50話 燃える村
「それじゃ行ってきます!」
「「気を付けてね!」」
「「行ってらっしゃい!」」
みんなに見送られながら俺と神は転移した。
「...え?」
眩しい光が収まったのに、瞼の裏に感じる赤く眩しい光と肌に感じる熱気。
不思議に思いながら目を開けると目の前には真っ赤な炎が見え、慌てて辺りを見回すと同じように火の手が上がる家が何軒もあった。
俺達が着いた場所は、燃え盛る村の中だった。
「え...え!? どうなってんだよ一体」
「はよせんとみんな焼け死ぬで」
「はぁ!? マジふざけんな!! ...誰かいますか!! いたら返事してくれ!」
神の言葉に慌てて近くの民家の扉を開き中に叫んだ。
火がついているのは外に置いてあるワラとか樽で、中はまだ無事なようだ。
それでもここの民家は昔ながらの日本の木とワラで作られた家っぽいし、火が拡がるのはあっという間だろう。
「大丈夫ですか!?」
倒れている二人の人物に駆け寄り肩を揺するが、その体は冷たく全身も床も血塗れで亡くなっているのは一目瞭然だった。
それでももしかしたらと思ったのだ。歯を食い縛りすぐに家から出る。
そうして走ってあちこちの家を回ってみるが、どこも死体だらけで生きた人間がいない。
そうして開けた数軒目の家で、頭から血を流しながらも鋭く俺を睨み付ける少女を見付けた。
「ほらおいで、一緒に行こう」
そう言って差し出した俺の手を避け、何かを抱えながら奥へと逃げてしまう。
ブワッ と感じる熱気と強まる火の勢いに冷や汗を流しながらも、怯えさせないようにゆっくり近付いて行く。
内心強まる火に焦っていたが、ここで慌てたら恐がらせてしまう。
「もう怖くないよ、大丈夫」なんて優しく聞こえるように気をつけ声を掛けながら少女の前で座り、また手を差し出した。
「大丈夫だよ、ほらおいで」
どんなに優しく声を掛けても少女は怯え、「う"ー」と唸り声をあげ歯を剥き出しにしながら威嚇してくる。
屋根にまで火が燃え移ったのか上からも火の粉が舞ってくる。
ーーここが限界かも知れない。
ばっと手を伸ばし無理やり少女を抱え上げて駆け出す。
その間も少女は「う"ーう"ー!!」と唸り声を上げ、強く俺の腕に噛み付いてくる。
「いてて...ちょっ、思ってたより痛い...」
無理やり掴めば暴れられるのは分かっていた。噛み付かれるのも想像通りだが、思っていた以上に痛い。
涙目になりながらも神の元に戻ると、もう数人の人々を連れている神がいた。
「もうええか?」
「...あぁ」
もう少し探したい気持ちもあったが、ここでこの子を離したら逃げられると思う。
それに神にこの子を預けてもちゃんと見ていてくれる気が全くしないし、粗方調べたのだしもういいだろう。
転移の光に包まれながらも後ろ髪を引かれるように、燃え盛る家々を見詰めていた。
「なんであんなヤバくなってから行ったんだよ!! もっと早かったら助けられた人もいたんじゃないか!!」
エルスイズに着いた瞬間俺は神に怒鳴っていた。
そんな俺を顔をしかめながら見て、面倒くさそうに神は答えた。
「もっと早かったら襲撃者と鉢合わせするやないか。去ってからの方が楽やろ?」
「楽って!! そんな理由で遅く行ったのかよ!!」
「あそこを襲ったのは同じ町の人間や。そいつらが自分らで決めたことに首突っ込むこともないやろ?
ほっといたら死ぬ人間もろて来ただけやからあいつらも気付かんやろし、問題ないから連れて来たんやで」
「っ... けど!!」
文句を言おうとしたけれど言葉は出てこない。
この世界のルールなんて俺には分からないし、町で決められたことだって何も分からないのだ。
神にも神の事情とか、町にも町の事情があったのかも知れない。
ただ他の世界から神に連れて来てもらっただけの俺に何か言う資格があるのだろうか...
...けれど、あの町で殺されていた人々を思うと納得できないのだ。
「...事情は分からないけど柚希さん、取り合えず手当てしよう、ね?」
そう言って近付いて来たイルを見てハッとなった。
慌てて周囲を見れば怯えた目で俺を見る人々がいた。中には鋭い目で憎々しげに睨み付けている者もいる。
今回連れて来た人はあんなことがあってみんな消耗しているんだから怯えて当然じゃないか、敵対視される行動するなんて迂闊にも程がある。
一人落ち込む俺を、エルスイズのみんなは心配そうに見ている。
...そして腕の中の少女を見れば、目を見開き体を震わせながら俺を見ていた。
...何やってんだ、俺。
少女を離してあげると走ってマチルダさんの元に逃げて行く。
その姿に胸が痛んだ。
「あぁ、痛そう...」
「バカだな柚希、何噛まれてんだよ」
「待っていろ、すぐに手当てする」
「回復飴持ってきたよー!」
イルやライゼ、リアーナにラヴィ。みんなが俺を心配して集まってくれる。
ほんと俺、何やってんだろ。もっとしっかりしなくちゃな。




