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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第120話 味覚

 出てきた料理は鳥肉と野菜の炒め物だった。ここにいる五人分なのか、大皿でどんっと出てきた。取り皿もちゃんと五枚出てきた。

 トッコルという鳥の肉らしい。残念ながら実物がどんな鳥なのかは知らなかった。


「うまい」


 一口食べたレンが思わずつぶやく。


「そうか。じゃんじゃん食べてくれ」


 笑いながらキリエスが言う。


「いただきます。みんなも食べよう」


 レンの言葉にダークエルフたちも次々と料理を口に運び、やはり「おいしい」という言葉が飛び出す。

 味はピリ辛風味だった。鳥肉と一緒に何種類かの野菜が炒められているが、それらがこの味を出しているようだ。ハーブっぽいというか、ちょっとクセのある味もする。

 正直に言えば、もしこの料理が日本で食べられるとしても、わざわざ食べたりはしないと思う。出されたら食べるが、別に自分から食べたいとは思わない――そんな味だ。

 だが今はこれがとてもおいしい。

 砂漠のオアシスみたいなものだ。異世界に来て一年以上たつが、これまで単調な塩味ばかりだったので、この料理がとてもおいしく感じられる。間違いなく、この世界に来てから一番うまい食べ物だった。

 料理は他にもパン、サラダ、スープなどが出てきた。

 パンはやっぱり固かったが、それでもいつも屋敷で食べているパンよりも香ばしくておいしい。屋敷のパンは日持ちを優先した固いパンだが、ここのパンは固いといってもそれよりは柔らかい。保存優先か味優先か、その差が出ているのだろう。


「食ってばっかりだが、一杯どうだ?」


 キリエスは大皿の料理には手をつけず、自分の分は別に注文していた。

 それと一緒に飲み物も注文していて、それをレンに勧めてきた。瓶に入った酒のようだった。


「お酒ですか……」


「飲めるんだろ?」


「多分ですけど」


「なんだそりゃ。自分のことだろ」


 他人事のようなレンの答えがおかしかったのか、キリエスが笑う。

 だがレンは今の自分が酒を飲めるかどうかわからなかった。この世界に来て、酒を飲んだことがないからだ。

 日本にいた頃のレンはほとんど酒を飲まなかった。完全な下戸というわけではない。あまり強くもなかったが、それよりお酒を全然おいしいと思わなかったからだ。

 ごくまれに付き合いとかでビールを飲むこともあったが、その時も嫌々ながら飲んでいたのだ。

 ここで断るのはやっぱり失礼だよな、とレンは思った。

 酒の席のルールというのは、どこの世界でも同じようなものだろう。それが嫌なのだがしょうがない。未成年というのも関係なさそうだし。


「じゃあ一杯」


 コップを持つと、そこにキリエスが注いでくれた。

 酒の見た目はワインのような、というかワインにしか見えなかった。


「ぶどう酒ですか?」


「そうだ。俺はこれが一番だな。もしかして苦手か?」


「いえ、そんなことは」


 この世界にもブドウがあるんだな、と思った。ちなみにこの世界の言葉でブドウはバウドという。ちゃんとその言葉もレンの頭の中にあった。

 注がれたワインを一口飲んでみたが――意外なことにおいしかった。

 もう一口飲んでみるが、やはりおいしい。


「おいしいですね」


「なんだ、いける口じゃないか。どんどん飲め」


 つがれたワインを飲みながら、どうやら味覚が変わっているようだと思った。

 日本でのレンは、何度かワインも飲んだことがあるのだが、これも他の酒と同様、おいしいとは思えなかった。

 安いワインだったからかもしれないが、ここで出ているワインも高級品ではないだろう。

 今のレンの体がワインをおいしいと感じているのだ。しかも今の体は酒にも強いようで、ワイン数杯では全然酔わなかった。

 料理だけでなく、お酒もおいしくいただいて、レンは満足しながら店を出ようとしたのだが、


「おいしかったです」


「ありがとうございます」


 最後にレンは店主にそう伝えたのだが、向こうの返事は微妙だった。

 口ではお礼を言っているのだが、顔は迷惑そうだった。

 そんなのはいいから早く出て行ってくれ――無言でそう言われているような。

 やっぱりダークエルフは歓迎されてないんだな、と思うと、おいしい料理を味わえたうれしさが消えていく気がした。


「それじゃあ、ここまでだな」


 店を出たところでキリエスとは別れることになった。

 彼はこれか警備隊の詰め所へと戻り、レンも郊外の家に帰るため、街の門へと向かう予定だ。


「お前の捜し物だが、何かわかったらガトランを通じて知らせよう」


「よろしくお願いします」


 キリエスと別れたレンたちは、ひとまず大通りへと向かう。方角はキリエスに教えてもらった。大通りに出れば、外門へはそのまま歩いていけばいい。

 教えられた方へと進むと、すぐに大通りにぶつかった。

 朝来たときもそうだったが、今も人通りが多い。


「やっぱりすごい人ですね」


 とリゲルたちも感心している。

 レンはその人込みを見ながら、ここで商売できないだろうか、と考えていた。

 王都に来て実感したが、ここにはヒト・モノ・カネが全て集まっている。ジャガルの街も大きな街だが、ここは規模が違う。

 ここで商売ができれば、ダークエルフたちの働き口も大幅に増えるだろう。

 ジャガルの街へ帰ったら、マルコに相談してみようと思った。

 もっともマルコはあちこちを旅してきたそうだから、王都の賑わいについても知っているはずだ。

 レンが言わなくても、とっくに計画済みかもしれなかった。




 レンが王都近郊の家に帰ってきたのは、夕方近くになってからだった。

 あれから王都を出たレンたちは、帰りにも警備隊の駐屯地によって、ガトランに頼み事をしてきた。

 家で使う日用品や、食べ物などについてだ。

 最初は自分たちで買い出しに行けばいいと思っていた。今日の帰りにも、どこかの店によってみようかと思ったのだが……

 実際に買おうと思うと、どの店に入っていいのか全然わからない。

 日本のスーパーやコンビニみたいに、色々な商品が並んでいて、好き勝手にそれをカゴに入れて、みたいな店があればよかったのだが、そういうお店はないようだ。基本的に個人商店ばかりで、そういう店には入りづらかった。

 手当たり次第に店に入って話をして――とやればいいのかもしれないが、レンはそういうのが苦手である。

 ダークエルフたちに頼むという手もあったが、彼らの場合、入店を断られる可能性が高い。

 というわけでガトランに頼んでみることにしたのだ。


「わかった。じゃあ出入りの商人に話をしといてやるよ」


 警備隊の駐屯地には、何人か商人が出入りしていた。隊員たちの食料や衣類だけでも、それなりの商売になる。

 そんな商人を紹介してもらうことになった。

 ガトランの紹介なら大丈夫だろう、とレンも安心して家に帰ってきた。


「お帰りなさいレン様」


 家に帰ると、別行動を取っていたゼルドたちがすでに戻ってきていた。


「そっちの話し合いはどうでしたか?」


 レンはさっそくゼルドに訊ねた。今日は犯罪ギルドのダークエルフと会う予定だったはずだ。


「話し合いは上手くいきました」


「何か問題でも?」


 上手くいったというわりには、ゼルドの表情が曇っている気がした。


「いえ、そんなことはありません。盗品について調べてみる、とのことです」


「まずは最初の一歩ってところですね」


 レンの方は表の王都警備隊から、ダークエルフたちは裏の犯罪ギルドから。これで目当ての情報が見つかればいいのだが、と思った。


「それでレン様。今日会ったダークエルフなのですが、一度レン様にお会いしたいとのことなのですが」


「いいですよ。いつですか?」


 レンはあっさり答えた。頼み事をする相手だ。一度、直接会っておくべきだろうと思った。


「レン様がよろしければ、明日の朝、ここに来るそうです」


「わかりました。じゃあ明日はとりあえず、その方を待っていればいいですね」


 犯罪ギルドのダークエルフ、どんな相手だろうかと思った。

 これが人間ならもっと緊張したと思うが、相手がダークエルフだからだろうか、あまり不安に思ったりはしなかった。

 人間とは違い、何をしていてもダークエルフはダークエルフ、という安心感があった。


「そういえば向こうの方とゼルドさん、どっちの序列が上でした?」


 一番重要なことを思い出した。これが上か下かで話が大きく変わってくる。


「向こう、ルーセントという名前ですが、彼の方が私より序列が上でした」


「そうですか……」


 これはもしかして問題になるかな、とレンは初めて不安に思った。

 ゼルドの方が序列が上なら何の問題もなかった。しかし向こうの序列が上だと、レンの頼みを断られる可能性がある。

 明日の話し合いは大事だな、と思った。

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