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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第102話 需要

 新しく荷馬車を買うので、それを動かすダークエルフを用意してほしい――マルコからそんな連絡を受けたレンは、すぐに動いた。

 といっても、マルコからの手紙を持ってきたダークエルフに、そのまま黒の大森林の集落へ行ってもらっただけだが。

 ちょっと無駄じゃないかなあ、とレンは思った。わざわざ自分のところに来なくても、直接集落のダールゼンのところに行ってくれればいいのだ。

 だがマルコも、そしてダールゼンも、二人とも直接のやり取りは避け、極力、間にレンを入れようとしているようだった。

 彼らの気持ちもわかる。

 最初に話を通しておかないと、後で何かあったときに困ると思っているに違いない。

 前世のレンも仕事で何度かそういう経験があった。


「何で勝手に話を進めるんだ。そういうのは先にこっちに言ってくれ」


 などと怒られたこともある。

 最悪なのは特にトラブルになっていなくても、


「俺はそんな話は聞いてないぞ」


 と怒り出すような人間だった。

 何にでも口を挟みたがり、もし事前の連絡がなければ自分が軽く見られたと感じて、怒り出すような人間が、きっとこの異世界にもいるのだろう。

 レンはそういうのは気にしないタイプだった。全然何も知らなかった、では困るので事後報告ぐらいはほしいが。

 マルコとダールゼンで勝手に話を進めてくれれば、それだけ自分も楽できる、と思っているのだが、向こうとしてはそういうわけにもいかないのだろう。

 まずは領主の貴族に話を通してから、というのがこの世界の常識らしいので、今のところレンもそれを受け入れていた。

 連絡を送った次の日、さっそくダールゼンが屋敷にやって来た。


「あの人たちですか?」


「そうです。五人連れてきました」


 もし運送屋をやるとして、一台の荷馬車に何人のダークエルフを付ければいいのか? というのを事前にダールゼンとは話し合っていた。

 そこで出した答えが、御者が一人、護衛兼荷物運びとして五人、というものだった。

 はっきりとした根拠はない。

 身体能力高いダークエルフなら、ハウンドのような魔獣に襲われても、三人いれば対処できると思われた。だがそれだとギリギリなので、余裕を見て五人にしよう、ぐらいの決め方だった。

 もし魔獣の群れに襲われたら……というのも考えたが、その時はもうあきらめるしかない、ということになった。際限なく人数を増やすわけにはいかないからだ。

 盗賊を相手にしても、倍の十人ぐらいまでならどうにかなると思われた。それ以上となると、これまたどうしようもないが。

 荷物の積み卸しも、力が強いダークエルフなら五人で十分だろう、ということでひとまず五人に決まった。

 密輸に使用している一台目の荷馬車も、今はこのルールで運行している。最初は御者を入れて四人だったが、今は御者を入れて六人で運用している。実際に働いている彼らからは、六人いればかなり余裕があります、との報告を受けている。

 今回も、ダールゼンはそのルールに従って、五人のダークエルフを連れてきていた。五人とも男性だ。相変わらず全員の外見が若いが、実年齢は不明である。


「御者の人は練習中でしたよね?」


「はい。それはマルコ様も了承済みです」


 人手を用意するに当たって、問題となったのが荷馬車を動かす御者だった。

 護衛や荷物運びは、言ってみれば誰でもできる仕事だったが、御者だけはそうはいかない。

 これが人間の御者ならいくらでもいるが、ダークエルフで御者の経験者というのは非常に少なかった。ダークエルフにはそういう仕事は中々回ってこないのだ。

 一台目の荷馬車の時は、たまたま集落に御者の経験者がいたので良かったが、二人目はいなかった。近くの街でも見つからなかったので、新しく育てようということになった。

 その御者候補生は、数ヶ月前から一台目の荷馬車に同乗して、実地での練習を行っていた。


「あれから詳しい報告は受けていませんが、結構時間もたっているので、大丈夫だと思います」


 御者になるのにどれぐらいの練習時間が必要なのか、レンもよくわからなかったが、数ヶ月あったんだからいけるだろう、と同じように思った。

 御者ができるダークエルフは何人いても困ることはないだろう、ということで、この後も三人目、四人目の御者を同じように育てる予定だ。


「ではよろしくお願いします」


 こうして五人のダークエルフが、マルコのところへ送られた。




 新しい荷馬車を購入し、それを動かすダークエルフも揃ったところで、マルコはさっそく営業活動を行うことにした。

 顔見知りの商人のところに出かけていって、何か運びたい荷物や商品などはありますか? と聞いて回るつもりだった。

 ここからが腕の見せ所だな、とマルコは思った。

 前回はすぐに仕事が見つかったが、あれはたまたまだろうと思っていた。そう何度も都合良く、運ぶ荷物があったりはしないだろう、と思っていたのだが……


「どこへ向かう予定ですかな?」


 最初に訪れた商人から、いきなり好感触を得た。


「いえ、まだ予定とかは決まっていません」


「決まっていない?」


 相手の商人が不思議そうな顔をした。

 普通、荷馬車というのは自分に運ぶ荷物があって用立てるものだ。だからまずは自分の荷物を運ぶ予定があって、そこにまだ空きあるから、運ぶ荷物がないかと聞きに来たのだろう――相手の商人はそう思っていたのだ。


「実は色々あって新しい荷馬車を手に入れたのですが、今は運ぶ荷物がない状態でして。それで何か仕事があれば、とこうしておうかがいに」


「なるほど。でしたらちょうど運んでもらいたい荷物があります。ただ、あまり高い金は払えませんが……」


「そこはもう、お安くさせてもらいますよ」


「運んでもらいたいのは古着や食料などでね。それをバダムの街まで運んでほしいのだが」


 バダムの街は、マルコが今いるジャガルの街から南に四日ほどだ。小高い山の麓にある街だった。


「値段の方は、そうだな――」


 相手の商人が提示してきた値段を聞いて、マルコは安いと思った。

 現状の運賃の相場は、あってないようなものだった。頼む側と受ける側の状況によって、値段は大きく変動する。

 そして荷物の量、運び先を考えると、この値段では割に合わないな、とマルコは判断した。だが彼はその値段に少し上乗せした額を提示し、相手もそれを了承、契約が成立した。

 レンからは、最初は安くても仕事の確保を優先で、みたいな話をされていたので、それに従ったのだ。


「そうだ。一応確認しておきますが、荷物運びはダークエルフがやります。問題ありませんか?」


 相手の商人が、ダークエルフ差別より値段を優先する性格なのは知っていた。

 また運送業については、ダークエルフがやっていてもあまり拒否感をもたれることはなかった。なぜなら運送業は危険で大変な仕事、というイメージを持っている者が多いからだ。そういう仕事はダークエルフにやらせておけばいい、というわけである。

 もちろんダークエルフは絶対に嫌だという者もいる。

 相手の商人はそこまでダークエルフに拒否感を持っていないはずだが、運ぶ荷物や、届け先によっては嫌がるかもしれない。念のための確認である。


「ダークエルフですか……。安いのでそれでもいいですが、ちゃんと信用できるんですか?」


「そこは一応手を打っています。荷物運びのダークエルフたちは、とある貴族様の紹介でして。家族が人質みたいなものなので、滅多なことはしないでしょう」


 新しく来たダークエルフたちについて、マルコは詳しい素性は知らない。相手の商人を納得させるために、そう言っただけである。

 だが嘘を言ったつもりもなかった。

 レンの紹介なのは本当だし、集落には家族だっているはずだ。簡単に裏切ることはないだろうとマルコも思っているし、そうでなければ仕事を任せたりしない。


「それなら大丈夫そうですな」


 相手の商人も納得してくれたようだ。

 この後で詳しい条件などを取り決め、話はまとまった。

 そしてこの商人の店を出たマルコは、次の商人のところへと向かった。

 彼はこの日、六人の商人と会ったが、最初の商人ともう二人の商人が仕事を依頼してくれた。そのうちの一人は、別の商人の紹介である。


「そういえば、ベスタさんが南に行く荷馬車を探してるって言ってたな」


 なんて話を教えてくれたので、そのベスタという商人に会いに行ったのだ。彼は荷物ではなく、人を二人乗せていってほしいと依頼してきた。

 目的地はロガの村。バダムの街から、さらに半日ほど南に行ったところにある。

 最初は仕事があるだろうかと思っていたマルコだったが、予想に反してあっという間に三件の依頼を受けることができた。三件とも安い値段で引き受けたので、儲けはそれほどない。だが引き合いはあるのはわかった。

 領主様の読みが当たっていたかな、とマルコは思った。

 たまたま仕事があった、と考えることもできるが……多分そうではないだろう。

 今日受けた依頼は三件だが、他にも仕事の引き合いがあったのだ。ただ荷物の送り先が全然違ったため、そちらの依頼は断ってしまったが。

 今まで考えたことはなかったが、別の街などへ人や物を運びたいという需要は、確かに存在しているようだ。レンが言っていたように、今までは便利な運送屋がなかったから表に出てこなかっただけで、それを望んでいる者は多いのかもしれない。

 今回の商人たちも、自前で荷馬車を用意するほどではないから、便乗できる荷馬車がないかと探していた。そういう人々の需要を取り込むことができれば……

 この商売、もう少し本腰を入れてやってみるか、とマルコは思った。

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