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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第118話 いたずら

「これから何か予定はあるのか?」


 話が一段落したところで、キリエスが聞いてきた。


「いえ、特には。せっかく王都に来たので、色々見て回ろうかと思っていますが」


「だったらちょっと野暮用に付き合ってもらえないか?」


「野暮用ってなんですか?」


「これからちょっと行くところがあってな。で、よければ荷物運びを手伝ってほしいんだが」


「別にいいですけど……」


 隊長なんだから、部下の兵士を使えばいいのにと思ったが、これからの付き合いのことも考え、手伝うことにする。


「そこのダークエルフ。この荷物を運んでくれ」


 キリエスの言う荷物は、縦横五十センチぐらいの木箱だった。それをロットに運ぶように命じる。彼はキリエスの部下ではなくレンの部下だったが、相手がダークエルフだからか、さも当然というように命令した。

 文句を言うべきだろうか? とレンは思った。だがここではキリエスの行動が当たり前なのかもしれない。貴族がダークエルフに命令して何が問題なのか、それに文句を言ってもわかってもらえないかもしれない……などと思っているうちに、ロットの方が動いた。


「失礼します」


 彼は当たり前のように命令に従い、両手で木箱を持ち上げる。


「一人で大丈夫?」


「はい。中は軽いので余裕で持てます」


 レンの問いに答えるロットには、無理している様子はない。元々身体能力も高いし、彼一人に運んでもらうことにした。


「じゃあちょっと一緒に来てくれ。すぐ近くだ」


 キリエスが向かったのは、詰め所の近くにある商店だった。衣服や雑貨などを扱っている店のようだ。


「店の中に運んでくれ。すまないが、レンはここでちょっと待っててくれるか」


「わかりました」


 キリエスとロットが中に入り、レンは言われた通り店先で待つことにした。

 商品の衣服などを眺めて時間をつぶしていると、いきなり横から声がした。


「おいおい、なんかくさいと思ったらダークエルフがいるぞ」


 声をかけてきたのは三人組の男だった。言葉も態度も典型的なチンピラだった。にやついた笑いを浮かべて、レンたちの方を見ている。

 関わり合いたくないな、と思ったレンは無視することにした。リゲルとディアナも黙っている。レンが何か言わない限り、二人とも黙ったままのようだ。

 こちらが無視していれば、すぐに通り過ぎて行くだろうと思ったのだが、男たちはレンの前までやって来て、そこで立ち止まった。


「おい、そこのダークエルフのガキ二人とお前。お前らに言ってるんだよ」


 男たちはレンの方をにらんでくる。

 これは、もしかしなくてもケンカを売られているようだと思った。そんな心当たりはなかったが、ダークエルフというだけで、こういうことになるのだろうか。

 レンはケンカとか、そういうもめ事に慣れていない。まだ魔獣と戦う方が慣れているぐらいだ。魔獣相手なら問答無用に戦うだけだが、人間から街中でいきなりケンカを売られた場合、どう対処すべきだろうか。

 日本にいた頃のレンなら、男三人に絡まれたら恐怖で震えていただろうが、今はあまり怖くない。リゲルやディアナが一緒だし、色々と経験して度胸もついた、ということだろう。

 とはいえ元の性格は変わっていない。レンはケンカを進んで買うような性格ではなく、謝ってすむならそちらを選ぶような人間だ。人間相手のトラブルはできるだけ起こしたくない。

 ここはキリエスさんを呼ぼうと思った。警備隊の百人隊長なら、こういうトラブルの専門家だ。

 店の中を見てみるが、キリエスはまだ出てこない。だったら大声で呼ぼうと思ったのだが、その前に男たちが動いた。


「おい、聞いてるのか!?」


 男たちの一人が、レンの胸ぐらをつかもうと手を伸ばしてきた。

 その手をリゲルが横から素早くつかみ、ひねりあげる。見た目は子供でも、彼の力は人間の大人に匹敵する。


「イテテテッ!」


 男は悲鳴を上げて身をよじった。


「このガキが!」


 もう一人の男がリゲルに殴りかかろうとするのを見て、反射的にレンは動いていた。彼をかばおうと前に出たのだ。

 殴られる、と思ったのだが、さらにそこへディアナが割り込んだ。

 彼女の動きも反射的だった。だから全く手加減をせず、全力で男を殴りつけることになった、というか殴るというより、振り上げた手が男の顔面に当たったというのが正しかった。

 ディアナの力はリゲルより強い。人間の大人どころか、ダークエルフの大人にも匹敵するのだ。そんな彼女の全力の一撃を顔面に食らったのだから、男が無事ですむはずがなかった。しかも男は前に出ようとしていたので、一撃はカウンター気味に炸裂した。


「へごッ!?」


 奇妙な悲鳴を上げ、顔面を殴られた男の体は空中で一回転、そして地面に落ちた。受け身などとれるはずもなく、男は地面に倒れたままピクピクと痙攣している。

 レン、リゲル、そして相手の男二人も、驚いてピタリと動きを止めた。ディアナも目を見開いて固まっている。これをやった彼女が一番驚いていた。

 さらにもう一人、驚いている男がいた。キリエスである。

 彼は店の物陰から一部始終を見ていた。それどころか一連の騒ぎは全て彼の仕込みだった。レンにケンカを売ってきた三人は街のチンピラだったが、それをけしかけたのは彼だった。

 ちょっとしたいたずらのつもりだった。思い付いたのは、昨日のガトランとの会話がきっかけだった。

 昨日たまたま会った彼からは、他言するなと念押しされてから、事件の一部始終を聞かされた。


「じゃあ今回の大手柄は、全部そのレンって男のおかげってわけか?」


 話を聞き終えたキリエスは、冗談めかしてガトランに訊ねた。


「それ本当に向こうが言い出したのか? お前が脅して手柄を独り占めしたんじゃないだろうな?」


「できるわけないだろ。向こうはダークエルフばかりだったが、練度は明らかにこっちの兵士より上だった。ハウンド相手に互角に戦っていたんだぞ。特に化け物みたいに強いガキが一人いてな。ハウンドどころか、超個体相手に一対一で互角に戦うような化け物だ」


「へえ……」


 キリエスは話半分で聞いていた。大げさに言っているんだろうと思いながら。

 ここで彼はガトランから、レンに協力してくるように頼まれた。そのレンという男に興味がわいたので、彼は頼みを引き受けた。気に入らない相手なら、適当にはぐらかせばいい。

 実際に会ってみると、なるほどかなりの実力を持っていそうだった。

 キリエスも百人隊長になった男だから、剣や格闘術にはそれなりの自信がある。その彼から見ても、レンの体は相当鍛えたものだった。まだ若いが、かなりの力自慢と見た。

 一緒にいたダークエルフの男もただ者ではない。動きにまるで隙がなかった。

 こんな連中ばかりなら、本当にハウンドと互角に戦えるかもしれないと思った。そうなると気になるのは、化け物のように強いという子供のことだ。

 レンは子供のダークエルフを二人連れていた。どちらかがその化け物なのだろうが見ただけはわからない。どの程度の実力なのだろうか。

 気になったキリエスはちょっとしたいたずらを思い付いた。

 別に急ぎではなかった荷物運びをダークエルフにやらせ、商店まで向かうことにする。店に着いたキリエスは倉庫に荷物を運ばせて、そこの整理までダークエルフにやらせた。これである程度の時間が稼げる。

 裏口から店を出たキリエスは、そこで適当な連中を捜す。見つからなければあきらめるつもりだったが、都合よく三人組のチンピラを見つけた。小金のために何でもやるようなクズだったが、今回はちょうどいい。


「おい、お前ら」


「あ、キリエスさん」


 三人は慌ててキリエスに頭を下げた。王都警備隊の百人隊長であるキリエスは、このあたりのワルたちにも顔を知られている。彼らのようなチンピラが決して逆らってはいけない相手だった。もし不興を買ったりすれば、どんな目にあうかわからない。


「お前ら、ちょっと小遣い稼ぎをしてみないか?」


 キリエスは三人に小銭を渡し、レンたちに因縁をつけるように命じた。一発か二発、殴る程度にしておけと釘は刺しておく。このチンピラたちが一対一でレンに勝てるとは思えないが、こちらは三人いる。これであのガキ二人の実力が見られるだろうと思った。

 後は店に戻り、物陰から様子を見ていたわけだが……

 確かに化け物だな、とキリエスは思った。

 ディアナについての感想である。

 レンを殴ろうとした男を、カウンターで殴り飛ばしたあの動き。横から見ているキリエスでさえ、目で追うのがやっとだった。殴られた男は、わけもわからず気を失っただろう。もしかしたら死んだかもしれない。別にクズが一人や二人死んだところで、キリエスは気にしなかったが。

 あいつらは何者だ?

 俄然興味がわいたキリエスだったが、とにかくこの場を収めようと出て行くことにした。彼らの実力はよくわかった。


「お前ら、何をしている!」


 店から出てきたキリエスは、三人組に向かって怒鳴り声を上げた。

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