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6話『こいつらヤベェ』

 皇帝カイザーが敵の追い討ちから帰ってきた頃には、彩禍さいか一人イツヒトはすっかりピンピンした様子で思い思いに過ごしていた。

 彩禍は何処の骨と何処の内蔵がどれほど傷付いていて、どんな痛みを受けたのか愉悦に浸った表情で感じていたし、一人は岩の下から上半身だけ這い出ると、何事もなかったかのように懐から漫画を取り出して読み始めた。下半身はどうなってんだ?


 そして敵を撃ち漏らしてやや機嫌の悪い皇帝は、戻ってきてそれを見た瞬間発砲した。


「……良い御身分なことだな、貴様ら」

「俺は違うから! だから撃つのは止めようか!」


 何故か彼らに対してのイライラを俺にもぶつける皇帝。いや、本当に当たってるわけじゃなく、威嚇射撃だが。

 全く、いくら機嫌が悪いからって俺にも八つ当たりはやめて欲しいぜ……

 ともあれ、様々な不可思議現象の末、俺の危機は去ったと考えて良いだろう。そう考えると何故だかこの銃撃も可愛いものに見えなくも…………いや、無理。銃撃怖い。


『坊ちゃん、今からそちらへ向かいます』


 そして皇帝が威嚇射撃をすること数発、不意に皇帝の方から御老人の声が響いた。ちょうどいいこのタイミング……どこかで見ていたね、御老人。

 皇帝はポケットへ手を入れ、携帯を取り出すと話し始める。


「分かった。ここで待つ。あぁ、着陸はしなくていいぞ、梯子を降ろせ」

『……承知したしました』


 なんだ今の間は、と思ったのも束の間、俺は御老人が今やヘリに一人という事実に気が付いた。

 運転しつつ梯子を下ろす。

 …………まあ承知したんだし、何かしら方法はあるんだろう。


 それよりも、今この時間を使って疑問を解消すべきだ。

 異能のこと。組織のこと。俺らのこと。そして、彼ら――特にあの悲しき少女――のこと。

 俺はようやくそのことに辿り着くと、声をかけようとし――――


「来たか」


 …………風を巻き起こすヘリのプロペラの音に、またも俺の発言は邪魔されたのだった。








「Hey, YoooOOO! おかえ龍王子はすぐキレる、テヘペロ! 元気かな~?! アッハッハ!」

「死ね、死ね、もう死ね」


 御老人の運転で学校へ帰った俺たちに待っていたのはあのウザ男ことsuzaku(スザク)であった。

 まだ一緒の空間にいた時間は一時間にも満たないはずなのに、すっかり彼の存在が俺の中に刻まれている。全く、不愉快なことにね。


 そしてそんな彼はやはり出迎え早々に皇帝カイザーの怒りを買い、銃の乱射をその身に受ける。

 だが彼も異能の持ち主故か、その身に傷がつくことはない。あれだけいろんな異能を見せられればもう驚かないな。


「…………」

「どうしたぁ! 君の本気はこの程度か?! まだまだ出来るだろぉ! ほら頑張れ! ネバーギブアップだぁ! それともあれか? 僕チンもうちゅかれた~ってか? Hey Hey どうなんだ~い? おっおっおっ?」


 彼はその細い体をクネクネと気持ち悪くくねらせ、両手を頭の上で合わせた姿勢でさらなる挑発をかます。

 …………言われてるのは俺じゃないけどブチ切れそう。凄いな彼は。関係ない人まで苛立たせることが出来るなんて。なお欠片も褒めてるつもりはない。


 そしてしばらくそのやり取りを眺め、そろそろかなと思った時、俺はsuzakuへと話しかける。


「suzaku改めウザ男さん」

「逆じゃない?! それ逆じゃない?!」

「あなたが突っ込んでどうする……まあ、聞きたいことが出来たんで聞こうかと。すぐに話しかけなかったのはある程度皇帝(カイザー)の怒りを鎮めるためですね。それで、質問しますね」

「お、おう。やけに強引だねぇチミ~。はっ、まさかこのまま強引にわっちの身を――」

「あなたの上の者についてお教え願いたい」


 すぐに冗談を言って煙に巻こうとするsuzakuに追い打ちをかけるように俺は言った。あいつの扱いにはもう慣れた。向こうのペースにしなければいいだけの話だ。

 そしてペースを崩されたsuzakuはというと、いつもの軽薄の笑みのまま固まる。

 そしてそのまま見つめ合うこと数秒。時々発砲音がしていたが努めて気にしないようにしていた。

 やがて、諦めたかのようにsuzakuは話し出す。


「ははは、まあそろそろ説明する頃合いだろうしねぇ~。チミも色々見て信じることの下地は出来てるだろうし。…………そういうわけで君の要望通り話させてもらいます」


 急に変わるsuzakuの雰囲気。やっぱこいつは何か隠してる。まあそんなの分からないから今は説明を大人しく聞くとしようか。

 いつもの軽薄な笑みが消えた、なんの面白みもない表情のsuzakuは俺をしっかと見据えて喋り始めた。


「まず、組織が人類の守り手と言ったのは覚えているでしょう。あれはそのまんまの意味です。その組織は世界を裏から監視、処罰、矯正を行っています。強大な兵器を作る天才科学者がいるならば、それが世界に渡らないように、快楽殺人者の天才化学者がいるならば先に始末するように、組織は動いています。要は強大な力を持つ者は先んじて監視、または処分しているわけです。そしてそんな中、異常な人物が発見されました」


 そう言うと彼は皇帝カイザー達を見やる。


「そう、それが彼ら。あまりにも不可解なことが多く起こることと、それの中心があの龍王子財閥のご子息ということで、何か裏があるのではと組織は動き始めました。そして発覚したのが『異能』です」


 真面目モードが辛くなってきたのか、やや端折り始めたsuzaku。

 てか禁断症状が出るってどんだけだよ。手が震えてんぞ。


「まあ異能とはどんなものなのか、っていうのはもう実際に見てるわけだし大丈夫だろう。あんな感じの物理現象を捻じ曲げ、下手したら地球のエネルギーバランスでさえ変えかねないものだ。…………ふぅ、だぁから僕チン達はみんなをここに集めて監視しているってわけね! ケケケ、お前らは鳥かごの中の鷹! お願いだから籠を壊さないでね!」


 そしてとうとう我慢の限界にきたらしく、suzakuはいつもの様子に戻った。ウザい。

 ここで一区切り説明も終わったようだし、俺は思っていた疑問をぶつける。


「地球のエネルギーバランスを崩しかねないって、そんな危ない存在なら始末は考えなかったのですか?」

「本当はしようと思ったんよ~。あ、人権無視とかは言わないでね、人類のためしょうがない犠牲なんだってことで~。そんで始末なんだけど……分かるっしょ? 異能持ちの奴の理不尽なまでの身体能力と力。あんなのに勝てってのが無理な話」


 suzakuはそう言い、肩をすくめる。

 しかしそう言うものだろうか? いくら凄いと言っても所詮は人間。無限の可能性を秘めている人間でも流石に殺されない、なんてことはないんじゃなかろうか。

 そんな考えが表情に出ていたのか、suzakuが補足説明してくれる。


「まあ確かに殺そうと思えば殺せるね~。まあその時のシュミレートをした感じでは龍王子を殺すのに七百万、壊零を殺すのに四百万、蠱毒は別枠だからまず殺せない。しかも前二人に関しては、兵器持ちの兵士のみの被害だから、周辺被害も考えれば軽く十倍以上に被害は膨らむだろうね~。まあなんていうの? 戦う方が不利益だから戦わない的な? 別に今のところ害はないわけだし~」


 なるほど納得出来…………るわけないだろ……なんだよ、一人で七百万の軍に匹敵するって。戦闘機系何万機、戦艦系何千隻だと思ってんだよ……普通にあり得……はするけどおかしいだろ……一国の軍隊でも三百万いかないのに……

 てかこいつらマジあぶねぇな。その気になればこいつらで世界を相手にできるかもしれんじゃん。


「あ、ちなみに三人合わさったら多分総被害は一億を軽く超えるね。まああくまでシュミレータだし、戦争なんてものはそんな単純計算じゃ計れないものだから目安のようなものだけどね。それでも可能性はあるわけだから……はぁ、神様さんもえげつねぇもの人類に寄越してくれたもんだよ。あ、ちなみに核兵器とかは考えてないから。自滅のようなものだし」


 …………えげつねぇ……

 あまりの事実にゲンナリしてしまった俺は気を抜こうとして……もう一つ質問を思い出し、気を引き締め直す。

 危ない危ない。


「っと、最後に質問。今日会った彼らは何者? 特にあの狼少女が気になる」

「おうおうおう? やっぱチミも男の子だねぇ~、女の子に興味があるのは分かるけどそういうのは本人に」

「答えてください」

「……ノリが悪いぞぉ……ま、はっきり言っちゃうと分からん」

「は?」

「あれは私達も初めて見た個体だ。皇帝カイザーから逃げた時の不可解な現象も、あの狼少女の身体能力や伸縮する爪も、何もかも今回初めて見た。言動を考えるに何回か見てもいいはずなのだけどねぇ……」


 そう言うsuzakuは少しばかり苛立っているのがわかった。こいつも苛立つことあるんだ。ちょっと自分の言動振り返ろうぜ?

 ともあれ、大体聞けたな。そしてこれらから俺がここに拉致されたわけも、大体分かった。

 ただやはりその組織の本当の目的らしきものは分からないんだが……いや、裏組織=悪という考えがいけないのかもしれないな。本当にただ人類の平和を願っている人たちかもしれないし。


 自分の身の安全は確保できた。ここにきた理由も多分想像できた。組織とやらが不安要素だが、まだ判断材料がない現状では考えても仕方がない。


 俺は一つ息を吐いて、うーん、と伸びをする。張り詰めていた緊張がほぐれて行くと共に、体が疲れを訴えてくる。

 ここに来てから適当っぽく見せて緊張感出してたからなぁ……ま、ともあれ、


「ようやくゆっくり出来――――」

「……なんだ? 父上が余に何用だ?」


 急な着信音が流れ、それに答えた皇帝カイザーがやや硬い声音で喋り出す。

 そして二言三言、言葉を交わしたかと思えばすぐに電話を切った。


 何か嫌な予感が俺の中を駆け巡る中、彼はこちらを向いて、


「……今から父上の所へ行く。もちろん貴様らも一緒に、だ」


 ………………嫌な予感ってのは当たるものなんだよなぁ。

 俺は深いため息と共にそう思ったのだった。










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