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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第116話 格差

 王都到着二日目の朝は快適だった――昨日までと比べての話だが。

 昨日まではずっと野宿だったが、昨夜は久しぶりに家の中で眠ることができた。粗末な家だったが、やはり屋根があると無いとでは全然違う。

 ただ残念ながら布団がなかった。今日は食料と合わせ、布団などの日用品も買い出しに行くつもりだった。

 王都にどれだけ滞在するか、まだちゃんと決めていなかったが、最低でも一週間ぐらいはいるつもりだ。だから必要最低限の寝具などは買いそろえるつもりだった。

 その先のことは調査の結果次第だ。盗賊たちの手がかりが全く見つからなければ、あきらめて帰ることも考えるべきだろう。


「では我々は先に出ることにします」


 夜が明けてからしばらくして、まずゼルドたちが家を出た。

 彼らはバラバラに行動し、王都に暮らすダークエルフたちと会って情報収集を進める予定だ。特にゼルドは今日、犯罪ギルドに入っているダークエルフと会う予定になっている。手がかりを期待したい。

 ダークエルフたちがまとまって行動すると、余計な目を引く恐れがあったため、ゼルドたちは一人ずつ家を出て行った。

 シャドウズ十人のうち、外出したのは八人だ。残った二人のうち、一人はレンの護衛として一緒に行動する。もう一人はここで留守番だった。

 留守番は他にもいた。ガー太とカエデである。

 ガー太に乗ったまま王都へ行けば大騒ぎになってしまう。だからガー太にはここで待っていてもらうしかなかった。ちょっと心細いがしょうがない。

 カエデの方は銀色の髪が問題だった。

 基本的に差別され、毛嫌いされているダークエルフだが、まれにエルフの身体的特徴を持ったダークエルフが生まれることがある。ダークエルフを差別しているくせに、そういうダークエルフなら大金をはたいても手に入れたい人間が多いらしい。

 ダークエルフを人として扱わず、珍獣や珍品扱いしているようで気分が悪いが、事実は事実として受け止めなければならない。事実、カエデの銀の髪を見て、買いたいと言い出した者もいたのだから。

 屋敷で暮らしているときは別に問題なかったが、人がたくさんいる街にカエデを連れて行くと、いらぬ問題を引き起こしかねない。だから出かけるときは髪を染めなければ、と思っていたのだが、今回は慌てて出てきたのですっかり忘れていた。

 銀髪のままのカエデを王都へ連れて行くのはまずいだろう、ということになって、ガー太と一緒に留守番してもらうことになった。シャドウズの一人はそのお目付役として残ってもらう。


「じゃあカエデ。一人で遠くに行ったりしちゃダメだからね」


「はーい」


 最初は一緒に行くと言っていたカエデだが、髪を染めなきゃダメだと言うと、じゃあ行かない、ということになった。

 以前は髪を黒く染めていたこともあったようだが、どうやらかなり嫌なようで、レンが言っても断固拒否だった。

 こうしてレンはカエデたちを置いて家を出た。一緒に来るのはリゲルとディアナ、そしてシャドウズのダークエルフが一人――彼の名前はロットという。

 四人は王都に向けて出発しようとしたが、ちょうどそこへ来客が現れた。


「誰かこちらに来ます」


 ロットが警告するように言う。レンも言われて気付いた。誰かが道を歩いて家の方に向かって来ている。近くには他に家もないので、ここに向かって来ているのだろう、と思ったレンはその場でしばらく待つことにした。


「レン様でしょうか?」


 やって来たのは二十歳ぐらいの若い男性だった。


「ガトラン隊長から言われて来たのですが」


「僕がレンですけど、何かご用ですか?」


「ガトラン隊長からことづけを預かっています。話したいことがあるので、警備隊の駐屯所まで来てもらえないか、とのことなんですが……もしかして、どこかへお出かけですか?」


「いえ、大丈夫ですよ」


 買い出しに行くつもりだったが、それよりガトランの話の方が重要だと思った。

 予定を変更し、レンたちは男の案内で駐屯所へと向かった。

 リゲル、ディアナ、ロットの三人も一緒だ。

 歩くこと一時間ほど。

 王都警備隊の駐屯所は、王都の外れにあった。

 王都ロキスは石造りの外壁に囲まれた城塞都市だ。だが多くの人が王都へと集まった結果、外壁の中に収まりきれなくなって、街は外へと膨張した。今では壁の外にも多数の家が建ち並んでいる。

 また王都は川縁にあったが、その川を渡った向こう側にも市街地が形成されていた。

 王都が外壁の中の街だけを指すのか、壁の外の街まで含めて王都というのか、きっちりした定義は存在しておらず、その場その場での使い分けだった。

 ガトランがいる王都警備隊の駐屯所は街の外れにあったが、ここでいう街は壁の外に広がる街のことだった。

 ガトランは王都警備隊には、壁の中を担当する内回りと、壁の外を担当する外回りがあると言っていたが、外回りを担当する部隊の駐屯所は壁の外にあった。

 駐屯所は高い石造りの壁に囲まれていた。広さもかなりあって、レンは前に住んでいた屋敷を思い出した。あそこは元々砦として使われていたそうだが、ここもいざという時は砦として使われるのだろうか。

 正門のところには見張りが立っていたが、案内してくれた男が軽く言葉を交わすと、問題なく通してくれた。

 だが見張りは三人のダークエルフを見て、なんだこいつらは? といった顔をしていた。やはりダークエルフはあまり歓迎されないようだ。

 駐屯所の建物も石造りで、三階建てだった。外観に装飾などはなく、実用一点張りといった感じの頑丈そうな建物だった。やはり砦として使うことを想定しているようだ。

 レンたちはそのまま建物の中へ案内された。途中、何人かの兵士とすれ違ったが、みんな見張りの兵士と同じようにリゲルたちのことを、うさんくさそうな目で見てきた。


「ここで待っていただけますか。すぐに隊長を呼んできます」


 通されたのは建物の一室だったが、部屋も建物の外観と同じで飾りっ気がなく、単にテーブルとソファーだけが置かれていた。

 ガトランはすぐにやって来た。


「わざわざ来ていただいて申し訳ない。そしてまずは昨日の非礼をお詫びしたい」


 会って早々、いきなり頭を下げられてしまった。


「ちょっと待って下さい。何か謝られるようなことがありましたっけ?」


「昨日、あれからオーバンス伯爵家について、ちゃんと調べてみたのです」


 やけに丁寧な口調でガトランが言う。


「失礼ながら、私はあなたのことを自分と同じような境遇だと誤解していました。ですがオーバンス伯爵家は立派な貴族の家で、あなたはそこのご子息だ。最初にそう言って下さればよかったのに」


 そういうことか、とレンは思った。

 同じ貴族同士でも、彼よりレンの方が上の身分になる、ということのようだ。

 本当に貴族というのはややこしいと思った。もちろん日本にも色々な上下関係は存在していたが、ここまであからさまではなかった。


「オーバンス伯爵家について調べたなら、僕のことも調べたんじゃないんですか?」


「すみません。時間がなく、そこまではまだ」


「僕はオーバンス伯爵家の人間ですけど、勘当同然で家を追い出されているんです。ですから、そんなに気を使っていただかなくても大丈夫ですよ」


「本当ですか?」


「調べてもらえばわかります。ですから普通にしゃべって下さい。必要以上に丁寧にされても、なんだか居心地が悪くて」


「……本当にいいのか?」


 念押しするようにガトランが聞いてくる。


「ええ」


「わかった」


 そう言ってガトランは、フーッと大きく息を吐いた。


「正直言って、堅苦しい話し方は俺も苦手でな。なにしろ家が貧乏貴族なんで、礼儀作法を知らないんだ」


 ガトランが昨日と同じ態度に戻った。

 レンもこちらの方が気が楽だった。


「それにしても、ちゃんとした貴族なら最初にそう言っておいてくれ。オーバンス伯爵家のことを知って血の気が引いたぞ」


 大げさでもなんでもなく、ガトランは真っ青になったのだ。

 もしや何かの罠か? とまで疑った。

 例えば、だ。

 昨日、ガトランは上司に魔獣の群れを倒したことを報告した。レンの提案に乗っかり、彼の名前は出さず、ダークエルフの集団に助けられた、とだけ報告した。

 上司はガトランを大手柄だとほめる一方、助けてくれたというダークエルフのことは、あまり気にしなかった。

 助けてくれたのが人間なら、その相手を探し出せ、と言われていたと思うが、ダークエルフなら放っておいてもいいか、ということだ。

 だが、もしここでレンが名乗り出てきて、


「手柄を横取りされた」


 などと言い出せばどうなるか。

 レンから手柄を譲ると言い出した、なんて言葉は通用しないだろう。ガトランは手柄を独り占めしたと糾弾され、そのまま王都警備隊をクビになるだろう。

 いくらなんでも荒唐無稽な想像、というのはガトランもわかっていた。

 ガトランに何かしたいなら、そんなまどろっこしい手を使う必要はないからだ。というか、あの場で見殺しにすればよかっただけだ。

 じゃあ他に何か目的があるのか?

 なんてことを考え出すと、昨夜は疲れているのによく眠れなかった。

 大手柄を上げたと思ったら、大きな不安もついてきてしまった。

 本当なら、今朝起きてすぐにレンのところに飛んでいきたかったが、昨日の事後処理などで朝から仕事が立て込んでしまい、どうしても外出できなかった。

 それでこうしてレンに来てもらったわけだが、はたして勘当されたという今の話は本当だろうか?

 家とつながりが薄いなら、レンの貴族らしくない態度もうなずけるが……

 後でちゃんと調べるつもりだが、とりあえず目の前の本人にはガトランの態度を気にする様子はなかったので、このまま開き直って普通でいくことにした。


「わざわざ来てもらってすまないな。俺の方から行くつもりだったんだが、昨日の今日で、色々と立て込んでいてな」


「わかります。色々と大変みたいですね」


 魔獣の群れを倒したとはいえ、多数の死傷者も出ているのだ。色々と事後処理があるのだろう。それぐらいはレンもわかる。


「そんな忙しいところに僕を呼んだって事は、何かあったんですか?」


「昨日のことを謝ろうと思ってな」


「それはもういいですから」


「わかってる。用件はもう一つある。知り合いを紹介すると言っていただろう? 昨日あれから、たまたまそいつと会ってな。都合を聞いたら今日会えるそうだ」


 オーバンス伯爵家のことを知る前のことだ。先に知っていたら、とてもそんな約束をしている余裕はなかっただろう。


「警備隊の内回りの方でしたっけ?」


「そうだ。名前はキリエス・モンド。俺と同じ百人隊長で、家が土地を持たない貧乏男爵家なのも同じだ。お前のことはしっかり頼んでおいた。もし都合がよければ、これから会いにいけるが?」


「ありがとうございます。それじゃあこれから会いに行こうと思います」

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