番外編 住民2
私は小さな村で産まれた。
今となっては夢の中の出来事のように朧気な記憶だけれど。
あまり作物も育たない貧しい村で、村人は20人もいないんじゃないかしら?
若い者は都会に出稼ぎに出ていて残ってるのは女や子供と老人、後は体を壊した者だけ。
村では畑を耕していたけれど寒い気候と栄養のない大地では大した収穫もない。
出稼ぎに行った頼りの若者はそれほど人数がいるわけでもなく、大した稼ぎもない上連絡のつかなくなる者もいた。
田舎から出た者は騙されやすく足がつきにくいから、殺されたか売られたかしたのだろう。
毎年そういう者は何人か出るものだ。
そんなだから年貢を納めるのも大変で、冬になると餓死者が出るような村だった。
特に被害が多いのは子供ね。私の兄弟も兄と妹が亡くなってるわ。
いつも両親は「この子達がもう少し成長してくれれば売ってお金にできるのに」って嘆いていたわ。
だって殆どの子供が大きくなる前に死んでしまうんだもの。 幼い子供は病気に掛かりやすくて死にやすいから買い取ってもらえないのよね。
流石に大きいといっても長男を売ったりはできないし。小さな村といっても跡取りは大切だもの。
そんなある年、例年にないほどの酷い凶作になった。
村人がどんなに頼みこんでも年貢の量は減らしてもらえず作物の殆どが年貢として没収された状態で、このままでは今年の冬は越せないとまだ7歳程だった私は娼館に売られた。
最初にいたそこはランクの低い娼館だからあまり衛生的ではなかったわ。
そこの主人は娼婦を使い捨ての道具だと思っているから、病気になっても治療してもらえないのが当たり前。
そこの娼婦はほぼ全員が性病持ちなくらいよ? 酷い所よね。
外見に症状が出る程になっても客から苦情がくるまでは働かせていたわ。
その後は私のように捨てられてスラムの住人ね。そこでも鬱憤の溜まった男達の相手をさせられるから娼館と大して変わらないわ。
給料が出ないと言っても低ランクの娼館も只働き同然だもの、変わらないわ。
「商売女の癖に!」なんて殴ってきたりして、「そんな娼婦相手にでも暴力振るわないと相手をしてもらえないなんて惨めな男ね」なんて言って余計殴られたりしたわ。
「あんたそんなことしてると長生きできないわよ」って何度言われたかしら?
私も自分はそのうちどっかの下らない男に殴り殺されるんだろうなって漠然と思っていたわ。
それが、不思議な人達に救われて幸せになれるなんて...人生何が起こるか分からないものね。
...それならどうしてもっと早く来てくれなかったの? なんて、恨めしく思ったことだってあったわ。
私なんかより助かるべき人が沢山いたもの。マリアンナ、ルデア、セリーヌ... 悲惨な死に方をした友もスラムに捨てられた友もいた。
そんな中で自分だけがのうのうと生きている。そのことが無性に悲しく苦しくなることもある。
...とまぁ脱線したわね、過去の話しに戻るけど。娼館で人気者になった私はその後高級娼館に貰われるの。
高級娼館では病気になってもすぐに治してもらえるしお給料も出るし、何より衛生的で、とにかくお金の掛かった美しい場所よ。
確かに過ごしやすくていい場所だったわ。...でもねぇ、ここの女って甘やかされてるから我が儘で私とは気が合わなかったのよ。
「田舎者田舎者って馬鹿にしてくるけど、貴女も田舎者よね? そんなに訛っていて気付かれないとでも思ったの?」
「可愛がってあげるからこっちにいらっしゃい? はぁ? 嫌よ、なんで仕事でもないのに貴女なんかの相手をしないといけないの? 」
...きらびやかな見た目に反して中身はドロッドロ。女同士の派閥争いで喧嘩や苛めが後を絶たないわ。
低ランクの娼館ではお互いに助け合って生きていたのに大違い。本当に馬鹿馬鹿しい。
あまりのレベルの低さに他の娼婦達と揉めてばかりいたもの。...まぁ追い出されるわねぇ。
でもいいのよ私は。
強制された仕事だけれどそれなりにプライドをもってやってきたのよ、それが気に入らないなら追い出せばいいわ。
媚びを売ったりなんてしない、だって私は私だもの。
...まぁ、大層な言葉を並べたけれどスラムでの生活は結構大変で、後悔したことは何度もあったわ。
けれどこうして今、エルスイズで暮らすことができて私は本当に幸せだわ。
ここでは私がやりたかった普通の生活ができるんだもの。自分の家があってお買い物して可愛い服を買って...
...これには獣人のお嬢様方に感謝ね。獣人の男にはちょっとトラウマがあるから関わりたくなかったの。
だってあのライオンの全獣人の男、毎日のように私の所に来て...挙げ句の果てには「俺の妻になれ」ですって!? お断りよ!!
大抵の獣人が人間より体が小さいのに比べて無駄にでかい体して! その上なにその無意味なとげ! 痛いじゃない!! 早漏れで助かったけど!!
こっちがイライラしてるのにも気付かないで俺に惚れてるのが当然って顔、今思い出しても本当に腹が立つ!!
...こほんっ、彼女達はその男とは別だものね。えぇ分かってるわ。反省する。
さて、エルスイズだけど、ここに来て何より嬉しかったのはお料理を作る仕事ができることね。
村での食事も低ランク娼館の食事も美味しくなったのに、高級娼館で食べた料理の美味しさには驚いたわ。
食事なんて生きる為だけのものだって思っていたから。それがこんなに美味しいなんて!
娼館には料理を作ったことがあるって子がいてね、羨ましかったわ。
あんな美味しいものを自分で作れるなんて、私だって美味しいものを作っていっぱい食べたい。そう心から思っていたわ。
もし私があのまま娼婦を続けていたとして、運良く娼婦から抜け出せたとしても「元娼婦が作ったものなんて食えるか!」 なんて文句を言い出す馬鹿は絶対にいるもの。
今みたいに誰からも文句を言われず、それどころか毎日気軽に声を掛けてもらえる生活なんて、絶対にこなかったわ。
本当に柚希に出逢えて良かったわ。少し頼りないけどそんな所も可愛く思えるくらいには気に入ってるのよ。
蜜柑ちゃんにいいとこ取られてる気がするけど、そこも可愛いのよね。
感謝してるからこそ深入りしないように自制しないと。
...それなのにあの鳥女は、何を考えてるのかしらね?
恩人だからこそ可愛らしい奥さんと幸せになってもらわないといけないのに。
...え? 神様? ...えぇまぁ、感謝してるわよ。
蜜柑ちゃんにしか興味なさそうで [人々を見守ってくれている神様] とはとても思えないけど。
プライドの高いルミナスさん好きです。
そんな彼女も浮浪者時代を経て大分丸くなってるんですよ、色々文句言ってるけど高級娼婦とどっこいどっこいですから。




