44話 ハーモニア聖国
長いです。
目の前に広がるのは体育館かってくらい広くきらびやかな大広間に天井を支える大きな柱、そして左右に分かれるように立ち並び目を見開いてこちらを見ている大勢の人々。
俺達の立つ床にはまっすぐに真っ赤な絨毯が敷かれ、その先にはでっかい玉座とそれに座って驚いてこちらを凝視する王冠を被った男性。
...まさしく謁見の間、そして王様! マジでこれどういう状況!?
「アルトバーレ様?」
「え!? ...確かに、あの少年から神気を感じます」
「本当か!? なぜここにアルトバーレ様が!?」
ざわざわとしだした周囲に俺と蜜柑が目を合わせて困惑していると、「静まれ!」と、たった一言なれどよく通る凛とした声が聞こえ辺りは静まり返った。
声の聞こえた方には玉座がある。つまり声の主は...
恐ろしくて見ることができない俺は背筋に冷や汗を垂らしつつゆっくりと振り向く。
その間にも足音がゆっくりと近付いて来ていた。
「ようこそ我がハーモニア聖国においで下さいました。アルトバーレ様」
すぐ側で聞こえた声に顔を向けると、王冠を被った男性が神に跪いていた。
その事実に衝撃を受ける。いやまぁ、国のみんなも驚いてたけどだってどうみても王様だぞ!? そんな人がこんな奴に頭下げるってことに物凄いショックを受けた。
そして驚いてその男性を凝視していて気付いた。耳が長い!?
慌てて周囲の人々も見回すがみんな耳が横に長く伸びていた。
「ちょっ...蜜柑見てみろ! みんな耳が長い」
「...えっ!? ・・・ほんとだ!?」
「「エルフなの!?」」
思わず蜜柑に耳打ちして二人で騒いでしまったが、小声で話す俺達を見て周囲の人々は眉根を寄せてヒソヒソと話している。
わっ、やっちゃったか!?
いや確かに俺達の行動は失礼だったと思うけど、エルフなんてはじめて見たんだししょうがないじゃん?
だからそんな穢らわしいものを見るような目で見なくても...
肌を刺すような冷たい視線と不穏な雰囲気に俺達は戸惑ってしまう。
特に車椅子に乗る蜜柑を見る目は酷いもので、俺はコソっと蜜柑の前に出ようとしたのだがそれより早く神が蜜柑を背に庇った。
「柚希の悪口はかまへんけど蜜柑の悪口は許さへんで」
突然強い威圧感と共に発っせられた神の言葉に周囲はまた静まり返った。
周りのエルフ達が慌てて跪くので俺と蜜柑以外全員が跪いているという、とてもシュールで居心地の悪い空間ができあがった。
なんか...みんなが跪くと俺もしなきゃいけない気になってくるのは俺が日本人だからか?
でも神に跪くとか、絶対ごめんだ! 死んでもしない!
「申し訳ありませんアルトバーレ様・・・蜜柑様...と言うのはそちらのお嬢様でしょうか?」
王様がチラリと蜜柑の方を向いたのだが、ほんの少し見えただけのその横顔がやばいくらい美しくて驚いた。
黄緑色で宝石みたいに輝き透き通る髪と深緑の瞳の色白美形...
男の俺でもちょっとやばかったので心配になり蜜柑を見ると顔が真っ赤になっていた。
...うん、神の後ろからひょっこり顔出して見ちゃったんだな。
リアーナさんやルミナスさんも日本では見ないくらいの美人だけど、この人はやばいわ。
他のエルフの人達も遠目ながら整った顔なのが分かるし、エルフやべぇ...
嫉妬した神がすぐさま蜜柑の目の前に立ち直して蜜柑の視線を遮った。
心の狭い神だなと呆れる。
「そうや。せやから文句はこいつにだけ言い」
「...そうですか」
そう言って神が顎で俺を差してきやがったのでイラっとしたのだが、俺を見る王様の目がえらくおっかないのでビビってしまった。
え、何その親の仇見るような目、恐いんだけど!?
焦る俺に構わず神は王様と色々話しをしている。
お陰で王様の目は俺から外されているのだが俺は固まったまま王様を見ていたので会話は殆ど聞いていないと思う。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「っ、大丈夫、やべぇイケメンに見惚れてた!」
心配そうな蜜柑の声が聞こえてハッとなり、急いで取り繕うが蜜柑は心配そうに俺を見ている。
蜜柑からは神が邪魔で王様の殺人光線が見えてなくてよかった。
あんな目で見られたらチビるわ! いや、俺は漏らしてないけど!!
「では... このようなか弱いお嬢様が、アルトバーレ様の神子に選ばれたのですか」
「そうや。せやから蜜柑にはわいと同じように接しろ」
「...畏まりました」
なんのことか分からないが王様が嫌々応じているのは分かった。
やっぱこの世界でもエルフって人間嫌いなのかな? だからこんなに嫌そうなんだろう。
もしエルフがいれば仲良くなりたいと思ってただけに残念だ。
...でも神子ってなんだ? 神の家来?
いや、でも神って蜜柑に対してそんな風に扱ってないよな。むしろ甲斐甲斐しく世話焼いてるし。
「ねぇ神様、神子って何?」
蜜柑が神に尋ねると一瞬だが王様の肩がピクリと動いた。
これは神子を知らないことに驚いたとかじゃなくて、アルトバーレ様に対してなんて無礼な! ってイラっとしたんだと思う。
どんだけこの人神を崇拝してんだろ? 神だから当たり前か?
...こんな神なのに?
「神子はわいの使者やけど、蜜柑の場合はもっと大切なものやな。どちらもわいの加護を受けた者やからわいのものってことは一緒やけど。
蜜柑一人がこの世界に来てたら聖女になってもらう予定だったんやけど、柚希がおるしそういうのは柚希にやらせればええってなったんやで。
せやから何をしろとかないから、蜜柑はただわいの側にいればいいんや」
ニコニコしながら楽しそうに説明する神だけど、そもそもなんでわざわざそんなことをこの王様に言いに来たんだ?
蜜柑が神子になるのってすごいことなのか? 考えても分からないし取り合えず聞いてみるか。
「なんでここに報告しに来たんだ?」
「ハーモニア聖国はわいの神子が一番いる国やからな、もういらんて言うとかんと。これからはわいの神子は蜜柑だけやしな」
「え? ...えと、それっていいの?」
神の言葉にぎょっとして不安そうに蜜柑が尋ねるが神はニコニコしながら王様に聞いた。
「ええよな?」
「勿論で御座いますアルトバーレ様」
おぃい!! 神にNOなんて言えるわけねーだろうが!!
そのせいで蜜柑が余計に不安そうな顔してんじゃねーか!
「今までの神子はどうなるんだよ、神子をクビになるんだろ! そんなことしたらその人達の立場悪くなるんじゃねーの?」
「知らん。わいに関係ないし」
プイッとそっぽを向く神にイラッときた。俺が文句言おうと口を開いたそのとき横から怒声が聞こえた。
「先程から人間の分際で図々しい!! そのアルトバーレ様に対する非礼なふるまいを今すぐ改めるがいい!
アルトバーレ様の知人ということで多目に見ているだけで即刻死刑にしてもよいのだぞ!!」
殺意の籠った目で睨み付けてくる王様の剣幕にビビる。黄緑の髪も逆立って見えるし目もギラついているし怖すぎ!
慌てて周囲を見れば周りのエルフ達も同じような顔をして俺を見ていた。
凄まじいアウェー感。なんで俺が怒られるんだか分からないが黙っていよう。
「他のとこにもわいの神子が蜜柑一人だけになったって言うといてな。ほな帰るか」
「はい。またいつでもいらして下さい」
神に深く頭を下げる王様に背を向け此方に振り返った神だが「忘れとった」と言ってまた王様を見た。
「そういや、魔法得意やけどぐーたらしとっていらん奴おったやろ、あいつくれる?」
「クエントですか? 本当にあれはどうしようもない程の役立たずでお見せするのも心苦しい程ですが...本当によろしいのですか? あれがアルトバーレ様の役に立つとはとても思えませんが...」
「ええねん別に魔法が使えれば」
「畏まりました。おい、クエントを呼んで来い」
「はっ!」
王様の命令で兵士の一人が去って行った。




