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8話『頭おかしいんじゃねぇの』

「Hey Hey Hey! ご機嫌麗しゅう……ござんした?」

「なんで過去形……」


 学校とは名ばかりの監視場所へと戻ると相変わらず変人であるsuzakuが出迎えに来てくれた、いや来やがった。

 しかし、いつもなら鳴り響く発砲音が空気を揺らさない。

 チラと前に立つ皇帝カイザーを見やれば、彼は何かを考えるように顎へ手を添え、物思いにふけっていた。

 そしてsuzakuもこの雰囲気を察したのか、あれ以上何か煽るようなことは言わない。ちゃんと空気は読めるんだな。


「さあさあ、学校へ戻りましょうね~。もう日も暮れるし、さっさと寝るぞクソガキ共。プギャー!」

「…………」


 無言の発砲。だが、一発だけだ。

 虚しい硬質音が一つ。


「……行くぞ」


 俺らは学校へと戻ってきた。





 学校ではどこで寝るのだろうか。

 寝室がある? 休憩所で寝る? はたまた教室で寝ちゃったり? 

 そんな、初めての学校お泊まりということで、高校生にも拘らずちょっとばかり興奮していた俺は、ウキウキ気分でその時を楽しみにしていた。


「では【対黒ローブ&狼少女】会議を始める」


 だがそんな俺を待っていたのは会議という興奮する要素が欠片もないイベントだった。

 現在俺たちは風呂などを済ませ、寝巻き姿で一つの机を四人で囲っていた。全員特徴的なパジャマ姿なのだが、中でも皇帝カイザーのナイトキャップがギャップのあり過ぎで笑いを誘う。俺の説教でおかしくなったか? 


「ッ!」

「……何か?」


 相変わらず機嫌の悪そうな、怖い目つきで皇帝は俺を睨む。なお、当然のように銃口は俺へと向けられていた。怖い、怖いよ……

 ともあれ、皇帝は寝巻きが笑えるという点以外は元に戻ったようだ。安心するべきか、命の心配をするべきか。


 水玉模様の寝巻きと、同じ模様のナイトキャップを着用している皇帝は何も言わない俺を最後にギッと一睨みすると、銃を下ろして話し始めた。


「まずはあれらの特徴などからだ。狼少女からいくぞ。彼女は――――」


 割と真面目な会議が始まり、俺も身を硬くする。いや、集中しているんだ。

 だがふとここにいるもう二人の存在が気になった。

 チラと視線をずらしてみると、あの彩禍さいか一人イツヒトでさえ皇帝の方を見て、話を聞いている。そうか、それだけこれは本気なのか。…………あ……つまり、本気ということはふざけた時に来る皇帝の攻撃も本気ということになるのか……下手したら死にかねないな……


 てな訳でしっかりと聞いた所によると、狼少女の特徴は『強大な身体能力があること』『鋭利な爪が伸縮すること』『耳と尻尾は意志を持ったように動くこと』『彼女は自らの意志で動いていないこと』の四つに纏められた。

 あの銀色の狼の耳と尻尾が本物ということに少しばかり興味と興奮が沸き起こってしまったが、なんとか話の腰を折らないように我慢した。俺偉い。


 にしてもあれが本物ならば、あの子は人間なのだろうか? 

 人間には普通ああいった器官は存在しない。というより、あれじゃまるで物語に出てくる『獣人』じゃないか。しかも人間成分強め。ラノベによく出てくるね。

 更にそれよりも気になるのがあの目……自分がこの世にいらないと心の底から思っている目。……どれだけ自分の存在を否定されればあんな目になるのだろうか……


「――――。さて、次に黒ローブの男だが……ん? おい総輪、聞いているのか」

「ん? って、ぁああ?! ちょ! 聞いてるから! 聞いてるから! 俺まだ自分の能力把握してないし死ぬって! 冗談じゃないよ! だから下ろして、はよ! はよ!」


 纏めのようなものが終わった皇帝カイザーが次に進もうとした時、不意に俺の方を向きつつ銃口を向けてきた。そうやってすぐ殺そうとする癖直せよ! 悪い癖だぞ! 

 そんな思いと共に少しだけ皇帝を睨むと、彼はそれ以上に強い眼力で睨み返してきた。卑怯だぞ……目を逸らすしかねぇじゃねぇか……


 そんなことをしていると、先ほどまでの暗い気分は何処へやら、すっかりそれは吹っ飛んでしまった。

 まさか、あいつこれを狙って……んなわきゃねぇか。自己中の塊だし、あいつ。


「……まあいいだろう。では改めて黒ローブの特徴についてだが――――」


 さて、目をつけられたことだしちゃんと聞くか。

 てなわけで纏めると、『黒ローブは男。中肉中背。顔は見えなく、声はやや低め』『身体能力はそこそこ。走れるし、持久力もあるし、脚力もある。腕力などは不明』『彼もまた異能を持っている可能性が大きい。詳しい内容は分からないが、皇帝から逃げる時には突然地面から間欠泉が出現し(・・・)、その間に逃げられた』とのこと。


 なるほど、分からん。

 不明なことが多過ぎて分からんことが分かったってとこだな。

 と思ったら、皇帝が付け足すように話し始める。


「これらは正直に言ってほとんど分かっていないに等しい。唯一能力について推測は出来るものの、確定出来る情報はほぼない」

「それってもう会議の意味が……キョ?!」

「……故に黒ローブについては情報収集しておく。今回の会議はどうやってあの狼少女を引き込むか(・・・・・)についてだ」


 頭の上を撃たれたことに口をパクパクさせながら、俺は皇帝カイザーの言葉にコクコクと頷く。

 皇帝はそれを見て満足なのか、銃を下ろした。

 ったく、本当にすぐ撃つ癖は直せよ……心臓に悪い…………ん? そういや皇帝はなんて……

 ふと、皇帝の言葉を心の中で反芻していると、その意味に気が付いた。


「え? あの子を引き込むの?」


 そしてついつい声に出してしまう。

 皇帝は、俺の話を聞いてなかったのか、とでも言いたそうにこちらを睨む。ごめん! 反省するからその両手の銃を下ろそうか! 


「…………あいつの目は『道具』の目だった。余らを襲ったり、トラックを襲ったりしていたが、そこにあいつの意志はない。つまり、上手く使えばアレは余らの駒となる」


 いつも以上に冷たい視線で俺らを見渡す皇帝。そこにあいつの感情は込められておらず、ただ冷静に俺らを見極めようとしていた。

 あれか? 人を道具扱いする自分に敵意を持っていないか心配しているのか? 

 何を今更、大丈夫だお前がそういうやつだって、とっくに分かってるよ。それに見方によっちゃ、皇帝の考え方だって肯定されて然るべきものだ。だから俺はそれを否定なんかしないよ。


「…………チッ」

「解せぬ」


 そんな思いを込めて俺はサムズアップしたのだが、返ってきたのは舌打ち一つ。

 ちなみに、彩禍と一人は皇帝が話し始めてから一言も話さないどころか、ピクリとも動いていない。あれ? 生きてる? 


「…………だだべ、おみゃあらん話ば終わんとんじゃ?」

「ふぅ、この会議というものは刺激が少なくて少しばかり退屈だよ。いや、これもまたボクにとって新たな経験と言えばそうなるんだけど……でもやっぱジッとして退屈な時間を過ごすという経験はもういいや。次は会議をまともに聞かず、殺されかけてみようかなぁ。……ッ! 考えるだけでゾクゾクするね!」


 …………あれ? なんだろう、嫌な予感がする。

 皇帝はそんな俺の予感を実現するかのようにゆっくりと、口を開いた。


「…………貴様ら、一応確認するが、話は聞いていたんだろうな?」

「んばば」

「ううん、欠片も」

「よし分かった、死ね」


 …………なるほど、二人が静かだったのはもう意識をシャットダウンしてたからなんだな。納得納得。

 俺はすぐ側で血の惨状が出来上がるのを横目に、二人が静かだったことの理由を察して、一人頷いていた。


「………………」


 俺はふと、じゃれあう彼らを見て自分の世界へと入っていく。

 音が消え、空気が消え、残るは視界と考えることの出来る思考のみ。

 その中で俺は考える。

 拉致されて、仲間を紹介されて、事件に首を突っ込んで、豪邸に連れて行かれて、会議を行った、今日一連のことを。

 それらイベントの一つ一つには俺の知らない情報がギュウギュウに詰め込まれていた。はっきり言ってパンクしそうなくらい。

 異能、組織、麻薬、敵、獣人。

 全くもって知らないものばかり。前までの俺だったらそんな存在の噂さえ聞かずに日々を過ごしていただろう。

 だが、それの方が良かったのかもしれない。何も知らずに生きていくことの方が良かったのかも。


 いつしか俺の視界は真っ暗闇を捉えていた。瞼が落ちていたのだ。

 何もない、暗闇。それは考え事をするには適した環境である、と俺は勝手に思っている。

 まあそんなのは人それぞれの主観であり、感性であるためそれについての議論ほど無駄なことはない。


 っとまた思考が逸れてしまった。悪い癖だ。

 つまり…………なんだろうか。俺は何を言いたかったのか。

 …………分からん。いつものように取り留めもない、中身もない、倫理や哲学のように答えの出ない、そんな問題を考えていた。だから……分からん。俺が何を言いたいのか、何がしたかったのか、何を求めていたのか。


「……はぁ」


 一度ゴチャゴチャになった頭をスッキリさせるため、俺は大きく息を吐く。そうすると頭の靄が晴れるようにスッキリした。

 そして、現実へ戻ってくるとやはり生臭く、吐き気を催す臭いと、肌を刺す鋭い破裂音が断続的に体に響いてきた。

 まだ目は開けていないがきっと視覚情報でも酷いこととなっているのだろう。まあこの一日で慣れてしまったがな。

 そして最悪の事態――彩禍が肉団子になっている場合など――を想像し、何があっても驚かないぞという余裕を持って、俺は目を開いた。


 視界には相変わらず両手の銃を乱射する、水玉模様のパジャマと同じくナイトキャップを着用した皇帝カイザー


 それを気にせず漫画を読んで爆笑している、パンイチの一人イツヒト


 右腕と左脚を根元から飛ばされ、血だまりに笑顔で突っ伏している、白装束――今は真っ赤に染まっているが――を着た彩禍さいか


 最初と変わらないカオスでクレイジーなクラスメイト、いや仲間達。

 これから何を成し、何を変えるのだろうか。

 たったこれっぽっちの人数で何が、と万人は思うかもしれない。しかし俺らは【普通じゃない】。

 様々な可能性の積み重ねで生まれ、育った、たった一人の【異常人】。

 だから俺は普通であり、普通じゃない。


「何を悟ったような目で俺を見ている。死ね」

「ちょ! う、撃つな! 危ないだろ! 俺はまだ異能とか……ってちょ、おいぃぃぃいいいい!」


 ………………やっぱこいつらCrazy(頭のイカれた) Guys(野郎共)だわ。








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