3話 家を失った人達の面倒をみてほしいらしい
「おい、こんなちっこい家にわいの蜜柑を住まわせる気や....」
「わー! すごいお家!! 可愛くて素敵だね!」
あれから20分ほど経ち、俺は一軒のログハウスを作った。
緩やかな木で作られた斜面がアスファルトの道からデッキへと続いている。
普通は階段だけどこれなら車椅子でも上がれるし、木で手摺も作ってあるからお年寄りでも上がりやすいだろう。
デッキにはテーブルセットが置かれているからそこで食事もできるし、今はだだっ広い荒野しかない寂しい景色だがいずれ整えるつもりだ。
「これから少しずつ建物を増やしていけば賑やかになるぞ」
「うん! 楽しみだねー」
二人で先のことを考えて目を輝かせていると邪魔が入る。
「ちょちょちょっと待てや、お前にはしてもらうことがあるんや。
ここの整備はちょい待ち」
「なんだよしてもらうことって」
俺と蜜柑の間に割り込んできた光の玉に苛つきながらも問う。
「この世界はあれや、貧富の差が大きいねん。
年々浮浪者が増えとるし、内戦や戦争も多なって浮浪者は増え続けとる。
そやからその対策として蜜柑にはわいの使者として人助けをしてもらうつもりやったんやが、お前にもしてもらうで」
蜜柑からこの世界に来る前に簡単に説明された。
この神の世界は戦争が頻発しており家を、家族を失った者が溢れているそうだ。
奴隷や兵士なども大怪我をして使えなくなると捨てられ浮浪者となる。
この神はそういった浮浪者の面倒を俺達に見てほしいらしい。
戦えとか言われるよりはましだけど、これだって結構大変そうだよなー....
「分かっとるやろがその為にこの島をやったんやで?
浮浪者と言っても頭イカれてる奴も手遅れのもいるやろし、全員を救う必要もないから助ける人間は気楽に決めてええで」
俺達が今いる土地というか島を丸々神から貰った。
これは他の国から干渉されない、攻撃されないためだそうだ。
気楽にって言われても、そんな簡単に決められるかよ。
「取り合えず最初はネヴァル国っちゅう今も戦争しとる国の首都に行こか。
戦争から逃れて来た民が集まって、今はここがこの世界で一番浮浪者が多いからな」
戦争を続けてる国か、深く考えるのはよそう。暗くなるから。
でも、あんまり一気に人が増えても面倒見切れないぞ。
「ほな行こか、蜜柑はここで待っときな」
「! やだ! 私も行く!!」
行こかって、ここに来たときみたいに一瞬で移動すんのか?
準備してからの方がいいんじゃないかとか色々考えていたら神が蜜柑と言い合いをしていた。
「あかん、残り」
「私も行くもん! 異世界見たいしいいでしょ神様!」
「危ないから待っとき」
「危ないなら尚更だよ! お兄ちゃんだけ行かせられないもん!!」
蜜柑も食い下がるが連れて行けるわけない。
戦争がある国なんて治安だって良くないに決まってるし、怪我した人間だって沢山いるはずだ。
そんなもの、蜜柑に見せたくない。
それでもあーだこーだと聞かない蜜柑に、神が近付いたと思ったら蜜柑の体がガクリと前に倒れた。
「蜜柑!?」
慌てて駆け寄ると小さな吐息が聞こえる。
どうやら神に眠らされたみたいだ。
「後で怒るやろがしゃーない、蜜柑だけならわいが守るが柚希は守らんからな。
これも兄貴の為やで蜜柑」
....蜜柑が一緒だと、俺のことは守らないってことか?
ちょっとそれ、どうゆうこと??
「わい蜜柑が絡むと蜜柑以外の人間に気をやれへんねん。
蜜柑にしか興味ないから」
....蜜柑がいると蜜柑しか目に入らないってことか?
ここの世界の人達大丈夫かこんな神で!? ってか思考読まれた!!
「せやから最近戦争多くなってんねんで?
しゃーないやん、蜜柑可愛いし」
そう言いながら神は嬉しそうに蜜柑を撫でる。
いつの間にか神は白髪の少年になっていた。
慈愛に満ちたその表情に、滲み出る神々しさに一瞬だが目を奪われた。
本当にこの神は妹のことが好きなんだなーと感心したが、そのせいで戦争が増えたって言ってなかったかこいつ....
「ほな行くで」
不信に満ちた俺の目をスルーした神の声と共に眩しい光に包まれた。