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異世界の竜騎士……になるはずが  作者: 中之下
第四章 シャドウズ
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第99話 命名

 翌朝、帰りの挨拶をするためダールゼンの家を訪れたレンは、彼の言葉に驚くことになった。


「領主様。昨日言っていた特殊部隊ですが、ゼルドを隊長にしようと思っています。よろしいですか?」


 昨日思い付きで言ったことが、もう実行に移されていたのだ。

 自分の言葉が思っていた以上に重く受け止められてしまった、と思ったレンは、ためらいながら口を開く。


「あの、自分で言っておいてなんですけど、無理する必要はないですよ? 余裕があれば、ぐらいのつもりで言ったので……」


「大丈夫です。ゼルドにも確認をとりました。商隊の方も問題ないとのことです」


「そうですか……」


 だったらいいかな、と思った。

 魔獣と戦うための戦力は、これからも必要になってくるだろう。訓練されたダークエルフの戦闘部隊は、きっと無駄にはならない。

 そしてなによりダークエルフの特殊部隊というのを見てみたかった。


「まずは十人ほどのメンバーを選ぼうと思いますが、次はどうすればよろしいでしょうか?」


「次?」


「訓練をするとのことですが、どのような訓練を行えばいいのでしょうか?」


 聞かれたレンは困った。具体的な訓練方法などわからないが、とにかく思い付いたことを言ってみる。


「走り込みとかして体を鍛えるとか……」


 ハリウッド映画の新兵訓練では、一列になって歌いながら走っていた。とにかく走り込みは基本だろう。


「後は……そうだ。前の屋敷を使って、そこで建物への突入とか、色々訓練するのはどうでしょう?」


 これも映画だったか、巨大なセットを作り、そこで色々と訓練していたのを見た覚えがある。こっちはセットではなく本物で、今もバゼ作りの場所として使われているが、やたらと広いし、ちょっとぐらい訓練に使っても問題ないだろう。

 場所はそれでいいとして、具体的な訓練内容は……ゼルドに色々と考えてもらおうと思った。よくわからないので丸投げである。


「ダークエルフの中には、ちゃんとした兵士として訓練を受けていた人はいないんですよね?」


「傭兵は多いのですが、正式な兵士となると、いないと思います」


 やっぱり訓練内容は、現場で色々と試行錯誤してもらうしかないと思った。手探りでやっていくしかない。

 あるいは、どこかから人を雇ってくるか。今度、マルコにそういう伝手がないか、聞いてみようと思った。


「そうだ。ガー太やカエデに練習相手なってもらうのはどうですか?」


「ガー太様にですか?」


「カエデはよくガー太相手に戦いを挑んでますけど、それで技量が向上したみたいなんです」


 ゼルドがそんなことを言っていた。

 ガー太もカエデも、丁寧な指導はしてくれないだろうが、強い相手と戦うことは、それだけでいい練習になるはずだ。


「ガー太様に練習相手になってもらえれば素晴らしいことですが、我々の相手をしてくれるでしょうか?」


「そこは頼んでみます。まあ、ダメでもカエデがいますし」


 彼女なら、戦いと聞いて嫌とは言わないだろう。こっちはこっちで、ちゃんと手加減するように言っておかねばならないが。

 これで一応の話はまとまった。なにしろ初めてのことなので、とにかく色々やってみて、それからまた考えようということになった。

 そしてレンは、この時に微妙に話がずれてしまったことに気付いていなかった。

 元々、ダークエルフの特殊部隊を作ろうと思ったのは、魔獣との戦闘に備えてのことだった。対魔獣戦のエキスパート、精鋭部隊を作れないか、というところから始まっている。

 ところが今決まった訓練内容は、魔獣とどう戦うかではなく、建物への潜入などがメインになってしまった。これでは、主眼はどう考えても対人戦である。

 思い付きから始まったことで、最初にきっちりと目的を決めておかなかったせいだった。レンが持っていた、特殊部隊への漠然としたイメージも影響し、それでいいだろうとレンも思ってしまった。

 そしてダールゼンの方は、やはり人間相手の戦いを想定しているのだな、との思いを強くした。それも表には出せないような裏の仕事をやらせるつもりなのだ、と。

 こうしてダークエルフの特殊部隊は始動したのだが、最後に一つ、重要なことを決めていないことにレンは気付いた。


「名前はどうしましょうか?」


 特殊部隊といえば名前である。

 グリーンベレーとか、コマンドーとか、レッドショルダーとか、とにかくそういう名前である。

 レンとしては、これは外せなかった。

 だがダールゼンが、そんなレンのこだわりをわかるはずもなく、


「名前が必要ですか?」


「必要です」


 と即答してから、ちょっと考えて付け加える。


「ほら、その方が呼びやすいじゃないですか」


「そうですか」


 ダールゼンはあまり興味なさそうに答えた。彼としては、あってもなくても、どちらでもいいのだ。別にあっても困らないか、ぐらいに思った。


「では領主様が名前を付けてください」


「僕がですか?」


「それは当然、領主様が名付けるべきだと思います」


 言われてレンは考える。

 最初は、どこかの架空の特殊部隊の名前を使おうかと考えた。アニメやゲームにはたくさんの特殊部隊が登場する。

 だがせっかくなので、オリジナルの名前を付けた方がいいかと考え直す。

 色々な候補を思い付くが、これというのがなく、結局最後はシンプルな名前でいこうと決めた。


「シャドウズ、というのはどうでしょうか?」


「シャドウズ? 聞いたことのない言葉ですが、どういう意味なのでしょうか?」


「東方の国の言葉で、影という意味です。シャドウズだと、影たちという複数を意味します」


 まさか英語です、とは言えないので適当にごまかす。そして言ってから、昔そんな名前の時代劇があったことを思い出した。


「影の軍団、でもいいかもしれません」


 あの時代劇の主役は忍者だったはずだ。それもダークエルフたちにふさわしいと思った。

 この国の言葉で、影はエデナというのだが、そちらを使わなかったのは、シャドウズの方が中二病的にかっこいいと思ったからだ。




 こうしてダークエルフの特殊部隊シャドウズが発足した――のが今から三ヶ月ほど前のことだった。

 今はすでに四月だが、一月から今日までの寒い冬の間、シャドウズはずっと訓練を続けてきた。

 一月や二月には雪が降り、つもった日もあった。

 レンは大喜びで、雪の中の露天風呂を楽しんだりしたのだが、そんな雪の日もシャドウズはずっと訓練を続けていた。

 前の屋敷で潜入訓練などを繰り返し、ガー太と戦闘訓練しては蹴り飛ばされ、カエデと訓練しては叩きのめされていたが、傷ついても世界樹の下で眠って回復し、過酷な訓練を繰り返した。

 余談だが、彼らはガー太との訓練をとても喜んでいた。蹴り飛ばされても、笑顔で、


「ありがとうございます!」


 とか言いながら宙を舞っていた。

 ガー太はなんだか気味悪がっていたようだが、そこはレンが頼んで相手をしてもらっていた。おかげで彼らも強くなった――はずだ。

 戦闘技術はともかく、潜入技術ではシャドウズの進歩はめざましかった。

 半月ぐらい前に、実際にその様子を見せてもらったのだが、彼らはかぎ爪付きのロープを使い、外壁を軽々と乗り越えて屋敷へ侵入した。しかもほとんど音を立てずにだ。

 本当に忍者みたいだとレンは感心した。身体能力の優れたダークエルフが訓練すれば、これだけのことができるのだ。

 ちなみにかぎ爪付きのロープは、レンが考案したというか、知っていた形を伝えた。自分で使ったことはないが、どんな物かは知っていた。ダークエルフたちは似たような物を作製し、シャドウズはそれを使って訓練している。

 黒一色の服もレンが言い出した。やっぱり特殊部隊なら黒だろう、ということで。

 今は普通の服を黒く染めているだけだが、いずれ機能性を高めた専用服を作りたいなあ、と考えていた。

 こうして一通りの潜入をこなせるようになった彼らは、次にどうすればいいかとレンに聞いてきた。そこでレンは、


「だったら次はより実戦っぽく、僕のいる屋敷に忍び込むというのはどうでしょう?」


 と提案した。

 前の屋敷は、元は砦だったから、周囲は高い石壁で囲まれていた。一方、新しい屋敷はまだ外壁もない。侵入するだけなら、今の屋敷の方が簡単に思われたが、新しい屋敷にはガー太とカエデがいる。

 この一羽と一人に発見されないように忍び込むのは、かなり困難だと思われたが、やってみるとやはり難しかった。

 以来半月、シャドウズはまだ侵入に成功していない。

 そして今も彼らは厳しい訓練を続けているわけだが、重要なことが決まっていなかった。

 それはそもそもの目的、シャドウズに具体的にどんな任務を与えるのか――それが決まっていない。

 それを決めるべきはレンなのだが、彼の中でも目的と手段が入れ替わっていた。

 つまり何かのために訓練して技量を高めるのではなく、訓練して技量を高めること自体が目的になってしまっていた。悪い言い方をすれば、楽しいオモチャのようになっていたのである。

 これが人間だったなら、彼らの士気は大きく下がっていたかもしない。最終的な目的もわからないまま、厳しい訓練を続けるというのは、人間にとっては難しいことだ。

 自分は何のためにこんな事をしているのか? という疑問を誰もが持つだろう。

 しかしダークエルフである彼らは、上からの命令に従い、文句を言うこともなく、日々の訓練を黙々と続けるだけだった。

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