第2話 お客様の中に、アルトリコーダーを吹ける方は!?以下略~(完)
「はぃにゃ!」
俺は思わず手を挙げてしまった。
周囲の視線が俺に集中する。
「!えっ」
俺は中世風の街の賑やかい広場で、亜麻色の髪の素朴だが目が大きくて、程よい胸の大きさの少女に駆け寄られた。
彼女の髪は肩くらい。スイスの民族衣装みたいな、けど中世風な服を着ている。三角巾は無し。代わりにニャンコのバレッタを頭の上(右側)に付けている。
「ああ!!良かった!サムが練習のしすぎで指の骨を疲労骨折してしまって…!私はクルール。貴方は?」
クルールは俺の手を取った。
「根崎だにゃん!」
「にゃん?様、早速音合わせを――」
「ぐうっ!!」
と、いきなり苦痛の叫びが聞こえた。ピアノの方からだ。
「バド!どうした?」
サックスを持った男が駆け寄る。
「く、くそ…すまん、ジョイ…、腱鞘炎が再発したみたいだ…!ジョパンコンクールが近いのに!」
「おい、それはまずい!医者へ――、うっ!?」
サックスを持った男―ジョイが硬直した。
「ジョイ?!どうしたの?」「にゃんだ!?」
クルールが駆け寄る。もちろん俺もそうした。
「――くそっ、やっぱりあの肉、腐って――」
バタン!そしてジョイは倒れた。
「む――病の気配!通りすがりの魔法医です!いや丁度昼休みで!!おっとこれは…―まずいっ!すぐ私の魔法医院へ!誰か手を貸して下さい」
医者は来るのが早かった。
「えっそんな!これから演奏なのに!」
「おいしっかりしろ!」「うう…もうダメだ…」「うでがぁああ!」
うろたえるクルールを置き去りにし、三人の男達が運ばれて行った…。
そしてピアノの側には、俺とクルールだけが取り残された。
「にゃぁ…」
これは困った事態だにゃン…。
じとー。
周囲の目線がクルールと俺に注がれる…。
だが俺はここぞとばかりに胸を張った。
「心配無用だにゃーご!クルール。俺はチートだから、実はピアノ、サックス、アルトリコーダーが全部同時に演奏できるんだニャン!!」
「ええっ!まあ!では貴方が私のメシアさま!?」
「あ、違います」
「あそうですか――では、にゃん様、やりましょう!私は歌います!」
「OKにゃ!けど俺は先を急いでるから、リハーサル無しで行くにゃん!」
「えっ――はいっ」
石畳の広場、俺はピアノに座り楽譜をチラ見した。
余裕だにゃン!
そしてさらにサックスを首から下げ、アルトリコーダーをハンズフリーで構える。
これも余裕だにゃン!
ポロロロロロロロロロロ!ジャラン、ぽびー!ぶぉー。
華麗に伴奏を始め――クルールがすう、と歌い出す。
『一体なんでか~♪この世界はずっと戦争中なのよーー♪何でかな~~♪』
俺は、クルールの素晴らしい歌に合わせ、ピアノを弾きながら、サックスとアルトリコーダーを華麗に吹いた!
シュポポポポフロロロジャラン!ふぉーーーー!フェンヒュシホ-!
「うぉぉぉぉ!!あいつは一体何者だっ!!!」「すげぇリハーサル無しで!!?」
『だけど~闘うのは主に魔法戦士団~~らーらー勇ましき女隊長メリス様~~♪』
フフフイフフフフフフフウウウポロピロポピロピーーー!!
『率いるのはーー我らが麗しの女王ぅぅうう!ラフィーネ様なの~任せきり♪』
シュポポポポフロロロジャラン♪ぶぉーーん!
俺はクルールの歌を最大限引き立たせるように、アルトリコーダーを吹き、サックスも同時に咥えて吹き、さらに腕を交差させ逆立ちしピアノまで高速で演奏する。
「すっ素晴らしい!抜群の指遣いだ」「むしろ鼻息づかいか!!?」
『~力は無い~だけど私には歌がある~!だからー!!私は女王様の為に歌う~~~そうよ~私は歌うの~~!!』
「た、魂が――ぁあ!!」
「奪われるぅぅぅ!!腰がぁああ」
サビに入り、クルールの鼻息、じゃなくて素晴らしい歌声が響く。
『あーーあ~~♪この世界は魔法の世界~だけど使えるのは貴族と王族だけ~庶民にはアイテムが必要~♪それ無しで使えるのは~伝説の勇者とマスターと~私のメシア様だけ~~♪』
俺は鍵盤の上に立つような、あるいは足で弾くような、またはサックスとアルトリコーダーの申し子のような、生まれ変わりのような、とにかく華麗で素晴らしい演奏で聴衆を魅了する。
「なにいっコレは伝説のスタンディングでぃすおべ」
「なんて膝使いだ!」
『あーあーーーーーーーー♪素晴らしき我が祖国、ニャンニャンガルド♪』
「にゃん!」
パン!と俺は鍵盤の上でフィニッシュ!
「わぁあああああああ!!!」
広場一帯が大歓声に包まれた。そして、おひねりの銅貨が雨のように降り注ぐ。
「ああ!なんて素晴らしい演奏なの、にゃん様っ!!!ステキっ!!可愛いっ」
拍手の嵐、嵐!その中で、クルールががばっと汗だくの俺に抱きついた。
「いや、クルールの歌が良かったんだ…!」
俺は猫キャラを忘れて賞賛した。
実際彼女の歌唱力は、紅白に余裕で出られるくらいはあるにゃん。
コレにはとても驚いたにゃーご!
「また来るぜー!クルールちゃん!」「ニャン子ちゃんもまたな!」
街人達は手を振り去って行った。
「あっ、拾いましょう!ああ、こんなにおひねり頂いたの初めて!」
「にゃん!俺も手伝うにゃー」
ちゃりにゃーん。ちゃりにゃーん。
そして、俺は猫のマークが入った銅貨をせっせと拾って、クルールに渡した。
クルールはそれをエプロンに集めた。だがとても重そうだ。
どれも銅貨、たまに銀貨。
「うにゃ。銅貨と銀貨だにゃー?金貨はないにゃ」
「ええ、金貨はお金持ちしか??あら貴方、見た事ない服…」
クルールは俺の格好、普通のグレーのパーカーと、青いタンクトップ、ジーンズ、靴下、それを見て首を傾げた。
そう言えば靴が無い。だが、そんな事より、
「―そうだ愛タンが待ってる!俺は先を急ぎ行くんだ、ばいニャン!」
俺はウインクして、猫っぽいポーズを決めて立ち去ろうとする。
つん。
「―うにゃ?」
俺は振り返り首を傾げた。裾を掴まれている。
「…あの!まって、お礼がしたいわ――あの、良かったら」
クルールはモジモジしている。
「あの、もしこの後お暇だったら…、ああやっぱりステキ…」
まだずっと頬を染めモジモジしている。一体何なんだ??
「まだにゃ?…そう言えば…お腹減ったニャン…にゃーにゃー!」
俺は思い出してにゃーにゃーと鳴いた。
魔法医も言っていたが、今は昼休み時間らしい。
ん?俺が死んだのは、確か午後三時だったような…?
だが、細かい事はまあ、異世界だしそんな物かもしれない…。
あれ?
そう言えば、俺、もしかして、もしかしなくても、三日くらいまともに食べてないののかにゃ…?
それにさっきのチート的な演奏で、体重が2.195キロは減ったニャン…。
「にゃー!、大変にゃー!何か食べないとこのまま飢え死にしそうだにゃー!」
クルールがはっと顔を上げた。
「!!ごちそうするわ、私の家においで!」
「うにゃーっ!!??」
俺はクルールに手を引かれ、広場から連れ去られた。