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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第113話 仲間意識

 呆気にとられた、というのがガトランの心境だった。

 部隊を率いてハウンド退治に来たのはいいが、予想より多かった敵の数に圧倒され、いよいよ死を覚悟したその時、どこからともなく助けが現れた。

 そして、その助けがただ者ではなかった。色々な意味で。

 現れたのはガーガーに乗った男と、十人ほどのダークエルフの集団だった。しかもこのダークエルフたちが強かった。

 特にすごかったのが一人の子供だ。二本の剣を振り回し、次々とハウンドを倒していった。そしてそのまま群れを率いていた超個体まで倒してしまった。

 この目で見ていたのに信じられないぐらいだったが、気が付けばハウンドは全て倒されていた。

 助かったのだ――そう思うと、心の底から喜びがこみ上げてきた。だがそれと一緒に大きな疑問も浮かび上がってくる。

 あいつらは一体何者だ?

 ガトランはガーガーに乗った男の方へと歩み寄った。


「助けてくれて感謝する。俺は王都警備隊のガトランだ」


 頭を下げて挨拶してきたガトランに対し、レンもガー太から降りて挨拶を返す。


「無事でなによりでした。僕はレンといいます」


 まだ子供じゃないかとガトランは思った。さっきまでは気付く余裕もなかったが、あらためて見れば十代後半ぐらいの少年だ。体格は立派で、服の上からでも鍛えているのがよくわかる。弓の腕も見事だったし、かなりの武芸者とみた。

 だが、やはり気になるのは個人としての実力よりも、この少年が率いているダークエルフたちについてだ。なによりあのガーガーが気になる。

 ……ガーガーだよな?

 ガーガーだとばかり思っていたが、臆病なはずのガーガーのくせに、やけに堂々としているし、体格もなんだかガッシリとしているような……。だがあれがガーガーでなければ、なんなのかわからない。

 それらを含めてこの少年が何者なのか、大変興味があったのだが、残念ながら今はそれを確かめるより先に、やるべき事があった。


「ちゃんとお礼もしたいし、聞きたいことも山ほどあるんだが、その前に部下の安否を確認しないといけない。悪いがしばらくここで待っていてもらえるか?」


「でしたら僕らも協力しますよ」


「頼めるか?」


「はい」


 林の中で戦って敗走したため、警備隊の兵士はバラバラになっていた。何人が生き残っているかもわからない。

 レンたちは彼らの捜索に協力した。

 林の中にはまだ生き残っていたハウンドが何体かいたが、それらも全て倒した。

 捜索は一時間ほどでひとまず終了したが、それでわかったのは甚大な被害だった。

 ガトラン率いる王都警備隊は、五十人ほどでここへやって来たが、戦闘による死者は十八名、負傷者は十七名となった。無傷の者はほとんどいない。

 負傷者の中には、もう助からないと思われる重傷者もいるので、死者の数はさらに増えるだろう。

 さらに十人近い行方不明者がいる。

 どうにか逃げ延びていてほしいが……と思ったガトランだったが、それが難しいこともわかっている。おそらく林の中で遺体になっているだろう。この後、人員を増やして、もう一度林の中を捜索する予定だ。それでさらに死者の数は増えるだろう。

 だがこれだけの犠牲を払ってなお、今回の戦いは我々の大勝利だとガトランは思った。

 犠牲と引き替えに、三十体ほどのハウンドの群れを倒したからだ。

 魔獣と戦う場合は三倍の兵力が必要という常識で考えれば、五十人の部隊で三十体のハウンドを倒したのは大戦果といえる。

 群れを放置していたら、その分だけ被害も増えたはずでだから、迅速に動いて倒したという点も評価されるだろう。

 まあ倒したのは俺たちだけの力じゃない、というかほとんどがあいつらの力なんだが……

 ガトランは、レンとダークエルフたちの方へ目をやった。

 捜索も一段落し、部隊は負傷者を連れて帰り始めているが、ガトランはその指揮を部下に任せて、レンたちの方へと歩いていった。彼に話の続きを聞くために。


「助かったよ。重ねて礼を言う」


「いえ、困ったときはお互い様ですから」


「顔色が悪そうだが大丈夫か?」


「ちょっと気分が悪いですけど大丈夫です」


 ガトランが言ったように、レンの顔色は悪かった。

 捜索中、ハウンドに殺された兵士たちの死体を多く見たからだ。

 むごたらしい死体も多く、気分が悪くなるのも当然だった。

 これでもだいぶマシになったんだけどな、とレンは思った。

 この世界に来てから魔獣と戦い、人間やダークエルフの死体を何度も見てきたので、嫌でも慣れてしまった。今回も気分が悪くなったが、吐いたりはしなかった。慣れたからといってうれしいものでもなかったが。


「まず聞いておきたいんだが、レンは貴族なのか?」


「はい。一応、オーバンス伯爵家の三男です」


 やっぱりそうだったかとガトランは思った。

 ダークエルフとはいえ、十人以上の者を引き連れているのだ。貴族か、そうでなければ裕福な商人あたりを想像する。

 ただガトランの目から見て、レンはあまり貴族らしくなかった。

 生まれたときから人の上に立って暮らしている貴族は、自然とそういう上に立つ者の雰囲気をまとうようになっていく。だが彼にはそういう空気を感じない。

 俺と同じようなものかな、とガトランは思った。


「俺はガトラン・コビック。こっちも一応、コビック男爵家の次男だ。もっとも男爵っていっても名前だけの土地なし貴族だが」


 貴族は自分が治める土地を持っているが、没落したりして土地を手放し、爵位だけが残ったという家も結構ある。その多くが貧乏で、コビック男爵家も貴族とは名ばかりの貧乏一家だった。

 とはいえそれでも貴族は貴族。

 次男だったガトランは若いときに家を出て王国軍に入り、三十を過ぎた今では、王都警備隊の百人隊長まで出世した。ここまでこれたのは彼の実力もあっただろうが、やはり貴族の家の出だ、というのも大きかった。


「伯爵家の方に失礼な口を利いてしまって申し訳ない。無礼をお詫びする」


「そんな、気にしないで下さい」


「そうか? じゃあ普通に話していいか?」


「ええ。その方が僕も気が楽です」


「じゃあこれでいかせてもらう。実は俺も堅苦しい話し方は苦手でな。なにしろ貧乏貴族だったから、教養や礼儀が身についていないんだ」


 冗談めかしてガトランは言う。

 レンは伯爵の方が男爵より位が高いとか、そういうことは気にならない。普通の日本人ならそんなものだろう。あんまり偉そうに言われたらムッとくるかもしれないが、ちょっとぐらい乱暴な話し方でも構わなかった。

 ガトランはそんなレンのことを少し誤解した。

 彼はオーバンス伯爵家のことを知らなかった。だから自分と同じ貧乏貴族なのだろうと思ってしまった。これだけの人数を率いているのだから、それなりの領地や収入があるのかもしれないが、それも全員ダークエルフである。

 まともな貴族なら人間を使うはず、という思い込みが彼にもあった。

 それに裕福な貴族であれば、土地なし貴族を見下すものだが、レンにはそういう態度が全く見られない。だから勝手に同類だと思ったのだ。

 もちろんオーバンス伯爵家については、後で調べてみるつもりだった。


「それでレンはなにしに王都まで? しかもこんなダークエルフたちを連れて」


「それなんですが……」


 レンは簡単に事情を説明した。

 取引のある商人の荷馬車が襲われたので、その手がかりを探すために王都までやって来た、と。可能なら犯人を捜し出し、盗まれた荷物を取り返したい――といった具合に。


「なるほどな。確かに王都にはたくさんの盗品なんかが流れ込んでくる。で、王都の中で取引されて、きれいになって外に出て行くわけだが……王都といっても広いぞ? 探すあてはあるのか?」


「少し考えてはいるんですが……」


 レンは言葉をにごした。

 犯罪ギルドと接触するつもりだが、それが世間的にあまりよくないことはレンもわかっている。初対面の人間に言っていいかどうか、ちょっと迷った。


「どうするんだ?」


 ガトランはさらに突っ込んで聞いてきた。

 ここで、それは言えません、ときっぱり拒絶してもよかったのだが、レンはそういうことが苦手だった。ぐいぐい押してくる相手には、ついつい答えてしまう。性格というしかない。


「犯罪ギルドに当たってみようと思ってるんですが」


「それはやめといた方がいい」


 ガトランは顔をしかめた。


「確かに盗品なんかの情報に、一番詳しいのは犯罪ギルドの連中だ。だが一度あいつらに関わったら、ずっと付きまとわれることになるぞ。貸しを作ったり、弱みを握られたりしたら最悪だ。こっちが貴族だろうと関係ない、しゃぶり尽くそうとしてくるような連中だ」


「そこはまあ、こっちも考えているというか……」


 犯罪ギルドに接触するといっても、あくまで犯罪ギルドに所属しているダークエルフに接触するつもりだ。がっつり関係を持つとか、そこまでは考えていない。

 だがそれを全部説明すると、色々とややこしいことになる。ダークエルフの序列とか、そのあたりついては秘密にしておきたい。だからどうしても歯切れの悪い言葉になってしまう。


「そういう甘い考えがつけ込まれるんだ」


 ガトランは厳しい口調で言った。悪意はなく、レンを心配しての言葉だ。事情を知らないので心配するのも当然だった。

 腕自慢の貴族の子供が、軽い気持ちで犯罪ギルドに関わろうとしている、とガトランは思った。魔獣の群れを倒したその実力なら、余程の相手でも引けは取らないだろう。だが犯罪ギルドの連中は、単なる力押しでどうにかなるほど甘くない。粗暴なだけの奴らも多いが、悪知恵の働く奴だっているのだ。


「わかった、助けられた恩返しだ。犯罪ギルドに詳しい奴を紹介してやる」


「え? いや、そこまでしてもらわなくても……」


 ここで人を紹介してもらっても、逆に面倒なことになるのではないか? とレンは思った。だから断ろうとしたのだが、ガトランの方はそれを単なる遠慮と受け取った。


「遠慮するな。俺と同じ王都警備隊の人間がいてな、そいつは顔が広い。あんまりほめられた事じゃないが、犯罪ギルドとの付き合いもある。信用……はあまりできないかもしれないが、頼りにはなる」


「はあ……」


 きっぱり断ってもよかった。だが、それができないのがレンの性格だった。

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