど、まさに悪夢である。

 その様子を見ていた男たちの一人が、おずおずと訊ねる。


「あんた、本当に百人隊長なのか?」


「だったらどうする?」


「どうするって……そういうことは先に言って下さいよ……」


 さっきまで威勢のよかった男たちが、すっかりおとなしくなっていた。

 警備隊の一兵士と百人隊長では重みが全く違う。彼らの逆らえる相手ではない、というか逆らってはいけない相手だった。


「ちょうどいい。お前らのボスのところまで案内しろ」


「えっ?」


「お前らサイアスの連中だろ?」


「そうですが……」


「だからそのボスのところに案内しろって言ってるんだ」


「いや、そんな急に……」


「だったら後で大勢で押しかけることになるが、それでいいんだな?」


 キリエスが本気だと悟ったのだろう。三人組のリーダー格らしい男が、もう一人に命じる。


「おい、急いで帰ってボスに伝えろ。今から客を連れて行くってな」


「えっ? でも……」


「さっさと行け!」


 怒鳴られた男は慌てて走っていった。


「すみません。ご案内します」


「おう」


 と鷹揚にうなずいたキリエスはレンの方に向き直り、


「そういうわけだ。大本と話をつけに行こうぜ」


「はあ……」


 ここまでレンは一言も口を挟んでいない。挟むヒマもなかったというか、とにかくキリエスが勝手に話を進めてしまったのだが、レンはおとなしく従った。

 なんだか大事になってきたな、とは思ったが、元より話し合いとか交渉とかは苦手である。特に犯罪ギルド相手の交渉とか、全く自信がない。ここは専門家にお任せしようと思った。

 二人組になった男の一人が、そんなレンたちを見て訊ねる。


「あの、そっちの人と、ダークエルフたちはいったい?」


「このお方は、とある伯爵家のご子息様で、俺の客人だ。お前らのせいで迷惑していて、えらくご立腹だそうでな。わざわざ俺が出てくることになったんだよ」


「伯爵様ですか……?」


 男たちはレンをチラチラと見る。キリエスの言うことがどこまで本当なのか、疑っているようだが、もし本当だったとしたら無礼なことはできない、と思ってもいるようだ。

 二人組に案内され、しばらく歩いて到着したのは大きな屋敷だった。ここが犯罪ギルド・サイアスの拠点だった。

 先に帰った男が連絡していたのだろう。屋敷の入り口には、何人かの男が並んで待っていた。犯罪ギルドらしく、いずれも強面の男だ。

 レンは少し足がすくんだが、キリエスは気にした様子もなく進んでいく。


「いらっしゃいませ!」


 男たちが一斉に頭を下げたが、歓迎といった態度ではなく、こちらを威圧してくるようだった。

 キリエスはやはり全く動じた様子を見せない。

 レンが後ろの三人の様子を確認すると、ディアナは怖がっているようだったが、さすがというべきか、ゼルドは無表情を保っているし、リゲルも平気な顔をしている。

 そんな二人――特に子供のリゲルが平気な顔をしているのを見て、レンはびびっている自分が情けなく思えた。

 異世界に来て多少の荒事も経験したが、元は平凡なサラリーマンである。ヤクザの事務所に乗り込むようなこの状況で、びびるなというのが無理だ、というのは自分でもわかっているのだが……

 ガー太がいれば、と思った。ガー太に乗っていれば、冷静さを保っていられる自信があった。だが、ガー太に乗って犯罪ギルドの拠点に乗り込むとか、大騒ぎになるのがわかりきっている。殴り込みをかけるとかなら話は別だが、今日は一応話し合いに来たのだ。ここはガー太に頼らずがんばるしかない。

 屋敷に入ろうとしたレンたちだったが、ここで一悶着あった。


「お前らはここまでだ」


 玄関でダークエルフの三人が止められたのだ。

 レンが文句を言おうと口を開く前に、キリエスが言った。


「こいつらも俺の連れだ。一緒に入るぞ」


「ちょっと待って下さい。いくらなんでもダークエルフが一緒っていうのは」


 犯罪ギルドのメンバーの一人が反論した。

 警備隊の百人隊長、そして連れの人間まではいいとして、見知らぬダークエルフなどを入れてたまるか、といったところだろう。


「どうせここにいるのはダークエルフ以下のクズばかりだろ? 今更ダークエルフが入ろうがどうしようが、気にする必要なんてないじゃねえか」


 挑発するようなキリエスの言葉に、男たちの顔が引きつる。必死に怒りをこらえているようだ。

 本当にキリエスさんは犯罪ギルドが嫌いなんだな、とレンは思った。

 もちろんレンだって好感を持ってはいないが、それは聞いた話によるものだ。誰かを嫌いになるためには、ある程度その相手を知らないといけない。今まで犯罪ギルドと関わることがなかったレンは、強く嫌うだけの情報を持っていなかった。

 だがキリエスの方は、さっきからやたらと好戦的である。立場上、それが当たり前なのかもしれないが、ギスギスした空気にレンは緊張しっぱなしだ。


「一応、こっちにも立場ってものが――」


 男はまだダークエルフを入れるのを渋っていたが、


「それ以上ゴチャゴチャ言うなら帰るぞ。警備隊の百人隊長を追い返して、無事ですむと思うなよ?」


「……わかりました」


 男がしぶしぶとうなずいた。立場はキリエスの方が上なのだ。最初から勝負は決まっていたといえる。

 これでリゲル、ディアナ、ゼルドの三人も一緒に屋敷に入ることができたが、犯罪ギルドの男たちは、レンを含めた四人をものすごい目でにらみつけてきた。

 いや、僕は何も言ってませんよ!?

 と言いたいレンだったが、キリエスに文句を言うつもりはなかった。むしろ彼の言葉には感謝していた。乱暴な物言いだったが、ダークエルフを同行者として平等に扱ってくれたのだから。

 多分、ダークエルフのことを考えたんじゃなく、単に犯罪ギルドの人たちが気に入らないから反発しただけだろうけど。

 それでもこうして一緒に入れた。これがレン一人だけだったとしたら、はたして同じように強硬に主張できたかどうか自信がなかった。

 レンたち五人は、そのまま応接室らしい部屋に案内された。

 部屋には数人の男がいたが、一人だけソファーに座っていた男がいた。少し小柄な中年男性だ。周りにいるギルドメンバーがごつい男ばかりなので、余計に小さく見える。

 だが体格小さくても、男には妙な迫力があった。おそらく彼がギルドのボスだろう、とレンは思った。


「百人隊長のキリエスさんですね? ここを仕切っているトルノ・サイアスと申します」


 座ったまま挨拶する男――トルノの言葉を聞いて、レンはおやっと思った。

 やはりこの男がここのボスのようだが、気になったのは男の名前だ。ギルドと一緒の名前だった。

 犯罪ギルド・サイアスの名前は、彼の名字から取ったのだろうか、などとどうでもいいことを考えていた。

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