番外編 蜜柑の一日
「あっ、おはよう御座いますロイさん」
「ひぇっ!? お、おはよう御座います」
朝御飯を食べに食堂へ向かっている途中でロイさんに会ったのだが、普通に挨拶をしただけなのに怯えられてしまう。
ちょっとショックだけど、いつものことだから気にしないでいよう。
彼は今だに車椅子が怖いみたいだから仕方ない。
「神様、睨んじゃだめだよ」
神様に睨まれ一層怯えるロイさんが可哀想だよ。
...本当に神様の過保護ぶりには困ったものだよ、そんな心配するようなことなんて何も.. うん、この足のせいかな?
でもそんな大怪我するようなことそうそうないんだから、心配する必要なんてないよ。
それから食堂につきメニューを注文しにカウンターに行く。
「あらおはよう蜜柑ちゃん」
「あっ、おはよう御座いますマチルダさん、魚定食少なめでお願いします」
「はいよ、育ち盛りなんだからもっと沢山食べなきゃだめだよ。
だからそんな細っこいんだよ、もっと食べないと!」
「あはは、でも本当にそんなに食べられないんです。
だから少なめでお願いします」
マチルダさんの言葉に苦笑いで返す。
誰よりも早く、他の人と同じように私に接してくれるようになったのはマチルダさんだ。
母親のように私を心配して構ってくれる。
その気持ちは嬉しいがこれに関しては別だ。だって本当に私は少食だから食べれないし困ってしまう。
それに日本にいたときはほとんど朝は味噌汁を中心とした和食だった。
でもこの世界に味噌がなさそうなので残念だ。自分で一から育てることも考えてるけど。
今は週に1回、どこでも売買機で買った味噌を使って作ったりしているが、出来るだけ我慢してみんなと同じ物を食べるようにしている。
ここの世界には米よりパン派の人の方が多いから、米料理はまだまだ少ない。
スッダさんとお兄ちゃんが米も育てているが、スッダさんもパン派だ。
だからあまり栽培していない。
私が席に着くと神様も隣に座る。
神様はどこからか同じ魚定食を取り出しテーブルに置く。
実は神様は働いていないのでお金がない。
だから買えないので自分で作り出しているそうだ。
前に神様は只で食事を貰おうとしたんだけど、お兄ちゃんが「みんな働いてんのにお前は蜜柑のストーカーしてるだけだろ」って神様にお金をあげなかったんだ。
...うん、これは神様の方が悪いね。ねぇ、仕事しようよ神様...
うん、そうだね。私を守ることが神様にとっての仕事だもんね。はは...
神様はお仕事してくれないけど私の側にいて守ってくれてるし、私が神様の分を出してもいいんだけどね。
そう言っても神様は毎回自分の力で食事を出してる。
本当はご飯を食べなくても平気らしいけど私に合わせてくれてるんだ。
お兄ちゃんが忙しいから1人でご飯を食べなきゃいけない私が寂しいがってると思って。優しいよね神様。
こうやって誰かと食べるご飯は本当に美味しいよね。
「あっ、お姉ちゃんもご飯なんだ!」
途中で食堂に来たルルちゃんは私に気付くと、マチルダさんから受け取った食事を持って隣に座った。
「ルルはね、クリームパンとホットドッグなの!」
嬉しそうにニコニコしながらパンを頬張るルルちゃん。
膨らんだほっぺたがリスやハムスターみたいで可愛い。
...神様、いちいち張り合わなくていいからゆっくり食べようよ。
それからマチルダさんとルミナスさんとミリーさんに食堂に来た人を確認する。
来ていない人がいたら部屋に行って問題がないか確かめるんだ。
何かあったのかも知れないし、うちのお父さんやお母さんみたいに、突然亡くなることもあるから念のためにね。
それから時間があったらこっそりお兄ちゃんの訓練を盗み見る。
ウォルバンさんの指導の下、ライゼ君と二人で剣を振ったり魔法を放ったりしている。
...そう、お兄ちゃんてばいつの間にか魔法が使えるようになっていたのだ。
羨ましい。
神様は危ないからって私には訓練させてくれないんだ。
気持ちは嬉しいけど神様ってば過保護だよね、強くなった方が絶対良いのに。
神様がいないときにこっそり練習しようと思っても、神様ずっと側にいるんだもん。
...はぁ。
それから畑を見に行く。
見たことのない植物もあるけど、どれもしっかり成長していて収穫できるときが楽しみだ。
私はそっと植物に向かって歌を唄う。
神様がくれた聖女としての能力なんだけど、私が思いを込めて祈ると願いが叶うんだ。
だから私は唄いながら祈る。
大きく、元気に成長しますように...
その思いに応えるように植物はグングン成長してくれる。
そのスピードには差があるけど、ほとんどが実が取れるほど成長している。
「いや~、いつもありがとうごぜぇますだ。さすが蜜柑様だべ」
「いぇいぇ、私の力じゃなくて神様がくれた能力ですから。
さ、収穫しましょう!」
感心したようなスッダさんに照れて苦笑いを返した。
そうしてスッダさんとロイさんと実を収穫する。ライゼ君も訓練が終われば来てくれるんだけど今日は私達4人で。
朝のときもそうだけど、ロイさんは今だに私のことを怖がっている。
私っていうか、車椅子が怖いんだろうけどちょっと傷付く。
みんなも慣れるまで時間が掛かったけど、彼ってそうとう怖がりだよね。
そうしてお昼を食堂でみんなと食べて、また畑仕事をして終わったらまた食堂で夕食を食べて部屋に帰って私の一日は終わるんだ。
「おやすみルルちゃん」
「おやすみお姉ちゃん!」
部屋として使っている管理人室には私とお兄ちゃんと神様とルルちゃんがいる。
今だに部屋の使い方が覚えられないルルちゃんは私達と一緒の部屋に住んでるんだ。
ここって管理人室だから狭いんだけどね。
神様、私、ルルちゃん、お兄ちゃんと並んで布団に入っておやすみの時間だ。
「お姉ちゃん、今日はなんのお話しを読んでくれるの?」
「えっと今日はね...」
ミリーさんがみんなに読み書きを教えてくれてるから私も習ってる。
この世界で字を書ける人って少ないんだよね。
きちんと書けるのはミリーさんやロイさんやリアーナさんとウォルバンさんくらいかな。
後はみんな自分の名前を書ける程度なんだって。
だからもっとみんなが字を書けるようになればいいな。
そう思って絵本を描いたりしてるんだ。その絵本を寝る前にルルちゃんに読んであげるのが日課になってる。
後は食堂やお風呂なんかの入り口に、その名前を書いたプレートを付けたり。
どちらも日常の中で見て覚えてもらえるようにしたんだ。
「...でした、おしまいおしまい。...ん、眠ったかな?」
いつの間にかルルちゃんは眠ったようだ。
すやすやと眠るその可愛い寝顔に心が温かくなるね。
「神様、ちょっと苦しいよ?」
後ろから抱きついてきた神様は、ぎゅぎゅぎゅーっと私を抱き締める。
すごく苦しいんだけど。
「蜜柑はわいよりそのガキんちょの方が好きなんか!」
「ルルちゃんのことは好きだけど、神様のことは大好きだからね」
「ムフフ、そうかそうか、蜜柑はわいが大好きなんやな」
さっきまで怒ってた神様は今はニヤニヤと笑っている。
こうゆう所はちょっとめんどくさ... 困った所だよね。
お兄ちゃんが「きもっ」とか呟いてるけど良かった。
神様は気付いてないみたい。
こんな感じで私の一日はようやく終わった。
この話しで神様と蜜柑の出逢いも書こうとしたのですが、ちょっと上手く想像できず書けなかったので、いずれ書ければいいなと思っています。




