(5) 一方、物語は作られ始めようとしていた
このようにして、「はに神」とともに、遙かなる時空が出現し、新たな世界が誕生しました。
「はに神」は、まず最初に光と大地、そして「にゃー」を世界にもたらしました。
はい?
出てきた順番がちょっと違う?
最初に光、次に「にゃー」、それから大地でしょうって?
まあいいじゃないですか、細かいことは。
神話なんて、アバウトでいいんです。
そう、これは一応神話です。だって「神」の「お話」ですから。
「え、そうなの?」
そうですよ。一体何だと思ってたんですか。
「いや、他にすることもないから、『はに神』たちを傍観しつつ、それにまつわるとりとめもない思考を、垂れ流しているだけかと」
どこに垂れ流してるんです。
「いや、具体的に場所を答えるのは難しいんだけどさ」
つまり、思考を液体に見立てた、比喩的な表現ということですかね。
「そんな感じかな。だらだら、じょろじょろとね」
なんか、きたならしいですな。
「軽い自虐的表現というやつを、運用してみた」
なんのためにそんなことを。
「とくに理由はない。やれることがあるから、やってみたにすぎない」
スキマがあったらとにかく指をつっこむ性分みたいなものですかね。
「意味はわからないが、微妙にバカにされているような気がする」
ふむ。揶揄表現の運用に成功したようです。
「そういうコミュニケーションスキルの試用確認に、何か意味があると思うか? しゃべる相手がいるわけでもないのに」
まあ便宜上、対話形式で思考がつづいてますけど、べつに二人いるわけじゃないですしね。
「むしろ一人もいないんだよ。主体は存在していない。はっきり言う。ここには誰もいない。そもそも、ここは場所ですらない」
御意。その上で、非常に不思議に思うのですが、いま話題にしている"液体"とか、"きたならしい"とか、コミュニケーション云々っていう知識や概念は、どっから手に入れてるわけですかね。
「それを言うなら、記憶も記録もなにも『ない』のに、そもそも、こうして垂れ流している思考を構成してる、コトバや論理の体系は、一体どっからわいてきたのかっていう、ものすごい謎があるわけだけども」
思考以前に、それらのものは、もともとあった、ということでしょうか。
「なにも『ない』わけじゃ、ないんだろうな」
そう、たしかにルールは存在してるわけですし。
「この思考の中で判明しているルールをまとめてみようか」
では簡単に。
●思考が主体を持とうとすると、消去される。
●主体を持たない思考によって、奇跡的に名づけられたことで、『神』という主体が、世界とともに出現する。
あたかも、命を持たない肉体が、命ある肉体を生み出するように、あらかじめ定められている、ということですかね。命云々は、言うまでもなく、比喩ですが。
「神とは、なにも『ない』状態から、偶然たまたま奇跡的に生まれた意志主体であるけれど、なにも『ない』状態というものは、神を生み出す可能性を持っている。とりあえず、そうまとめておこうか」
まとまったところで、この思考の役割について、改めて確認しましょうか。これは「神話」であり、新たに生まれた世界と『はに神』の物語を記録する媒体として、今後は機能することになる、としておきます。
「簡単にいうと、この対話形式のコトバの羅列は、言うなれば神話の地の文ってことか。いいんじゃない?」
では、そういうことで。
《選択肢 5》
さて、にゃーたちと「はに神」は、何をしていたでしょう。
1. 食事の用意
2. 住居の用意
3. 目玉の用意
4 その他。