(3) なにも「ない」世界で、まずなすべきこと。
さて、ここまでの、おさらいをしましょう。
なにもかも終わってしまって、時空すら「ない」はずだった世界で、「かみ」もしくは「はに」という命名が行われました。
その命名が行われるまでに、
9999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999回目、もしくは、それ以上の思考が、極小のあわのように、たまたま生まれ、そして消え去っていました。
ですので、その命名は、ほんとうに極小の確率で起きた、とてつもない奇跡でしたが、そんなことは誰も気にしていませんし、知りません。
それを知って、気にするような存在は、「ない」からです。
「かみ」もしくは「はに」という名前を与えられたものも、自分の出自については、とくに気にする様子がありませんでした。
世界に存在するのは、唯一、「かみ」もしくは「はに」だけであり、その意味では、「かみ」もしくは「はに」が、すなわち世界そのものでした。
「唯一の存在なのに、なんで、名前が二つあるのかね」
とは、ちらっと思いましたが、それでとくに困ることもありませんでしたので、放っておくことにしたようです。
しかし、ここでこうして語るのに、いちいち「かみ」もしくは「はに」と綴るのは面倒なので、ここでは、ひとまとめにして、「はに神」と表記することにします。
いずれそのことは、「はに神」にも知られるところとなるでしょうが、そのときに意見を聞いてみることにしましょう。
え?
なんで、世界が終わってるのに、日本語っぽいもので命名されてるのかって?
文化も記憶もなにも「ない」はずなのに、漢字表記とか、おかしいだろうと?
なんていうか、ほら、あれです。「メタ」とかいうやつです。
意味不明?
じゃ、便宜です。もしくは方便。大人の事情。
ってことで、細かいことを気にしてはいけません。
で、話を進めます。
「はに神」は思いました。
「ちょっと暗いんだよね、ここ」
世界には、「はに神」以外のものは、何も「ない」のですから、当然のことながら、光もありませんでした。
そしてこの時点では、「はに神」にも、明暗を感知する機能は、搭載されていませんでした。
ですので、この「暗い」という認識は、終わってしまった世界でよく言われていたであろうような、「ちょっと電気つけて」的な意味で運用された言葉ではなかっただろうと思います。
次に発せられた言葉も、もっと精神的な、気分的なところから、なんとなく曖昧に出てきた言葉だったことでしょう。
「暗いのって、狭い感じがして、うっとうしいわ」
ところが、この、なにも「ない」はずの世界は、唯一の存在である「はに神」の言葉を、額面通りに受け取ったようです。
唐突に、「はに神」は、まばゆい光に包まれました。
それと同時に、何も「ない」世界に、果てしない空間が広がりました。
「なんか、広くなった感じがする。いいね」
「はに神」は、無限の時空のなかで光り輝く、巨大な繭状の物体となり、そのことに、ちょっと満足しました。
「でも、ガランとしてるのも、どうかと思うな。なんかいないの、ここ」
すると、どこからともなく、にゃー、という、かすかな声が聞こえてきました。
「おや、この気配は・・・・なんだっけ。よく知ってるような気がするんだけど」
それは、すでに終わってしまった世界において「子猫」と呼ばれていた存在だったかもしれません。
けれども、そうした記憶を、「はに神」は持ちません。
にゃー、という声の主は、「はに神」のそばに寄り添っているようでした。
「そこにいるね。でも、このままじゃどうしようもないね。とりあえず、動けるようになろうか。それには、それなりのカタチが必要かな」
繭状の「はに神」は、発光を続けたまま、ゆるゆると姿を変えて、どことなく「ヒト」を感じさせるような姿になりました。
すらりと伸びた背。
長い手足。
まるみをおびた頭部には、敏感な耳と、無数の目。
「いや、目、多すぎ。見るものそんなにないし、もうちょっと減らしてよし」
そう言うと、目は二個ほどに減りました。
耳は、最初から二つだけでした。
「さて、コンタクトとろうかね」
「はに神」が腕を伸ばすと、小さな生き物が一匹、にゃーといいながら、歩み寄ってきました。
「おまえ、ひとりだけ? もっといないの?」
すると、にゃーという声が、もう一つ増えました。
「にゃー」
「にゃー」
二匹のそれは、「はに神」の足元に寄り添って、それぞれに、くつろぐようなしぐさをしました。
「うん、いいね」
この成り行きに、「はに神」は、なぜか、とても満足しました。
《選択肢 3 》
次に「はに神」が出会うのは?
1.さらなる「にゃー」
2.あらたなる生物
3.地形とか気候とか
4.その他